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第三十話 収穫した物を食べる!中編

「チエ姉ちゃん、このイチゴは何に使おう?」



 サイバーモールで色々購入した後に商品を仕分けて冷蔵庫に入れたりしていると、後ろからメロディちゃんにそう尋ねられた。

 振り向くと、真っ赤なイチゴを持ったメロディちゃんが、困った顔をして立っている。

 イチゴかぁ。パーティーをするみたいだから、ショートケーキでも作ろうかな?

 ケーキがあるとパーティーっぽいよね。多分……。


 そう考えながら、メロディちゃんからイチゴを受け取る。

 受け取ったイチゴを水で洗って、そのままかぶりついてみた。

 噛んだ瞬間、中からじゅわっと果汁が広がって、鼻に爽やかなイチゴの香りが広がる。したたり落ちる程の果汁に、酸味よりも甘味の方が強くて大振りなイチゴ。これ買ったら高そうだなぁ。

 でも、日本で食べた時より甘味が強いし、大きさも大きい気がする。

 もう1粒イチゴを洗って、メロディちゃんにも手渡してみると、メロディちゃんは恐る恐るといった感じで口に含んだ。ヘレトピアのイチゴは酸っぱいらしいからね……。

 けれど、イチゴを噛む瞬間に閉じられていた目は、少しずつ開いていって最終的には見開かれた。

 うんうん、その顔は美味しかったんだね! 良かった!

 メロディちゃんの可愛らしい反応に気分が良くなって、思わずにまにまとしてしまうのが堪えられない。



「メロ、こんなに美味しいイチゴ、初めて……!」

「うん、美味しいよね。これでケーキでも作ろっか」

「ケーキ!? すごい、メロ食べた事ないよ!」



 パーティーと言われても、私の頭の中には誕生日パーティーのような、ケーキや揚げ物なんかが並ぶメニューしか思い浮かばないんだけど。普段はパーティーって何を食べてるんだろう?

 スポンジが上手に焼けるといいな、と思いながらも、嬉しそうなメロディちゃんに笑みがこぼれる。

 これから、いっぱい楽しい思い出を作っていってほしいな。



「じゃあ、バージルとジェラルドが帰ってくるまで、ケーキと唐揚げを2人で作ろうね」

「うん!」



 まずはスポンジと唐揚げの材料を用意しないとなぁ。

 そう思って、卵を冷蔵庫から取り出して常温に戻しておく。

 さっき調味料は大体補充したので、足りない物を買って行こうとサイバーモールを開いた。

 生クリーム、バニラエッセンス、鶏もも肉を購入して、袋から取り出す。卵が常温に戻るまで、先に唐揚げの下準備をしていこうかな。


 人数が多いし、男の人も多いから唐揚げは人気だろうなぁ。たくさん揚げた方がいいかも。

 余ったら油淋鶏に流用出来るし、いっぱい作ろう! 10kgの鶏肉を前に、自分を奮い立たせる。


 ジッパー付き保存袋を何袋か用意して、口を裏返して安定して立たせた。

 その中に、醤油、酒、みりん、すりおろし生姜、すりおろしニンニクを入れておく。保存袋は密閉出来るからボウルで作るよりタレが少なく済むのがいい。

 同じ味ばっかりだと飽きるかなと思ったので、塩、ブラックペッパー、ごま油、すりおろし生姜、醤油、酒、レモン汁を混ぜて塩ダレを作った後に、白味噌、みりん、すりおろし生姜、すりおろしニンニクを混ぜて少し甘目の味噌ダレレも作っておく。

 多分、味噌ダレは子供でも食べやすいから好きなんじゃないかな。

 塩ダレは後で皮唐揚げを作る時にも使うので、余分にもう1袋分作って刻んだネギを入れて封を閉めておいた。ネギの風味が沁み出るのを待つ為だ。

 キッチンの一角に、保存袋に入った唐揚げのタレがたくさん並んでいた。1袋ずつでは10kgは対応できないので何袋も作ったせいだけど。

 でも、これだけあれば皆のお腹も膨れる筈!


 さて、やっとお肉が切れる! そう思ったので、メロディちゃんに声を掛けた。



「私お肉切っていくから、メロディちゃんはお肉の皮を取ってもらっていいかな?」

「うん! メロ皮はがすね!」



 取った皮は置いておく。今日作っても全部食べなくてもいいしね。アイテムボックス様様だよね。


 メロディちゃんに皮を取ってもらった鶏肉を、大きめ1口大に切っていく。

 特に味噌ダレは焦げやすいので、大きさや厚みがなるべく同じになるように注意した。

 切ったお肉は次々と保存袋に入れていって、ある程度のところで空気を抜いて密閉した後、トレーの上で横向きに寝かせて、どんどん積み重ねて行く。これならタレが漏れても汚れない。

 1つのトレーでは足りなかったので、何個か用意することになったけど、袋を乗せたトレーは全部冷蔵庫に入れて2時間寝かせる。薄味がいいなら1時間だし、時短がしたいならフォークで刺したり表面に切り込みを入れれば30分くらいでいいけど。今回は時間もあるのでそのまま寝かせた。

 鳥の皮は縮む(というか支えがないと丸まる)ので、1/4ずつくらいに切って塩ダレにつけてこれも冷蔵庫に入れておく。ホルモン揚げとかもお酒のおつまみによく合うので作る事があるし、塩ダレは万能だなぁ。



「チエ姉ちゃん、次は何をしたらいい?」

「そうだねぇ、洗い物をしてからケーキのスポンジを焼いていこっか」

「はーい! メロもお皿洗いするね!」



 洗い物が終わったら、ボウルが入るくらいの大きなお鍋でお湯を沸かして、ケーキ型にオーブンシートを敷いておく。オーブンを170℃で予熱しておく。

 卵を全部ボウルに割り入れて、メロディちゃんにハンドミキサーで軽くかき混ぜて貰う



「どれくらい混ぜたらいいの?」

「大まかに黄身と白身が混ざり合うくらいでいいよ。まだ混ぜるから綺麗に混ざってなくても大丈夫だよ」

「はーい!」



 その後、沸かしておいたお湯を42℃で保ちながら、卵の入ったボウルに砂糖を入れて、お湯で湯煎しながらハンドミキサーの高速で混ぜ合わせる。この時ゆっくりしてたり温度が上がってしまうと、卵が固まってしまう事があるので注意しないといけない。

 ハンドミキサーで何分か混ぜているともったりしてくるので、もったりしてきたら低速でキメを整える。キメが整ったら、ハンドミキサーから木べらに持ち替える。



「これがケーキになるの?」

「ここに小麦粉を入れていくんだよ」



 ここに、ふるいにかけながら小麦粉を入れていく。ダマにならないようにのの字を描くようにかき混ぜながら、左手でボールを回していくと綺麗に混ぜる事が出来るので、2人で分担する事にした。



「じゃあ、私が小麦粉をふるうからメロディちゃんには混ぜてもらおうかな!」

「分かった! メロ頑張るね!」



 メロディちゃんでは手が小さい為、木べらでかき混ぜるので精いっぱいだったので、ボウルを回すのは私が少しだけ手伝ったけど、綺麗に混ぜる事が出来たのでホッとする。

 失敗して、お菓子作りが嫌いになっちゃったら可哀想だもんね。


 最後に、温めた牛乳にバニラエッセンスをちょっと足して、生地に入れて軽くかき混ぜればタネは完成。

 オーブンシートを敷いた型に生地を流し込んで、数回ちょっとした高さから落として大きな気泡を抜く。これをしないと焼けた後に、気泡があった部分がへこんで形が崩れてしまう。

 余熱してある170℃のオーブンで30分~40分、様子を見ながら生地を焼いて行く。

 竹串を刺して、串に何もくっついてこなければしっかり焼けている証拠だ。


 今はまだ焼けていないので、先に洗い物をしてしまう。この後生クリームを泡立てるので、ハンドミキサーはしっかりと洗ってキッチンペーパーで水気を拭き取った。

 生クリームは簡単だよね。書いてある通りに作ればいいだけだし。

 冷たくなくなると、生クリームがダレてきてしまうので、ここに少しだけゼラチンを混ぜておくと、時間が経っても生クリームがしっかり形を保ってくれる。

 水に浸けたゼラチンを用意して、メロディちゃんにハンドミキサーでかき混ぜてもらった。



「すごい! 段々かたくなってくよ!」

「そろそろゼラチンを入れようか」



 完全に固まってしまう前に、電子レンジでゼラチンを温めて、少しずつ入れてしっかりと混ぜていく。一気に入れたり、混ぜが足りないと、冷えてゼリーの様に固まってしまうので注意が必要だ。

 失敗もなく生クリームも完成したので、ラップをして冷蔵庫に入れておいた。



「あとは焼けるまで、ちょっと休憩しよっか」

「はーい! チエ姉ちゃん、メロはこんな料理作るの初めてで楽しい!」

「そっか、良かった! これからももっと色々作ろうね」

「うん! チエ姉ちゃん大好き!」



 屈託ない笑顔を浮かべて、私に抱き着いてくるメロディちゃん。

 そんなあどけない姿に、私も破顔する。多分、顔のパーツが全て潰れる勢いで顔が綻んでる気がしたけど、可愛いは正義だからしょうがないよね……。

 メロディちゃんにオレンジジュースを、私はコーヒーを用意してリビングに移動する。

 2人でソファに腰掛けて、思わず息を吐いた。あとまだ唐揚げ10kg残ってるし、サラダも作らないとなぁ。

 そんな事を考えてると、横に座っていたメロディちゃんに声を掛けられた。



「ねぇ、チエ姉ちゃん」

「どうしたの?」

「メロね、皆と一緒にここに住めて幸せだけど、ここは誰にも教えちゃ駄目なんだよね……」

「誰か教えたい人が居るのかな?」



 メロディちゃんにそう尋ねると、何度か視線を彷徨わせて俯いてしまう。

 オレンジジュースを両手で掴んで、何度も握り直している。



「……メロの、お友達……。村で食べ物がとれなくなったら、皆も売られちゃう……」

「そっかぁ。メロディちゃんは、どうして売られちゃったのか分かるかな?」

「家の畑の作物が、全部枯れちゃったの……」

「え? 全部?」

「うん、寒くなってもないのに……。しかもメロの家の畑だけ。前の日には元気だったのよ」



 冷害で村全体が枯れてしまった、なら納得できるけど、メロディちゃんの家だけ?

 そんな事あるんだろうか。素人の私でも何かおかしいな? って思うけど……。


 俯いたままのメロディちゃんは、涙を堪えている。

 ここに来てから一生懸命、畑を見てたのは枯れてしまうかもしれないって心配してたのかな。

 その思いに、私の胸も痛んだ。



「メロの家だけずっとなの……」

「え?」

「秋にも、植えたのが枯れちゃったから……。冬は皆が貯蔵したご飯を分けてもらったの……」

「秋にもあったの? 同じ事が?」

「うん、精霊を怒らせてしまったって、パパとママは召喚士(サモナー)を呼んで、精霊にも謝ったんだけど、許してもらえなくて……。召喚士を呼ぶのでお金もたくさんかかったし、畑が駄目になっちゃったから、だから……」



 メロディちゃんの言葉はそれ以上続かなかった。

 大好きなパパとママに売られてしまった、とは言いたくないんだろうなぁ。

 作物の収穫量が落ちたんじゃなくて、メロディちゃんの家の畑だけ枯れるって、絶対におかしい。一度ジェラルドに相談してみた方がいいかもしれない。

 私だけで判断できるような問題ではない気がする。人が居ないところを狙って話してくれたって事は、他の人にはあまり知られたくないのかもしれないけど……。


 心の中で、メロディちゃんにごめんね、と謝る。



「話しにくいのに教えてくれて、ありがとね」



 メロディちゃんの頭を撫でながら、ぎゅっと抱き締めた。

 泣くのを我慢してるのか、身体が小刻みに震えている。こんなに小さいのにな。自分の事だけじゃなくて、家の事も友達の事も考えてるんだ。

 背中をとんとんと叩いていると、落ち着いてきたのかメロディちゃんが私から少し離れる。



「ごめんね、チエ姉ちゃん。メロこんな話しちゃって……」

「ううん、1人で我慢してるとね、しんどくなっちゃうから。いつでも話していいんだよ」

「ありがとう、チエ姉ちゃん!」



 もう一度だけ抱き締めてから、メロディちゃんから手を離した。

 さっきまでの悲しそうな顔を誤魔化すように、メロディちゃんは飛び切りの笑顔を浮かべる。



「もうケーキ焼けたかな? 見に行こう!」

「そうだね、ちょっと見てみよっか!」



 こんな小さな子が、気を使って元気良く振舞ってるのに、私だけいつまでもへこんでる訳にもいかない。

 メロディちゃんに手を引かれて、オーブンの前まで移動する。スポンジの焼けるいい匂いがキッチンに立ち込めていて、思わず深呼吸してしまった。

 私の手を掴んだまま、メロディちゃんもスンスンと鼻を動かして匂いを嗅いでいる。



「すっごく甘い匂いがする……!」

「もう焼けたかな……。この後生クリーム塗ってイチゴをいっぱい乗せようね」

「うん! すっごく楽しみ!」



 オーブンを開けて竹串を刺してみると、しっかりと中まで焼けていたのでオーブンから取り出した。

 一度高い所から落として空気を抜いた後に、型から取り出してひっくり返す。オーブンシートを剥がして網の上に置いて冷ますからだ。粗熱取らないとデコレーション出来ないしね。

 スポンジにラップをかけて、隅の方へ避けておいた。



「じゃあ、イチゴを切っていこうね。手を切らないように気を付けて」

「はーい! チエ姉ちゃん、どうやって切ればいいの?」

「まずは中に入れるからイチゴを半分に切っていこっか」



 イチゴをしっかりと流水で洗って、キッチンペーパーで水気を取る。

 そのまま半分に切った物をどんどんお皿に置いて行った。お皿にはキッチンペーパーを敷いておく。せっかく水気切ったのに、果汁で濡れちゃうからね……。

 スポンジの熱が取れたら、生クリームを冷蔵庫から出して、スポンジを2等分する。



「このスポンジの切ったところに、これ塗っていこっか」

「これなぁに?」

「ホットケーキ用のシロップだよ。こうやって、うすーく塗っていってくれるかな?」



 ホットケーキシロップを、少しだけスプーンに垂らして、満遍なく塗り広げた。

 メロディちゃんも私の手元を見ながら、少しずつ塗り広げている。

 スポンジにシロップが満遍なく広がったら、次は生クリームを塗り、その上にイチゴを乗せ、更に生クリームでイチゴを覆い隠す。

 そこに、シロップを塗った面を下にしたスポンジを被せれば、ケーキの中は完成。

 あとはケーキの外側にも生クリームをたっぷり塗ってから、絞り袋に生クリームを入れてデコレーションしていく。イチゴは今回切らずに大きい物をそのままたっぷりと上に乗せた。

 うーん、贅沢……!


 残ったイチゴは、私とメロディちゃんで半分こにして食べる事にした。

 断じてつまみ食いではない……! と思いたい。



「美味しいねぇ。メロ、イチゴ大好き!」

「まだ、実がなってるからこれからもうちょっと収穫出来るね」

「今度は一緒に収穫しようね!」

「そうだね、一緒に収穫しようね」



 可愛らしい笑顔でそう言ってくるメロディちゃんに、思わず私は顔が崩れてしまう。


 出来上がったケーキは、潰れないようにラップを柔らかくかけて冷蔵庫にいれておいた。

 鶏肉のせいで、ケーキをいれたら殆どスペースが無いけれども。

 そろそろ鶏肉も揚げていくかなぁと考えていると、リビングの扉が開いてバージルが戻って来る。手には大きな肉の塊を持っていたけれど、脚の部分が見当たらないので、貯蔵庫にもう吊るしてきたのかもしれない。



「おかえりなさい。大丈夫だった?」

「ただいま。ホーンラビット2匹とボアの脚はもう吊るしてきたから、胴だけ持って来たぞ。ジェラルドは戻らず西の哨戒をしてから戻ってくるらしい」

「そうなんだ。ありがとね。このお肉美味しそう!」



 ドン! という音と共に、キッチンに置かれる肉の塊。

 ボアってイノシシだよね。豚より脂に噛み応えがあって、脂の甘味が強いやつ。

 しっかりとした赤身と、脂が分かれている肉を見る。どうやって調理するかなぁ。角煮にでもする?

 骨がついてるからスペアリブとかにしちゃってもいいんだけど。


 お肉を前にどうしようか頭を悩ませていると、バージルから声を掛けられた。



「どうするか決まったか?」

「今悩んでるんだよね。冒険者はどうやって食べてるの?」

「脂を切り落として干し肉にするか、そのまま焼いて食べるか、スープに入れるかだな……」

「そっかぁ……。出来れば柔らかくて温かい物を食べて欲しいな」



 ケーキ、唐揚げ、もう1品……。イノシシ肉でシチューでも作ろうかな。

 唐揚げを作ってる間、メロディちゃんに見ててもらえるしね。



「じゃあ、シチューにしようかな。バージルはこの後どうするの?」

「解体も終わったし、特に無いな。チエ、何か手伝おうか?」



 バージルの言葉に、数秒考え込んでから私は口を開く。



「貯蔵庫から、インカの目覚めを持って来て欲しいかな」

「インカの目覚めって、あの小粒のジャガイモか?」

「そう、それ! 甘くて黄色が鮮やかで美味しいんだよね」



 男爵やメークインに比べると小粒のインカの目覚めは、危うく家畜の餌にされるところだったのを、必死にこういう品種なの! と説き伏せた事を思い出す。

 男爵やメークイン見た後だと余計に小さく見えるよね。しょうがない。



「どれくらい欲しい?」

「10個あれば十分かな? これ使って」



 エコバックを取り出してバージルに渡すと、バージルは笑顔を浮かべて受け取ってくれる。

 取れた野菜は一通りメロディちゃんが持ってきてくれたけど、インカの目覚めは7人で食べるには心もとない数しかないし、バージルにお任せしよう。


 お肉はバージルが綺麗に筋を取ってくれてるので、中の筋と骨だけ気を付ければ大丈夫かな。

 流石にこのサイズのイノシシ肉のブロックを切り分けた事は無いので、少し緊張する。



「じゃあ行ってくる」

「バージル兄ちゃん行ってらっしゃい!」

「ごめんね、お願いします!」



 バージルを見送ってから、お鍋に水を張って温めていく。

 さて、このお肉を解体しなければ……。



「メロディちゃん、お鍋が沸騰したら教えてくれる?」

「うん、分かった!」



 台座の上に立って、お鍋の中を覗き込むメロディちゃんにお湯を任せて、私はイノシシ肉に包丁を入れる。思ったよりもスッと切れたので、簡単に切り分ける事が出来た。

 切り分けた肉を1口サイズにカットしていき、ジャガイモ以外も切り分けていく。

 ニンジンは乱切り、タマネギは薄切り、ブロッコリーは1口より少し小さめ。

 そこまで切り分け終わると、扉が開いてエコバックを肩にぶら下げたバージルが戻って来た。


 イケメンは庶民的な事をやってもイケメンなんだなぁ……。

 バージルをぼーっと見つめていると、見られてる事に気付いたのかバージルが首を傾げた。



「俺の顔に何か付いてるか?」

「ううん、ごめん。ぼーっとしちゃって。取ってきてくれてありがとね」

「ああ、これでいいか?」



 エコバックを手渡されたので、中を覗くと、大きめの物を持ってきてくれたいので、笑顔を浮かべる。

 イケメンで、家事手伝ってくれて、ちゃんと確認もしてくれるとかスペック高い。

 嬉しかったので、笑顔のままバージルにお礼を言う。



「大丈夫だよ、ありがとね!」

「喜んでもらえたなら良かった」



 バージルと向かい合って、お互いに笑顔で見つめ合っていると、ちょっとニヤニヤした表情のメロディちゃんに肘で突かれてハッとする。


 人前で何をしてるの私……!

 恥ずかしくなって、慌てて目を逸らしてからバージルに話し掛けた。



「疲れたでしょ、何か飲む?」

「勝手に飲むから大丈夫だ。それより見てていいか?」

「バージル兄ちゃん、チエ姉ちゃんがご飯作るの見るの好きだね」

「ああ。俺には出来ないし、こんな風に料理が出来るなんて魔法みたいじゃないか。ずっと見てても飽きないな」



 メロディちゃんの言葉に、そう言葉を返したバージルは、口元に笑みを浮かべながら私を見る。

 見つめる視線が優しくて、目尻に皺が少し寄っているその微笑みは、一直線に私に突き刺さって心を揺さぶって来た。

 首の周りがザワザワしてるし、心臓が大きく動いてる音が鼓膜に響いてる気がする。

 でも、その言葉はとても嬉しくて、私の顔もつい綻んでしまった。

 魔法みたい、か。私もお母さんがご飯作ってる時に同じ事を思ったなぁ。

 ジャガイモの皮を剥いて、1口大に切りながらそう思う。


 1人でドキドキしていると、横から聞こえたメロディちゃんの声で現実に戻された。



「チエ姉ちゃん、沸騰してきたよ」

「あ、本当だ。教えてくれてありがとね」

「えへへ」



 私の言葉に、嬉しそうな微笑みを浮かべるメロディちゃん。

 肉に塩を振って、丁寧に揉んでいく。臭み抜きのための作業をメロディちゃんにやってもらう事にした。



「じゃあ、次はお肉を塩揉みしてもらおうかな」

「どうすればいいの?」

「私が塩をまぶすから、メロディちゃんはお肉を揉んでいってね。後で塩は流すから、しっかり揉んで大丈夫だよ」

「はーい!」



 一生懸命お肉を揉むメロディちゃんと、1つずつ説明をする私。それを座りながら眺めるバージル。

 なんか、これって……。そう思った所で、思考を振り切るように頭を振った。

 片思いのくせに図々しいな私!

 セルフ突っ込みを入れながら、ジャガイモを切り終える。



「これくらいでいいね。お水で塩を流していこうか」

「普通に流していいの?」

「うん、揉みながら流していけばいいよ」



 流水でお肉を流したら、沸騰したお湯に肉を入れて20分ぐらい煮る。

 お酢を少しだけ入れて、お肉を柔らかく煮ていく。アク抜きもしっかりと忘れない。

 アク抜きをメロディちゃんにお任せしながら、私は冷蔵庫から鶏肉を取り出した。


 もうそろそろいいかな?

 タレを1/5程残して捨ててから、保存袋の中に小麦粉を入れて行く。サクサク感を出したいなら、汁は全部捨てて片栗粉をまぶして揚げた方がサクサクするけど。

 保存袋の封をして、鶏肉と小麦粉を絡めていけば手も汚れないし、片付けも少なくて済むので私はいつもこの方法だけど。材料が無駄にならないのもいいよね。


 お肉のアク抜きが終わったら、鍋ごとザルにあげて、もう一度流水で洗っていく。

 その後は、お肉と野菜をバターで炒めて、タマネギがしんなりしたらそこに水を入れて煮立たせる。またアク抜きなので、メロディちゃんが自分から名乗りをあげてくれた。



「あく抜きならメロでも出来るから任せてね!」

「ありがとう! お願いね」



 トレーにキッチンペーパーを敷いて、網を乗せる。大量に揚げるので、トレーも大量だ。

 最初は低い温度で焦げやすい味噌味から揚げていこう。

 だけど、今はメロディちゃんが近くにいるし、油は怖いなぁと思ったので、アク取りが終わるまで待つ事にした。結構跳ねるもんね……。


 アクが出なくなったら、シチューの素を入れて溶けるまで待つ。ルーが溶けたら牛乳を入れれば完成。

 人数多いから、12人前くらい作ったし、残ったらドリアとかに流用しよう。



「じゃあ、今から油を使うから、ちょっとキッチンの向こうで見ててくれるかな?」



 メロディちゃんの白くて玉のような肌を見ながら、私はそう伝える。

 火傷の後、シミになりやすいし、めちゃくちゃ熱いからね。子供にはちょっと可哀想だし。

 我儘も言わずに頷いたメロディちゃんは、自分で椅子を引っ張ってくるとバージルの横に座った。


 それを見届けてから、油を160℃で温めて行く。

 IHコンロは温度をお知らせしてくれるから便利だなぁ。

 温まった油に味噌味の鶏肉を放り込みながら、そんな事を考えた。



「これは何を作ってるんだ?」

「唐揚げっていう、鶏肉を揚げたメニューだよ」

「カラアゲ……油で揚げるなんて初めて聞いたな」

「メロもどんなの出来るか楽しみなの!」

「あとでちょっと味見しようね」



 油に鶏肉を投入していったら、蓋を閉める。

 2分くらいで蓋を開けて、唐揚げをひっくり返していくけど、蓋には水滴がたくさんついてるので、スッと外さないと油が跳ねて酷い目に遭う。ひっくり返したらまた蓋をする。

 この時も拭いてから戻さないと中でバチバチと油が飛び跳ねてる音がするので少し怖い。


 何度かその動きを繰り返して、どんどん唐揚げを作っていく。

 まだまだ終わりそうにない鶏肉の量に、少しだけ気が遠くなった。

私は、シシ肉はシンプルに切って塩胡椒で焼いてから、白米と食べるのが好きです。

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