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第二十八話 不穏な気配

「テナントにあるのは、ブティック鈴木、だけかぁ……」



 夜、自室でサイバーモールを開きながら、そう呟いた。

 昼間、キラービーの討伐でレベルが上がった時に、”レベル上昇によりサイバーモール内でテナントが増えました”とステータスに表示が出ていたので確認する為に、入浴後ベッドで俯せに寝転がっている。

 謎の多いページだったので、鑑定するとしっかりと説明が出て来た。


 ”5軒までテナントを登録する事が出来る。応募してくるテナントはスキル使用者のレベルが上がる事で数が増えて行き、1ヵ月に一度テナントを登録し直す事が出来る。”


 今はテナント募集をしていない状態だから、ブティック鈴木だけなのかなぁ。

 そう考えて、”テナントを募集しますか?”の下に出ている”はい”をタッチすると、”募集中です。暫くお待ち下さい”という画面が表示される。

 サイバーモールで大体の物が手に入るのに、一体何が出てくるのかな?

 疑問に思いながら待つこと数分。”応募が完了しました。登録する店舗をお選び下さい”という表示の後に、20軒くらいお店の名前が出て来たので1つずつ確認していく。



「ベーカリーまつぼっくり、寿司丸山、手芸・裁縫の糸巻……。個人店舗が多いのかなぁ。レベルが上がったら何か増えるのかな?」



 この中で登録するなら、ベーカリーかな。焼きたてのパンも食べたいし。お寿司も捨てがたいけど……。

 そう思って、ベーカリーまつぼっくりを店舗登録すると、メニューページに名前が載る。

 中を覗いてみると、個人商店とは思えないほどたくさんのパンが並んでいて、匂いなんてする筈もないのに、焼けたパンの匂いがしそうなぐらい美味しそうだった。

 可愛い動物の形のパンや、柔らかそうな食パンから、サクサク音がしそうなクロワッサンまで並んでいて、見てるだけで気持ちが弾んでしまう。

 思わずカートに入れようとして、慌てて画面から視線を逸らした。



「こんな時間から食べちゃ駄目……! 相手は炭水化物……!」



 目に毒だったので、慌ててテナント募集のページまで戻る。

 こんな時間からパンを見たのは失敗だったなぁ。パンの誘惑を断ち切るように頭を振って、他のお店も見て行くと、皆大好きな某ハンバーガーチェーンが入っている事に気付く。

 また目に毒な物を見付けてしまった……!

 だけど、見かけたらつい食べたくなる誘惑に駆られてしまう。何でファーストフードはこんなに中毒性が高いんだろう……。

 殆ど無意識にテナント登録をしていた事に気付いて笑ってしまった。


 朝と昼でメニューが違うのに、全部のメニューが並んでいたので、夜でも朝メニューが食べれるんだ……! と少し嬉しくなってしまうけれど、買いたい衝動を抑え込んでページを戻す。

 危ない、全然誘惑に勝てそうにない。



「チェーン店はこれくらいしかないのかな……」



 1つずつ見て行ったけど、他にチェーン店は無さそうだったので画面を閉じて考える。

 レベルがいくつになれば応募してくるテナントが増えるか分からないけれど、今でもハンバーガーチェーン店が応募してきたという事は、レベルが上がれば他にもチェーン店は増えるのかもしれない。

 一気にレベルが上がってしまったので、レベル10で増えたのか、20で増えたのか、それとも10と20で両方増えたのかが分からないので、今度ちゃんと確認してみないとなぁと思った。


 でも、率先してレベル上げがしたい訳でもないし、チェーン店の誘惑に負けてレベル上げするのも何か違う気がするなぁ。どうせなら農業スキルを上げて行きたいんだけども。

 このまま、ここでのんびり農業や畜産をしていれば何かスキルを覚える事が出来るのかな?

 前にジェラルドが、生まれ持ったスキル以外は本人の努力で身に着く事が多いと言っていた事を思い出す。農業系のスキル、他にはどんな物があるんだろう?

 気になると調べたくなってしまって、サイバーモールで検索をかける事にした。スキルなんて地球に無いから、何があるかは分からないけども。

 ただ、ヘレトピアの魔物が売られているから、何かスキルが分かる物が売っているかもしれない。


 検索バーを開いて、スキルと打ち込んでから検索ボタンを押すと、数秒のロードの後に画面に色々商品が出て来たので、ゆっくりと見て行く。

 ”これであなたもスキルマスター! ~初心者の為のスキル取得方法~”といった本や、”ヘレトピアのスキル大全集”という本が売られていて、この本の著者は誰なんだろう、と疑問に思った。

 他にも、貴金属や宝石が並んでおり、開いて眺めていると、敏捷+10、経験値取得10%UPや、スキル習得率5%UPなどの装備効果が書かれている事に気付く。宝石とか貴金属は興味無くて見た事もなかったなぁ……。

 RPG風に言うと、アクセサリーという部類の装備になるのかも知れない。


 そう考えて、”ヘレトピアのスキル大全集”と、スキル習得率5%UPのついたネックレスを購入した。

 可愛らしい青色のクリスタル。ブルークォーツと書いてある。

 バージルの眼と同じ色だ、そう思って迷わず購入してしまった。

 恥ずかしさもあるけど、バレないように服の中に隠しておけば大丈夫だよね……。

 そう思って、自分の首にかけてパジャマの中にしまい込んだ。


 紙袋に入って届いた本も、開いて少しだけ目次を見て行く。農業、畜産と書かれたページをめくると、開花の手を筆頭にたくさんのスキルと説明が並んでいる。

 並び順によって、効果が高かったり、役に立ったりするみたいだった。

 雑草抜きのスピードと正確さが上がる”草の達人”というスキルがあって、これ欲しいなぁと思いながらページを眺めていると、異世界人というページがあるのに気付いて首を傾げる。


 こんな物まで載ってるんだ。

 異世界から召喚された者のみが持てるスキル一覧、と説明があったので、恐る恐るページを捲っていく。

 そう言えば、一緒に召喚された人達のスキルが聖女と賢者だったっけ? と思い、説明を読み進める。


 ”聖女は神聖魔法、回復魔法を得意とするスキルである。祈りを神に届け、邪を払い奇跡を起こす事が出来る。与える事に特化した能力が多い”


 ”賢者は回復魔法以外の魔法を得意とするスキルである。魔法を意のままに操り、MPの消費を抑える事が出来る。吸魔と呼ばれる他者から魔素や魔力を奪う能力が備わっている”


 私のサイバーモールと違って、本当に戦闘に特化した能力なんだ。そう感心する。

 ちなみに、サイバーモールもちゃんとスキル説明に載っていたけど、殆ど最後の方に載っていた。まぁ、戦闘では全く役に立ちそうもないもんね……。

 ケイタさんの食いしん坊も説明があったけど、”魔物を生で食べる勇気があるならばとても有用なスキルである”という説明につい噴き出してしまった。

 確かにそうだよね。私、蜂を生で食べたいなんて思わないし……。

 でも、ドラゴンブレスが出来るなら、ドラゴンを生で食べたって事だよね。美味しかったんだろうか。生だから血の味しかしなさそうだなぁ、と思いながら、本を閉じてサイドテーブルの上に置いた。

 魔法が使ってみたいとか、戦闘がしたい、とはあまり思わないけど、農業に役立つスキルが欲しいな。

 バージルの瞳と同じ色の石を弄りながら時計を見る。



「グレンが、明日は作物の収穫って言ってたし、もう寝ないと……」



 もう10時を回っていたので、布団を被って寝る体勢になる。

 気候が良いのか、土地が良いのかは分からないけど、1ヵ月を待たずに収穫出来るまで大きくなった作物を明日収穫すると言っていた。

 朝ご飯の後、稼働機と魔石をセットしてから収穫に入る予定になっている。

 壁にくっつけて魔石をセットすれば、勝手に魔力の放出が始まるので子供でも出来るって言ってたな、と考えて目を閉じた。考え事をしてたら眠れなくなりそうだし。


 ウトウトとし始めた頃、部屋の扉がノックされた気がして一気に覚醒した。

 あれ? 今ノックされたよね?

 勘違いかなと思いながらも、起き上がって扉を開けると、申し訳無さそうな顔をしたジェラルドが立っていた。



「チエさん、ごめんなさい。就寝中でしたか?」

「ううん、寝ようと思ってただけだから大丈夫だよ。どうかしたの?」

「メロとテオの事で少しお話があるのですが……。2人が居ないのは夜しかないので……」

「そっか。中で話そっか」

「ええ、すみません」



 2人が居ない時に話したいって言ってたし、あまり人に聞かせられない方がいいだろうと思ったので、ジェラルドを部屋に招き入れる。申し訳無さそうに部屋に入ってきたジェラルドは、ベッドの傍に座り込んだ。

 来客を予定してないので、座る場所床しかないもんね、ごめんね……。

 私もジェラルドに向き合って座り込むと、ジェラルドは口を開いた。



「リヴァティ村で作物の収穫量が落ちている、との事でしたけど、他に何か2人から聞いていませんか?」

「ううん、あんまり家の事思い出させたら可哀想かと思って……」

「そうですね……。あの村で収穫量が落ちるなんて、今まで無かったんです。チエさんは、エルフの国の歴史や仕組みはご存知ですか?」

「ごめんね、住んでるのに殆ど知らないんだ……。教えて貰ってもいいかな?」

「ええ、説明しますね」



 そう言って、ジェラルドはエルフの国の事を説明してくれる。


 高い魔力と寸分違わぬ弓の腕、何よりも長命な事による幅広い知識で、500年程前には大陸西側の殆どがエルフ領だったという。戦争をして奪い取った訳ではなく、元々ずっとエルフ領だったと。

 けれど、ある日オリーヴァー神聖国が”勇者と聖女が現れた、人間に希望をもたらす存在だ”と大々的に発表した後、エルフの領土を次々を奪っていった。エルフは必死に抵抗したけれど、ヘレトピアの住民には使う事が出来ない神聖魔法の存在に苦しめられて敗北を繰り返し、肥沃した土地が広がる南西方面以外は土地を放棄し、エルフが信仰する世界樹を中心に建てられた首都ヴィフタルを中心に護りを固めた。

 その後、放棄した土地をオリーヴァー神聖国の物とする調印を交わし、お互いに不可侵条約を結んだけれど、300年程前からエルフの魔力が総じて下がり始めた事を切っ掛けに、条約を無視して奴隷として攫われる事が頻発しているという。

 苦情の申し立てを行っても、オリーヴァー神聖国からは”オキュレイド帝国が勝手にやっている事で自分達は関係が無い”との返答しか来ず、何も手立てが無い。


 そこまで話したジェラルドは、息を吐くと俯いた。



「そういう前提があるので、あの子達も攫われたんだと思ったんですが……」

「親に売られちゃった、って事ね……」

「ええ。200年前だったと思うんですが、商業ギルドに税金を一括で管理させろ、とオリーヴァー神聖国から通達がありまして。ヘレトピアの国は魔族領と人魚領以外は商業ギルドが税金の管理をする事になったんです。全ての国の税金が商業ギルドに集められて、その金額から公平に分配されます。税が2回払えないと奴隷落ちしてしまい、商業ギルドに世帯全員が連行されます。これは人間でも変わりません」

「それだと、人数の多い所の方が少なくならない? 不満を訴えたりはしなかったの?」

「あの戦争の苦しみを子孫にさせるくらいなら……と、王は不満を飲み込んでいますね」



 エルフの王様は、御年なんと720歳!

 長命、だとは言ってたけど、想像以上に長生きだった。

 人間に比べて生命力が強くて、食べる物も多いエルフと獣人の数は人間の2倍くらい居るらしい。

 反乱とか起きてしまうかと思ったけど、エルフは我慢を続けているという。


 そこで、ふっとジェラルドの顔を見る。ジェラルドって、いくつなんだろう……。

 好奇心に勝てずに、私は恐る恐る口を開いた。



「ジェラルドは、今いくつ……?」

「フフッ、いくつに見えますか?」

「25歳くらい……?」



 笑顔のジェラルドにそう尋ねられて、悩んだ末に年齢を言ってみる。まだまだ全然若々しいけど、お爺ちゃんだったりするのかな……。

 心配になってジェラルドを見つめていると、口元を綻ばせたジェラルドが正解を教えてくれた。



「僕は32歳ですね。まだまだ若輩者ですよ。兄弟は18人居ます」

「大家族だね……。でも、それならお母さんの病気の事も何とかなったんじゃないの?」

「エルフは40歳で1人前として認められて家を出ます。兄達とはもう10年以上会ってないですし、連絡も取って居ないですね。どこに居るかもわかりませんので」



 僕、末っ子なんですよね。そう言ってジェラルドは笑う。

 いくら気が長いとは言え、どこに居るかすら分からないってすごい……。色んな意味で感心してしまった。人間の間隔だからそう思うのかもしれないけど。

 因みに、お母さんは480歳で、1番上のお兄さんが350歳らしいので相当離れる。


 どうでもいい事に思考を割いていると、ジェラルドは話を戻し始めた。



「勝手なお願いになってしますが、リヴァティ村の事と、世界樹の情報を集めてもいいですか?」

「うん、メロディちゃんとテオくんの事も心配だし……お願いしてもいいかな?」



 エルフの信仰の中に、世界樹が死ぬと世界も死ぬ、というのがあるらしい。

 だから、作物の収穫量が落ちたのは、世界樹に何かあったのではないかと、ジェラルドはずっと心配をしていたと話してくれた。何か考え込んでいたのはこれのせいだったのかと納得する。



「プレミリューではそんな話は聞かなかったので、局地的な事なのか、エルフ領全体で収穫が落ちているのかも不明ですしね……。それに、自分の子供を2人も売る程困っているなら、村全体でカバーし合う筈なんです。奴隷として売るなんていう選択はおかしい」

「そうだよね……。奴隷になったらどんな目に遭うか、分かってるもんね……」

「ええ。それにあの2人の両親はどちらも若いので、必ず他のエルフからのフォローがある筈です。それが出来なくても、王へ陳情を上げれば国からフォローも得られるのに……」



 不服そうに顔を歪めるジェラルド。

 エルフの国では、困った人の為に国庫を開く事もあるんだなぁ。歴史がしっかりしている分、手厚いのかも知れない。

 だから余計に、ジェラルドの話を聞いて不安になった。

 何か悪い事が起きなければいいんだけど。



「長居をしてしまってすみませんでした。そろそろ部屋に戻りますね」

「ううん、教えてくれてありがとね」

「いえ、こちらこそ話を聞いて下さってありがとうございます。おやすみなさい、チエさん」

「おやすみ、ジェラルド」



 ジェラルドが部屋から出て行くのを見送る。パタン、と優しく閉められた扉を暫く見つめながら、私は胸が締め付けられるような、ざわつく感じが振り払えずにいた。

 何も起きないといいんだけど、なぁ。

 安全に、ゆっくりとここで暮らしていきたい。オリ-ヴァー神聖国の時みたいに、誰かに利用されそうになったり、思ってたのと違うって見捨てられるのは、嫌だ。

 あの出来事は確実に私の心に傷を残して、抜けない棘を突き刺した。



「全員幸せ、なんて。地球でも無理だったもんね……」



 そう呟いて目を閉じる。

 すぐに眠気に襲われて、意識は微睡んでいった。


 

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