第四話 商業ギルド訪問
「めっちゃ立派な建物……」
教えてもらった通りに歩き続けると石造りの立派な建物が目の前に現れた。
思わずポカーンと口を開けて見上げてしまう。
あまりの頑丈な造りにびっくりはしたけれど、こんな道のど真ん中で立ち止まっていては邪魔になる事に気付いて建物に近寄っていく。
入り口に看板があり、なんと書いてあるかは分からないけど秤と金貨の絵が書いてあった。
ウェスタン扉を押して中に入ると、外の建物に負けないくらい中もしっかりした作りの上、高そうな調度品が綺麗に置かれている。
私には場違いな気がして尻込みをしてしまうけれど、情報収集という目標を思い出して気合を入れ直した。
「すみません、少しお話を伺いたいんですが……」
「いらっしゃいませ、ようこそ商業ギルドへ。こちらの窓口までお願い致します」
金髪セミロングの綺麗なお姉さんに声をかけられて、仕切り窓のついた窓口まで進む。
銀行みたいな作りだなぁと、少し感心してしまった。
「本日は私アデラが対応させて頂きますね。ご用件はなんでしょうか?」
可愛らしくニッコリと微笑まれて、私もつられてニッコリしてしまった。なんという眼福。
「実は田舎から出てきたばかりでして……。商売について教えて頂けたらと思いまして」
「なるほど、因みに詳しく聞きたい事はありますか? 無いようでしたら商業ギルドの説明や、ランクによっての税率の話をまずさせて頂きまして、疑問に思った事をご確認頂いて大丈夫ですよ」
「ありがとうございます! お願いします!」
アデラさんに頭を下げるとニッコリと笑って説明をしてくれる。それをルーズリーフにしっかりと記入することにした。
"商業ギルドは売り出す品数、販売方法によりランクが定められており、登録時に一律銀貨50枚をギルドの手数料として支払う必要がある。
その後は1年間更新で、ランクに応じて税率が決まっており、年間売上の帳簿を元に商業ギルド職員が税金を算出し、1年分の税金を商業ギルドに納めなければならない。
税金の10%を商業ギルドが手数料として受け取り、残りの90%を商業ギルドから各国へ税金として納めてくれる。
取引をしていない場合は、更新費銀貨10枚を支払う必要がある。
ランクで規定された以上の売り上げがあった場合、更新時に見合ったランクまであがり、そのランクで税金が算出される。
1年後の更新までランクは変わらない。
また、国に代わって国民への税金の徴収も行なっている。
ギルド所属の商人同士の仲介、斡旋も行っており、商談が成立した場合は取引金額の0.5%を商業ギルドに手数料として支払う必要がある。
また、商業ギルド独自に王族貴族用の高級品買取も行っており、胡椒、塩、砂糖、葉巻、品質80以上の食材・調味料・香草・酒・化粧品のみ、ギルド登録の有無やランクに関係なく、税金徴収無しで適正価格である販売額の6割にて買い取ってくれる。"
(あ、姉弟が言ってたのはこれだ!)
商業ギルド独自に王族貴族に高級品を売りつけているらしい。しかも販売額の6割で買うと明言されているので、本当に不正もなさそうだ。
「ここまでで何か質問はありますか?」
「あの、高級品買取って販売額と買取金額の一覧でもあるんですか?」
私がそう訊ねると、アデラさんは机の引き出しから一枚の紙を取り出して見せてくれる。
「一覧程ではないですが目安表はありますよ。品質が高ければ高いほど買取金額も上がりますし、最低買取額がどの品も設定されていますので安心してお売り頂けると思います」
「そうなんですね! ちなみにこの目安表は頂いても大丈夫ですか?」
「はい、皆さんにお配りしてるので大丈夫ですよ」
すごくありがたい!
けど、私字が読めないんだった……。
「仕事を増やして申し訳ないんですが、私字が読めないので、表にある物を読み上げてもらう事は出来ますか?」
「えぇ、字が読めない方もたくさんいらっしゃいますしお安い御用ですよ」
微笑みながらそう言われたため、クリップボードにしっかりと挟んでから上から読み上げてもらい、表に小さく塩、胡椒、などと書き込んでいく。後でしっかり確認しなくちゃ。
「もう一度読み上げましょうか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。あの、販売額の6割が仕入額だって分かってて、苦情は出ないんですか?」
「こちらの高級品を欲しがられるのは、本当に裕福な方々のみですし苦情が出た事はありませんよ。他に質問が無ければランクの説明に移って宜しいですか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
アデラさんは頷くと商業ギルドのランクと税率の説明をしてくれたので、それもしっかりとルーズリーフに書き込んでいく。
"・ブロンズランク
露天販売や、収穫祭の時期のみの出店、もしくは生産者による加工前の食料品・日用品の販売などに当てはまる場合の税率。
年間売上が金貨50枚以下に限られる。
税率は売上×1.03
・アイアンランク
30㎡未満の個人商店、大規模な露天販売、もしくは生産者による加工品、調味料や香草の販売などに当てはまる場合の税率。
年間売上が金貨80枚以下に限られる。
税率は売上×1.05
・シルバーランク
100㎡未満の個人商店、1店舗以上の支店を持つ商会、もしくは生産者による煙草や大麻などの趣向品、服の販売、酒の販売などに当てはまる税率。
年間売上が金貨150枚以下に限られる。
税率は売上×1.08
・ゴールドランク
100㎡以上の個人商店、2店舗以上の支店を持つ商会、奴隷商、貴金属販売、化粧品販売に当てはまる税率。
年間売上が白金貨40枚以下に限られる。
税率は売上×1.10
・プラチナランク
売り上げが白金貨40枚を超過すると当てはまる税率。
税率は売上×1.15
ただし、その年の商会メンバーとその家族の人頭税は免除され、商業ギルドを通した取引の際に手数料がかからなくなる。"
(高級品以外で100金貨儲けるにはシルバーランクになるしかないのね……。うーん、やっぱり高級品売り逃げでいくかなぁ)
説明を聞いた後でも、高級品売り逃げが一番良さそうな気がする。登録不要でもしっかり買取してくれるみたいだし。
「アデラさんありがとうございます。質問しても良いですか?」
「はい、構いませんよ」
「例えば、高級品買取で一度の取引で上限限度額とかはあるんですか?」
「ギルドには買取が行えるように金貨2000枚以上は必ず用意しておりますので余程大丈夫かと思いますよ」
金貨2000枚で目玉が落ちるかと思った。
いつも2億円ありますよって事を平然と話して大丈夫なのかな。強そうなおじさんとかが裏に居るのかな。
余計な心配をしつつ、売り逃げはいつでも大丈夫そうだと安心する。事前に準備とかされたら噂になりそうだし安心した。
「ありがとうございました。もう少し考えてみますね。あと、こちらで地図を入手出来ると聞いたんですがありますか?」
「地図ですね、銀貨10枚になりますがよろしいですか?」
え、結構高い……!
でも背に腹は変えられないので、銀貨を10枚支払って地図を受け取る。
大まかな各国の位置が記された世界地図なような物が1枚、国別の大まかな地図が6枚入っていた。
ただ、私は字が読めないので国の名前は分からないけれども。
「ありがとうございました。また伺わせていただきますね」
「はい、またのお越しをお待ちしております」
しっかりと頭を下げて見送ってくれるアデラさんにお辞儀をして、商業ギルドから出る。
地図も後で確認しようと、アイテムボックスにしまう。
太陽がしっかり真上に見えるので、結構な時間商業ギルドに居たらしい。
「お腹すいたし、おばちゃんの言ってた食堂行こっと!」
来た時と同じように戻る事15分。
宿屋の横の食堂まで戻って来ることが出来た。
そーっと中を覗くと、混んでは居るけど満席では無いため、安心して中に入る。
「いらっしゃい! 空いてるとこに座っとくれ!」
宿屋のおばちゃんと若い女の子2人がフロアを忙しそうに動きまわっており、奥の窓際の席に一人で座った。
すぐにおばちゃんが注文を取りに来て、私の顔を見て気付く。
「おや、本当に来てくれたんだね。ありがとう」
「いえ全然! ただ私字が読めなくてメニューも何があるかよく分からないんですが……」
「うちに字が書ける客なんて来るもんかね!」
わはは! と豪快におばちゃんは笑いながら、私に水を差し出してくれる。
「安心しな、うちは定食セットしかないよ。銀貨1枚、銅貨80枚、銅貨50枚。それぞれ日によって中身が変わるね。今日は全部ワイルドチキンを使った料理だよ」
「じゃあ銅貨80枚の定食でお願いします」
「はいよ、5分ぐらい待ってておくれね」
そう言って厨房におばちゃんが入っていくのを見届けると、周りをチラッと確認してみた。
確かに肉体労働をしていそうなガタイの良い人や、武器を持った冒険者? の様な人が多い。
この世界は識字率があまり高くないみたいだ。
字が読めない事が目立つ訳ではなくて良かった。
ご飯が来るまでソワソワしていると、おばちゃんがプレートを運んできてくれる。
プレートにはパニーニの様なパンに、新鮮野菜とワイルドチキンとやらの香草焼きがしっかりと挟まれたホットサンドのような物と、オニオンスープのようなスープ皿とオレンジの様なフルーツが載っていた。
「しっかりお食べ」
「はい、ありがとうございます!」
プレートを受け取って、小さく頂きますと呟いてから、大きなホットサンドにかぶり付く。
パンが想像以上に噛みごたえがあったせいでなかなか噛みちぎれなかったけど、シャキシャキ野菜とチキンの香草焼きがマッチして、もうちょっと塩気が欲しい事以外はなかなか美味しい。
オニオンスープも塩気はないけど出汁がしっかり取られている為か、美味しく食べられた。
基本的に塩、胡椒、砂糖などの調味料が足りない分を香草で補っているんだと思う。
もっと味気ないかと思っていたので嬉しい誤算だ。
ごちそうさまでしたと小さく呟いてから、席を立ってレジに向かう。
おばちゃんがレジを担当してくれたため、銀貨1枚を渡して銅貨20枚を受け取った。
これで手持ちは銀貨84枚銅貨74枚になる。
「美味しかったです、また来ますね!」
「ありがとね! 部屋の掃除は終わってるからいつ戻っても大丈夫だよ!」
「はい、ありがとうございます!」
おばちゃんから許可を貰ったため、急ぎ足で部屋に戻りベッドに腰掛けると、商業ギルドで貰った目安表をクリップボードから外してベッドに置き、何も書いてないルーズリーフをクリップボードに挟んだ。
目安表に合わせて換金率を調べようと思う。
「まずは塩ね。品質不問、最低買取価格が1kgで銀貨30枚……え? 3万円もするの!?」
見間違いかと思ったがそんな事はなく、最低買取価格が1kgで銀貨30枚と私の字で書いてある。
サイバーモールには粗塩が1kg銅貨30枚で売られているのを考えると、塩の換金率は100倍になる。品質の分も考えたらもう少し上がりそうだ。
「次は胡椒ね。品質不問、最低買取価格が1kgで金貨4枚……40万円!? サイバーモール内では一番安いミル挽きタイプで銀貨3枚銅貨50枚か」
胡椒の換金率114倍になる。これで品質100だった日にはどれくらい儲かるのか恐ろしい。
少し震える手でルーズリーフに記入していく。
「んと、次が砂糖。品質不問、最低買取価格が1kgで金貨5枚……んん!? 1kgで50万!? え、サイバーモールで砂糖1kg銅貨30枚なんだけど……!」
砂糖は胡椒よりも高い時代が多かったとは聞いたことあるけど、換金率は驚異の1667倍だった。
私はすごい恵まれた時代と世界に生きていたのだなぁと実感するしかない。
砂糖を20kg売ったらもうすでに目標が達成出来てしまう。
でも砂糖だけ20kg売るより、何種類か分散して売った方がいい気がする。
他も調べてみたけど、葉巻は換金率22倍とあまり良くなく、品質80以上と品質が限定されている物の中で、買取額が金貨1枚を超える物はお酒しか見当たらず、この時代だと瓶とかじゃなくて樽だよなぁと思うと少し難易度が高く感じたため、今回は大人しく諦める事にした。
「塩、胡椒、砂糖をそれぞれ10kg売るかなぁ。最低買取額でも金貨94枚になるしね」
あとは品質でどれくらい上がるかによるけれど、目標の金貨100枚には届いているし、欲張りすぎる必要もないと思うことにした。
足りないと思ったら、別の街にある商業ギルドでも少し売れば良いんだから。
「買取してもらう物はこれで良し。後は住むのに適した良さげな土地探しと、そこまでの移動手段を探す事かな」
おばちゃんに教えてもらった様に、冒険者に話を聞くのが一番かなぁと考えていると、部屋の扉がノックされたので、思わず「はい!」と返事をしてしまう。
「入ってもいいかい?」
「あ、どうぞ!」
慌てて立ち上がって扉の鍵を開けると、そこには宿屋のおばちゃんが立っていて、ニコニコと笑っていた。
「あんた、まだ国の事とか調べてるのかい?」
「はい、今から冒険者の方に話を聞いてみようかと思って」
そう答えるとおばちゃんはうんうんと頷いてから、嬉しそうに話し出す。
「今うちの店に1年ぶりにこっちに帰って来た冒険者が寄ってくれたんだけど、あんたの事を話したら自分で良ければ話してみたいって言っててね! Aランク冒険者だし悪い子じゃないからどうかと思って聞きに来たんだよ」
「え! わざわざありがとうございます! 今からで大丈夫ですか?」
「構わないよ! 私は先に店に戻っとくから準備ができたらおいで」
おばちゃんはそれだけ言うと忙しそうに去って行った。忙しいのに私の事を気に留めてくれてたのはとても嬉しいし、有り難い。
すぐにアイテムボックスから地図を出して、クリップボードに新しいルーズリーフを用意して部屋から出る。もちろん鍵の確認はしっかりして、鍵はアイテムボックスにしまう。
気合を入れると再度食堂まで急ぎ足で歩き出した。