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第二十七話 蜂蜜攻防戦

「チエ、ハニービーが死んでんだけど何か見てねぇか?」



 1日程でジェラルドと子供達の体調は大分回復してきた。

 エルフの女の子はメロディちゃん11歳。エルフの男の子はテオドールくん9歳。

 2人は姉弟で、リヴァディ村の出身。最近、作物の収穫量が減ってしまったせいで、口減らしの為に奴隷商に売られる事になったと2人は話していた。南は肥沃した土地が広がってるって言ってたのに、そんな事もあるんだな、と思った私は、2人をそのまま受け入れる事に決めて看病を続けている。

 ジェラルドは、2人のその言葉に何度も首を傾げていたけれど、何も言わなかった。何か気になる事でもあったのかな、と思ったけど、体調の回復を優先してもらう。


 体調が戻ってきたし普通のご飯でも大丈夫かなと、朝食の準備の為にキッチンで悩んでいた私に、家畜の世話を終えたグレンが近づいてきてそう声を掛けてきた。

 グレンの手には、羽が片方もげてボロボロになったハニービーが乗せられている。

 一体、どうしてこんな姿で死んでしまったんだろう……。



「ピィ……?」

「見えない壁があるのに何かに襲われてたの?」

「いや、壁の外で死んでんの見つけたんだ」



 グレンのその言葉に、そう言えばハニービーに権限をあげてたな、と思い出した。

 プルメリアは不思議そうに首を傾げて、死んでしまったハニービーを見ている。

 果樹の花が咲くまでまだ時間がかかる為、ハニービーの写真を撮り、権限を与えて壁を自由に行き来できるようにしてあるので、ハニービーはあちこち飛び回りながら蜂蜜を集めていたはず。

 その中の1匹だろうか。可哀想だな。一生懸命戦った跡が見えて、朝から気分が沈んでしまう。


 何かハニービーを襲うような生き物が家の周りに居るって事だよね。

 私はそれに思い当たると、思わず身震いをする。見た目が大きいし、本人(本蜂?)も大らかなので忘れがちだけど、ハニービーはとてもすばしっこくて、逃げてるのを捕まえるのは大変なのに。



「っつう事はやっぱキラービーの仕業か……」

「キラービー?」



 グレンの言葉を疑問に思って、私はオウム返しをしながら尋ねた。

 名前からしてやばそう。頭の中で想像してみるけれど、大きくなったスズメバチしか想像が出来ない。大きくなったスズメバチとか、本当に恐怖以外の何者でもないんだけども。

 そんな事を考えてる私に、グレンはキラービーが何かを説明してくれる。



「キラービーっつうのはよ、攻撃性の強い蜂の魔物なんだよ。蜜を集めんだけど、自分等で蜜集めんのが面倒くせぇからハニービーの巣を襲って奪ったり、蜜を集め終えたハニービーを襲って奪うんだ。ハニービーも反撃はするんだけど、ハニービーの2倍くらいあっから勝てねぇんだ。襲ったハニービーを食ったり、毒液吐いたり毒針で刺したりして人間の事も襲ってくっから死んじまう奴も多い」

「じゃあこの辺りにキラービーが飛んでるって事……?」

「可能性は高いな……」

「ピィ!」



 こんな綺麗な所に、そんな危険な生き物がいるなんて想像もしていなかったので、グレンの言葉に私はどうした物か、と頭を抱えた。このままだと蜂蜜収穫前にハニービーが全滅してしまいそうだ。

 クィーン・ハニービーが集められた蜜からせっせと卵を孵しているので、数が減ってるように見えなかっただけで今までにも襲われてる事があったのかもしれない。

 巣は安全でも、巣の外が危険だなんて考えもしてなかった。ハニービーに悪い事をしてしまったかもしれないな……。

 ハニービーと私の蜂蜜の為に、キラービーは駆除しなくちゃいけないけど、駆除業者なんてヘレトピアには居ないから自分達でやるしかないんだろうか。

 私では方法が分からないので、自信満々な声で鳴くプルメリアの頭を撫でながらグレンに確認してみる事にした。



「退治するにはどうしたらいいのかな?」

「俺もハニービーの飼育は初めてだからわかんねぇけど、キラービーは魔物だし冒険者ギルドに討伐依頼が基本だな」

「冒険者に依頼……」

「おう、うってつけのが2人居んだろ」

「ピィィ!!」



 グレンの言葉に、現在家に滞在しているバージルとケイタさんが頭を過る。プルメリアも思い当たったのか嬉しそうに鳴いていた。

 そうだ、あの2人は冒険者だし駆除の方法を知ってるかもしれない! ご飯を作って起こしたら、早速駆除の方法を聞いてみよう!

 善は急げと、慌ててご飯の準備を進める。私の蜂蜜を守らなければ!

 意気込む私を見て、グレンは楽しそうにニコニコしていた。何だろうその笑顔。



「ハニービーにびびってたとは思えねぇな」

「だって約束したでしょ! 秘境産パンケーキ作るって!」

「おう、そうだったわ。んじゃ俺ジェラルドと子供の様子見てくっか」

「ピィ!」

「起きれそうなら起きていいって伝えてくれる?」

「わかった」



 リビングを出て行くグレンの後を、プルメリアがついて行く。一緒に起こしにいってくれるらしい。メロディちゃんとテオくんはプルメリアがお気に入りだしなぁ。

 そんな事を考えながら、朝食作りを再開した。


 1時間程で全員起きてきたため、テーブルで朝食をとる。

 暫く無言で咀嚼していると、バージルが最初に口を開いた。



「さっきグレンからハニービーの事で相談を受けたんだが、間違いないのか?」

「多分な。ハニービーを好んで襲うのはキラービーかハニーベアくらいしか居ねぇだろ」

「んだなぁ。そう考えると飛んでこれるキラービーの方が有力か……」



 グレンがハニーベアという聞いた事の無い魔物の名前を口にすると、ケイタさんが同意をする様に頷く。どっちの魔物も想像出来ないので頭の中で想像するしかないけど、某黄色い熊しか思い浮かばなかったので、感じた印象は弱そうだなぁ、だった。



「チエ姉ちゃん、メロはキラービーの倒し方知ってるよ!」

「ぼくも知ってるよ! お家でママがはちみつを作ってたんだ」

「え、そうなの?」



 トーストをモリモリと食べていたメロディちゃんとテオくんの言葉に、私はびっくりして振り返る。

 バージルとケイタさんも、感心したような表情を浮かべて子供達を見ているので、あまり一般家庭では退治してないのかも知れない。

 こんなに小さいのに家の事ちゃんと手伝ってたんだろうな、と思い当たったので、横に居たメロディちゃんをぎゅっと抱き締めた。



「お家の事ちゃんとお手伝いしてたんだね! 偉いね!」

「チエ姉ちゃん、くすぐったいよぉ!」

「あ、ずるい!チエ姉ちゃんぼくも!」



 メロディちゃんときゃっきゃとはしゃいでいると、イスから立ち上がったテオくんも私に抱き着いてくる。

 可愛い! 弟とか妹が欲しかったから嬉しい!

 2人共まとめてぎゅーっと抱き締めていると、横からケイタさんの声が聞こえてきた。



「バージル、俺も~って言っブヘッ!!」

「メロディとテオの家ではどうやってたんだ?」

「ねぇ、殴って無視するのやめて?」

「キラービーの巣の近くでシビビ草を燃やしてたの! ハニービーは”まひむこう”のスキルがあるからケムリがいっても大丈夫なんだよ」

「へぇ、初めて聞くな」



 バージルは驚いたような顔をしてメロディちゃんの話を聞いている。

 すごく感心しているのか何度か頷いていた。

 冒険者はそういう方法は取らないのかな、と疑問に思ったので、私はメロディちゃんとテオくんから手を離してバージルの方を向いて尋ねる。



「バージル、因みに冒険者の駆除方法は?」

「魔法で焼き尽くす、毒消しを大量に用意して倒し続ける、の2択だな。基本的にキラービーの討伐依頼はDランク以下が受ける事が多いから、あまり大掛かりな事はしないな」

「じゃあ、シビビ草を燃やすっていう方法があれば怪我とかも少なくなるね」

「ああ。メロディ、テオこの方法を冒険者ギルドに教えてもいいか?」

「うん、ぼくたちの村ではみんなしってるからいいとおもうよ!」

「そうか、ありがとな」



 勝手に報告する事も出来るのに、メロディちゃんとテオくんに確認を取るバージル。

 優しいなぁ、そういうところが好きだなぁ。


 そう思って、ん?と一瞬思考が止まる。

 え、好きだなぁ……? ごく自然にそう思った事にびっくりして、意味を理解したのか顔が真っ赤になっていくのを感じた。


 私、バージルの事が、好きなんだ……?

 あ、そうか。あんなに離れるのが寂しかったの、好きだったからなんだ。

 ストン、と自分の中に落ちて来た意識に納得した。

 だけど、好きだなって気付いてしまったせいで、恥ずかしくてバージルの顔が直視できそうにない。


 真っ赤になって俯いた私を、ジェラルドが怪訝そうに見ている。



「チエさん、どうしました? 風邪が移りましたか……?」

「ほんとだ、チエ姉ちゃん顔が真っ赤だよ」

「や、大丈夫! ほんと大丈夫だよ、風邪じゃないの!」



 赤い顔を隠す様に更に俯く。あーもう突っ込まないで! 恥ずかしいだけなの!

 けれど、その顔を隠すような仕草が良くなかったのか、イスを引く音がしてから私の額に誰かの手が触れる。そっと顔を上げると、心配そうな顔をしたバージルと目が合った。

 青い眼が、私をじっと見つめている。

 背筋がくすぐったくなるような、首の周りがザワザワするような、不思議な感覚がするけど嫌じゃない。

 バージルの眼、綺麗だな。青だけじゃないのかな、中心に向かって灰色に近くなってるんだ。 

 そう思った瞬間、私の額に置かれていたバージルの手が、滑るように首筋へと移動する。



「っ……!?」



 大きな硬い手のひらで私の首筋に触れたバージルは、ゆっくりと手を滑らせると、今度は手の甲で私の顎の下に触れた。触れた場所がジンジンするように熱い。なんで。

 心臓が破れそうなくらい、ドキドキと脈を打っているのに気付かれたくなくて、私はもう一度俯いた。



「熱は無さそうだが、確かに顔が赤いし瞳が潤んでるな……」

「バージルのせいだと思うけどな……」

「チエ姉ちゃん大丈夫? ぼくが畑みてくるよ!」

「メロも行く! チエ姉ちゃん休んだ方がいいよ」

「や、本当に大丈夫だから! ちょっと暑かっただけ!」



 どうしようかと落ち着きなく視線を彷徨わせていると、グレンと目が合う。

 すると、グレンは楽しそうに口角を上げて私を見つめ続ける。

 え、なにこれどういうサインなの? 気付かれたって事? バージルの事好きだって事がグレンにバレたの? まさか!


 居た堪れなくなった私は立ち上がると、食器をキッチンの流し台に置きに行く。

 大丈夫、チエ、平常心よ……!

 大きく一度深呼吸して、前を見据えた。今だけ私に宿れ大女優の魂!



「本当にだいじ「チエ姉ちゃんはバージル兄ちゃんがだいすきなんだね!」

「テオ、そういう事はデリケートな話題なので気付いていても言っちゃ駄目ですよ」



 テオくんが爆弾を落とした室内は、しんと静まり返る。

 ジェラルドのフォローが空しい……。これあれかな、ジェラルドにも気付かれてたのかな……。

 頭を抱えたくなるけど、あまりの状態に言葉が出てこない。


 ケイタさんは机に突っ伏して肩を震わせているので、きっと笑ってる。大爆笑だ。

 グレンは目玉焼きを頬張りながら、私とバージルを見比べている。ふーんって感じだと思う。

 メロディちゃんはテオくんをぶってたので、デリケートな話題に敏感な女の子らしい。

 プルメリアは、全く気にせずおもちゃを振り回していた。

 バージルは、目を見開いたまま動きが静止している。


 あ、やばい。これ早くフォロー入れないと……!



「な、なか、仲間、だから好きだよ……! 皆だって仲間は好きでしょ……!」



 どもってしまったけど何とか言葉を口にする私に、静止していたバージルがゆっくりと苦笑いを浮かべた。

 子供の言った事なのに、こんなにどもって変じゃなかったかな。大丈夫かな。

 ドキドキしながら動けずに居ると、しゃがみ込んだバージルがテオの頭を撫でる。



「そうだな、俺も仲間だからチエも、ここに居る皆も大好きだぞ。勿論テオの事もな」

「そっか~! ぼくも皆だいすきだよ!」

「ありがとな。ケイタ、ジェラルド、キラービーの巣を探しに行こう」



 自分から仲間だから好きって言ったのに、仲間だから好きって言われて傷付いた事にびっくりした。

 バージルの言葉に席を立つジェラルドとケイタさん。ケイタさんはバージルを見て苦笑いをした後に、私の方を向いて一瞬目を見開いた後、にやり、と笑う。

 胸がじゅくじゅくと痛むような気がするけど、この後畑もあるし、私の気持ちだけで皆を振り回すわけにはいかないので、シンクにしがみ付いて耐えながら笑顔を浮かべる。



「じゃあ、私とグレンとメロディちゃんとテオくんは畑かな」

「おう、行くぜテオ」

「グレン兄ちゃん、肩車して!」



 テオくんを抱えるように持ち上げて肩に乗せたグレンは、食器を下げるとすぐに玄関に向かう。

 リビングの扉で頭を打たないように2人で屈んで、上手に玄関まで向かっていった。テオくんの楽しそうな声が聞こえてくる。

 バージル、ジェラルド、ケイタさんも食器を下げると、すぐに玄関まで向かっていく。

 一瞬振り返ったバージルが、私に向かって声を掛けてくれた。



「チエ、気を付けるんだぞ」

「うん……バージルも気を付けてね!」



 動け表情筋!口角を上げながらそう言って皆を見送る。

 お皿洗ったら、すぐに畑に行かないとな、と考えていると、食器を持ったメロディちゃんがそっと私の横に近付いてきた。メロディちゃんの横には、自分の餌入れを銜えたまま心配そうな表情のプルメリアもいて苦笑いしてしまう。



「チエ姉ちゃん、大丈夫……?」

「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとね」

「メロね、バージル兄ちゃんはチエ姉ちゃんの事好きだと思うから大丈夫だよ!」

「ピィ!」



 こんな小さいのに心配して慰めてくれるなんて……!

 感動の余り、メロディちゃんから受け取ったお皿を流しに置くと、メロディちゃんをぎゅっと抱き締めた。可愛くて、働き者で、気遣いが出来るなんて。なんて良い子なんだろう!



「くすぐったい! もう、チエ姉ちゃん! メロも手伝うからお皿洗いしよ?」

「はぁい、お願いね」

「ピィ!」



 2人でお皿を急いで洗って、畑仕事に合流した。


 グレンの指示で、雑草抜きをしながら畑に植えられた野菜達を眺める。もうそろそろ収穫かなぁ。魔石とかセットまだしてなかったなぁ。貯蔵庫は作ってあるけども。

 そんな事を考えながらブチブチと雑草を抜く。

 もう胸の痛みは消えていたので、単純だなぁと自分に呆れてしまうけど、ウジウジ悩むよりかはいい。

 大きくなったキャベツをじっと見つめていると、遠くからケイタさんの悲鳴が聞こえてきた。


 何事かと思って慌てて立ち上がると、海側から全速力でバージル、ジェラルド、ケイタさんが走ってきているのに気付く。緊急事態だと気付いたのか、グレンが武器を抜いて構えていた。



「メロディちゃん、テオくん、こっちにおいで! 早く!」

「いいって言うまで柵から出るんじゃねぇぞ!」



 水撒きをする為にジョウロに水を汲みに行っていた2人に声を掛ける。護衛としてプルメリアも一緒だ。

 その言葉に、メロディちゃんはテオくんの手を握ると急いで走って戻って来た。テオくんのお尻をプルメリアも頭で押して走っている。

 2人を抱き締めてから全速力で走る3人を見ると、後ろから何か追いかけてきている事に気付く。

 ここからだととても小さく見えるけど、空を飛ぶ何かが群れをなして3人を追っているんだ。



「だから、僕はたくさん居ますって言いましたよね!?」

「だからごめんって! 食えるかと思って!」

「ケイタ後で覚えておけよ!!」



 何があってあんな事になったんだろうか。

 会話を聞いている分にはケイタさんが何かやらかしたっぽいけど、状況が分からず困惑するしかない。

 険しい顔をしていたグレンは、3人が何に追われているか気付いたのか顔を顰める。



「何やったらキラービーにあんな追いかけられんだよ!!」

「え、あれ全部キラービー!?」



 3人の後ろ黒い靄でもかかってるかの如く、一緒にこっちに向かってきてるんですけど……。

 異変を察知したのか、蜜を集めに行っていたハニービー達も大慌てで巣に戻ってきている。

 警戒するように巣の周りに張り付いてる個体は、必死に羽を鳴らしていた。威嚇してるのかもしれない。見えない壁までを巡回するように飛んでるハニービー達も見える。


 必死に走っている3人が畑の柵を飛び越えてすぐに、物凄い羽音と共にキラービーが次々見えない壁に当たっていく。バチバチと物凄い音がして、何匹も地面に落ちて行った。



「あー、はぁはぁ……助かった……」

「本当、はぁ、僕、病み上がりですからね……はぁ、勘弁して下さい……」

「ケイタ、お前……本当に……はぁはぁ」

「何してたんだよ! めちゃくちゃ怒ってんじゃねぇか!」



 息も絶え絶えヘロヘロ状態の3人に、グレンが怒る。

 何をしたらこんな状態になるのか全く分からずに、私は怒る以前に困惑以外の感情が湧いてこなかった。

 私達の居る辺りは全てキラービーが取り囲んでいて、ブンブンと嫌な羽音が響いているだけ。

 怯えたように私にしがみつくメロディちゃんとテオくんを、守るように再度抱き締め直した。



「どうしたの? 何があったの?」

「ケイタが……キラービーの女王を食ったから怒り狂ってるんだ……」

「え? 食べるって調理して食べるんじゃなくて、そのまま食べるの……?」

「タンパク質と毛の味がするわ……ぺっぺっ!」



 全然気にした様子もなく、口の中に残った毛を吐き出すケイタさんに畑仕事組みはドン引きする。

 勝手に調理して食べるんだと思ってたけど、生で行くんだ……。食べてみようっていうガッツはすごいと思うけど……。

 でも、これだけ周りを囲まれてしまうと、ハニービーも蜜を集めにいけないのではないかと心配になってしまう。私の蜂蜜がと取れなくなっちゃう……。

 どうしたらいいんだろう。全部撃ち落とすにしても時間が掛かるし。

 少し悩んでいると、ある事を思いついたのでサイバーモールを開いた。


 やっぱりあった!

 蜂用殺虫剤のジェット型! これなら遠くの蜂にも届くんじゃないかな!

 風もあまり吹いてないから、ハニービーの方まで行かないといいんだけど。


 そう思って、蜂用殺虫剤を1本購入する。効かないと無用になっちゃうしね……。

 ビニール袋から取り出して、パッケージを破ってアイテムボックスにしまった。

 急にゴソゴソと動き始めた私に、皆が不思議そうな顔をする。



「チエ姉ちゃん、それはなぁに?」

「もしかしたら、倒せる、かもしれない道具かな。危ないから下がっててね」



 メロディちゃんとテオくんに下がってもらって、安全地帯のギリギリまで近付く。これで倒せなかったら恰好悪いなぁと思いながらも、ノズルを引いて薬剤を散布した。

 勢いよく飛び出した薬剤が広がって少しすると、キラービー達は急に元気が無くなって左右に揺れ始める。

 あれ、これ効いてるのかな? そう思って更に薬剤を噴射していると、ポトポトと少しずつキラービーが地面に落ちて動かなくなっていく。


 ちゃんと効いてる!

 嬉しくなった私は、更に薬剤を追加で購入してどんどん噴射していく。次々に倒れて行くキラービー。少しずつ数が減って行ってるのが分かる。

 黒い靄のようだったキラービーが、ざっと数えられるくらいまで減った所で殺虫剤が切れたので一度休憩しようと手を下ろす。ずっと上に向けていたせいで腕が痛くなってきたし。残りのキラービーも、既にフラフラしているのでそろそろ倒せそうだしね。

 地面にはおびただしいほどのキラービーが落ちて動かなくなっていたので、ちょっとやりすぎたかもしれない……。

 若干の後悔と共に振り返ると、メロディちゃんとテオくんが目を輝かせて私を見ていた。



「チエ姉ちゃんすごい!!」

「あんなにたくさんのキラービーを倒せるんだ!」

「殺虫剤効くんだね……」

「これは私がすごいんじゃなくてこの殺虫剤がすごいの……!」



 誤解を解かねばと慌てて空の殺虫剤を見せるけど、お構いなしに2人は私に抱き着いてくる。

 座り込んでいたバージル、ジェラルド、ケイタさんも立ち上がって死んだキラービーを眺めていた。グレンとプルメリアは、残ったキラービーに攻撃をしていたのでこっちを見ていない。



「すごいなチエ……。これだけ倒したなら大分レベルが上がったんじゃないか?」



 私に近付きながらそう尋ねてくるバージルに、私は首を傾げる。

 少しして、キラービーも魔物だから倒したら経験値が入るんだと思い当たって、ステータスを開く。レベルが23まで上がっていて、ステータスも軒並み上昇していたので思わず顔が綻んだ。

 ステータス画面を眺めていると、下の方に”レベル上昇によりサイバーモール内でテナントが増えました”と出ているのに気付く。テナント募集、確かあったけど一度も見てなかったなぁ。あとで確認しよう。

 そう思ってステータスを閉じる。



「23まで上がってた!」

「良かったな」

「チエ姉ちゃんすごい!」

「チエ姉ちゃん強いんだね!」

「強くはないよ!?」



 素のステータスが低いから上昇率も悪いしなぁ……。自分で思った事に少し傷付いた。でも、私の頭を撫でるバージルの手に、顔が綻んでしまう。

 それにしても、この大量のキラービーはどうしたらいいのか……。

 グレンとプルメリアに、止めを刺されて全滅してしまったキラービーを眺めて途方に暮れる。

 埋める? それにしても数が多すぎるよね……。頭を悩ませている私に、ケイタさんが座りこんだまま話しかけてきた。



「チエさん、このキラービー、ギルドで売ってもいい?」

「売れるなら全然! どうしようかと思ってたし……」

「解体も向こうに出せば手間掛かんないし。キラービーの毒針は売れるからさ。売れたらまた売り上げ送るわ」



 そう言ってケイタさんは立ち上がると大きく伸びをする。



「クィーン・キラービー食ってもステータス上がったの微々たるモンだし、毒針とか俺じゃ使えそうにないし、外れだったなぁ」



 ケイタさんの呟きを聞いて、バージルの周りの気温が下がった気がする。ジェラルドも額の血管が浮き出てるし、ここは危ないのではないでしょうか……。

 そっとバージルとジェラルドから距離を取って、メロディちゃんとテオくんの近くにいく。

 見えないように後ろを向かせたところで、何回か人を殴るような音とケイタさんの悲鳴が聞こえた。



「あいつ、アホだなぁ」

「ピィ!!」



 グレンとプルメリアがいい気味だと言わんばかりに笑っているのを見ながら、蜂蜜が守れた事に息を吐く。この子達にも美味しいパンケーキ焼いてあげたいしな……。

 そう思いながら、後ろの惨劇を見ないふりでやり過ごした。

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