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第三十九話 豊穣祭1日目夜

「そろそろ一回テントに戻るか。暗くなってきたしな」



 バージルが皆にそう声を掛けると、皆も頷いてテントまで歩き出す。

 街の入り口に戻るように屋台を見て回っていたので、そんなに時間も掛からずにテントまで戻ってくる事が出来た。

 屋台を巡りながら色々と買い込んでいたので、アイテムボックスにはたくさんの食べ物も購入してあるし、晩御飯はこれだけあれば十分だと思う。

 ちょっとグレンが足りなさそうだったら、サイバーモールでお惣菜でも買おうかな。


 テントまでの道を皆でのんびりと歩いていると、メロディちゃんが不安そうな顔をしながら私の横に来て、そっと手を繋いで来た。

 きっと、さっきの話を聞いて不安になってしまったんだと思う。



「ねぇ、メロディちゃん。バージルに相談してみた方がいいんじゃないかな……?」

「うん……。メロも、よく分かんなくなっちゃったし、聞いてみる……」



 周りの騒音に掻き消されてしまいそうな、小さな声。不安だよね。自分の家族の事だもんね。

 街の外には、朝よりもテントが増えて、結構遠くまで人の姿が見えた。楽しそうにお酒を飲んでる人達や、ご飯を作っている人達の間を通りながら、自分達のテントに向かう。

 川が近い為か、人が集まっているところに比べると、少しだけ涼しく感じられる。


 人が多いため、LEDライトは使えないので、薄暗いテントの中に入ると、皆それぞれ腰を下ろしてくつろぎ始めた。

 バージルは、鎧を脱ぐと大きく伸びをして横になっているし、グレンも腰からマチェットを外すと、寝袋の上に置いた後に胡坐をかいて肩を回す。テオくんは疲れたのか、大きな欠伸をしながら寝袋の上に寝転がると、不思議そうにメロディちゃんを見つめている。

 不安そうなメロディちゃんも、入り口の近くに腰を下ろすと、意を決したように口を開いた。



「ねぇ、バージル兄ちゃん、グレン兄ちゃん、メロの話聞いてくれる……?」

「ん? いいぞ。どうかしたのか?」

「おう、どうした」

「あのね、さっきの精霊の話なんだけど……」



 そう言うと、メロディちゃんは私に話してくれた事と、同じ話をグレンとバージルにしていく。

 去年の秋にいきなり作物が全滅した事、春に蒔いた作物も全滅してしまった事、召喚士(サモナー)を呼んだ事。

 1つずつ、思い出すようにゆっくりと話しているメロディちゃんの事を、バージルもグレンも真剣な顔でしっかりと話しを聞いている。

 テオくんは思い出したくない事を思い出したせいか、唇を噛みしめてメロディちゃんの背中に隠れてしまう。



「まず、確認させてくれ。リヴァティ村で作物の収穫量が減ってしまったせいで、口減らしの為に奴隷商に売られる事になったと話していたが、それは間違いだって事でいいのか?」

「んと、作物の収穫量は減ってるのは本当だよ。メロの家が秋の収穫前に作物が全滅しちゃったから、余計に冬は大変だったの。パパは村全体で例年の2/3しか収穫出来なかったって言ってた」

「虫害や冷害って訳じゃねぇんだな?」

「うん、昨日まで元気だったのに、朝起きたら全部枯れてたの……」

「そんな事、普通に育ててたら起こるものか?」



 バージルの問いかけに、グレンは腕を組みながら首を傾げ、小さく唸っていた。



「気候の変動で一気に枯れる事は無ェとは言わねぇが……雪でも降ったって訳じゃねぇんだろ?」

「うん、雨は降ったけど、まだ秋になったばっかりで、雪なんて降ってなかったって見張りの人が言ってたよ」

「一個確認すっけど、森にドライアドが居るとか、やばそうな木を伐ったって話は聞いた事あっか?」

「ううん、森に居る精霊はノームとシルフだけって村長が言ってたの」

「ノームは地面に住んでっけど、元々畑なら荒らしたりしねぇしな……」



 メロディちゃんは、自分に分かる範囲で一生懸命質問に答えているけど、2人の質問に不安気な様子を強めていた。話を聞いてる私ですら、不安な気持ちになるから、小さい子はもっと不安になるんじゃないかな。

 そう思って、メロディちゃんの横に座り直して、強く握られていた手を開いて繋いだ。

 少しでも、気が楽になるといいんだけど。

 これくらいしか出来ないのが、とてももどかしい。


 バージルとグレンも、不思議そうに頻りに首を傾げている。



「俺は、メロが嘘吐いてるとは思ってねぇから、ちゃんと答えろな」

「うん」

「売られる時、親は何て言ってた?」



 グレンの言葉に、メロディちゃんは眉を顰めるけど、俯いて口を開けたり閉じたりを繰り返す。

 思い出したくない事を思い出させているのが分かっているけど、きっと何か大事な質問なんだろう。

 優しくメロディちゃんを抱き寄せると、メロディちゃんは1度私の目を見つめてから、ゆっくりと話し出した。



「借金が返せなくなったけど、メロとテオが貴族様のお屋敷に10年間勤めれば、借金が無くなるって……」

「うん」

「パパとママも、借金を返す為に新しい畑の開墾に向かうから、10年後に村で会おうって……」



 そこまで話したメロディちゃんは、次第に涙声になっていった。

 ぎゅうっと力強く私の服を握りしめて、肩を震わせている。



「だけど、馬車に乗って村から離れたら、”お前らは奴隷として売られたんだ、今からスレイドに移動する”って言われて、パパとママ、メロとテオの事が要らなくなったんだって……!」

「メロ、それは……パパとママも騙されてるんじゃないのか……?」

「え?」



 苦々しい声色で、眉を顰めながらバージルがそう呟くと、零れ落ちそうな程に目に涙を溜めたメロディちゃんが驚いたように顔を上げて、何度も瞬きをした。

 顔を歪めたグレンも、忌々しそうに頷く。



「んだな……俺もそう思うぞ。冷害でもねぇのに畑が一瞬で枯れるなんて、ノームやドライアドでもねぇなら、人為的だ」



 人為的だと言うグレンの言葉に、私は頭を横から殴られたような衝撃を受けた。

 どういう事なんだろう。そんな、嫌がらせみたいな事をするなんて信じられない。誰がそんな事をするんだろうか。怒りで頭がガンガンと痛む。

 メロディちゃんもテオくんも、バージルとグレンの言葉に固まってしまう。



「何が原因だ?」

「見てみねぇとなんとも言えねぇが、即効性があるのは塩じゃね? メロの家の畑がどこにあんのか分かんねぇけど、他の畑の収穫量が落ちたのも、雨で流れた塩が入り込んだ可能性があんな」

「奴隷商が組織的に動いてるって事か……」

「ああ。メロ、その召喚士(サモナー)ってのは、急に村に現れたんじゃねぇのか?」



 グレンの言葉に、メロディちゃんはゆっくりと1度だけ頷く。



「4日前から、村に泊まってた冒険者の人達が畑を見て”精霊が怒ってるけど、知り合いに召喚士(サモナー)が居るから鎮められる”って……。困ってるみたいだから、本当は金貨500枚するけど、今回は特別に金貨50枚でいいって……」

「冒険者? そいつらはどんな奴等だったか分かるか?」

「10人くらい居たけど、ずっと宿から出てこなかったからわかんない……。連絡するって言って、1日で召喚士(サモナー)が来たの」

「冒険者として宿に泊まってたなら、ギルドカードの提示はしてる筈だな……。分かった、少し伝手を当たってみよう」



 そう言うと、バージルはその場でアイテムボックスから、紙とペンを取り出して、手紙を2通用意する。何て書いているかは分からないけれど、その手が止まる事はない。

 グレンは大きな溜息を吐くと、何かを考えるように空中を睨んでいた。

 ふと、思い出したかの様に顔を上げたバージルは、メロディちゃんに視線を向ける。



「その召喚士(サモナー)は、何を連れてたか分かるか?」

「えっと、ユニコーンって言ってたのよ」

「その召喚士(サモナー)は、女だったのか?」

「ううん、男の人だったよ」

「それ本物のユニコーンなら、そいつ突き殺されて死んでんぞ……」



 グレンがそう呟くと、バージルは苦笑いをして、手紙を書く作業に戻った。

 ユニコーンって、角が生えてる白い馬だよね。日本に居た友達が、処女以外は殺されるとか言ってた気がするなぁ……。


 少しすると、手紙を魔導伝書鳩にくくり付けて飛ばすために、バージルが外に出て行く。

 手紙を飛ばすとすぐに戻って来たのか、寝袋の上に座り込んだ。



「今、ケイタとロジャーに知らせたから、調べて貰おう。大丈夫だ、ちゃんとパパとママを見つけてやるからな」

「パパとママ、メロとテオの事、要らなくなってない……?」

「ああ。騙されただけだ」



 その答えに、メロディちゃんは声を上げる事もなく、ただポロポロと大粒の涙を溢していく。

 テオくんも、不安そうな色は少し残っているけれど、涙を流してメロディちゃんの背中に抱き着いていた。

 きっと、親に嫌われて売られてしまったのだと、不安だったんだろうな。

 認めたくない気持ちと、諦める気持ちがごちゃごちゃになって、状況を伝える言葉がぐちゃぐちゃになってしまったのではないか。

 責めるつもりもないし、私には親に捨てられたと思う恐怖は分からないから、勝手な憶測でしかないけど。



「よか、った……パパとママ、メロの事……嫌いになって、ない……うっ、えええぇん……!」

「うん、うん。不安だったね。よく我慢したね」



 感情が堪えられなくなったのか、大きく身体を震わせ始めたメロディちゃんは、大きな声を上げながら私の胸に縋りついてくる。メロディちゃんの背中に縋りついていたテオくんも、声を上げずに大きく身体を揺らしていた。

 2人の気持ちを少しでも受け止めようと、私はきつく抱きしめる。


 メロディちゃんとテオくんが落ち着くまで、ずっと抱き締めていると、1日中歩き回った疲れもあったのか、泣き疲れてそのまま眠ってしまった。

 そっと寝袋に横たわらせて、寒くないように毛布をかけておく。


 人を騙してまで、奴隷として売ろうとするなんて、酷い。

 そこまでしないといけないくらい、切羽詰まってるのかも知れないけど、こんな汚い方法なんて許されない事じゃないんだろうか。

 前にジェラルドが言っていた、税金が払えなくて奴隷落ちをするって言うのは、奴隷の存在は許せないけど、ルールとしてあるのは受け入れる事が出来るけど、嘘の演技をしてまで誰かを奴隷にするのは許せそうになかった。


 それに、そんな事に手を貸す冒険者も信じられない。

 私が知ってる冒険者は、バージルとケイタさんしか居ないけど、そんなに悪い人が多いんだろうか。



「奴隷商と繋がってる冒険者なんて、居るのかな……」

「ああ……まぁ、十中八九あいつ等じゃねぇの……」

「ああ、”高貴な王国(ノーブル・キングダム)”か……」



 いきなり私達の事を罵倒してきた、貴族の冒険者。

 確かに、初対面の印象では、そんな事も平気でやってそうなイメージは沸いてしまう。第一印象って大事だなぁと、再確認する。



「悪い人でも、冒険者になれるの?」

「基本的に、悪い奴でもDランクまでにはなれるが、Cランクに上がるにはギルドマスターの承認が居るから、金持ち以外は性格に難があると、それ以上ランクは上げられないぞ」



 バージルがいうには、冒険者はFランクから始まって、少しずつランクを上げて行くらしいけど、ランクの上昇には必ず条件が設けられていて、その条件をクリアしなければ、例えFランクでドラゴンを倒しても、すぐにランクが上がる訳ではないとの事だった。



「規定で細かく決まってるんだ。説明しようか?」

「おお、俺も興味あんな」

「うん、教えてもらってもいい?」

「ああ」



 そう言うと、バージルは1つずつ説明をしてくれる。



「Fランクは見習い期間と呼ばれるな。Fランク冒険者3名以上による集団行動、若しくはDランク以上の先輩冒険者が同行して指導を受ける必要がある。近場の採取依頼と、Fランクモンスターのキラーラット、ビッグマーモット、ディグラビットの3種類のみ討伐依頼が受けられるんだ」

「討伐する魔物は、3匹しか駄目なの?」

「他のも倒してもいいが、見習い期間だから生存率を上げる為にそう決まっているな」

「結構しっかり決まってんだな」

「ああ。冒険者の数が大いに越した事は無いからな」



 確かに、魔物が居る世界だし戦える人が多い方が、皆も安心して暮らせるのかもしれない。

 しかも結構ルールが決められていて、生かす事を一番に考えているので、冒険者という職業も悪くないのではないか。そう思った。



「ランクアップにも決まりがあるんだよね? 前ドラゴン倒さなくちゃとか言ってたし……」

「Eランクへのランクアップは、3種類の魔物30匹以上の討伐と、50件以上のFランク依頼達成、それにギルド職員、若しくは先輩冒険者見守りの許でFランクモンスターのブラウンウルフ3匹の討伐が必要になる」

「他のランクもランクアップの条件は厳しいの?」



 私がそう尋ねると、バージルは目を細めてしっかりと頷いてくれる。



「ああ。DランクへはEランクの魔物30匹以上の討伐実績と、80件以上のEランク依頼達成だな。CランクへはDランクの魔物50匹以上の討伐実績と、100件以上のDランク依頼達成に加えて、人格なども考慮されるから各ギルド支部のマスターから推薦がいるな。Cランクからは指名依頼が解禁になるのと、ギルド発行の緊急依頼への参加の義務が発生してくる」

「人格とかも考慮されるんだね」

「まぁ、ギルド支部によっては寄付金が多ければ通ってしまうんだけどな……」

「意味ねぇじゃねぇか」



 バージルが苦い顔をしながらそこまで話した所で、1匹の鳩がテントの中に侵入してくる。

 足に手紙を括りつけられているのを見ると、魔導伝書鳩が返事を持って来たみたいだった。



「ケイタからだな……」



 手紙を受け取ったバージルは、静かに中を確認すると、手紙をグレンの手渡す。

 鳩は手紙を渡し終えると、光の粒になって跡形も無く消えてしまう。その事に驚いて、思わずじっとその場を見つめてしまった。

 グレンも手紙を見るけれど、私の目にはミミズがのたうった様にしか見えない文字が並んでいるだけなので、早々に読むことを諦める。



「クセ字過ぎんだろ……」

「あ、グレンでも読めないんだね……」



 ミミズがのたうった様な文字は、ケイタさんのクセ字だったらしい。

 グレンが読めないと判断したのか、苦笑いをしたバージルは口頭でも説明してくれる。



「3人、”フェイト”からこっちに戦闘員を送ってくれるらしいぞ」

「そんな大事な事書いてあるんだ」

「2週間後にプレミリューで待ち合わせらしい」

「そっか、メロディちゃんとテオくんのパパとママ、見付かるといいね」

「そうだな。すぐに見つけてやらないと、な」



 メロディちゃんとテオくんに毛布を掛け直しながら、バージルは優しい顔を見せた。

 早く、家族で暮らせるといいね。

 そう願いながら、タオルでそっとテオくんとメロディちゃんの目元を拭った。

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