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第四十四話 閑話 ~その頃のジェラルドとケイタ~

「バージルからの手紙で、大体の事は把握しましたが……」



 そう呟いたジェラルドは、じっと俺を見つめてくる。

 何でそんな見つめてくるんだ。

 見つめると言うよりかは、若干恨みの籠った視線に感じるし、見方によっては睨みつけている気がしないでもないけど。

 俺、キラービーの時から嫌われすぎじゃない?

 これは、お互いに分かり合えない悲しみを胸に、枕を濡らすしかないな……。


 そう思いながら、プルメリアの背中を撫でていると、思い切り指を噛まれた。

 あまりの痛みに手を引っ込めると、プルメリアは「気安く触らないで。安い女じゃないの」みたいな、澄ました顔をして俺から視線を逸らした。

 秘境に住んでる人、ちょっと俺に冷たすぎるわ。笑うしかねぇ。



「取り合えず、”ノーブル・キングダム”と、リヴァティ村の収穫率と、メロとテオの両親に関しては、俺等で調査に入る。流石に、そんな風に奴隷にされてる人達は見捨てて置けないからな」

「ええ、お願いします。それにしても、そこまでして奴隷の数を増やしたいんでしょうか?」

「道すがら、最近エルフの女の需要が高まってるって聞いたけど、今回のは一家丸ごとだからな……」



 小難しい顔をして首を傾げるジェラルドを見ながら、俺も首を傾げる。

 使い潰すのが基本の奴隷だけど、けして毎日買い替えたり出来る程に安い訳では無いし、そんな頻繁に奴隷を殺す奴も見た事が無い。

 普通、死なない程度の衣食住は揃えられているし、見目の良いエルフや獣人の奴隷は着飾らせて妾にする奴だって、そう珍しい訳では無いのに。


 今回の件だけは特別だった?

 でも、それにしては変に手が込みすぎて居るし、塩なんて高価な物を使ったりすれば、純利益だって下がるだろう。塩なんて撒いてしまったら、その畑では土を入れ替えない限り、何年にも渡って作物の収穫が出来なくなるのではないだろうか。

 日本に居た頃、「雑草には塩を掛けるといい」と言う、間違った情報を鵜呑みにした母さんが、家の庭に塩を撒いて、家庭菜園を全滅させていた事を思い出した。

 しかも、雨で流れた塩が近隣にまで被害を及ぼして、家族全員で頭を下げた事がある。


 日本では、嫌がらせで塩を撒いたりする奴も居るくらい安く買える代物だけど、ヘレトピアでは塩は金持ちしか買えないような高級品だ。

 今まではずっと、適度に奴隷として人を売り払いながらも、今後の奴隷が居なくならないようにと、出生率が下がらないように調整している様子すらあったのに、方針の変更でもしたんだろうか?


 オキュレイド帝国の考えが読めないし、俺がここで考えてもしょうがない。

 俺はずっと変わらず、困ってる奴が居たら助けてやろうと思う。

 異世界に迷い込んだ俺に、親切にしてくれた人達のように。



「ここまで大掛かりだと、何かしら思惑は働いていそうですね……」

「んだな。まぁその辺も調べるのが俺等の仕事ってね」

「貴方は信用出来ませんが、”フェイト”の今までの実績は信用します」

「信用なさすぎてウケるんだけど」



 俺、キラービーでしか迷惑かけてねぇと思うんだけど、何でこんなに嫌われてんの?

 おかしくない? そろそろ泣くよ?

 心の中で盛大に涙を流しながらも、俺はこの件についての思考を放棄した。

 ここで考えたって、何も答えは出ないしな。


 1人で天才的な思考だと頷いていると、怪訝そうに眉を寄せたジェラルドが口を開く。



「ところで、毎日昼食後に海に潜って何をしてるんですか?」

「えー、ひ・み・つァ!? プルメリア、痛いんですけど!?」

「ピィィ!」



 俺のぶりっ子に大層お怒りのご様子のプルメリアさんは、何の遠慮もなく指がもげるかと思うくらい、勢いよく噛みついてくれた。

 ジェラルドも俺が信用ならないのか、手首にコンパウンドボウのストラップを付け始めているし、ふざけてたら俺の命がやばい。殺される。

 素直に何をしているか白状する事にしよう。

 まぁ、本命のチエさん通す前に、ジェラルドを通しておいた方が話も進みやすいかも知れないしな!

 そう思ったので、大人しく考えを話す事にする。



「近くに居る水棲モンスターの調査と、水深や水の温度を調べてんだ」

「何故ですか?」

「チエさんが良いって言ったら、”フェイト”の支部をここに建てさせて欲しい」

「……答えによっては、殺されても全力で攻撃します。何が目的ですか?」



 背筋に寒気が走る程の眼光で、ジェラルドが俺を睨みつけた。

 さっきまでのは、本当にただのお遊びやじゃれ合いだったと分かるくらい、怒りを押し殺して、殺意に満ちた視線を俺に向けてくる。

 レベル差がありすぎるので、負ける事は絶対と言っていい程無いだろうけど、ここで戦いを始めたら絶対チエさんの心象は悪くなるだろうな。

 ちょっとそれは俺的には困ってしまうので、降参のポーズを取りながら俺は説明を続ける。



「ジェラルド、一個聞きたいんだけどさ。”フェイト”の構成人数と、クラン本部の場所、脱走奴隷に対する対応は何処まで知ってんの?」

「構成人数は知りません。拠点はヴルエーラ。脱走奴隷を保護している事は知っていますが、何をさせているかまでは聞いた事が無いですね」

「だべ? まずそこから聞いてくれや」



 そう言って、俺はジェラルドに最初から説明を始めた。


 戦闘員16人、事務員2人、脱走奴隷13人、生産職(クラフター)5人、採取職(ギャザー)3人の計39人で構成されていて、主な活動資金は塩作りで賄っている事。

 塩を作っている海岸は、周りをハーピィーとドラゴンに囲まれている中で行っているせいで、奴隷が何人か食われそうな目に遭っている事を、少し大げさに話しておく。

 必ず護衛の戦闘員が付いて行くから、今まで食われた奴は居ないけど。

 攫われて、高い所から落ちたせいで骨折した奴だっているし、巣まで運ばれて食われる直前だった奴も居るのは本当の事だ。

 本当に、本当にちょっとだけ、言葉尻を苦笑いをしながら濁しておいたので、勝手に誤解してくれればいいなって期待してる。


 エルフは、500年前の大戦以降、他の種族に対して排他的な所があるせいか、エルフ同士と自分の主には優しいけれど、他には冷たいところが見え隠れしているのが特徴だ。

 稀に、ジェラルドみたいにイマイチよく分かんねぇ奴とか居るけど。

 うちに居るエルフの女の子……って歳でも無いけど、ロザリーも奴隷として捕まってた時はすごく排他的だったなぁと思い出した。助けた途端、ころりですよ、俺の魅力すごくね?


 なので、うちにはエルフもいっぱい居るという事を伝えるのも忘れない。



「危険の無い土地で、畑や家畜を育てて、自給自足して暮らしていけんなら、うちで囲われて危険なとこで塩作るより幸せじゃね? 塩は続けて作って欲しいけど、ヴルエーラじゃそもそもの選択肢すら無いし」

「僕の一存では何とも言えませんが、敵意が無い事は分かりました」

「奴隷も全員を移動させてぇって訳じゃねぇんだ。希望した奴と、護衛を此処に住まわせて欲しいっつうだけで、まじで敵対の意志もねぇし、チエさんのスキルに頼ろうとも思ってないからな!」



 調味料だけ分けてくれれば、脱走奴隷全員に飯を食わせてやってくれなんて言う気もないし、流石にそこまでおこがましい事を言うつもりもないしな。


 俺を話を怪訝そうに聞いているジェラルドだけど、自分も奴隷印があるせいか、そこまで表立っては反対する気も無さそうだった。

 その印が持つ意味は、人間よりもエルフと獣人の方がよく分かってる筈だ。俺ですら、奴隷にされた奴の気持ちなんて一生分からないだろう。

 ただ、可哀想だけでは助けてやれないから、保護しても生活を安定させてやらないといけないし、いつかは奴隷なんて身分が無くなる為の努力だけはしていきたい。



「俺、恰好イイだろ……? すごくない?」

「自分で言わなければ恰好いいですね」

「ジェラルドの冷たい視線が俺の心を抉るぜ……」

「その話は、チエさんと相談して下さい。僕は答えられませんから」



 目を閉じたまま、俺から視線を逸らすジェラルド。

 だけど、きっと少しはいい方向に考えてくれて居るのではないかという確信がある。

 何を根拠にと言われれば、勘でしかないんだけど。


 大きく溜息を吐いているのは、俺と話して疲れたからじゃなくて、これから増える人員に対する仕事の割り振りや、今後のチエさんの事で頭を悩ませている筈だ。

 そうあって、ほしい。


 まぁ、俺もいきなり話過ぎたけどさ。

 海を見に行ってから話そうと思ってたら、豊穣祭に行っちゃったしなぁ。

 チエさんとバージル、豊穣祭から帰って来たら、めっちゃラブラブとかになってたらどうしよう。やべぇ、想像しただけで殺意しか沸いてこない。

 でも、バージルのあのヘタレっぷりでは、気持ちすら伝えてこねぇんだろう事が、赤子の腕を捻るよりも容易に想像出来てしまうので、進展はないと思うけども。



「まぁ、そうよねぇ。取り合えず、俺が変な動きしてても、チエさんに何かしてやろうって訳じゃねぇから! そこだけ勘違いしないでね!」

「分かりました、善処します」

「善処って! 善処って何!」

「元々の信頼感がありませんので、善処しますね」

「言い直さないでくれる!?」



 俺がプリプリしながらそう言うと、ジェラルドは少しだけ目を細めると、口元に笑みを浮かべたので、少し以外に思ってつられる様に笑みを浮かべた。

 チエさんやグレンに見せるような、満面の笑みでは無いところに、まだ少し心の距離を感じるけど、それでも笑みを見せてくれるだけ、少しだけ関係の修復が進んでいる気分になる。



「ねぇねぇ、ところでジェラルド? チエさんとバージルっていつくっつくと思う? 俺はあと3年はくっつかないと思うんだけど」

「僕達がここで、あの2人の恋路を話題にする意味がありますか?」

「えー、いいじゃーん! 俺すげぇ気になって夜も安眠だし、ちょっとだけ話そうぜーねージェラルドー!」



 俺がダダを捏ねていると、大きな溜息を2度吐いたジェラルドは、少し口ごもりながらも俺の質問に答えてくれた。

 え、て言うか答えてくれるんだ。なにこれ笑うしかない。

 32歳と28歳の部類おじさんと若者が、他人の恋路を話し合うとかギャグなんだけど!



「まぁ、見てる分には面白いので、今のままでもいいですけど……」

「うん、俺も心情的にはそうなんだけどさ。あの、皆居るのに2人の世界作られると、ちょっと泣きそうだべ?」

「いえ、僕はそこまで恋人が欲しいとかないので、ただ微笑ましいだけですね」

「突然の! ジェラルドからの! 裏切り!」



 ジェラルドのその言葉に、俺は我慢出来ずにそう叫んだ。

 何この横から突然味方に裏切られたような虚しさは!!

 お前だって! 恋人居ないでしょ! このやせ我慢のイケメン野郎!


 俺がぷんぷんと怒ったふりをしていると、汚物でも見るかのような視線を向けて来たジェラルドは、肩を揺らしながら笑い始めた。



「何が裏切りなんですか。ケイタも恋人を作ったらどうです?」

「居るよねー、そうやって人の心にナイフを突き立ててくる奴ー!」

「世界に4人のSランクでしょう? モテる要素しか見当たらないですけど」

「いや、本当真面目にさ? モテる要素しかないよね? 何で俺に恋人居ないと思う?」



 何か、バージルとチエさんの話からすごく脱線してる気がするけど。

 まぁ、いいや。だって、俺の恋人が出来ない理由の方が大事じゃない?

 リア充はいつか爆発する呪いをかけておけばいい訳だし?


 俺に変な事を訊ねられたジェラルドは、腕を組んだ後に少しだけ唸る。

 あ、これ真面目に答えてくれるつもりなのでは!?

 とうとう俺もモテ期に突入しちゃうんじゃない!?


 そういう期待を込めて、唸るジェラルドを見つめていると、何かに納得したのか、2度頷いたジェラルドは腕組みを解いた後、長い脚を組んで俺に対して口を開いた。



「性格のせいじゃないですか? 落ち着きが無い上に、たまに何を言ってるのか分からないですし。あとそうですね……顔が」

「ねぇ、急に真面目なトーンで俺の心を抉りに来るのやめてくれる?」



 急に真面目なトーンで、俺の人格否定が始まったので、思わず真顔でそう返してしまう。

 これ、ジェラルドなりのギャグなんだろうか。本心だったらちょっと泣きそうだ。


 あとそうですね、顔が……の後が怖くて何も突っ込めねぇ……!

 モブ顔だよ! イケメンじゃないよ! 分かり切った事で傷を抉らないで!



「俺のこたぁいいんだよ……。チエさんとバージルがくっついて帰ってくるか賭けようぜ」



 自分に都合の悪い事を言われたので、その周辺の記憶を脳からシャットアウトしつつ、ジェラルドにそう話を持ち掛けた。

 けれど、ジェラルドは一度大きく噴き出すと、慌てて姿勢を直して取り繕い始める。お前今の見てたかんな。めっちゃ噴き出しただろ。俺も聞いといて笑うかと思ったけど。



「賭けにならないですね」

「俺もそう思う」

「ピィ」

「プルメリアもそう思うよねー」



 肩を揺らしながら、そう答えるジェラルドに、同調するようにプルメリアも鳴き声をあげた。ある意味、バージルが皆から信頼されてる証なんだろうか。



「絶対、何も起きないで帰ってくると思います」

「ですよねー……」

「まぁ、2人のペースでゆっくり進んでいけばいいですよ。僕、2人とも好きですから」



 そう言って微笑んだバージルは、手元にあった水を一気に飲み干した。



「じゃあ、僕は先に休みますね。おやすみなさい」

「おう、俺もこれ飲んだら寝るわ」

「ええ。ケイタ、エルフの事で迷惑をおかけしますが、よろしくお願いしますね」



 照れ臭かったのだろうか。

 早口でそう言うと、こちらを振り返る事もなく、ジェラルドは自分の部屋に戻って行ってしまった。俺は、それをポカンとしたまま見送る。


 なんのかんの言ってくるし、お前俺の母親かよ! みたいな説教もしてくるけど、俺は思わず肩を揺らして笑ってしまう。



「ツンデレかよ」

「ピィ?」



 俺は笑いが治まるまで、ソファの上で爆笑し続ける事になった。ジェラルドも人の事言えないくらいツンデレだったなぁ。

 それがおかしくて、素直じゃない奴多いのが、俺のツボに入ってしまう。

 咽返るまで散々笑った後に、コップの水を飲み干して、ソファから立ち上がる。


 さあ、明日からは適度に情報を集めながら、”フェイト”のメンバーが南下してくるし、忙しくなるから寝ようかな。


 プルメリアに別れを告げて、部屋に戻った後も何度か思い出し笑いをしていたら、隣の部屋に居るジェラルドが壁を蹴る音が聞こえて来たので、俺は更に笑ってしまい、眠れない夜を過ごす事になった。

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