第三十七話 豊穣祭1日目中編
「この辺なら、まだ混んでないし、パレードがしっかり見れるんじゃないか」
街の大通りを歩いて奥まで進んでいると、バージルが周りを見渡してそう言った。
前回泊った宿に近い場所で、Y字に分かれた道だ。宿を避けるように道が二つに分かれていて、大きくカーブして繋がっているらしい。
メロディちゃんとテオくんが遊びたいと言っていたアスレチックは、ここを右側に行ったところにあるとの事で、すぐに移動出来そうな場所なのもいいかもしれない。
道は大きく区切られていて、パレード用と、歩行者用になっている。
歩行者用には、屋台がずらっと並んでいて、色んな料理や、可愛らしいアクセサリー、服や鞄など色んな物が所狭しと並んでいた。
「パレードを見たら、後で屋台を見ながらアスレチックに行こうね」
「うん! ぼく楽しみ!」
「メロも! パレードずっと見てみたかったの!」
「村のお祭りはもっと規模が小さいのかな?」
「村のお祭りは、祭壇に作物やお肉を並べて、神様にお祈りするだけだったから、メロ、プレミリューのお祭り見てみたかったの!」
身体全体から興奮を隠しきれてないメロディちゃんが、そう教えてくれる。
やっぱり、大きな街と村では規模が違うんだろうなぁ
嬉しそうなメロディちゃんとテオくんに、私も思わず笑ってしまう。
グレンも、テオくんに「走るな」とか言ってるけど、ソワソワしているのか、耳がぴょこぴょこと揺れているのが可愛らしい。
空いてる最前列に並ぶと、楽しみで仕方ないのか、テオくんとメロディちゃんは何度もその場で跳ねていた。
私も、異世界のお祭りが楽しみで、さっきから何度もきょろきょろしてしまう。
絶対、お祭りの為に田舎から出てきました! みたいな雰囲気出ちゃってるよね。
アイテムボックスが無かったら、スリとかに目を付けられそうだ。
パレードを見るための場所についても、私はバージルの手が離せずにいた。
バージルも手を離すような素振りは見えないので、私の好きにさせてくれるんだろうか。
意識すると、手に神経が集中してしまう。手汗とかかいてないといいな……。
このまま、繋いでたいな。
凄く恥ずかしいけど、そう思ってしまった。
離したくなくて、繋いだ手に力が入ってしまうけど、バージルから振りほどかれる事はなく、更に強く握り返された。
「混んでくると後ろから押される事があるから、注意してくれ」
「そうなんだ。はぐれない様に気を付けようね」
「はーい!」
押されてもはぐれない為か……。
ちょっと残念だけど、手を繋いでくれるのは嬉しいから、このまま握っていよう。
そんな事を考えていると、人のざわめきが大きくなっていって、私達の後ろにもたくさんの人が並び始めた。
周りを見渡しても人だらけ。だけど、皆楽しそうに笑いながら、自分の家族や友達と話している。
「そろそろ始まるな」
兵舎に備え付けられた大時計を見ながらバージルがそう呟くと、大きな鐘の音が鳴り響いて、楽器の音が遠くの方から聞こえて来た。
それと共に、大きな歓声が沸き上がる。
「見えない!」
「もうちょっとしたら、こっちまで来るぞ」
街の入り口を見ながらテオくんがそう言うと、笑いながらバージルがテオくんの頭を撫でる。
気持ちが急いて、早く見たくなっちゃうよね。だから皆、入り口の方に固まってたんだろうなぁ。そう思いながら聞こえてくる音楽に耳を澄ませる。
ただ、人の歓声が大きい為か、途切れてしまうのが残念だけど。
軽快なリズムと共に、騎馬兵の先導で、少しずつ神輿が見えて来た。
神輿の上に居るのが、豊穣の神ソルランドを模した人だろうか。
見た目は30代前半くらいのエルフの男性が、神輿の上から手を振りながら花を投げている。
「あの人が、豊穣の神ソルランド?」
「ああ、神輿の一番高い所に居るのがそうだな」
「ソルランド役の人は、どういう基準で選ばれるんだろう?」
「プレミリューは去年の遠的の優勝者だった筈だな」
「そうなんだ。じゃああの人は弓の腕がいいんだね」
バージルの説明を聞いて、もう一度エルフの男性を見た。
赤色の髪の毛を、しっかりとアレンジして編み込みながら頭の上で纏めてある。編み込まれた髪の毛には、花が一緒に編み込まれているせいか、とても華やかだ。
中性的な魅力があるせいか、本当の神様に見えるから不思議だなぁ。
歩行者用の道では、投げられた花を拾って、恋人や家族の頭や胸に挿している人がたくさん居た。
何をしてるんだろうと観察してみると、花を挿された人も幸せそうに笑っている為、何か特別な意味があるのかな? と、推測する。
どんどん神輿が近づいてくるにつれて、音楽もしっかりと聞き取れるくらいになってきた。
先導している騎馬兵に、テオくんがはにかみながら手を振ると、騎馬兵の人も笑いながら手を振り返していて、あまりの可愛さに咽そうになる。
返してくれるのも優しい、手を振ろうと思ったテオくんも可愛い……!
先導する騎馬兵が通りすぎると、今度は楽器を演奏しながら騎馬兵が通り過ぎて行く。
その後から神輿がついてきて、籠を手に持って、中から花を掴んで皆に投げている。
私達の所にも花が飛んできたので、思わず手を広げると手の中に花が落ちて来たけど、上手くキャッチ出来ずに落としてしまいそうになった。
バージルが手を伸ばしてくれたので、地面に落ちる事はなく、バージルの手の中に、ライトブルーの可愛らしい花が乗っている。
「あ、バージル兄ちゃんは今年1年幸せになれるね!」
「うん? そうなの?」
「ソルランドの花を拾うと、1年幸せに過ごせるんだって!」
不思議そうな私に、メロディちゃんがそう教えてくれる。
言い伝えや伝承みたいな物なのかな?
だから皆拾ってたんだと思っていると、私の耳にバージルが花を挿してくれた。
「バージルが折角拾ったのに」
「俺はチエの手助けをしただけだ。それはチエの花だな」
バージルはそう言うと、花が挿された方の髪をかきあげて、そっと耳にかけてくれる。
優しい手付きに、胸が一気に苦しくなっているけど、バージルはそのままパレードに視線を戻した。ドキドキとうるさい心臓を押さえながら、不審者だと思われないように私もパレードに視線を移す。
パレードが通り過ぎるまで、自分の鼓動で音楽が聞こえなくなるくらい、挙動不審になってしまった。
祭りの始まりは、片側を通って最奥の祭壇に向かい、祭りが終わる時は反対の道を通って街の外に行くらしいので、通り過ぎてしまえば、始まりのパレードはおしまいになる。
人が動き始めたので、私達も流れに乗るように歩き始めた。
アスレチックは神輿が向かった方にあるとの事で、手を繋いで後を追うように歩いて行く。
少し歩くと、開けた場所につく。
「わ~! すごい!!」
メロディちゃんの声に、私は返事をする事も出来ずに上を見上げていた。
街の外からでも見えるくらい大きな木だったけど、近くで見ると更に凄い迫力だ。
自然魔法で大きく育った木の傍には、たくさんのカップルや親子連れが居て、木に取り付けられた滑り台やロープを繋げたアスレチックで楽しそうに遊んでいる。
色んな高さに何個も取り付けられたブランコに並ぶ家族や、枝に吊り下げられたロープを渡る子供達が居た。木の中には空洞があり、中には螺旋状の階段が見える。
木の一番高いところから伸びる滑り台は、結構な高さと長さがあるように見えるけど、滑っている人達はとても楽しそうだ。
手すりしかないから、バランスを崩したら落下する未来しか見えないけど、大丈夫なんだろうか……。
「すごいね……」
「でっけぇな……」
「久しぶりに見たが、前回よりも遊び場が多くなってるな」
「進化してってるんだ」
「ああ、前は滑り台は無かったな」
バージルも若干引き気味に、滑り台を見ていた。やっぱりあの高さは、普通どん引きするよね……。
逆にグレンとメロディちゃんは、楽しそうに滑り台を見上げている。
テオくんは少し怖いみたいで、バージルのマントを掴んで木の上から滑り降りてくる人達を眺めていた。
ここで遊ぶって、結構命がけな気がするんだけど……。
そう思って周りを見渡していると、ソウルイータースパイダーに噛まれた時に、冒険者ギルドでお世話になったエルフのお姉さんを中心に、人が集まっているのを見付けた。
武器を持ってる人達が多いので、冒険者なのかもしれない。
冒険者ギルドの人が、集まって何をしてるんだろう?
疑問に思ったので、バージルに聞いてみる事にした。
「ねぇ、バージル。あそこに集まってるのは冒険者の人達?」
「ん? ああ、そうだな。祭りの有志じゃないか? 回復職も多そうだし」
「って事は、怪我してもすぐに回復してもらえるのかな?」
「ああ。こういう所には怪我が付き物だしな」
怪我が付き物でいいんだろうか。安全対策とかしないのかな。
日本だと訴訟問題になりそうだけど、親すら気にした様子もなく、子供をアスレチックで遊ばせているし、大きな問題にならないのかもしれない。
「回復職って数が多いの?」
「どこまでを回復職と定義するかって話にもなってくるが、初級回復と状態異常回復が使える、っていう意味でなら結構数は多いぞ。俺も使えるしな」
「え? バージルも使えるの?」
「初級の回復職用の魔導書は数が出回ってるんだ。生存率を上げる為にな。俺が使えるのは、回復魔法はヘイトが取りやすいっていうのもあるな。一番最初に狙われるんだ」
バージルの言葉に、少し納得をする。私が敵でも回復出来る人が居たら、そっちから攻撃したいって思う。
生存率を上げる為に、魔導書がたくさん出回っているというなら、冒険者を目指す人も多そうだ。
魔導書を読めば誰でも使えるようになるんだったら、私も初級回復くらい覚えておいた方がいいかもしれない。
いつか役に立つときがくるかもしれないし。
そんなに強い敵と戦う事予定は今の所ないけど。
バージルの説明では、祭りで怪我をしてしまう人は何人も居るとの事で、街を拠点にしてる冒険者が有志で見回りや治療を行う事もあるという。
もちろん、冒険者ギルドも協力しているとの事で、あのエルフのお姉さんも一緒に居るんじゃないかとの事だった。
そう言えば、あのお姉さん、バージルの事デートに誘ってたな。好きなのかな……。
ムッチムチのセクシーな身体付きのお姉さんと、自分の貧相な身体を見比べる。
前にやってへこんだのに、もう一度やってもう一回へこんだ。
何をやってるんだろう。人と比べても仕方ないのにな。
自分にそう言い聞かせながら顔を上げると、眉を顰めたグレンが小さな声で呟いた。
「あいつ等は居ねぇんだな……」
「ああ”ノーブル・キングダム”の拠点は、オリーヴァー神聖国だしな」
私には誰の事か分からなかったけど、バージルはすぐに誰か思い当たったようで、グレンにそう答えていた。
プライド高そうだし、人の事見下してたから、有志で手伝いとかしなさそうだしね……。
ちょっとだけ失礼な事を考えながら、私は頷く。
祭りの帰りに、お店があれば魔導書を見てみようと心に誓っていると、メロディちゃんが私の服を掴んでゆすり始める。
何だろう? と、思って振り返ると、目を輝かせたメロディちゃんと視線が絡む。
「チエ姉ちゃん、滑り台で滑ってきてもいい?」
可愛らしい上目遣いで、メロディちゃんにそうお願いをされた。
滑り台、ちょっと怖いんだけど本当に大丈夫なんだろうか……。今の所、誰かが怪我をしていたりする事は無さそうだけど。
どうしようか悩んでるのが分かったのか、グレンがメロディちゃんの頭の上に手を乗せながら口を開く。
「俺も一緒に滑っからよ」
「うーん、グレンが一緒ならいいかな」
「チエは滑らなくていいのか?」
「あの高さはちょっと……ね」
「ぼくも、ちょっとだめ……」
バージルに苦笑いでそう返すと、バージルも苦笑いをしていた。バージルの陰に隠れてたテオくんも、すこしだけ顔を覗かせながらそう言うと、また素早く隠れてしまう。
テオくんは、梯子に登るのも駄目だったし、高い所が苦手なのかもしれない。
メロディちゃんは平気そうだから、お姉ちゃんに見つからないように隠れたのかな?
そう考えると、ちょっと微笑ましい気持ちになる。
「じゃあ、テオは向こうの遊具にでも行くか?」
バージルが指差した方には、小さな木が複雑に絡み合って出来たトンネルや、ジャングルジム、ブランコなどの遊具があって、小さな子供と家族が遊んでいた。
ジャングルジム以外は、全部子供でも足が付く高さにあるため、小さな子でも遊んでいる。
「うん! チエ姉ちゃんも一緒にいこ!」
「そうだね、一緒に行こうかな」
自分からバージルの手を握ったテオくんは、そう言って私にも手を伸ばしてくれた。
その事が嬉しくて、思わず顔が綻ぶ。
3人で手を繋いでゆっくりと遊具に向かう。
広い為か特に順番待ちも無く、テオくんはすぐにブランコに乗って遊び始める。
テオくんが落ちないようにか、バージルはテオくんの後ろに回ってゆっくり背中を押していた。
楽しそうにしている2人を、私は少し離れた所から見つめている。
落ちないように、痛くないように、手加減をしながらテオくんと遊んでいるのを見ていると、自分が子供の頃を思い出す。
お父さんもああやって、私と遊んでくれたなぁ。
ヘレトピアに来てから、家族を思い出す事が悲しい時以外でも増えた事に、自分でも驚いている。
「チエ姉ちゃーん!」
遠くから名前を呼ばれた気がしたので振り返ると、滑り台の上でグレンとメロディちゃんが順番を待っていた。一生懸命手を振っているメロディちゃんに、私も大きく手を振り返す。
すぐに順番が来たのか、先にメロディちゃんが滑り台に座ると、その後ろからメロディちゃんを抱えるようにグレンも座る。メロディちゃんが落ちないようにするためか、しっかり抱えているのが遠目でも分かった。
グレンがお尻で這うように前進すると、そのまま一気に滑り出した。結構な勢いで滑っていく2人を、私はハラハラしながら見つめる。
結構な速度が出ているし、カーブも多い。けれど、しっかりと設計されているのか、滑り台から落ちる事も無く、2人は滑りきって砂場に突っ込んでいった。
確かに、砂なら柔らかいけど、今顔から突っ込んだよね……。大丈夫なんだろうか……。
心配になって駆け寄ると、グレンもメロディちゃんも爆笑しながら立ち上がる。
砂まみれだけど怪我は無さそうだし、凄く楽しそうだ。安心して私も笑みを浮かべた。
「楽しかったぁ! メロ、あんな滑り台初めて!」
「すっげぇな! あんな速く落ちるとは思わなかったわ!」
「大丈夫? 怪我してない?」
「うん! 大丈夫だよ!」
「おう、怪我はねぇぞ」
メロディちゃんの顔に付いた砂をタオルで払っていると、テオくんと手を繋いだバージルもこっちにやってくる。ブランコで満足したのか、テオくんも楽しそうに顔を綻ばせていた。
バージルは私達が居る所までやってくると、周りを見ながら皆に声を掛ける。
「混む前に、昼食にするか?」
「そうだね。混んでからだと大変そうだし」
「メロもお腹すいた!」
「ぼくも!」
「んじゃ行くか、はぐれんなよ」
グレンはそう言うと、テオくんとメロディちゃんと手を繋いだ。
その後、バージルの耳元に口を近付けて、何かを喋っている。
不思議に思いながらその光景を見ていると、変な顔になったバージルが軽くグレンの肩を殴った。
気にした様子もないグレンは、笑いながら先に歩き出してしまう。
「え? どうしたの?」
「なんでもない。ほら、チエも行こう」
バージルから差し出された手。
自分から握るのは少し恥ずかしいけれど、はぐれない為だから! と、言い訳をして、その手をそっと握る。
手を繋いだ私を見て微笑んだバージルに、一気に顔が赤くなるけど、手を離す事もなくそのままグレンの後を2人で追いかけた。




