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第四十二話 豊穣祭2日目後編

「今回の優勝者は、エルフの女冒険者! 呪言師(ルーンマスター)オルガが優勝です!! 負けてしまいましたが、虎族の獣人、戦士(ウォーリア)のハンフリーにも大きな拍手をお願いします!」



 司会のその言葉に、防具とは何だろうか、と考えてしまいそうな恰好をしたエルフの女性が、観衆に向かって大きく手を振ると、割れんばかりの拍手と賞賛の声が響く。

 色んな魔法を駆使して戦っていたオルガさんは、斧を振り回す屈強な獣人の冒険者と、ステージの中央で握手をする。


 どんな魔法なのか、見て分からないような地味な魔法が多かったけれど、バージルは頻りに関心していたので、きっと凄い使い手なんだろう。

 本選に出場していた中には、派手な魔法を何度も使う人も居たけれど、その人は魔法を全部避けられて1回戦で敗退してしまっていた。

 女の人は16人中2人しか居なかったけど、屈強な男の人を押し退けて優勝するなんて、どれだけレベルが高いんだろうと感心してしまう。

 メロディちゃんも感心したのか、何度も凄いと言いながら、必死に拍手をしていた。テオくんは、応援していた虎族のハンフリーさんが負けてしまったので、少ししょんぼりとしている。

 私も、優勝したオルガさんに対して、尊敬の気持ちを籠めて大きな拍手を贈っていると、振り返ったグレンがバージルに話しかけた。



「バージル、さっき男の方がよ、急に動きが止まった後に、蹴りを繰り出したのは何でだ?」

「多分、時間停止(ストップ)か、縛り付(バインド)に対して、魔力抵抗(レジスト)したんじゃないか? そのせいで一瞬隙が出来たんだろうな。動きが止まったから、勢いを付ける為に蹴りを出して身体を反転させてたし、攻撃目的では無い気がするな……」

「んじゃ、男の方もなかなか魔防が高いのか……」

「だろうな。若しくはスキルで強制解除したか……」



 バージルとグレンの会話を聞きながら、さっきの戦闘を思い返してみる。


 オルガさんが唯一使った紫色の派手な魔法に対して、後ろに跳躍したハンフリーさんが、着地と同時に凄い勢いでオルガさんに突っ込んでいって、そのまま勝負がつくかと思ったけれど。

 そこで急に、斧を振り下ろすハンフリーさんの動きが、2秒程止まる。

 オルガさんはその瞬間に後ろに下がると、火の矢(ファイアアロー)を放ったけれど、ハンフリーさんは動き出して、オルガさんに蹴りを入れると、身体を捻って火の矢(ファイアアロー)を回避した。

 けれど、身体を捻って回避した場所には、既にオルガさんが魔法地雷(マジックマイン)を設置していたせいで、ハンフリーさんはそれを踏んでしまい、場外に吹き飛ばされて勝負がついたんだ。


 グレンが話しているのは、その一連の流れなんだろうな。

 私も見ていて全然分からなかったので、横に座ってたバージルに解説して貰ったし……。



「スキルでそんな事出来んのか?」

「聞いただけだが、魔法妨害(アンチマジック)っていうスキルがあるらしいぞ」

「へぇ、そんなスキルもあんだな」



 魔法妨害(アンチマジック)、どんなスキルなんだろう?

 後で、スキルの説明を読んでみようと考えていると、大きな歓声に見送られながらオルガさんがステージから退場していく。

 それを見送ると、観客も次々に席を立って帰る準備をしていた。

 笑顔で元気いっぱいの人は賭け事に勝ったのかな。元気無い人も結構居るみたいだけど。

 でも、テオくんも元気無いし、純粋に応援していた方が負けてしまった人達なだけかも知れない。


 私は、地味な魔法しか使っていなかったオルガさんが使った唯一の魔法が気になっているので、グレンとバージルの話が一区切りついた所でバージルに話しかけた。



「さっき、オルガさんが使ってた派手な魔法ってなんなんだろう?」

「ああ。多分、雷魔法を詠唱破棄したんだと思うが……」

「詠唱破棄とかしてるのも分かるんだ」

「雷魔法は威力が高いが呪文が長いんだ。だから派手な魔法を使うと見せかけて、魔法地雷(マジックマイン)を設置したんだと思うぞ」



 バージルにそう言われて思い返してみると、確かに紫色の魔法に当たったのに、ハンフリーさんは余り痛そうにしていなかったし、ダメージもあまり無さそうだったので、本当に目眩しに使っただけなのかもしれない。


 そういう戦い方もあるんだと感心していると、私達が座っている升席の後ろでは、「オルガに全財産賭けて良かった!」やら、「ハンフリーの破壊力に期待してたのに……!」など、色んな声が飛び交っている事に気付いた。

 全財産賭けちゃうくらい、オルガさんは有名な人なのかな?

 疑問に思ったので、バージルにそのままぶつけてみる事にする。



「そういえば、冒険者って有名なものなの?」

「うん? どういう事だ?」

「オルガさんにお金を賭けてた人が居るって事は、オルガさんは有名なんじゃないのかな?」



 何と説明していいか分からずにそう尋ねると、意味が通じたのかバージルは何度も頷いてくれた。



「ああ、そういう事か。オルガは有名だぞ。呪言師(ルーンマスター)オルガ。冒険者ランクはBだな。所属クランは無し。戦闘を有利に進める為に、相手を状態異常や弱体化させる状態異常魔法(デバフ)を得意としているな。見て分かる通り一見地味だが、堅実な戦い方をするんだ。魔力も高いから、攻撃魔法も得意だし、ギルド期待の中堅だな」



 思った以上にしっかりとした情報を口にしたので、私は思わずバージルをぽかんとした顔で見つめてしまう。

 え、何でそんなに詳しいんだろう。仲がいいのかな……。

 少し不安になりながら、私も恐る恐る口を開く。



「バージルは全員、冒険者を覚えてるの?」

「いや、オルガとはダンジョンに潜る為にパーティーを組んだ事があるんだ。覚えてるのはBランク以上と、パーティーを組んだ事がある冒険者だけだな」

「Bランク以上を全部覚えてるのも、凄いと思うけど……」



 バージルの説明に、私は納得して、少しだけ安心した。

 それだけ詳しいって、すごく仲が良いとか、好きとか、だと思ったからだ。

 自分で聞いたくせに心が狭いなぁと、少し苦笑いしてしまう。


 Bランクの冒険者がどれだけ居るか知らないけれど、結構な人数の顔と名前が一致するんだろうなぁ。私では絶対に覚えきれない気がするけど、頭の出来が違うのかと納得をした。



「じゃあ、ハンフリーさんも知ってるんだ?」

「ああ、クラン”ジャッジメント”の副クランマスターだ。戦士(ウォーリア)ハンフリー。Aランク冒険者で、圧倒的なパワーで立ちはだかる相手を斧で粉砕する。虎族の獣人だから、少し喧嘩っ早くて怒りやすいが、面倒見はいいな。”ジャッジメント”には、Sランク冒険者の獣人が2人居るぞ」

「すごい! やっぱりハンフリーさんは強いんだね!!」

「ああ、俺も模擬戦で盾を砕かれた事があるな」



 嬉しそうにバージルに話しかけるテオくんに、バージルは苦笑いしながらそう答える。

 バージルの持っている盾は、バックラーのような小型の盾ではなく、金属を使って作られたカイトシールドなのに、それを砕くってどんなパワーをしてるんだろうか……。

 私のステータスでは、きっと一生かかっても無理な気がする……。

 怪我がなくて何よりだなと思いながら、前にバージルから聞いた事を思い返して、私は話しを続けた。



「Sランク冒険者って4人しか居ないんだよね?」

「ああ。”運命(フェイト)”の虐殺者(ジェノサイダー)ケイタ、”審判(ジャッジメント)”の聖騎士(パラディン)ロイドと魔法騎士(マジックナイト)キース、”解放者(リベレーター)”の時術師(クロノマンサー)ソフィの4人だな」



 バージルの説明に、私は首を傾げた。ケイタさんが虐殺者(ジェノサイダー)

 通り名なのかと思ったけど、バージルの説明では冒険者の名前の前に来る呼び名は職業(ジョブ)らしいので、どうしたらそんなにおっかない職業(ジョブ)に付けるのか余計に分からなくなってしまう。

 ノリが軽くて、優しそうなケイタさんは、仮初の姿なんだろうか……。


 バージルもAランクの冒険者なら、しっかりと職業(ジョブ)はあるんじゃないかな。

 そう思ったので、バージルと会話を続けた。



「じゃあ、バージルの職業(ジョブ)は何になるの?」

「俺は守護者(ガーディアン)だな」

「その職業(ジョブ)は、どう決められるの?」

「ああ、俺で例えるなら、剣士(ソードマン)から騎士(ナイト)聖騎士(パラディン)にランクアップしていくパターンと、剣士(ソードマン)から防衛者(ディフェンダー)守護者(ガーディアン)にランクアップしていくパターンがあるんだ。条件を満たすとギルドカードに記載される。職業(ジョブ)は大体、そのスキルを持っているかどうかで決まるな」



 なんでも、剣士(ソードマン)で仲間を庇い続けると、防衛者(ディフェンダー)というスキルを覚えて、防衛者(ディフェンダー)のスキルで更に仲間を庇い続けると、守護者の祝福を覚えて、それを覚えると職業が守護者(ガーディアン)になるらしい。

 そう言えば、森の中で自己紹介した時、バージルは守護者の祝福っていうスキルを持っていたと話していたなぁと思い返す。

 なるほど、ギルドでしっかりと規定されて、ギルドカードにも記載されるなら、詐称も出来なさそうだなぁ。



「じゃあ、ケイタさんが虐殺者(ジェノサイダー)っていうのは、そういうスキルを持ってるからって事?」

「ああ。ケイタは虐殺者というスキルがあるんだ」



 バージルの説明では、虐殺者というスキルは発動条件が大分狭いらしく、自分より相手の方が数が多くて、更に相手が自分よりも格下じゃないと発動しないらしい。

 ただ、発動した場合には、ステータスが全て70%上がる上に、痛覚無効、精神異常抵抗が発動する、まさしく虐殺者(ジェノサイダー)と呼ぶのに相応しいスキルだそうだ。



「じゃあ、”解放者(リベレーター)”の時術師(クロノマンサー)ソフィさんのスキルって、どんなの何だろう? 聖騎士(パラディン)魔法騎士(マジックナイト)は、何となく分かるんだけど」

時術師(クロノマンサー)は時間操作が出来るスキルだな。俺はソフィ以外で使える奴を知らないが……」



 自分が知ってる範囲で、と言いながら、バージルはスキルを説明してくれた。

 時間操作とは、本当に言葉通りの意味らしく、傷を負ってしまっても、傷を無かった時まで戻す事が出来たり、攻撃に当たってしまっても、攻撃の前まで戻って避けたり出来るらしい。



「え、それって最強なんじゃ……?」

「だろ? 唯一勝てる見込みがあるとすれば、相手がMP切れを起こすのを待つしか無いな」

「それって、世界中の時間が戻っちゃうの?」

「いや、時空を歪めて戻すっていう限定的なスキルだな。範囲はそこまで広くないぞ」



 苦笑いを浮かべるバージルに、私もつられて苦笑いをする。

 お会いした事は無いけれど、敵対しないようにしたいと心の底から思う。

 それでも、時間を戻せるスキルって言うだけで、すごい切り札の様に感じてしまった。悪い事したい放題な気もするけど、クランのマスターもやってるなら、責任感の強い人なんだろうな。


 1人で納得していると、グレンは首を傾げながらバージルに声を掛けた。



「んじゃ、俺が冒険者になったら何になんだ?」

「グレンはテイムスキルがあるけど、テイミングしてないからな……何になるんだろうな?」



 バージルも首を傾げながら、グレンにそう言葉を返すのを見て、私はつい笑ってしまう。

 確かに、グレンは今は何もテイムしてないから、精霊士(エレメンタラー)でも、召喚士(サモナー)でも、獣使い(テイマー)でも無いもんね。

 

 そう思っていると、バージルは笑いながらグレンに声を掛けた。



軽戦士(フェンサー)とかになるかもな? そんなに気になるなら、冒険者登録したらどうだ?」

「あん? 脱走奴隷でもなれんのかよ」

「冒険者ギルドは、エンシェントドラゴン以外では各国と不可侵条約があるからな。うちで保護した脱走奴隷も何人か冒険者になってるぞ」

「へぇ……。祭り中も冒険者登録出来んのか?」

「ああ、冒険者の仕事はたくさんあるしな。やってるぞ」

「んじゃ、夜にでも行ってくっかな……」



 グレンはそう言うと、立ち上がって周りを見渡す。

 私もつられて周りを見渡すと、帰る人の波は収まっていたので、今ならメロディちゃんとテオくんを連れて帰っても、はぐれて迷子にはならなそうだ。

 このまま、ずっとここに居て話をしている訳にはいかないので、帰る支度を始める。

 メロディちゃんもゴミを集めてくれたり、飲み物を片付けたりと手伝ってくれた。



「ありがとね」

「どういたしまして! チエ姉ちゃん、メロお腹すいたなぁ」

「そうだね、どこかで食べてから戻ろっか?」

「ああ、そうだな。何か食べたい物はあるか?」



 バージルが皆にそう声を掛けると、テオくんが元気に手を上げながら笑顔で口を開く。



「はい! ぼくお肉!」

「俺も肉」

「メロは果物が食べたいな」



 テオくんに続くようにグレンからも希望が上がり、メロディちゃんはフルーツが食べたいと言う。

 バージルは好き嫌い無いって言ってたし、私も特に好き嫌いは無いので、今日はお肉と果物になりそうだなぁ。

 そう思いながらバージルを見ると、バージルも同じ事を考えていたのか、私を見て笑った。


 ああ、何か同じ事考えてるのって、いいな。

 少し浮かれながらそう考えていると、帰り支度が終わったのでメロディちゃんが立ち上がる。



「お店、早く行かないと混んじゃうよね?」

「ああ。この辺で肉と果物が食える所か……。夜には魔法を使った見世物があるし、早めにテントに戻りたいしな」

「魔法を使った見世物?」



 バージルの言葉に、私は立ち上がりながら首を傾げた。

 魔法を使った見世物ってなんだろう。祭りでは毎回あるのかな? そう思っていると、バージルは立つのを手伝ってくれながら私を見つめる。

 見つめられて、思わずどきりと胸が跳ねてしまう。



占星術師(アストロジスト)錬金術師(アルケミスト)神秘術師(シーアジスト)が、凄い物を見せてくれるんだ。チエ、一緒に見ような」

「う、うん。楽しみだなぁ。どんな事するんだろう!」

「まぁ、見てのお楽しみだな」



 悪戯っぽく笑うバージルに、私も笑みを返す。

 きっと、凄い物が見れそうな、そんな予感に胸が弾んだ。



「じゃあ、お店探してご飯にしよっか」

「ああ、はぐれない様に気を付けてくれ」

「メロ、帰りはチエ姉ちゃんと手繋ぐ!」

「じゃあ、一緒に行こっか」

「うん!」



 右手をバージルと、左手をメロディちゃんと繋いで、升席を後にする。

 会場の外は人もまばらになっていて、屋台が並ぶ方からは楽し気な人の笑い声が響いていた。

 その中の一角に、人に囲まれているオルガさんと、パーティーのメンバーのような人達を発見したメロディちゃんは、嬉しそうに目を輝かせながら、バージルを呼び止める。



「ねぇ、バージル兄ちゃん! オルガさんと握手して来てもいい!?」

「ああ、人も少ないし大丈夫だぞ。ここで待ってるな」

「うん! チエ姉ちゃん、ちょっと待っててね!」



 そう言うと、繋いでいた手を離して、メロディちゃんはオルガさんに駆け寄っていく。

 何を話しているかまでは聞こえなかったけれど、一言二言話した後に、しっかりと握手をしてもらっていた。



「メロ、嬉しそうだな」

「うん、笑ってくれてて良かった。せっかくのお祭りだもんね」

「ああ」



 嬉しそうなメロディちゃんを眺めながら、心の底から安堵する。

 無理して笑っている訳では無さそうなので、家族のもとに帰る前に、少しでも楽しい思い出をいっぱい作ってあげたいな。

 少しだけ寂しい気持ちを押し殺しながら、私はそう願った。

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