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四日目:永山中央公園

馬は自分の姿を見えなくしてしまったのだ、

負傷した傷によって、ね


『軍馬』リチャード・ブローティガン 中上哲夫訳

『リチャード・ブローティガン詩集』より

 朝早くから花を抱えて電車に乗った。特に誰も気にしている様子はなかった。


 永山中央公園の最初の印象は、意外と狭いというものだった。


 よくよく考えてみれば、地図上でもワンブロック×二ブロックくらいの広さである。


 映像や画像だと広角で、より広く見えるのであろう。


 真冬で木々も葉を落としており、一面の雪景色で地面も見えない。狭い割にだだっ広い、という矛盾した印象を受ける。


 雪も積もっていることだし、スニーカーでは大して歩き回れないので、取り敢えず献花だけして帰ろうと思った。


 ところが管理事務所が開いていない。九時からだった。ガラス越しに献花台が見えた。写真を撮って時間を潰した。


 献花台には新しい花がずらりと並んでいる。お菓子やドリンク、写真なども飾られている。訪れる人が絶えないのであろう。


 『花はどこへ行った(Where have all the flowers gone?)』はフォークソングの名曲で、日本でもたくさんのアーティストにカバーされているので、一度は聴いたことがある方も多いだろう。私の中では、この事件と爽彩さんのテーマソングと化している。


 いざ献花しようとしたが、包装のビニールが茎に引っ掛かって取れない。鋏を持ってくるべきだった。


 正直言って、今まで献花などという行為にあまり意味を見出したことはなかった。霊魂や死後の世界など人並みに信じている訳でもないし、故人にとっては花やお菓子など最早どうでもいいことであろう。時間が経てば、全て撤去されてしまう。故人を偲ぶのは、主に生者のための行為と言える。


 しかし、意思表示が必要な場合もある。今が正にその時だろう。少なくとも事件が解決するまでは、この花が絶えることはないに違いない。いずれは事件のことも、爽彩さんのことも忘れ去る時が来るだろうが、それはもっとずっと先のことになるだろう。


 やっとのことでカバーを外し、お花を供えると手を合わせた。


 現場検証は他の方に任せて、と思っていたが、意外と雪が深くなかったので、一通り歩き回ることにした。


 中央の遊具と小山も、やっぱりイメージより小さい。

 頂上まで階段を登り切ると、左側にベンチがある。オレンジ色の滑り台が北側を向いている。もう一段高くなった場所に、東側に向けて土管があり、そこからもチューブ状の滑り台が地上へと伸びている。足の下に更に土管がある。土管は全て塞がれている。これが毎年こうしているのか、事件が関係しているのかは定かではない。


 雪という要素を除けば、とてもじゃないが一カ月も遺体を隠しておける状況ではない。

 遺体が『土管』の中にあったと言われるのも、充分に理解出来る。それ以外に遺体を隠しておけるような場所がないのだ。まだ遊具の下の方が、スペースが空いているといえる。


 問題は雪ということになるが、遺体の上に雪が積もった、或いは積もった雪をかき分けて、どこかの下に潜り込んで、更に雪で塞いだ、といった状況でなければ、翌日に発見されないなどということはまずあり得ないだろう。


 掲示板では、水場に遺体があったとする説もあるが、あまり写真を撮らなかった。


 同時にどこかの記事で、遺体発見時に警官が山の頂上付近に集まっていたという近所の人の証言があったように思う(媒体は忘れた)。


 亡くなった理由と場所というのは不可分の関係にある。水が無ければ水死はしない(そういうトリックもあるが)。遺体の発見場所がわからないと、推測も出来ない。


 ここではたと思い付いた。申し訳ないが事件に関することではない。

 人間というのは、謎があると、余計に興味をかき立てられてしまうのだ。

 勿論、多くの人々が事件に憤り、爽彩さんに対する思いから関心を持っている訳だが、同時に亡くなった状況に不可解な点があるということで、人々の興味をかき立てているという点も否定は出来まい。


 ご遺族は、殺人ではない確証をお持ちなのかもしれない。そってしておいて欲しいのも理解は出来るが、多少はデータを提供して頂いた方がいいように思える。現状だと、自分も含めて詮索が止まることはないだろう。こういう時こそ、コミュニケーションが重要になるのだ。

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