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第九話 森の中の出会い

「森の中に東西に流れる川がある。そこまで南下してから西に進んで道に出よう」



 バージルさんからの提案で、このまま南下して川を目指すことになった。

 なるべく木の根や石などが無い所を選びながら、バージルさんは先導してくれているけれど、私が森を歩くことに慣れていないせいで、正直置いて行かれないようについて行くだけで精一杯だ。

 まだ30分程しか歩いていないのに、既に息が上がり始めているし歩くペースも落ちてしまっている。

 そのせいで、焦ってたくさん進もうとしてしまい、更に体力を消耗してしまいペースも落ちてしまうという悪循環に陥ってしまっていた。 



「チエ、息が乱れてるぞ。休憩にするか?」

「はぁ、はぁ……だ、いじょぶです……まだ、行けます……」

「無理そうなら背負うからな。あと20分くらいで川に着く筈だ。そこまで行ったら休憩にしよう」



 私の手を握りなおしたバージルさんは、周囲を警戒しながらも足を進めていく。

 これ以上進みが遅くならないように、せめてどんなに遅くても歩くのだけは続けようと、止まりそうになる足を必死で前に出し続ける。


 魔物をテイムして襲わせる、という行為がどのような行目的で行われたのか理解が出来ない。

 強盗目的だろうか、愉快犯だろうか。

 この世界の知識が少なすぎて、一人では何も判断出来ない事が、とても悔しかった。


 今は何も考えたくなくて、ただ必死に前へ進むことだけに集中する。

 更に30分程歩いたところで、目的の川に到着した。多少開けていて周囲も確認しやすい場所だ。



「チエ、ここに座ってくれ」



 川の側の平らな岩に私を誘導しながら、バージルさんは座るように促してくる。

 正直、体力の限界が近かったため大人しく座らせてもらう。

 疲れて震える手で水を取り出して飲んでいると、川で何枚か布を浸してから絞ったバージルさんは、私の側まで来ると布で顔を拭ってくれた。

 ひんやりとしてた布は、火照った頬にとても気持ち良くて、少しずつ呼吸も落ち着いてくる。



「バージルさん、ありがとうございます」

「大丈夫か? 急にルートが変わって悪かったな」

「いいえ、私が街道を行きましょうって言ったので。バージルさんのせいじゃ無いですよ」

「ありがとな。チエ、ちょっとブーツ脱いで足を見せてみろ」



 疑問に思いながらも言われた通り両方ブーツを脱ぐと、アキレス腱からは水膨れが破れて出血していて、足の甲や裏にも水膨れや血豆が出来ていた。

 必死すぎて痛みに気付かなかったけれど、気付くと痛くなってしまうのが辛い。

 ズキズキといきなり痛みを主張し始めてきた。

 バージルさんは一つずつ傷を確認すると、優しく水膨れを潰した後に濡らした布で丁寧に傷を拭いてから、柔らかめの布を巻いて手当をしてくれる。


 両足の手当が終わったところでお礼を言おうと口を開くと、視界に一瞬大きな影が映った。

 え? っと思った瞬間にバージルさんが私の肩を右手で強く押して突き飛ばしながら、左手で盾を構えて身体を捻ると、耳障りな金属同士がぶつかる音がその場に響く。

 突き飛ばされて岩から落ちた私はその一瞬の光景の意味がすぐに理解出来ずに、ただ呆然としてしまう。


 片手に短剣を持ったままバージルさんに斬りかかっていく、白髪で少しパーマのかかった短髪。

 そして何よりも頭に大きな巻き角がある、大柄な男の人。

 盾で攻撃を受け流しながら、少しずつ後退して私と距離を取ろうとするバージルさん。

 時間にしたらわずか数秒だけど、誰かに襲われていると気付くのに少し時間がかかってしまった。

 気付いた時にはバージルさんとの距離が大分離れていて、どうしていいかも分からずその場で混乱してオロオロと2人を見比べる事しか出来ない。



「おい! 今の内に早く逃げろ!」



 その言葉を発したのはバージルさんでは無く、バージルさんに襲い掛かっている白髪の男の人だった。

 バージルさんもその言葉に怪訝そうな顔をしてから、男の人に対して口を開く。



「彼女は俺の連れだ! 護衛している!」

「はぁ!? 冒険者がこんなところ歩いてる訳ねぇだろ!」

「街道のオーガ騒ぎを知らないのか!? 森へルートを変更したんだ!」



 短剣と盾で競り合いながらお互いに譲らない二人。

 バージルさんは分かる。私を守ってくれると言っていたから。

 あっちの大柄な人は、私がバージルさんに襲われてると思って、助けに入ってくれた?

 それに気付いた私は、慌てて大きな声を出した。



「待って下さい! 本当に私を護衛してくれてるんです!」

「あん? 脅されてるわけじゃねぇな!?」

「はい!」



 大きな声でそう伝えると、その男性は少しずつ力を抜いて短剣を下げる。

 バージルさんもそれに合わせて盾を下ろしたが、少し男性を警戒している様子だった。



「悪かったな。アンタの連れも奴隷商から逃げてきた奴隷だと思った」

「ん? と言うことは、お前はオーガに襲われた生き残りか?」

「ああ、どさくさに紛れて逃げ出した」



 そう言って、男性が手に持っていた短剣を前に掲げながら、シャツを少し開けさせて自分の胸元を見せると、バージルさんも納得したのか盾を背中に戻して武装解除する。

 私には、その男性が取った行動の意味が分からずに首を傾げるけれど、今の武器を見せる事に何か意味があったから、バージルさんは納得したんだろうなと、自分を納得させた。

 岩から転がり落ちた時に、少し肩が痛かったけれど、立つ事に支障は無かったので、立ち上がって2人に近付いて行く。



「俺はバージル。Aランク冒険者だ」

「俺はシーゴートのグレンだ」

「私は千会です。あのグレンさん」

「何だ」

「他の生き残りの方は居ないんですか?」



 私がそう尋ねると、少し考えてからグレンさんは口を開く。



「もう一人居るけど怪我してんな」

「え!?」

「死ぬような怪我じゃねぇ。手当もした」



 その言葉にバージルさんも片眉を上げる。

 怪我した仲間が居るのに、わざわざ見ず知らずの私を助けてくれようとしたって、この人実は態度や口調の割りに物凄く良い人なのではないだろうか。

 目付きも鋭いし、口調も良くないので、少し怖い人なのかなと思っていたけれど、良い人だと気付いてしまうとその怖さも薄れてしまう。



「ただ熱が上がっちまったからここから動けねぇな。熱冷ましの薬草と食うモンを探しに来たんだ」

「薬草学スキル持ちか」

「ああ。来る途中にククルの実かフリズ草を見なかったか?」

「どっちも見た覚えが無いな……」

「そうか、まだ時期じゃねぇしな。……どうしたもんか」



 唸りながら頭を抱えてしまったグレンさんとバージルさんを、私はじっと見比べた。

 助けてあげられないだろうか。せっかく、奴隷商から逃げ出せたのに、こんな所で苦しんでいるなんて、きっとすごく困ってるんじゃないのかな。

 だけど、戦闘でも役に立てない今の私がそんな事を言ったって、迷惑が掛かるのは私ではなくバージルさんになる事は、想像に容易い。


 ぎゅっと唇を噛んで、助けてあげたいと言葉が出そうになるのを堪えていると、バージルさんの方から、小さな笑い声が聞こえて来た。

 視線をそちらに向けると、バージルさんと視線が絡んだ。

 優しい顔で、仕方ないと言いたげに苦笑いをしたバージルさんには、私が何を考えてるのか、きっと分かったんだと思う。

 その苦笑いの意味はバージルさんにしか分からないけれど、優しい顔で静かに頷いてくれた。



「グレン、仲間のところに案内してくれるか?」

「あん? 助けてくれんのかよ」

「ああ、気になって仕方ないみたいだしな」



 そう言って、私を見るバージルさん。

 責めるような感じは一切無くて、懐かしいものでも見ているかのような優しい眼差し。

 ああ、また迷惑をかけてしまうと思ったけれど、バージルさんが助けると言ってくれてるのが不思議で、私は密かに首を傾げた。

 最初から正義感は強そうだったけど、知らない人にも発動されてるのだろうか。


 言われた方のグレンさんは無言だけど、信用していいかどうか悩んでいるように見える。

 グレンさんの気持ちが分かるのか、バージルさんは言葉を続けた。



「冒険者クラン”フェイト”の副クランマスターの名に懸けて他意はないぞ」



 バージルさんはそう言うと、アイテムボックスからカードの様な物を取り出してグレンさんに見せる。

 そのカードの様な物を確認したグレンさんは、少し驚いた顔をしてから口を開いた。



「脱走奴隷保護してるっつう噂のクランか?」

「ああ、その噂のクランだな。マスターがお人好しなもんで」

「いいぜ、案内してやる」



 ”フェイト”と名乗ってから、グレンさんの警戒心は一気に下がった様ですぐにそう言ってくれる。

 クランとかフェイトとか、全然何の話をしているか分からなかったので、後にバージルさんに教えてもらおう……。

 先を歩きだしたグレンさんの後を、慌ててブーツを履いてからバージルさんと追いかける。

 転ばないようにと、バージルさんはまた私の手を握ってくれた。


 川から少し歩いたところで、グレンさんがバージルさんを見ながら口を開く。



「”フェイト”なんてモンただの噂だと思ってたんだが実在したんだな」

「まぁ、脱走奴隷がそもそも少ないからな」

「そっちの嬢ちゃんも脱走奴隷か?」

「いや、チエは俺個人で引き受けた護衛だ」

「そうか。良かった。女の奴隷は可哀想だからな」



 グレンさんは目付きは鋭いけれど、優しい目で私を見る。

 バージルさんも何も言わないけど、同意をするように私の手を握りなおした。

 その時に、グレンさんの頭の角が片方折れていることに気付く。

 だけどいきなり角が折れてますね、なんて言えるはずもなくて黙って話を聞く事にする。



「だからいきなり襲い掛かってきたんだな」

「足枷を嵌めてるように見えたんだ」

「武闘派の上に口も悪いが、そういうところはシーゴートだな」

「どうせシーゴートっぽくねぇよ、悪かったな」

「シーゴートっぽいって言ってるのに捻くれてるな!」



 悪態をつくグレンさんを、面白そうに笑うバージルさん。

 二人共コミュ力高いなぁと思いながら会話を聞いていると、グレンさんは今度は私の方を見て喋りだす。



「嬢ちゃんは護衛つけてどっか行きてぇとこでもあんのか?」

「えっと、秘境に連れて行ってもらおうかと思って……」

「あん? 秘境?」

「はい、バージルさんが場所を知ってるので、案内と護衛をお願いしたんです」



 秘境に行きたいと言ったら、グレンさんがえ、何言ってんのこいつ、みたいな顔で私を見る。

 確かに事情が分からないと、何でわざわざそんなところにって思うよね。

 私も行く必要が無ければ、え? 何で? って思うだろうし。気持ちはわかる。


 バージルさんは面白そうに私とグレンさんの話を聞いていた。

 もう顔がちょっとニヤニヤして笑いが堪えきれてない。



「秘境なんて行ってどうすんだ? 観光か?」

「そこで暮らそうかなって……」

「は? 正気か?」

「すごく正論ですね……」



 怪訝そうな顔をしたグレンさんに正論をぶつけられる。

 正気か? の辺りでとうとうバージルさんが噴き出した。

 私もバージルさんにつられて笑いそうになるのを必死で堪えているけど、笑うのを我慢してるせいできっと変な顔になっている気がする。

 初対面の人に頭がおかしいと思われたくない一心でただ耐えた。



 「そろそろ着くぞ」



 そう言うと、グレンさんは急な斜面を滑り降りていく。

 川から歩いて20分くらいのところに、斜面側に見えないように蔦で覆い隠された洞窟がある。

 バージルさんも先に斜面を降りると、私に手を伸ばして降りるのを手伝ってくれた。



「ちょっと待ってろ」



 グレンさんはそう言い残して先に中に入っていく。

 きっと中にいる仲間に、人を連れてきたことを説明してるんだと思う。

 二人きりになったので、バージルさんにさっきの疑問をぶつけてみることにした。



「バージルさん”フェイト”って何ですか?」

「ああ、そういえば説明してなかったな。冒険者ランクBになるとクランの結成許可が下りるようになってな。メンバーを集めて組織を作ることが出来るんだ」

「”フェイト”は、脱走奴隷を助けるためのクランですか?」

「そういう一面もあるな。基本的には困ってる相手を助ける、が主な指針だ。創設者はケイタだぞ。あいつも各地で奴隷にされた人達を助けてまわってたからな。ならいっそクランを組織するかって事で作られたんだ」



 きっと、ケイタさんも日本には居ない奴隷というものに、心を痛めていたのかもしれない。

 助ける為に組織を作って実際に行動をしていることに感心した。



「奴隷として捕まった時点で胸に焼き印を押されるんだけどな、基本的に奴隷は死ぬまで使い潰されるから焼き印を押されてしまうと、もう二度と普通に生活できないんだ」

「え? なんでですか?」

「”脱走”になるからな。知らずに脱走奴隷を雇ったせいで奴隷の所有者に報復をされたりするんだ。人の物を盗んだってな」

「ひどい……」

「だから”フェイト”が保護して仕事を与えている。塩作りもその一環だ。余程の考え無し以外は普通Sランクに喧嘩を売ろうとしないしな」



 バージルさんの説明に、胸が痛んだ。

 ただ助けたいという漠然とした思いだけじゃなくて、仕事を与えたり、生きていける場所を作っていくのは言葉では言い表せないくらいに大変な事の連続だと思う。

 自分で立場を作らないで、出来ない事を抱え込もうとしてしまった事を恥ずかしいと思った。



「ごめんなさい、私何も考えてなくて……」

「なんで謝るんだ? チエの他人を気遣える優しさは武器にもなるんだぞ。誇ればいいさ」

「バージルさん、ありがとうございます」



 微笑みながらそう言ったバージルさんは、優しく私の頭を撫でてくれる。

 その言葉が私を甘やかすものだとしても、心が救われた。

 涙を堪えてお礼を伝えると、バージルさんは親指で目元を拭ってくれる。


 いつの間にか話し込んでいたせいで洞窟から出てきたグレンさんに気付くのが少し遅れた。

 私をバージルさんを見比べたグレンさんは一瞬眉を顰めると、バージルさんの方を睨む。



「泣かせたのか」

「泣かせてないぞ! 流石に言いがかりだ」

「泣いたのか」

「泣いてないです! 大丈夫です!」



 私の目が赤くなっていたのを心配してくれたらしい。

 納得していない様子のグレンさんだったけど、蔦を避けて洞窟へ促してくれる。



「入っていいぞ」



 中は少しひんやりとしていて、少し進むと開けた場所に出た。

 少しツンとした臭いのするその場所に、壁に背を預けてお腹に布を当てた人が座っている。

 明るい茶色の髪色でショートカットの、少し線の細い男性だった。

 髪から覗く耳が少し尖っている。エルフだ。

 教えてもらってから気付くと、この人も胸に焼き印を押されている。

 熱があって辛そうなのに毅然とした態度で私とバージルさんを見ると、その人は口を開いた。



「話はそこの筋肉バカから伺いました。ギルドカードを見せて下さい」

「ああ? うるせぇ貧弱。ちゃんと確認したっつっただろ」

「大丈夫、見せるさ。ほら」



 ゆっくりとエルフに近づいたバージルさんは、ギルドカードと呼ばれた物を手渡す。

 それをじっくりと確認してから、その男性はバージルさんにカードを返した。



「疑って申し訳ありませんでした。僕はジェラルド。エルフです」

「俺はバージルだ」

「あ、千会です」

「こんな格好ですみません」

「大丈夫だ、熱があるなら横になってくれ」



 バージルさんのその言葉に、大人しく従ったジェラルドさんは大きく呼吸を繰り返す。

 相当無理をしていたようだ。



「グレン、ジェラルドは飯はちゃんと食えてるか?」

「無理だ、昨日から飲み込みが良くねぇ。この辺は食用の果物もねぇ」

「そうか」



 あまり良い状態では無いんだろう。バージルさんもグレンさんも頭を抱えている。

 食べれなければ余計に体力が落ちていくし、免疫力も弱っていくから感染症のリスクも高まっていく。

 悩んだのは一瞬だった。

 だって、私も結局困ってる人を見捨てられないし、今ジェラルドさんを助けられるのは私しかいない。



「バージルさん、私スキル使います」

「チエ!」

「いいんです、きっとこの二人なら大丈夫です」



 そう言って笑った私に、バージルさんは押し黙る。

 バージルさんも、私のスキルがないとジェラルドさんを助けられないと分かっている様子だった。



「グレン、ジェラルド。ここで見た事は誰にも言わないと誓ってくれ、頼む」

「助けてくれるっつうんだ、言いふらしたりなんかしねぇ」

「彼女は僕の命の恩人になるんでしょう? 恩人に不義は働きませんよ」

「ありがとうございます。サイバーモール」



 その言葉で、私がサイバーモールを開く。

 いきなり宙に出てきたウィンドウに、グレンさんもジェラルドさんも目を見開いて凝視している。

 医学知識がないため大怪我に適当な抗生剤は使えないので、ビニール手袋、包帯、テープ、ガーゼ、生理食塩水、冷却ジェルシートと消毒薬、果物やパウチのおかゆと缶詰を数個カートに入れて購入ボタンを押す。

 目の前に現れたビニール袋に、二人は更にびっくりした様な顔をするが、構わずに袋から包帯やガーゼを出してジェラルドさんに近づく。



「先に傷口の洗浄と消毒をしますね」

「ええ、お願いします……」



 ジェラルドさんのお腹の布を取ると、5㎝程の裂傷があってそこが赤く腫れて膿が出ていた。



「矢傷か……」



 傷を見たバージルさんが近づいてきて、傍で膝をつく。



「何か手伝えるか?」

「傷の中を洗って膿を出します。ジェラルドさんの身体を横向きに支えてもらっていいですか?」

「俺が支える。バージルは傷を洗いやすいように開いてやれ」



 ジェラルドさんの身体を抱えるようにグレンさんが後ろに回る。

 バージルさんにビニール手袋をつけてもらって、私もビニール手袋をつけてから生理食塩水で傷を洗っていく。

 麻酔もないし意識もあるのに、ジェラルドさんは歯を噛みしめて呻き声もあげずに堪えていた。

 何度か中を洗って膿がでなくなるのを確認した後は、傷口に消毒液をかけて、ガーゼを当てて包帯を巻いてからもう一度仰向けになって寝てもらった。

 冷却ジェルシートを張った時だけ、ジェラルドさんが「冷たい……!」と一瞬だけ喋る。



「とりあえず、傷の処置は終わったので、1日3回傷を確認しましょう。あとはご飯ですね」



 処置で出たゴミをビニール袋にいれてまとめておいてから、まな板、おろし金、お皿とスプーンを何個か取り出す。

 林檎とレモンを皮を剥いてすりおろした物と、パウチからおかゆを取り出して、味付けフレークの缶詰を少し乗せてから混ぜた物を用意する。



「ジェラルドさん、少しでいいので食べれそうですか?」

「ええ、頂きます」

「俺がやるわ。貧弱だけど女には重いだろ」



 グレンさんはそういうとジェラルドさんを座らせて、林檎のすり下ろしを口に運ぶ。

 ジェラルドさんが少しずつ飲みこむと、グレンさんは安心したような表情を浮かべていた。

 口では言い合いをしていたけど本当に心配してたようで、私も安心する。



「チエ、助かった。ありがとう」

「はい、どういたしまして!」



 グレンさんに初めて名前を呼ばれる。

 認められた気がした私は、今日一番の笑顔で元気良く返事をした。

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