一日目:羽田空港
主はまた言われた、「ソドムとゴモラの叫びは大きく、またその罪は非常に重いので、 わたしはいま下って、わたしに届いた叫びのとおりに、すべて彼らがおこなっているかどうかを見て、それを知ろう」。
旧約聖書『創世記』第十八章
飛行機に乗るのは云十年振りだった。
羽田空港の展望デッキでは、アマチュアカメラマンたちが、長いレンズを離着陸する旅客機に向けている。陽は傾き、既にエプロンは日陰に覆われているが、天気は快晴で、撮影にはもってこいの日よりだったろう。荷物の関係で望遠レンズを持ってこなかったことを後悔した。
この日は低気圧の影響で、日本海側と北海道は大荒れの天気らしい。旭川も強風で吹雪になっているらしく、フライトボードによると、着陸不能で羽田空港に引き返す場合があるという。
ただでさえ時間が足りないというのに、引き返すことになったら更に一日無駄になる。選択を誤っただろうかと煩悶しつつ、ターミナル三階の蕎麦屋で遅いランチを楽しみ、レスリー・キーの写真を眺め、空港内を一人徘徊しているうちに時間となった。
保安検査でリュックと上着とスマホを預けゲートを通過した。リュックがNGとなった。はさみの影が見えるという。
女性の検査官がリュックの中身をごそごそと確認するが、そもそもはさみなど入れていない。ハイジャックする予定もなかった。そこで思い出した。サイドポケットにクリップ型のキーホルダーが入っていた。
入場すると、快適な待合室があり、目の前で旅客機が行きかうのが見える。もっと早くに入場するべきだった。
乗客はまばらで、難なく窓際の席を取れた。後で気付いたことに、この日は月曜日だった。
機内で作業をしようとノートPCを持ち込んでいたのだが、どうも電波を出すのはスマホすらNGだという。他の乗客も、誰一人としてそんな奴はいなかった。知らないのは私だけらしい。本と一緒にリュックを棚に上げてしまったため、機内でやることがなくなった。しかし、落ち着いて『日本書紀』なんぞ読んでいられる状況でもなかったのだ。