第二十三話 貯蔵庫を造る
「チエさん、明日1日出掛けたいんですが構いませんか?」
毎日午後からゴブリン討滅を行っている為か、私はレベル5に、プルメリアはレベル14になった日の夕食中、ジェラルドからそう提案があった。
別に休みたい時に休んでもらえば構わないので、出掛けるのはいいんだけどどこ行くんだろう?
疑問に思ったので、そのまま口に出してみる事にする。
「うん、いいよ。どこかに出掛けるの?」
「プレミリューの街で、稼働機と闇の魔石を購入しようかと思いまして」
「貯蔵庫作んのか」
「ええ、なので明日庭を少し広げて欲しいんです」
「あ、じゃあお金渡すよ」
「いえ、ゴブリン討伐で取れた魔石や巡回中に倒した魔物の皮などを売れば、稼働機も闇の魔石が買えるので大丈夫ですよ。稼働機は一般家庭でも使いますし銀貨50枚程しかしませんので」
笑顔を浮かべてそう言ったジェラルドは、味噌汁をゆっくりと飲む。
ゴブリンから出るFランクの魔石は、属性にもよるけど大体銅貨80枚程で買い取りをしてくれるらしい。
結構な量の魔石が取れたので数を数えるのを止めてしまったけど、新しいホルスターバッグがパンパンになってしまうぐらい集まっていた。
もう作物を植えて3週間、後1週間前後で収穫する時期だしそろそろ貯蔵庫が居る時期なんだ。
貯蔵庫の事を完全に頭の隅へ追いやっていたため、そう言われて思い出した。
氷の魔石はバージルに貰ったのがあるから買わなくていいらしいので、貯蔵庫を作るスペースの確保だけいるようだ。
いっそ、地下室でも作ってしまった方が楽なのではないかなと思ったけど、今更地下室作れるのか分からなかったので、サイバーモールを開いてみる。
ただ、眺めてみても、既存の建物につける事は出来ないようで、作るなら別の場所に新設しなくてはいけないらしい。
「サイバーモールで庭に地下室も作れるみたいなんだけど、それで作っちゃった方がいいのかな?」
「スキルで買えば棚とかも付いてんならそっちのが楽っちゃ楽だな」
「ええ、そうですね。自然魔法だとどうしても地形で広さが変わってしまいますし」
「広さはどれくらいあればいいんだろう?」
「3人なら20㎡あれば3月は過ごせると思いますよ」
「じゃあ、まずはそれくらいで作ってみて、足りなかったら大きくしよっか」
貯蔵庫の大きさを話し合って、ある程度の大きさと予算を照らし合わせる。
電気と階段をつけるくらいなら、そこまで値段も掛からないので今の手持ちでも全然余裕だった。
なので、貯蔵庫はサイバーモールで作ってしまって、稼働機と魔石だけ用意すれば問題無さそうだ。
庭の地下に貯蔵庫、庭にはグレンが欲しいと言っていた加工室。いい感じそうだ。
「いいんじゃねぇか。買い物は1人で行くのか?」
「ええ。プレミリューなら1日あれば往復出来ると思います」
「ゴブリンの巣は? 大丈夫?」
「1人でなら幾らでもやりすごせますよ。冒険者ギルドに注意喚起だけ伝えておきます」
「んだな。討伐されちまうとレベル上げ出来なくなるしな」
「違いますよ。せっかくここに家を建てたのに、冒険者にバレてしまっては意味がないでしょう?」
何言ってるんだと言いたげなジェラルドの視線に、私もハッとした。
そうだ、ここが冒険者にバレたら秘境に住んでる意味なくなっちゃうよね……。
見た事ない機械が取り付けられ、見えない壁に囲まれた家。絶対に口コミになってしまう。
呆れ顔のジェラルドに、グレンもその事を忘れていたのか頷いている。
「あー、確かにそうだな。あぶねぇ」
「しっかりして下さいね……」
「おう、もう忘れねぇわ」
一番順応してるジェラルドが一番家の事を考えてた。
自分の考えが甘すぎて、危機感が薄くなっていた気がするので気を付けないと。
そう思いながら、食べ終わった食器を流しに下げに行く。
ここがバレて大変な事になったら、秘境まで連れて来てくれたバージルに申し訳なくなってしまう。
ジェラルドもグレンも手伝ってくれたため、後片付けはすぐに終わった。皆でリビングのソファに座り話の続きをする。
「なので、申し訳ないんですが明日は早朝から出かけますね」
「おう。任せたわ」
「他に何か必要な物はありますか?」
「んー私は特に無いかな? グレンは何かある?」
「特にねぇなぁ……」
「無事に帰って来てくれればそれでいいよ」
そう言ってジェラルドに笑いかける。
欲しい物も特に無いし、今の所サイバーモールで大体手に入るので困っている事はない。
ジェラルドが怪我をしたり、悲しい思いをする方が嫌なのでそう伝えた。
少し照れたようにはにかむジェラルドは、ゆっくりと頷いてくれる。
「では、明日は洗濯や掃除をお任せしてしまいますけど、よろしくお願いしますね」
「うん、任せてね! ついでにお弁当の仕込みしちゃうから、グレンとジェラルドが先にお風呂に入っていいよ」
「んじゃそうさせてもらうわ。お先」
お弁当を作る事を伝えると、グレンが先にお風呂に入りに行く。
「何か手伝う事はありますか?」
「んー、じゃあお米を研いでもらおうかな」
日本式の食文化に慣れて来たのか、ジェラルドは頷いてすぐにお米を研ぎ始める。
ヘレトピアはバゲットみたいな硬いパンが主食だから、最初はそっちの方がいいかと思ったけど、お米が腹持ちがいいとの事で好評だった。
今度、腹持ちの良いベーグルでも焼いて食べてもらってみようかな。カロリーも低いし。
そんな事を考えながら、サイバーモールを眺める。
お弁当かぁ。何を作ろうかな。この間のハンバーガーで使ったハンバーグが残ってるから一個使っちゃおう。
プルメリアが獲ってきた魚もまだ残ってるから、トラウトのピタカ、ブロッコリーのカニカマあんかけ、ピーマンと白滝の炒め物でも作るかなぁ。
ブロッコリーとカニカマ、ピーマンと白滝を購入する。調味料はあるし問題ないかな。
トラウトを1口大に切って塩胡椒を小麦粉をまぶした後、フライパンに火をかけてバターを溶かしながら、溶き卵とパルメザンチーズを用意する。トラウトを溶き卵にくぐらせて、最後にチーズを軽く付けたらフライパンで焼いていく。焦がさないように中まで焼けば出来上がり。
お弁当にいれるので、お皿の上に置いて冷ます事にした。その横にハンバーグも1個出しておく。結構前に作ったのに、ホカホカと湯気が上がってるので本当に便利だ。
「もう炊いてしまってもいいですか?」
「うん、お願い」
私がそう答えると、炊飯器のスイッチを入れるジェラルド。しっかりおにぎり分と、朝食分のご飯を炊いてくれてる。
本当にこの生活に馴染んでるなぁ……。
そう思いながらジェラルドを見ていると、不思議そうに首を傾げられてしまう。
「どうかしましたか?」
「ううん、この生活に馴染んでるなって思って」
「そうですね、この電気ですか? 凄く便利なので無いと困りそうですね」
「便利だよね、私もこのスキルあって良かったなって思ってるもん」
そんな事を話ながら、ブロッコリーを1口サイズに切って、ピーマンも縦に短冊切りにする。
白滝はザルに出して少し水で洗ってから水分を切るために置いておく。
「何か手伝いますか?」
「じゃあカニカマほぐしてもらっていいかな?」
「ええ、カニカマってこれですか?」
手伝ってくれるという事なので、そうお願いする。
1本ビニールから出して揉むようにほぐして見せると、すぐに理解したのかジェラルドはカニカマをほぐし始めたのでそのままお任せする事にした。
水、白だし、酒、みりん、薄口醤油を鍋に入れて、そこにブロッコリーも追加して柔らかくなるまで煮込む。
柔らかくなるまで煮えたらカニカマを入れて、水溶き片栗粉でとろみをつければ完成だ。
またお弁当で使えるように、出来上がった物はさトレーにフードカップを並べて、そこに小分けにしていれておく。これでいつでもおかずの完成だ。冷凍も出来るしね。
これも冷ますために隅に避けておいた。
「風呂上がったぜ。ジェラルド行って来いよ」
「分かりました。すみませんチエさん、後はお願いしますね」
「はーい、行ってらっしゃい!」
一息付いていると、髪の毛をタオルで拭きながらグレンがリビングに戻ってくる。
入れ替わる用にジェラルドがお風呂に向かい、グレンがスンスンと匂いを嗅ぎながらキッチンに血数いて来た。
「美味そうな匂いがすんな」
「ご飯食べたばっかりなのにお腹すいたの?」
「1口くれ」
「しょうがないなぁ……」
冷めたピタカを1切れ、菜箸でつまんでグレンに差し出すと、グレンはそのままかぶりついた。
違う、手で受け取ると思ったのになんであーんになってるんだろう。
驚いて見つめていると、もぐもぐと咀嚼し始めたグレンは、目尻が下がり始める。
ニコニコしながら飲み込むと、口を開いた。
「うんめぇ……! チエもう1個!」
「お弁当のおかずだから駄目だよ! 無くなっちゃうでしょ!」
「あと1個だけ! 1個! チーズがうめぇ!」
「もー、これで最後だからね」
もう1切れだけグレンに手渡すと、それも美味しそうに食べ始めるグレン。
チーズが好きなのかなぁ。自分でもチーズ作りたいとか言ってたし。
明日のお昼はチーズがいっぱいかけれるナポリタンでも作るかな、と考えながらフライパンにごま油をひいて、ピーマンを炒め始める。
ピーマンがしんなりしてきたら白滝を入れて、鶏ガラスープの素を入れて味を軽くつけた後、白ごまを振りかけたら完成。
これもトレーにフードカップを並べて小分けにしておく。
今度、お弁当用にきんぴらとか、ほうれん草のベーコン炒めとか作っておこうかなぁと考えていると、グレンは満足したのか、コーラを冷蔵庫から出してソファに座って飲み始めた。
グレンも馴染みすぎだよねぇ……。
そう思いながらも、私も冷蔵庫からリンゴジュースとスポーツドリンクを取り出してソファに向かう。
プルメリアの餌入れにスポーツドリンクを入れると、グレンの隣に腰掛けた。
「ピィ!!」
「どういたしまして」
今のは私でも分かった!ありがとうだ!
何でプルメリアがこんなにスポーツドリンクを好むかは分からないけど、美味しそうに飲んでるので好物なのかもしれない。
プルメリアの背中を何度か撫でてから、私はグレンに話しかけた。
「貯蔵庫ってどんな風にしたらいいんだろう?」
「壁に棚付けんのと、後肉が吊るせる場所も欲しいな……」
肉を吊るすってどんなだろう?私の中では生ハムが吊るされてるようなイメージしか出来ないんだけど、合ってるのかな。
「こう、何かにひっかけてぶら下げるの? 肉もそのまま置いておける?」
「フックとかヒモで縛って吊るしとくんだ。氷の魔石を使うからよ、貯蔵庫の中は凍る手前ぐらいまで寒くなるし、血抜きしてバラした肉を下げとけば、好きな時に食えんだろ」
「なるほど……。時間が止まるなら、腐ったりカビたりもしなくなるの?」
「おう、中に入れた時の状態で止まっちまうから大丈夫だ」
グレンの言葉に、魔石ってなんて便利なんだろう、と感心する。
日本ではそんな事出来るの大型の業務用冷蔵庫ぐらいだし、生のままなら1年も持たないのではないだろうか。そう考えると、異世界にも地球より優れたところはあるんだなぁと感心した。
「じゃあ、逆に作物なんかは熟してから入れた方がいいの?」
「貯蔵庫から出しておいて熟させるっつう方法でもいいしな。果実も重ねて入れても、重なった所が痛んだりしねぇから大丈夫だ」
そうだよね、果物は重ねておくと、重みでそこから痛み始めるからね……。
重ねて置いておけるなんて、すごく便利だなぁ。
サイバーモールを開いてモデル販売で地下室を見て行くけど、殆ど生活空間の様な物ばかりだったので、注文販売で地下室を選択してみた。
敷地面積を入力すると何もない空間が画面に広がって、家具を設置して下さい、と出る。
プレビュー機能まであるのか、便利だなぁ。
壁面というタブを押すと、壁面収納や窓、棚など壁に設置する物がたくさん出て来た。
大きさを確認しながら、グレンと一緒に貯蔵庫を造っていく。
地面には麻袋を置けるように広さを取って、壁一面に野菜を入れた木箱が置けるように、サイバーモールで買える木箱にサイズを合わせた棚を取り付けた。
上の方でも取り出しやすいように、スライド式のハシゴも設置してある。
左を果実、中央に野菜、右が肉や魚などが置けるように考えて作った。肉と魚は吊るすためのポールとフックが付いている部分と、干物などを置いておけるように棚も設置しておく。
これで、どこに何があったっけ?と迷いにくくなりそうだ。
最後に、地下室への入り口部分を作り、この設定を保存する、というボタンを押した。
これで、明日購入すればすぐに地下室が出来るので、生活から配線を行えば電気も付くようになる。
中は寒いと言ってたし、今度全員分のコートを買わないとなぁと思っていると、ジェラルドがお風呂から上がってきたので、キッチンに置いてあったお弁当のおかずをアイテムボックスにしまってからお風呂へ向かった。
置いておくとグレンに食べられそうだからね……。
明日は早朝からという事で全員早く寝たせいか、起きたら4時ぐらいだった。
時計を見ながらもうちょっと寝ようかと迷ったけど、グレンはもう起きてるんだなぁと思うと、寝てるのが申し訳なくなったので、起きて伸びをする。
お弁当もつめてジェラルドに渡さないといけないし。そう思ってリビングに向かうと、2人とももう起きていて眠そうなプルメリアと一緒にくつろいでいた。
電気なんかないせいで、陽が沈んだら寝て、太陽が昇る前に起きる生活をしてるらしいので、2人には早起きは慣れたものなんだろうなぁ。
「おはよう!ご飯作っちゃうね!」
「おはよう、チエ」
「チエさん、おはようございます」
「ピィ……」
昨日、ご飯は炊いてくれてるし、捌いたトラウトも半分残ってるから焼き魚!
そう考えて、ご飯を作る。準備中にお弁当におかずを詰めて、おにぎりも作っておく。
ジェラルドは昆布が好きみたいなので、塩昆布おにぎりにしておいた。
皆で出来上がった朝食を完食すると、グレンは一足先に家畜の世話に出かけて行く。
ジェラルドも弓や矢のチェックをして、革の防具を着込んでいた。
お弁当良し、ステンレスボトルの水筒3本良し、魔石の入ったホルスターバッグ良し。
一つずつあるのを確認してからジェラルドに渡す。
忘れ物したから取りに帰ろう、というにはちょっと遠いもんね。
「ありがとうございます。帰りは22時を過ぎると思いますので、先に休んでて下さいね」
「待ってるよ、心配だし」
「フフ、ありがとうございます」
夜の森を突っ切ってくるんだ。感知があるから大丈夫だとは思うけど心配だなぁ。
でも、ジェラルドの弓の腕前は凄いし、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
「気を付けてね!」
「はい、チエさんも貯蔵庫の事お願いしますね」
「うん、任せて!」
外に出て、ジェラルドを見送る。
魔導昇降機で崖まで上っていくのを見届けてから、サイバーモールで庭を広げてから、家を囲っていた柵の位置も広げた場所まで下げた。
昨日保存した地下室を開いて購入ボタンを押すと、一気に貯蔵庫が出来上がる。
一応、中を確認しておくかなと扉を開けると、思ったよりもひんやりとしていた。
地下だからだろうか。
「うん、問題無さそう。配線もしなきゃ」
生活カテゴリーから配線を行い、電気を点ける。
ちゃんとプレビュー通りのしっかりとした貯蔵庫が出来上がっていた。
「あとは加工室が欲しいんだっけ。それはブルからミルクが採れるようになってからでいいのかな?」
そう呟いてから扉を閉めて外へと出ると、朝焼けで空が赤くなっているのに気付く。
星空も綺麗だったけど、朝焼けも綺麗だなぁ。
夜と朝の境界線。なんて言うんだっけ、マジックアワーだっけ? ブルーアワーだっけ?
ぼーっとそれを眺めていると、ブレイブチキンの大きな鳴き声で意識を取り戻した。
眺めてる場合じゃない、グレンを手伝わないと!
慌てて獣舎に駆けだすと、餌を持ったグレンの後ろをブレイヴチキンが追いかけまわしていた。
「おめぇらは最後! 大人しくしてな!」
「コケェェェェェ!!」
「うるっせぇ! 大きいのが先だっつうの!」
忙しそうに動き回るグレンと一緒に、飼い葉を運んだり寝床の掃除を行う。
帰りが22時なら、夜食くらい作っておこうかな。
そんな事を考えながら、1日中動き回った。
今日の晩御飯は何にしよう。ジェラルドが帰ってくるぐらいの時間だと夜食も居るし、グレンも食べるかな?カニカマがまだあるし、天津飯にしようかな。
そう考えて、3人分の天津飯と、グレンがつまめるようにおにぎりを握ったけど。
その日、ジェラルドが帰ってくる事は無かった。




