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第七話 ディヴォチュアリで

「お尻が死んでしまいました……」

「だろうなぁ。もう陽が沈むし今夜はここで休んでいこう」



 ディヴォチュアリで停泊した馬車から降りようとしたところ、膝が笑って上手く立てない上にお尻が人生最大級の痛みを訴えてきている。

 震える足でヨタヨタと歩きながら四苦八苦していると、バージルさんが爆笑しながら抱えて降ろしてくれました。辛い。

 子供でも抱えるかのごとく簡単に持ち上げられて、あれ? もしかして私って軽い? って少しだけ調子に乗ったけど、どう考えてもバージルさんの筋肉のおかげだと気付いて余計に辛さが増してしまった。

 調子に乗るのはやめよう。そう一人で心に誓う。



「ありがとうございます……」

「どういたしまして。まぁ最初はみんなそうなるから気にしなくていいぞ」

「はい……、でも出来るだけ早く慣れるよう頑張ってみます……」

「頑張って慣れるもんでもないけどな! んじゃ先に宿を取って飯にするか」



 そう言ってゆっくりと歩き出したバージルさん。

 颯爽と歩くバージルさんの後ろをペンギンのような歩き方で必死に追いかけていると、私の歩き方に気付いたバージルさんが戻ってきてくれる。



「悪い、そんなに痛かったんだな」

「すみません! 貧弱ですみません! ちゃんとついて行くので大丈夫です!」



 ペコペコと頭を下げて謝罪する私に、バージルさんは噴き出す。

 声を押し殺しながら一通り笑うと、ウインクをしながら自分の右腕を差し出してきた。



「こんなおっさんで申し訳無いが、掴まってくれ。はぐれると危ないからな」



 心臓を鈍器でフルスイングされたような衝撃を受けたせいで、一瞬息が詰まった。

 トキメキとは程遠い生活をしていたのにこんな事を言われると、それだけでもう死んでしまいそうになる。私がここで倒れたら死因は心臓を鈍器で殴られたことによる窒息死だ。

 でも、ここで私が真っ赤になって右往左往していたら、おどけて腕を組みやすいように差し出してくれたバージルさんに失礼ではないのか。

 震える手でそっとバージルさんの腕に掴まると、二度頷いたバージルさんはゆっくりと歩きだす。

 私の顔が真っ赤なのに突っ込まない紳士対応である。



「この先によく使う宿があるんだけどそこでいいか? 素泊まりだけど、近くに食堂が多いんだ」

「へい……ッはい、大丈夫です!」

「クッ……フ、ハハハ! こんなおっさん相手にときめかせて悪いな。でもそんなに緊張しないでくれ」

「ごめんなさい、本当にこういう事にあまり縁がなくて……」



 私の挙動不審具合に耐えきれなくなったバージルさんが、とうとう噴き出してしまった。

 バージルさんにそんな意図はないと分かってはいるんだけど、男性の腕に手を添えて支えられながら歩くという状況に、頭がしっかりと働かなくなっている。

 私に体力があればこんな事にはならなかったのに……!

 まだ足がヘロヘロの状態で一人で歩けるなんて言っても、余計に迷惑をかけてしまう事は理解しているので、このバージルさんにとっても罰ゲームのような腕組みは続行するしかない。

 秘境について生活が安定したら、毎朝スクワットを20回しようと未来の目標を1つ決めた。


 いまだにドキドキが収まらず羞恥心に殺されそうなため、なるべくバージルさんの影に隠れるように歩き続けていたせいで、宿につくのに結構な時間がかかってしまったけれど無事に到着出来た。

 しっかりとした木造の宿屋で、周辺には確かに飲食店も多いし、大通りに面しているためか人通りも多く、治安も良さそう。



「あ、バージルさん」



 宿に入ろうとするバージルさんを呼び止めると、優しい笑顔で振り返ってくれ首を傾げる。



「うん? どうかしたのか?」

「ここってお部屋で調理とかしても問題ないですかね?」



 私の突拍子もない質問に不思議そうな顔をして、考えるような顔をした後すぐにバージルさんは答えてくれた。



「部屋に簡易台所がついた部屋が確かあったはずだから、そこなら問題ないと思うぞ」

「お詫びに、ご飯作らせてもらえませんか?」

「お! ミト汁を作ってくれるのか!」

「ご希望なら作りますよ」

「よし、なら台所付きの部屋にしよう!」



 嬉しそうにそう返事をしてくれたので、胸をなでおろす。

 旅の間は全然役に立てないし、少しでも出来ることで感謝を示したい。


 余程味噌汁を飲んでみたかったのか、さっきまでの気遣いを一切頭から吹き飛ばしたバージルさんは私を引きずりながら宿の受付に歩いて行く。歩くというか、もうほぼ駆け足だけど。

 受付にいたのはお爺さんで、バージルさんを見て「おや?」と言うような顔をした後に、引きずられてる私に気付いて怪訝そうな顔をする。



「バージル、人攫いは感心せんな」

「は!? 攫ってないぞ! 護衛してるんだ!」



 そう言って私に同意を求めるように振り返ったバージルさんは、引きずられている私を見ると「しまった!」と声が聞こえてきそうな程に目を見開いた後、しゅんとしてしまった。



「悪い……つい興奮しちまった。痛くなかったか?」

「だ、大丈夫ですよ! 痛くないですし! むしろそんなに楽しみにしてもらえて嬉しいですし」

「ほんと、ごめんな」



 私の頭を、子供にするような撫で方で撫でまわしながら謝罪をするバージルさん。

 これは、もう撫で方が完全な子供扱いだったせいでそこまで挙動不審にならずに済んだけれど、私とバージルさんを見てニヤニヤ笑っている宿のお爺さんの視線が居た堪れない。



「なんだ、そういう関係か」

「ロジャー、こんなおっさん相手に可哀想な冗談言うなよ。台所付きの部屋空いてるか?」

「すまんな、年を取ると性格が悪くなるもんでな。1階の奥なら空いてるぞ」

「元々性格悪かったけどな。ならそこ1泊頼む」



 ロジャーと呼ばれたお爺さんとバージルさんは口喧嘩のような言い合いをしながら部屋をきっちりと貸し借りしている。その不思議な関係に昔からの知り合いなのかな、と予想する。

 二人のやり取りをぽかーんとした顔で見ていると、お爺さんが楽しそうな顔をしながら私に話しかけてきた。



「バージルももういい年なのに子供っぽくて敵わんと思わないかね」

「え!? いや、もう私本当にバージルさんにお世話になりっぱなしなのでそんな事全然!」

「おいロジャー……。チエも相手しなくていいぞ。性格の悪さがうつったら困る」

「先輩に向かって酷いことを言うもんだな。相変わらずのクソ餓鬼だ」

「もう34だけどな!」



 遺憾の意! といった表情のバージルさんは、ロジャーさんから鍵を引っ手繰るように受け取ると、私の手を引いて部屋へと歩いて行く。

 ええ、実は本当に仲が悪かったのかな!?

 心配になりながらもロジャーさんに会釈をしながら引きずられていくと、ロジャーさんも肩をすくめるフリをしながら爆笑していた。

 やっぱり仲良しだよね!?


 そのまま部屋まで手をひかれて連れていかれると、バージルさんは鍵を開けて私を先に部屋へと通してくれる。

 バージルさんは後から部屋に入ると何度も鍵のチェックをして、備え付けられていた椅子に腰かけた。



「悪かったな。ロジャーは俺が駆けだしの頃の先輩なんだ。あれでも一応元Aランクの冒険者だ」



 ハアアア、と一際大きなため息を吐いたバージルさんは、なんでここにあいつが居るんだ、と独り言を繰り返している。



「いえ、それは全然。でも本当は仲良しなんですよね?」

「まぁ仲はいいと思うけど。あいつすぐに人をおちょくるんだ。何かされたらすぐに逃げろよ」



 苦笑いを浮かべたバージルさんは、盾と剣を壁に立てかけるとマントを脱いで鎧を外し始めた。

 子供っぽいところを見せてしまったせいで、少し恥ずかしいのかもしれない。

 思いがけず子供っぽいバージルさんを見たせいか私も小さく笑ってしまったが、あまり笑うのも失礼な気がして誤魔化すように部屋を見渡してみた。


 部屋には流し台とテーブルとイスが2脚、奥に扉が3つ見えた。

 多分、寝室が二つとお手洗いかな? と予想する。

 流し台は本当に簡易的なもので、水道の蛇口はあるけれどコンロはない。

 だけど広さは結構あって、排水も出来るようなので調理には問題無さそうだ。



「バージルさん、味噌汁以外にご希望はありますか?」

「そうだな、ミト汁と……。あとはがっつり肉が食いたいな」

「わかりました、じゃあ作っていきますね」

「頼む。あ、先に風呂入ってきてもいいか?」

「時間もかかりますし大丈夫ですよ!」

「そうか、じゃあ頼む」



 奥の扉はお風呂だったらしい。

 扉を開けて中に消えていったバージルさんを見送って、アイテムボックスの中からガスコンロを3つ取り出して並べた後にガスをセットする。

 味噌汁と肉が食べたい、とのリクエストなので、取り敢えず味噌汁の用意から始めた。

 と言っても水を張ったお鍋で昆布を戻しながら、パックのカツオ出汁を放りこんで少し置いておくだけなんだけど。

 その後、お鍋で白米を炊くことにして、米を洗ってから鍋に水とお米を入れて炊き始める。

 本当は少し置いた方がもっちり仕上がるけれど、今日はしょうがないと諦めた。


 お肉は何を作ろうか考えて、そういえばバージルさんが好物だと言っていたゴールデンホーンブルの肉があるのを思い出したので、アイテムボックスから取り出して眺めてみる。

 見た目は普通お肉だししっかりと脂も乗っているように見えたので、少しだけ包丁で切ってフライパンで塩コショウのみで焼いてみたものをつまんでみたが、食感は筋っぽさもなく臭みも無いので食べやすい。

 ブルというだけあって、牛肉と同じような味わいが口に広がった。



「これなら醤油でタレを作っても全然いけそう」



 タマネギとニンニクをおろし金ですりおろしておく。

 醤油、みりん、料理酒に隠し味のお酢をハチミツを少量入れて煮立たせたら、タマネギとニンニクのすりおろしを投入して、少し水分を飛ばすために弱火で煮続ける。


 煮込んでいる間に付け合わせ用のパプリカを半分に切って種を抜いて洗っておく。

 そのまま味噌汁の具材にするエノキとネギと豆腐も切ってから、味噌汁用の鍋に火をかけた。少し煮立ってきたらエノキだけ先にいれておく事も忘れない。

 ご飯の火加減を見ながら、ジャガイモの皮を剥いて1口大に切っていると、ステーキ用のタレが出来上がったため、火からおろして避けておき、水を張った別の鍋でジャガイモを茹でる。

 ご飯もいい感じに炊けてきたので弱火にしておき、茹で上がったジャガイモを軽くマッシュしてからクレイジーソルトで少しだけ味をつけてパプリカに詰めていく。

 そのまま上にとろけるチーズを振りかけて、パプリカをフライパンで蓋をしながら蒸し焼きにし始めたところで、バージルさんがお風呂から出てきた。



「ごめんなさい、もう少しかかりそうです」

「全然待つさ! 何か手伝おうか?」

「もうすぐ出来上がるので大丈夫です! 何か飲みますか?」

「水でも飲むさ。調理を近くで見ても大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですよ」



 イスを引っ張って台所まで来たバージルさんは、そのまま私が調理するのを楽しそうに見始める。


 ご飯の火を止めたら、一瞬蓋を開けてバターと乾燥バジルをいれて軽くかき混ぜた後は蒸らすために避けておく。

 ゴールデンホーンブルの肉を少し厚めに切り分けておいてから、味噌汁の火を止めて昆布とカツオ出汁を取り出すと、具材をいれてから蓋をして余熱で火を通せば良し。



「あー、すごいいい匂いがする……」

「お腹がすきましたもんねぇ」

「ああ、だからすごい楽しみだな」



 パプリカの火を止めてから、別のフライパンにステーキを置いて火にかける。

 余熱で火を通した味噌汁に、味噌をとかして味をつけてから器に盛っていくと、バージルさんが立ち上がってテーブルまで器を運んでくれた。



「ありがとうございます!」

「これぐらいしか手伝えそうにないしな!」

「ごめんなさい、これもお願いしていいですか?」



 ナイフとフォークをバージルさんに預けると、受け取ってそのままテーブルまで運んでくれる。

 ご飯も蓋を開けてもう一度しっかりと混ぜ合わせてから器に盛りつけておき、隅っこにパプリカも盛り付けた。

 ステーキの片側が焼けたらひっくり返して醤油タレをいれ、もう一度蓋をしてから焼いていく。

 少しだけ待ってから蓋を開けて、ステーキを食べやすい大きさに切ってからご飯の上に乗せて、醤油ダレを上から少しだけかければ完成だ。



「お待たせしました、食べましょう」

「あー! すごいいい匂いだ! 早く食べようぜ」



 ご飯も運んでくれたバージルさんは、イスを元の位置に戻して私の正面に座る。

 頂きます、と呟くとバージルさんも頂きますをしていたので、きっとケイタさんに教えられたのだと思う。

 ナイフでバターライスとステーキを一緒に頬張ったバージルさんは、カッと目を見開くとそのまま目を閉じて小さく震え始めた。



「なん……、こ、れうっっっま!!」

「お口に合ったみたいで良かったです!」

「これがミト汁か!」



 器に入った味噌汁も、食べなれない味だと思うけれどしっかり味わいながら食べてくれていた。

 ニコニコとご飯を頬張るバージルさんに、私も嬉しくなって大きく口を開けてごお肉を頬張る。

 ゴールデンホーンブルのお肉と醤油ダレが絶妙にマッチして、食が進む。



「あー本当に美味い! チエ、俺が絶対に秘境に連れていってやるからな! 誰にも捕まるんじゃないぞ!」

「え? はい、お願いしますね」

「捕まっても俺が絶対に助けに行くからな!」



 真剣な顔をしてそんな事を言うバージルさんに、思わず咽そうになる。

 が、すごく真剣な顔でご飯を頬張りながらそんな事を言われても、ときめきよりも餌付けをしてしまった感が強い。

 と言うよりも、もう全身で餌付けを感じるしかない状況だと思う。

 嬉しいような悲しいような複雑な気持ちのままご飯を終えて、食器を下げようとするとバージルさんが手で制してきた。



「作ってもらったし、片付けは俺がやるよ。チエも風呂に入っておいで」

「いいんですか?」

「当たり前だろ。さすがに飯は作れなくても、俺も皿くらい洗えるしな」

「ふふ、分かりました! じゃあお願いしますね」



 そう言いながら胸を張るバージルさんに、つい笑みが零れてしまう。

 なので後片付けをお願いして、着替えを持ってお風呂に入ることした。

 お風呂には備え付けのタオルが置いてあり、二つの蛇口のついた円形の浴槽が置いてある。

 蛇口をよく見ると、火と水の絵が描かれており、火の方の蛇口を捻るとお湯が出た。



「え! すごい! これも魔道具ってやつなのかな?」



 結構熱めのお湯だったため水の方も捻って浴槽に湯を張っていく。

 まさかこんなしっかりとしたお風呂に入れるとは思っていなかったのですごく嬉しい。

 ずっと身体をタオルで拭くだけだったもんね……。


 一人でしんみりとしていると、お風呂の扉がノックされて向こうからバージルさんの声がした。



「チエ悪い! 石鹸って持ってるか?」

「あ、サイバーモールで買います! 石鹸って使っても大丈夫なんですか?」

「うん? ああ、排水のことか?」

「はい、このまま川とかに流れたりしませんよね?」

「大丈夫だ、ちゃんと浄化槽にスライムがいるから綺麗な水しか川には排水されないぞ」



 スライムが水を浄化するという驚きの事実をここで知ることとなる。

 ちゃんとそういう意識があるのは、とてもすごい。

 見た感じ中世だけど、意識はもう少し進んでいるのだと感じた。

 魔法とか魔物とか、地球にないものがあるせいなのかもしれない。



「なら石鹸で身体洗いますね、心配してくれてありがとうございます」

「ああ、先に言えばよかったのに悪かったな」



 そのままバージルさんが離れていく気配がしたので、サイバーモールで入浴セット一式と入浴剤を購入してから封を切っていく。

 ゴミをアイテムボックスにしまったところでお湯が張れたため、入浴剤を先に入れておいてから服を脱いで浴室に入った。

 1度では全然泡立たなかったため、洗髪洗体を3回繰り返してから大きめの浴槽に身体を沈める



「あー……幸せ……」



 久しぶりのお風呂だったのでしっかりと肩まで浸かっておく。

 きっと、次の街に着くまではお風呂にもう入れないだろうし。

 10分くらい無言でお湯に浸かったあとに、未練を断ち切るかのようにお湯からあがる。

 名残惜しいけれど、あんまり長風呂をしてもバージルさんをお待たせしてしまうので、後ろ髪をひかれつつ脱衣所に戻って身体を拭く。

 しっかりと身体を拭いて服を着た後、髪の毛をタオルドライしながら扉を開けると、バージルさんは洗い物を終えてイスに座っていた。



「ごめんなさい、お待たせしました」

「さっぱりしたみたいで良かった。明日からの話をしたいから少しいいか?」

「はい、大丈夫ですよ」



 バージルさんの前に腰掛けると、バージルさんが地図を取り出して見せてくれる。

 私の地図と同じものだけど、色々書き込んであるし年季も入っていた。



「今はここ、ディヴォチュアリに居るだろ? で、こっからトワイランドに入ったら街道を歩いてスターリングの村まで行く。そこからプレミリュー行きの馬車に乗ることになる」

「はい、スターリングまでは大体半日くらいなんですよね」

「ああ、それでな歩きになると魔物に襲われやすくなるし、ここの街道の近くにある森が街道に比べると視界も悪くて危ないんだ。だから不調があったり違和感があったりしたら早めに教えてくれ」

「わかりました」

「悪いな。ここ最近、魔物の動きが活発になっている地域が多いので念のためな」



 私がバージルさんに悪いからと遠慮をして無理をして、どうにもならなくなってから不調を伝えてもきっとすぐに休める場所があるわけではないんだろうな、と感じた。

 魔物がいる道を歩くのは、きっとそういう事だと思う。

 真剣な顔をしたバージルさんは、もう1つ忠告を続ける。



「あと、余程ないんだがこの街道で奴隷商と鉢合わせる事があるかもしれない。絶対に離れないでくれ」

「わ、わかりました!」

「よし、じゃあ解散!明日は8時にここを出るから寝坊しないようにな。まぁ起こしてやるけど」



 話を終えるといつもの優し気な顔に戻るバージルさん。

 私もつられてニッコリするけれど、ちょっと意地悪な顔で起こしてやると言われたので、私もお返しする事にした。

 


「あ、そんな事言うならバージルさんの朝ごはんは無しですね!」

「え!? 嘘だろ!? ごめん! チエ! 許してくれ!」



 想像した以上に絶望的な顔をしたバージルさんに思わず笑ってしまう。



「あはは、冗談ですよ、おやすみなさい!」

「あー、吃驚した……。明日も期待してるぞ! おやすみチエ」



 去り際に頭を撫でられて、至近距離で微笑みながら囁いたバージルさんは先に部屋へと入っていく。

 そんな近くで微笑みを見せられた上にイケボで名前を囁かれるのを目の前で行われて、あ! さっきの仕返しだ!と思っても挙動不審になってしまう私は、一人で真っ赤になりながらバージルさんの部屋を睨みつけるしかなかった。

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