第三十五話 豊穣祭に向かう後編
「今の所、これと言って何かの気配も感じねぇな」
完全に陽が沈んでから2時間。
焚火とLEDランプの明かりしかない中で、仮眠から目覚めたバージルと、今から仮眠に入るグレンが話し合っているのを眺めていると、バージルが大きな欠伸をする。
中途半端に寝ると余計眠くなる事があるよね。だけど慣れてるって言ってたし、大丈夫なのかな?
少し心配になるけど、私が見張りをしている方が心配でバージルもグレンも休め無さそうだ。
「大あくびだな」
「すまん。見張りを変わる。何かあれば、チエと子供達の避難を優先してくれ」
「おう。んじゃ頼むわ」
「ああ、おやすみ」
「バージル兄ちゃん、おやすみなさい!」
「見張りありがとう!」
グレンに抱えられてテントに向かうメロちゃんとテオくんは、楽しそうにキャッキャとはしゃいでいる。外泊は初めてだと言ってたから、きっと楽しいんだろうな。
興奮して寝付けないとかだと、少し困っちゃうけど。あの2人なら大丈夫だと思う。
そう思いながら、伸びをしているバージルに近付いた私は、後ろから声を掛ける。
「バージル、お汁粉そこのお鍋にあるから、お腹減ったら焚火で温めてね」
「ああ、ありがとな」
振り返ったバージルは、少し眠たそうだけど、微笑みながらそう返してくれた。
少しすれば眠気も覚めるのかな? あんまり眠そうなところ見た事が無かったから、そういう部分を見せてくれるのが、少しだけ嬉しく思う。少しじゃないかな、物凄く、かも。
ちょいちょいと、手招きをされたので、何だろうと思いながら近づいて行くと、横に座るようジェスチャーされたので、不思議に思いながらもバージルの隣に腰掛ける。
「まだ少し寝る時間には早いだろ? 少し話さないか?」
「あ、うん! 話したい!」
「そうか、良かった。チエは、ここでの生活に慣れてきたみたいだな」
「どうだろう? まだ知識も少ないけど、少しは慣れてきたかな?」
「ああ。毎日、早起きも出来るし、畑も欠かさず世話をしてる。手が、働いてる手だ」
バージルにそう言われて、自分の手を見つめた。やっぱ手荒れしてるのバレてたなぁ……。
少しショックを受けていると、不思議そうな顔をしたバージルが首を傾げている。
「俺はその手、好きだぞ」
「え? でも、カサカサだし、傷もあるし……」
「ちゃんと頑張らないとそういう手にはならないだろ?」
その言葉に、もう一度自分の手を見つめた。
鍬を振るうから、手に肉刺が出来てきたので、手のひらは少し硬い。
動物を触るから、お互いに怪我をしないように爪も伸ばさないし、マニキュアもしてない手。
ハンドクリームは塗ってるけど、爪の近くはささくれが目立つし、あかぎれも出来ているせいで、水仕事をすると痛む。
でも、これが働いてる手なんだ。
日本に居た時は、手入れをしてたのもあるけど、ここまでカサカサはしてなかったな。前の私の手も、紙を触りすぎたせいで指先が乾燥したとか、紙で指を切るとか、事務で働いてる手だったけど、これは肉体労働って感じがする。
土いじりなんて、日本じゃしなかったしなぁ。
カサカサしてて嫌だったけど、この手が、好きなんだ。
そう思うと、嫌だなと思う気持ちが薄れて、誇らしくなってくるから不思議だよね。
「何か、さ」
「うん? どうした?」
「バージルがそう言ってくれたら、自分の手を好きになれる気がする」
お尻がムズムズするような、そんな気恥ずかしさを感じながら、私は小さな声でそう呟いた。
静かな夜には、小さな声でもしっかりと聞こえたようで、バージルは目を細めて頷くと、空を見上げる。何か考えているのか、喋る素振りを見せないバージルに、私も口を閉じて空を見上げた。
ここに見える星のどこかに、地球があるんだろうか。それとも、別の太陽系惑星なのかな?
「チエは、すごいな」
「え? 何かしたっけ?」
「前向きで、いつも頑張ってるからな」
「1人じゃないからだよ」
私1人だったら、きっと泣いて過ごしてただけな気がする。
あの時、女将さんがバージルを紹介してくれなかったら、私はどこで何をしていたんだろう。全く想像が付かないけど、きっとスキルの事誰かにバレたりして危ない目に遭ってそうだなぁ。
それだけは、簡単に予想出来てしまった。
星から目を逸らしてバージルの方を振り向くと、バージルも私を見つめている。
視線が絡むと、痛みを感じるくらいに胸が高鳴った。
焚火に照らされたバージルの髪がオレンジ色に染まっていて、優し気な微笑みを浮かべる顔に、更にドキッとする。私は、無意識に止まってしまった息を、ゆっくりと吐き出すしか出来ない。
心臓が脈打つ度に、甘い痺れが全身を駆け巡っていく。
イケメンは、罪深いなぁ。
見つめあうだけで、まるで自分が特別な人間にでもなったような気分になってしまう。
「俺も、その中に居るか?」
「うん?」
「チエの”1人じゃないから”の中に、俺が居ると嬉しい」
「居るよ。バージルが居たから、頑張ってここまで来れたんだし」
「そうか、ありがとな。でも、頑張ってるのはチエ自身だから、もっと自信持っていいんだぞ」
「最近、前より自分の事、好きだよ」
そう言って、私の頭を撫でるバージルに、微笑みを返した。
これも、異世界に来た副産物なのかな? 日本に居た時よりも、ずっと自分の事を好きになっていた。
明日は何しようとか、こういう事をしてみたいとか、気持ちがどんどん膨らんでくる。食べる物の心配を、今の所しなくても生きていけるっていうのが、凄く大きい気もするけど。
悪い人も居るけど、目の前で見た悪い人ってオリーヴァー教の人ぐらいだしなぁ。危機感がないって言われそうだけど、この生活はとても気に入っているし、不満もない。
家族みたいな皆も居るし、ご飯を美味しいって食べてくれる。
それだけで、ちょっとした自信に繋がるから、不思議だよね。
「バージル、あのね」
そこまで話した所で、ガサガサと足音が近くで聞こえた。
ビクッとして身を竦ませた私と対照的に、バージルはすぐに剣と盾を構えて私の前に立つ。
バージルの背中越しに、目を凝らして暗闇の中を見つめていると、遠くの方に動物のような影が何匹かうっすらと見えたけれど、こちらに近付いてくる事もなく、何かを囲んでいるようにも見える。
バージルも不思議に思ったのか、覗き込むように影を見ていた。
「あれ、何だろう?」
「分からないな……。チエ、グレンを起こしてくれるか? 静かにな」
「うん」
忍び足でテントに戻って、眠っているグレンの横にしゃがみ込む。
寝つきが良いのか、メロディちゃんとテオくんに腕枕をしながら眠っているグレン。申し訳ないと思いながらも、そっと肩を揺する。
「グレン、グレン起きて。何か居る」
「あん? チエはここに居ろ。確認してくっから」
すぐに目を覚ましたグレンは、頭の上に置いてあったマチェットを手に取ると、2人を起こさないようにゆっくりと身体を起こした。
意識はしっかりとしているようで、私にここに残るように伝えると、テントの外へと出て行く。
私も気になって、テントの隙間から顔を出して覗いていると、バージルとグレンはジェスチャーだけで、言葉を発する事もなく、意志の疎通をしていた。
バージルが顎でしゃくるように、影を指すと、グレンは大きな身体を少し丸めて、影を見ようとしている。
あの影、なんなんだろう? 今まで近くに居た事全然気付かなかったけど。
「ブルーウルフ、か?」
とても小さなグレンの呟きが、私の耳に入った。
ウルフって、狼?
それに気付いた途端、背筋が寒くなる。居る事に気付かなかった。もしかしたら襲われてたかもしれない。
さっとテントの中に身を引いて隠れるけれど、狼って鼻がいいんじゃないのかな。
じゃあ隠れても無意味? どうしよう。
だけど、ウルフはいつまで経っても襲ってくる気配はなく、ずっと何かを囲って唸り声をあげているだけで、全員首を傾げた。
「あいつ等、こっちに気付いてねぇのか?」
「狙いを定めたら20km以上も追いかけてくる魔物がか? そんな馬鹿な」
「じゃあ、何か追ってここまで来たんじゃねぇのか? 普通こんな平地に居ねぇだろ?」
「ああ、そうだろうな。囲まれてるのは、獲物か……」
「ただ、食うにしちゃ数の割りに小さそうだから、こっちに来るかもしんねぇ」
そういうと、グレンとバージルは頷きあって、グレンがテントに戻ってくる。
私の目線に合わせてしゃがみ込んだグレンは、テントのすぐ裏の木を指差した。
「チエ、梯子出してくれ」
「分かった!」
アイテムボックスから梯子を取り出していると、グレンはそのままメロディちゃんとテオくんに近付いていく。手には2人の靴をしっかりと持っていた。
「メロ、テオ、起きろ」
「ん~? なぁに……」
「ウルフが居る。木の上に逃げんぞ」
「ウルフ!?」
「静かに」
びっくりして跳び起きたテオくんの口を塞ぎながら、グレンはテオくんに靴を履かせる。
メロディちゃんは自分で靴を履いて、怯えたように私の傍まで這い寄って来た。
「チエ姉ちゃん……」
「大丈夫、バージルが外に居るからね。静かに木に登ろう?」
「うん……」
「大丈夫だよ、一緒に行こうね」
私も震える程怖いけど、子供達を怖がらせないように、精一杯の笑みを浮かべる。
ここで私まで取り乱したら、逃げれなくなっちゃう。
テオくんを抱えたグレンが、アイテムボックスから取り出した梯子を肩にかけると、ジェスチャーをしながらテントの裏まで誘導してくれた。
音を立てないように注意して梯子を立て掛けると、私に先にあがるようジェスチャーをする。
子供達が先に登って落ちたら危ないもんね。
大きな音が鳴りませんように……。
そう祈りながら、1段ずつ梯子を上っていく。少し軋む音はしたけど、大きく鳴る事はなくて、枝に跨って一息吐いた。すぐにメロディちゃんが登ってきて、最後にテオくんが梯子に足を掛ける。
けれど怖くなってしまったのか、途中でテオくんの足が止まってしまった。
「お姉ちゃん、チエ姉ちゃん……」
「テオ、大丈夫だから上がってきて」
「テオくん、大丈夫だよ。ゆっくりでいいから上がってこれる?」
「出来ないよ……」
「大丈夫、グレンとバージルが居るから、ここまで来ないよ」
梯子に掴まったまま、震えて泣いてしまうテオくん。
それを見ていたグレンは、梯子に足を掛けると、テオくんを肩に担いで枝まで登って来た。
落ちないように慌てて手を伸ばすと、テオくんは震えながら私にしがみ付いてくる。一生懸命に声を出さないよう震えているのを見て、守らなくちゃと強く思い、きつく抱きしめた。
「いいって言うまで降りるんじゃねぇぞ」
「うん、気を付けてね」
梯子から飛び降りて地面に着地したグレンは、そのまま足音を立てずにバージルの方へ向かう。
光源から離れてしまったので、ウルフは木の上からでは様子が伺えない。
梯子をアイテムボックスに回収して、テオくんを右手で抱えて、左手でメロディちゃんを引き寄せる。恐怖からか、寒さからか、2人の身体は小刻みに揺れていた。
「ウルフは森や森の近くにしか出ないのに……なんでこんなところに」
「何かを囲んでるように見えたけど……。メロディちゃん、テオくん、寒くない?」
「ちょっと寒い」
「ぼくも、寒い」
その言葉に、私はトゥインドルで買ったマントと、子供用に上着をアイテムボックスから取り出しすと、上着を羽織ってもらい、その上からマントで包み込んだ。
見た目が不格好だけど、風邪をひいてしまうより全然いいよね。
春でも夜は冷えるから、このまま木の上に居ると子供は風邪をひいてしまいそう。
木の上から見守っていると、グレンとバージルは何度か会話をした後に武器を構えた。
こちらに来る前に倒してしまう事にしたらしい。
武器を構えた2人が走っていくと、ウルフの居る方から聞こえる唸り声が大きくなったのが分かる。
きっと、2人を威嚇しているんだ。
シルエットが朧気に見えるくらいの位置で始まった戦闘。
狼の数が、ざっと見ただけで10匹は超えてそうだ。大丈夫だろうか。
少し心配になってしまう私の服を、メロディちゃんとテオくんも握りしめている。
この子達もきっと心配してるんだろうな。私がもっとしっかりしなくちゃ。
「おい、バージル! あれ!!」
「は? 何でこんなところに……幻覚か?」
「いいから! 助けんぞ!」
さっきまで息を潜めていたとは思えない程の、大きな声が聞こえた。
グレンの声だ。何を助けるんだろう?
囲まれてたのが、グレンの知ってる人だったのかもしれない。でも、バージルが今幻覚って言ってなかった? どういう事だろう?
そう思うと、見えないのがもどかしくなる。
少しでも見えないかと、色んな角度から目を凝らしてみるけれど、やっぱり何が居るかまでは分からなかった。
「てめぇ等! これは獣人の祀り神だぞ! 餌じゃねぇ!!」
「祀ってるなら”これ”は駄目じゃないのか?」
大きな声で狼を怒鳴りつけるグレンに、苦笑いをしているようなバージルの声。
確かに、神様として祀ってるなら”これ”は駄目だよねぇ。
面白くなって、少し笑ってしまう。
「キャン!!」
「おら! てめぇで最後、っだ!!」
ガン!っと、大きな音と一緒に、狼の悲鳴が聞こえた。
グレンの武器って、マチェットだよね? あんな打撲音みたいな音するのかな……。
不思議に思いながらも、様子を伺っていると、グレンが何かを抱えて走って来た。
腕には、何か毛の生えたもの。ウルフの子供? だったら倒しちゃ駄目だよね?
「チエ! 怪我治してやってくれ!」
「え、うん! ちょっと待ってね! 降りるから!」
慌てて梯子を出して、立て掛ける。
後ろを追いかけて来たバージルが、梯子を支えてくれたので、メロディちゃんから降りてもらう。
テオくんは1人では降りれなかったので、バージルが抱えて降りる事になった。
最後に私が降りて、梯子をアイテムボックスに戻すと、グレンに駆け寄る。
グレンの腕の中には、右耳が片方噛まれたのか欠けてしまっている、額に燃え上がるような色の宝石のついた、猫の様な、犬の様な生き物が抱えられていた。
「この子は……?」
「カーバンクル。獣人が信仰する神獣だ」
「カーバンクルって伝説の生き物じゃないんだ……メロ、初めて見た」
私の質問に、バージルがそう答えてくれる。
怯えているのか、小さく震えているカーバンクルは、グレンの腕に噛みついていた。威嚇してるのかもしれない。噛まれた所から血が出ているのに、噛まれてるグレンは一切気にした様子はない。
全員でテントに戻って、カーバンクルをテントの中に降ろすと、敵意が無いと分かったのか、カーバンクルは所在無さげにウロウロとしていた。
近寄っても威嚇もせず、グレンに申し訳なさそうな視線を向けている。
メロディちゃんはカーバンクルに興味津々で、私の後ろに隠れながらじっとカーバンクルを見ていた。テオくんは眠気に負けてしまったので、上着を脱いで横になっている。
「俺も、結構長く冒険者をやっているが、本物のカーバンクルは初めて見たな……」
「バージル兄ちゃんでも初めてなんだ」
「でも、存在は知ってはいるんだね?」
「獣人が信仰しているから、色んなところに像が祀られてるんだ」
「そうなんだ。でも私、動物とかの怪我は治した事ないから、本当に応急手当だけだからね?」
「ああ、構わねぇ。可哀想に」
ムスっとした顔でカーバンクルを見るグレン。
でも、そんな顔をしてるとカーバンクルが委縮してしまうのでは。そう思ってカーバンクルを見ると、やっぱりグレンが怒っていると思ったのか、申し訳無さそうな顔をしてお座りをしてしまっていた。
「グレン、怖い顔をしてるから、カーバンクルが怯えてるよ」
「ああ? ああ、別におめぇに怒ってる訳じゃねぇ」
グレンがそう声を掛けても、カーバンクルはしゅんとして座り込んでいる。
魔物? 神獣? どっちだか分からないけど、魔物に人間と同じ物使ったら駄目そうだよね。
サイバーモールを開いて、ペットカテゴリーから何か使える物が無いか見ていると、戦闘用ペット治療セットと書かれた救急箱を見付けたので、包帯と一緒に購入する。
怖がらせないようにと思って、膝で歩きながら近づくけれど、逃げるような事はない。
大人しくその場に座ったまま、私を見上げるカーバンクル。
「ごめんね、怪我の手当させてね」
「キュウ……」
言葉が通じてるのか、カーバンクルは自分の頭を私の方に差し出してきた。
救急箱から消毒薬とガーゼを取り出して、傷口にそっと当てる。痛みがあるのか、大きく身体を跳ねさせたけど、噛んだりする事なく手当をさせてくれるカーバンクル。
カーバンクルの首に、キラリと光るものが見えたので、なんだろうとよく見ると細いネックレスがついていた。誰かに付けてもらったのかな。
野生の子だと包帯巻いたら困るかと思ったけど、誰か面倒を見てくれてるなら包帯は外してくれる筈なので、遠慮なく頭から耳にかけて包帯を巻いていった。
「はい、出来たよ。我慢してくれてありがとね」
「キュウ!」
怪我の手当が終わると、カーバンクルは嬉しそうに声を上げてテントの外に走っていく。
「おい! 危ねぇぞ!」
グレンが声を掛けると、一瞬立ち上がってその場で何度か跳ねる。もう大丈夫だよっていうアピールなのかな。
言葉を発しないので、目的が分からず首を傾げる私達を、じっと数秒見つめたカーバンクルは、そのまま夜の闇に溶けて見えなくなってしまった。
あまりに一瞬の出来事に、思わず私も追いかけるのを忘れてしまう。
誰かが世話をしてて、そこに帰るなら引き留めても可哀想だ。
グレンもぽかんとした顔で、カーバンクルの向かった先を見ている。何も見えないけど。
「行っちゃった……。メロ、触ってみたかったな……」
「そうだね、ちょっと興味あるね。ねぇグレン。獣人は、カーバンクルを信仰してるんだね」
何と声を掛けていいのか分からず、私が無難な言葉を口にすると、意識が戻ったのか、グレンも頷いてくれた。
「額の宝石は色んな種類があんだけど、カーバンクルの額の宝石を手に入れると富と名声が手に入んだとよ」
「え、あの宝石取れるの?」
「つうか、気に入ったら自分から寄越らしい。んだけど、今まで見た事ある奴なんて、そうそう居ねぇだろうから、ただの伝承だろうな」
確かに、あの燃えるような煌めきの宝石は、すごく綺麗だったな。
でも、やっぱり急いでたみたいだし、誰かに世話されてるのかも。宝石が取られないようにしてるかもしてない。
「そっか。でも助けてあげれて良かった」
「んだな。もう時間だし、見張り変わるわ」
「全然寝れてないけど大丈夫か?」
「おう」
また、バージルとグレンは引継ぎをして、見張りを交代する。
メロディちゃんは、カーバンクルに触れなかったのがショックだった様で、しょんぼりしながら布団に戻っていく。
カーバンクルを崇めたかったのかな……。ちょっとグレンに元気がない。
けれど、明日は豊穣祭だし、きっと街についたら元気になるよね。
引継ぎを終えたバージルは、テントの中で横になると、自分の横をぽんぽんと叩いて私を呼ぶ。
ちょっと、意地悪をするときの様な顔をしてるのが気になるな。
そう思っているとバージルは言い笑顔を浮かべて、口を開いた。
「ほら、チエおいで」
「い、行けるわけないでしょ!」
真っ赤になった私がそう否定すると、バージルは目を細めて嬉しそうに笑う。
心臓の鼓動が早い。ちょっとからかわれただけなのに。恥ずかしい!
頭まで布団を被って目を瞑りながら、私は一心不乱に羊を数え続けるしかなかった。
本当のカーバンクルは赤い宝石(加工したガーネットやルビーをカーバンクルと呼ぶ)以外はついてないらしいですが、色んな種類がいる設定にしてあります。




