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第四十三話 豊穣祭2日目夜

「それじゃあ、テントに戻るか」



 食事を済ませた後に、バージルにそう言われて、皆頷いた。

 夜の見世物とは一体なんなんだろう。

 食事をする為に入った店の中でも、あちこちから見世物を楽しみにする声や、何処で見たら綺麗に見えるのかなどの会話が聞こえて来たので、きっと素敵な物を見れるんだろうな、と想像力を働かせる。


 確か、バージルは占星術師(アストロジスト)錬金術師(アルケミスト)神秘術師(シーアジスト)って言ってたっけ。

 何をする人達なんだろうと思ったので質問をしてみれば、全て冒険者の人達だと言っていた。


 占星術師(アストロジスト)とは、ホロスコープを用いて、太陽、月、星の軌道を知り、それを占い、太陽、月、星の力を借りる事が出来る人達で、回復職(ヒーラー)の人が持っている事が多いスキルらしい。

 太陽の力は活力を漲らせ、月の力は心を癒し、星の力は全てを飲み込むと言われているそうで、攻撃、回復、能力上昇(バフ)を使えるけれど、全部が出来るせいで、逆に器用貧乏になってしまう人が多いとか。


 神秘術師(シーアジスト)錬金術師(アルケミスト)は、学問というスキルの派生らしく、知らない人から見ると同一視される事もあるという話だった。

 神秘術師(シーアジスト)は、主に魔法を主体としていて、錬金術師(アルケミスト)は主に道具の生成を主体としているそうだ。

 生産職と魔法職というカテゴライズで間違ってないらしい。

 神秘の力で魔法を使う人と、神秘の力を封じ込め錬成して使う人。

 聞いている私も、一体何が違うんだろうと疑問に思ったけれど、それを本人達に言うと全然違うと怒られるらしいので、禁句になっていると教えて貰った。


 そんな人達が集まって、何か見世物をするなんて、ワクワクするなと言う方が難しい。

 一体何が見れるんだろうと、もう心の底からスキップしてしまいそうな程に浮かれている私を見て、皆は微笑ましいものを見るような視線を向けてくる。


 視線にすら気付かずに浮かれていると、段差に足を取られて前につんのめってしまった。

 バランスを崩す直前で、バージルが抱えてくれなければ顔から着地していたかもしれない。



「ごめんねバージル。ありがとう!」

「チエ姉ちゃん、転んじゃ駄目よ」

「うん、気を付けるね」



 メロディちゃんにまで注意されてしまった……!

 確かに「浮かれすぎだったかな」と、少しだけ反省していると、笑いを堪えたバージルも私に話しかけてきた。

 身体を支えていた手が離れてしまった事を、少しだけ残念に感じてしまう。



「まぁ、期待は裏切られないと思うから、好きなだけ楽しみにしてても良いぞ」

「テントからでもちゃんと見れるのかな?」

「明かりが少ない外の方が綺麗に見れると思うぞ。今日は祭り最後の夜だから、一晩中明かりは点いてるだろうしな」



 バージルのその言葉に、私は満面の笑みで頷いた。

 良かった。外の方がよく見えるなら、テント生活も苦じゃない。

 でも、ベッドで寝れるのが身体には優しいけどね……。


 けれど、皆と一緒に祭りを見て、色々知ったり出来るこの時間もすごく好きなので、野宿もそこまで苦痛を感じる事は無いし、たまになら外泊も悪くないかな。

 畑や家畜の世話があるから、頻繁には出かけられない分、今回のお祭りはとてもいい思い出になると感じた。

 これで、ジェラルドやプルメリア、ケイタさんもここに居たら、もっと良かったのにな。そう思ったけれど、無いものねだりをしてもしょうがないので、3人のお土産を考える事にする。



「ねぇ、バージル。ケイタさんのお土産どうしよっか?」

「ああ、そうだな。家畜の世話で残ってくれてるしな……」

「冒険者の人が貰っても困らなくて、実用的な物ってなんだろう?」

「そうだな……。装備はこだわりがある奴が多いし……」

「だよね。私ケイタさんがどんなものが好きか分からないから、どうしようかなって思って」



 ジェラルドやプルメリアの好きな物なら、何となく分かるんだけどなぁ。

 2人で頭を捻っていると、不思議そうな顔をしたグレンが会話に参加してきた。



「美味ェ調味料買ってって、チエが飯作んのが一番嬉しいんじゃねぇの?」

「確かに、一理あるな」

「じゃあ、またバーベキューでもする?」

「ああ、楽しそうだな。そうするか。調味料ならそこまで場所も取らないしな」



 グレンの一言で、帰ったらバーベキューをする事に決まる。

 あの時、皆楽しそうだし、美味しそうだったし、メロディちゃんとテオくんにもいい思い出になるなぁ。また、日本産のお肉とか用意しないとね。

 そうすると、帰ってから買えばいいので、プレミリューでは他の物を調べて帰ろう。


 食事処から抜けて少しあるくと、街の入り口が見えてきた。

 誰もはぐれてないし、酔っ払いの喧嘩もなかったので安心する。

 テントも特に荒らされたりもしていないので、そのまま中に入って皆で横になった。


 いつもよりたくさん歩いているせいなのか、ご飯を食べすぎて消化で胃が頑張っているせいなのか、少し眠気を感じるけれど、今寝てしまったら何も見れなくなってしまう。

 メロディちゃんも疲れたのか、横になってすぐ眠ってしまっている。



「見世物が始まるまで、まだ2時間くらいあるし、少し寝ても大丈夫だぞ?」

「ううん、起きて待ってるから大丈夫だよ」



 目をしょぼしょぼさせて瞬きをしていたせいか、バージルにそう声を掛けられた。

 バージルも床に腰を下ろすと、マントを外して鎧を一部脱ぎしている。

 鎧、重いし暑いってケイタさんが愚痴ってたくらいだし、大変そうだ。



「確かに、少し眠たいな……」



 その後に、小さく呟かれた「俺も歳かな」と、いう言葉に、グレンが噴き出す。

 食べすぎでお腹が苦しいと主張していたテオくんを、おんぶしていたグレン。

 眠ってしまったテオくんを、ぽいっと投げるように床に転がすと、テオくんとメロディちゃんに毛布を掛けた後、何度か首を回してから立ち上がる。




「風呂入りてぇな……」

「お風呂の魅力に取りつかれてるね……」



 濡れた髪の毛がくるくるしてしまう以外は、お風呂が大のお気に入りのグレンがそう呟いたので、大きく頷いて肯定しておいた。

 歩くのも、野宿もそこまで嫌じゃないけど、お風呂に入れないのは辛いなぁ。

 ヘレトピアにも、銭湯とか出来ればいいのにな。

 そんな事を考えていると、大きく欠伸をしたグレンは、テントの入り口辺りに座って伸びをした。



「んじゃ、俺も始まるまで寝っかな……」

「ああ、起こしてやるから寝ててもいいぞ」

「おう、悪ィな」



 座ったままで眠れるんだろうかと心配したけれど、グレンはそのまますぐに寝息を立ててしまう。

 そんな姿勢で眠れるとか、前世は戦国武将か何かだったんだろうか……。


 グレンを見ながら、ぼーっとそんな事を考えていたけれど、一瞬意識が飛びそうになったので、慌てて起き上がって座り直した。

 駄目だ、このまま横になってたら絶対に眠ってしまう気がする。

 眠気を我慢して起き上がる私に、バージルは何か面白かったのか、つい笑みを溢すと口を開く。



「チエ、結構強情だな」

「だって、皆と一緒に見たいし……」

「そうだな。じゃあ、何か話そうか」

「あ、じゃあ”フェイト”の話が聞きたいな」



 私がそう言うと、バージルは頷いてから首を捻った。



「構わないが、何が訊きたいんだ?」

「メンバーとか何人くらい居るの?」

「戦闘員16人、事務員2人、脱走奴隷13人、生産職(クラフター)5人、採取職(ギャザー)3人の計39人だな」



 結構な人数が居るなぁと思っていると、バージルは苦笑いしながら話を続ける。



「Sランク冒険者が居るクランとしては他の半分以下だけどな……」

「え、そうなの?」

「ああ。”運命(フェイト)”は37人、”審判(ジャッジメント)”は117人、”解放者(リベレーター)”は89人だったかな」



 想像よりも全然他の人数が多かったので、思わずぽかんとした顔になってしまう。

 逆に、他よりも人数が少ないのに、奴隷の保護から他のクラン同士の揉め事の仲裁、果てはダンジョンの攻略まで幅広く活動してるなぁと、感心してしまうぐらいだ。


 因みに、生産職も採取職も、冒険者である事には変わりないそうで、冒険者ギルドには生産職や採取職専門の依頼なんかもあるらしい。

 街に居るような武器屋とか防具屋は、引退した冒険者がやってる事が殆どだそうだ。

 生産採取にも専門のランクがあるらしく、採取に至っては危険地域に行かなくてはいけない事もあるので、普通の冒険者よりも強い人や、身を隠せる魔法を使える人が多いとか。

 中には、冒険者パーティーに同行して、剥ぎ取りを行う為だけの人も居るそうで、儲けはなかなか良いとの話だった。


 確かに、皮と肉を綺麗にはがしたりするのって、大変そうだもんね。

 内臓を綺麗に処理したりとか、皮も綺麗に剥げてるかで買い取り額も変わるらしいので、結構人気の職業だそうだ。



「それだけ人数が少ないのに、よく色んな事が出来るね」

「結構、皆オーバーワーク気味だけどな」



 ケイタのせいで、と呟いているけれど、バージルの顔は怒った様子もなく、仕方ないとでも言いたげに目を細めて笑っていた。


 それからも、”フェイト”の事を色々と尋ねていると、どんどん空は暗くなっていって、夜空にたくさんの星が浮かんでくるのが、テントの隙間から見える。

 バージルも時計を確認しているので、いい時間になったのかも知れない。



「そろそろ時間だな。おい、グレン時間だぞ」

「メロディちゃん、テオくーん、もう始まるって」

「うん、起きるぅ……」

「ぼくも、おきたよぉ……」

「はい、おはよう」



 私とバージルで手別けして起こすと、皆眠たそうな顔をしながらもすぐに起き上がってくれた。テオくんも半分目が閉じてるけれど、しっかりと座っている。


 転ばないようにだけ気を付けて、靴を履いてから皆でテントの外に出ると、いつも見上げるよりも星の光が強い気がしたので、私は首を傾げた。

 テントの外には、同じように空を眺めている人達がたくさん座り込んでいたので、私達も地面に腰を下ろして空を見上げる。

 グレンは寝転がって空を見上げる事にしたらしい。


 きらきらと輝いている星を眺めていると、星が1つ流れていくのが見えた。

 流れ星だと気付いた時には消えてしまっていたので、全然願い事なんて言えなかったけど。



「今、流れ星があったね」

「ね! メロも見ちゃった!」



 嬉しそうに顔を綻ばせているメロディちゃんと見つめ合って笑っていると、寝転がっていたグレンが何も言わずに空を指差していたので、また空を見上げて唖然とした。


 流星群だ。

 日本では見た事が無いくらい、たくさんの流星群が目の前にある。

 色んな方向に、白い線を残しながら、星が縦横無尽に流れている事が信じられず、思わず周りを見渡すけれど、皆星空に夢中になっていて、誰も疑問に思っていなさそうだ。

 眠気なんて、一気に吹き飛んでしまうような光景に、ただただ唖然として、空を見上げる事しか出来ない。

 こんな神秘的な光景を、スキルで作りだす事が出来るんだろうか。


 静かに空を見ていると、星がたくさん流れている中に、段々と緑色のもやが掛かり始めた。

 何だろう?

 そう思っていると、緑色は少しずつ広がって行って、半透明のヴェールをいくつも重ねながら、空に帯を作り出していく。

 オーロラ……? 寒い地方でしか見れないって聞くのに?

 空には流れ星の大群と、美しいオーロラのコラボレーションが広がっている。


 私は、幻覚でも見ているんだろうか……。

 頬をつねってみても痛みはあったので、夢じゃない事だけは確かだけれど。



「すごい……」

「だろう? 俺も、これは好きなんだ」



 私の呟きに、バージルは静かにそう返してくれる。


 何故だか分からないけれど、その神秘的な光景に思わず涙が浮かんでた私は、肩を震わせながら思わず俯いてしまった。

 どうして、私は泣いているんだろう。

 自分でも理解出来なくて、それでも目の前の光景に胸がつまって何も話せずにいると、俯いて泣いてる私の肩を抱き寄せたバージルは、そっと静かに寄り添ってくれる。


 バージルの温かさが心地よくて、バージルの肩に頭を預けたまま空を見上げた。

 きっと、後で羞恥心で死にたくなるのかも知れないけれど、今はただ寄り添っていたい。



「バージル、温かいね……」

「ああ、ドキドキしてるからな」

「そっかぁ、一緒だね」



 そんなリップサービスに、つい笑みが浮かんでしまった。


 少しずつ、オーロラが霞んで消えて行くと、流れ星の数も減って行ってしまう。

 ああ、もう終わりなんだ。

 もっと、いっぱい見ていたかったな。

 もっと、バージルにくっついていたかったな。


 そう思っていると、空がどんどん暗くなっていって、星が少なくなっていく。

 何が起こるんだろう。

 明かりの少ないこの世界では、星の光が無くなってしまうだけで、殆ど真っ暗になってしまうのに。


 けれど、不安感を感じないのは、私の右肩にしっかりと腕を回してくれているバージルが居るからで、怖い事など起きる訳がないと、安心して空を見上げる事が出来る。


 空から、何か降ってきている?

 そう気付いたのは、大分近付いてきてからで、そっと空中に手を伸ばしてそれに触れてみようとした。



「これは……?」



 手の平に乗ったそれは、薄紅色の綿毛のような物で、淡く光を放ち始める。

 一斉に光りだしたそれは、空から星がゆっくりと落ちて来ているかのように、優しい光を放ちながら、ふわりふわりと頭上に降り注いでいた。

 薄紅色だけじゃない、たくさんの色があるんだ。

 テオくんの頭の上には濃い青色の物が、グレンのお腹には白い物が、メロディちゃんの手の中にはオレンジ色の物が、淡い光を放ちながら点滅を繰り返している。



「これは、錬金術で作れる光苔っていう物で、少しすると消えてしまうんだ」



 バージルの言葉に、私の手に乗っていた光苔を見ると、光はどんどん弱くなり始めていて、少しすると音も無くすっと消えてしまう。

 手の上には、もう何も残ってないのか、触ってみてもなんの感触もない。


 次から次へと、空から降ってくる光に、色んなところから感嘆の溜息や、喜びの声、持って帰りたいとだだをこねる子供の泣き声なんかが聞こえてくる。

 私も、消えない光苔が欲しいな。大切な思い出になるのに。

 そんな子供みたいな事、言わないけれど。


 残念だなぁと思って、光苔を見上げていると、私の肩を抱いていたバージルが、静かに口を開く。



「なぁ、チエ」

「なぁに?」

「光苔、帰りに買って帰ろうか」

「売ってるの?」

「ああ、道具屋で売ってるぞ。空気に触れ続けると死んでしまうから、瓶詰だけどな。ランプ変わりに使われてるんだ」



 思い出に欲しいなって思ったのが、そんなに顔に出てたのかな。

 そう考えると、少し恥ずかしいけれど、私の気持ちを汲んでくれたのはすごく嬉しい。



「ありがとう、バージル。帰りに買っていきたいな」

「そうか。ならプレゼントさせてくれ」

「……うん、ありがとう」



 光苔を見るたびに、この事を思い出して眠れなくなりそうだけど。

 男性からプレゼントされるなんて、何年ぶりだろう。

 でも、今は過去を思い出すより、こうやってバージルと空を見上げてる方がいいな。


 ちょっと肌寒いからと言い訳をするかのように、更にバージルに身を寄せながら、ずっとこのまま傍に居れたらいいのに、と。

 そう星に願いながら、ただ空を見つめ続けた。

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