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第二十二話 VSゴブリン

武器を持ってゴブリンを倒しにいきますので苦手な方はご注意下さい。

「崖の上にゴブリンが巣を作っている気がします」



 バージルと別れて1週間程経つ。

 畑には、作物の種が蒔かれてもう芽を出しているし、養蜂箱3つの設置も終わらせてある。

 獣舎の前は川まで柵で覆われており、地面を牧草パネルと泥パネルに変えたそこでは、ブレイヴチキンの群れと、ビッグマーモットが4匹、ゴールデンホーンブルが2匹、マッドピッグという泥遊びが大好きすぎて寝る時以外ほぼ泥に埋まりたがる豚が2匹過ごしていた。


 早起きが得意なグレンが早朝に動物の世話をしにいき、私は朝食を作り、その間にジェラルドが洗濯物を洗って干して掃除をする。

 いつの間にか出来ていた各自の仕事を終えて、朝食を食べている最中にジェラルドがそう言いだした。



「そういや、ゴブリンが居るとかバージルが言ってたな」

「昨夜、崖の見回りをしている時に結構な数のゴブリンの足跡を見つけました。ここの存在に気付いているかもしれないです。西の崖に足跡が集中してありました」



 いまいちゴブリンという生き物が想像出来ない私は、1人で首を捻る。

 緑色でこん棒を持っているようなイメージしか沸いてこないので、あまり恐怖を感じないせいかもしれない。目の前に居たら絶対に怖くなるんだろうけど。



「ゴブリンって強いの?」

「ランク的にはEランク程度で武器が扱えれば簡単に倒せますが……」

「巣があんならDランク以上のゴブリンナイトとかも居んだろうな」

「ええ、巣の規模によりますが、Bランクのゴブリンキングも居るかも知れないので、一概に弱いとは言えないですね」



 冒険者ギルドで設定されている魔物のランク。

 新人冒険者用の指針になるそれは、ヘレトピアでは広く周知されていて狩人や農民も理解しているらしい。

 プルメリアはランクSの中でも、中の下ぐらいだって言ってたなぁとぼんやり思う。

 家や畑は安全地帯なので襲われる事はないだろうし、刺激しない方がいいのかな。

 そう思ったのでジェラルドに確認する。



「じゃあ、こっちからあんまり近づいて行かない方がいい?」

「40m近い崖の上から襲ってくる事はほぼありませんので放置しても構わないかも知れませんが、ゴブリンは繁殖力が高い上に人を攫って食べますので、処理しておいた方が良いかも知れません」

「え!? 人を食べるの……!?」

「男はな。女は……まぁ嫌な目に遭うだろうな」



 言葉を濁すグレンに、何となく察したので何も言わないでおく。

 嫌そうな顔をした私に気付いたのか、プルメリアがスリスリと私の足にすり寄って来た。



「なので、少しずつ討伐していこうかなと。プルメリアのレベルも上げたいので、一度チエさんに声を掛けておこうかと思いまして」

「レベル上げ……?」

「おう、プルメリアは何とも戦ってねぇから、レベル1のままじゃねぇのか?」



 そう言われて、確かに私もステータスがあったし、プルメリアにもあるのか、と思い当たる。

 鑑定と頭の中で唱えながらプルメリアを見てみると、目の前にプルメリアのステータスが現れた。

 皆にも見えたようで、グレンとジェラルドが私の後ろに回り込んだ。


 名前:プルメリア

レベル:1

  HP:3450

  MP:4000

 攻撃:260

 魔攻:310

 防御:290

 魔防:300

 敏捷:85


 スキル

 怪力

 勇敢

 空の王者

 状態異常無効


 プルメリアのステータスを見て、私は恐れ慄いた。

 私のステータスもっと低かった気がするんですけど!

 震えあがる私に気付く事もなく、ジェラルドとグレンは話しを続ける。



「さすがグリフォンだな……レベル1でこれか」

「レベルが上がったら恐ろしいですね……」

「でも敏捷だけあんま高くねぇな」

「空から滑空してくる時は相当速いらしいですけど、今はレベル1のせいですかね?」



 ステータスを見られているのが分かっているのか、プルメリアはしっかりお座りして胸を張っていた。

 ちなみに、プルメリアは既に私では抱えられない程まで大きくなっている。

 ローテーブルの下にはもう入れずにソファで座っている事が多い。

 全長は1mより少し小さいくらいだ。この勢いで大きくなったら6mなんてすぐじゃないんだろうか。



「レベルあげってどうするの? プルメリアも戦うの?」

「基本的には僕が1匹ずつおびき寄せて、プルメリアと戦おうと思います。ゴブリンは1回の出産で10匹前後産まれるので、1日に20~30匹ぐらい討伐していくつもりですね」

「俺は?」

「畑と家畜をお願いします。何かあるといけませんから」



 心配だけど、プルメリアが強くなってくれるのは嬉しい。

 今はジェラルドが1人で見回りや狩りなんかをしてくれてるので、ジェラルドの負担が大きい事が気になっているからだ。

 私も、戦えればいいんだけどなぁ。

 そう思っていると、グレンが不思議そうに口を開いた。



「チエのスキルで安全地帯作って、そこにおびき寄せて戦えば誰も怪我しねぇんじゃねぇのか?」

「……そういうところだけ賢いですね」

「あん? 何だやんのか?」

「確かにそのやり方なら、誰も怪我せず安全に討伐が行えますね……。でも、そうするとチエさんを連れて行かなくてはいけなくなるのか……」

「おい、無視すんじゃねぇよ」



 え? 私?

 急に名前を呼ばれたせいで、びっくりしてグレンを見る。

 ジェラルドは私を連れて行く事と安全性を考えて唸り声を上げていた。



「でも、まずは安全地帯内から攻撃が出来るかどうかが問題ですね」

「玄関から外に向かって矢飛ばしてみたら分かんじゃね?」

「そうですね、ちょっと確かめてみましょうか」



 ご飯を食べ終えて食器を流しへと下げたジェラルドは、立て掛けてあった弓と矢筒を手に取ると玄関から外に向かう。足元がサンダルなのはこの生活に慣れすぎなのではないかと思ったけど。

 サンルームからグレンと私が見守っていると、ジェラルドが矢を番えて空に放つ。

 放たれた矢は安全地帯を通り抜けて、何もない地面に突き刺さった。

 何本か試して撃った矢が全て安全地帯を通り抜けたので、攻撃は通ると思われる。

 地面から矢を引き抜いたジェラルドが戻ってくると、グレンが声を掛けた。



「いけそうだな」

「ええ、これなら問題無くプルメリアのレベル上げが出来ますね」

「安全にレベル上げ出来るって! 良かったねプルメリア!」

「ピィィ!」



 いつの間にか1人で立派に飛べるようになっていたプルメリアは、嬉しそうに羽ばたきしながら足踏みをしている。

 レベル上げが楽しみなんだろうか。めちゃくちゃ可愛い。

 楽しそうに走り回るプルメリアを見て笑っていると、グレンから声を掛けられた。



「んじゃあ午後からチエも行こうぜ。俺も行きてぇし」

「まぁ、夕方までに戻ってこれば家畜の世話も続きが出来ますしね」

「おう。チエ、肉と焼くモン用意しといてくれ」

「え、お肉?」

「ゴブリンをおびき寄せるんですね」



 安全地帯でお肉を焼いてゴブリンをおびき寄せる作戦らしい。

 バーベキューコンロだと大きすぎるから、七輪でも買っておこうかな……。

 そんな事を悩んでいると、グレンは伸びをして外に向かい始める。

 朝食後は3人で畑に水を撒いたり雑草を抜いたりする時間だから、早く終わらせるつもりなのかな。

 私も慌てて追いかける。このままだとグレンしか働いてない事になってしまう。



「おら、そうと決まりゃとっとと畑片付けんぞ」

「待って! 置いてかないで! 私も行くから!」

「僕も行きますよ。皆でやるんでしょう?」

「ピィ!」

「プルメリアも見守りをお願いね!」



 あれ、そういえば私は戦わなくていいんだろうか……。

 レベル上げなくてもいいのかな。私本当に弱いんだけど。そんな事を考えながら、皆で畑に向かった。


 畑の手入れは、まだ芽が小さい事もありそんなに多くない。

 枯れてないかとか(開花の手のお陰で余程無いらしいけど)、雑草が生えてないか、しなびてないか。

 確認が終わったら、水を撒く。季節によっては水撒きは早朝になるらしいので早起きの練習をしないといけないなぁ。ジョウロを片付けながら早起きの仕方に悩んでいると、ジェラルドに声を掛けられた。



「チエさん」

「あ、はい!」

「出来れば、僕はチエさんに武器を持って欲しくはないんですが。レベル上げに一緒に行くなら、チエさんの事は命に代えても守りますけど、万が一の為に何か武器を用意した方がいいと思うんです」



 難しい顔をしたジェラルドに、そう言われて考え込む。

 武器、と言われても、サイバーモールで買えるのは弓とかナイフぐらいの気がする。



「どんな武器がいいんだろう?」

「僕は、投擲武器や、弓、魔法など直接触れる事が無い物の方が良いと思いますよ」

「どうして? 命中させるのが大変じゃないのかな?」

「剣やナイフは、刺した時その感触がそのまま伝わりますよ。耐えられますか?」

「無理ですね……」

「はい、なので直接手に触れない物をオススメします」



 魔法は使えないので選択肢には入らない。

 そうすると、弓か投擲武器かのどちらかになる。と言ってもなぁ……。

 サイバーモールを開いて、自分に使えそうな物を探してみる。直接触れない、威嚇レベルでいいので攻撃が出来る。何がいいんだろう。


 狩猟で探した方がいいのかな、とアウトドアのページを見ると、狩猟用空気銃というのを発見した。

 お住まいの管轄に申請が必要です、と書いてある。

 え、これ大丈夫なの……?

 そもそも、ヘレトピアでお住まいの管轄ってどこ? フルールブランシュ? 何を申請するの?

 私が頭を悩ませていると、横から画面を見ていたジェラルドが首を傾げる。



「この武器は一体何でしょう? 見た事がありませんが」

「えっと、空気を圧縮した勢いで弾を飛ばして相手を殺傷する武器、かな……」

「どれくらいの威力があるんです?」

「人の頭を貫通するくらい……?」

「随分威力があるんですね」



 顎に手を添えて、少し考えるジェラルド。私もその横で頭を抱えて悩む。

 扱いは、手入れと使い方をわかりやすくまとめた冊子付!と書いてあるので良いとして、何か私が思ったのと違うファンタジーのような……? と、どうでもいいような事を考える。

 武器としては優秀なんだろう。ドキュメンタリーで猟師を特集しているのを見た時に、空気銃で獲物をしとめてる人とか居たし。

 プリチャージ式と書いてあるそこには、別売りのエアボンベが必要です、と書いてある。銃に直接エアボンベを装着して使うらしい。

 お値段はびっくりの金貨6枚もかかる。



「これにしましょう、チエさん」

「え、本気?」

「ええ、殺傷力がある物の方が、相手が苦しんでるのを見る時間が少ないですから」



 ジェラルドの言葉に、そうだ私は今からゴブリンを殺しに行くんだ、と実感する。

 きっと私が撃たなくても、死んだゴブリンを見る事になるんだ。

 耐えられるかな、大丈夫なのかな。付いて行かない方がいい気がする。

 でも、私が行かないと安全地帯が作れない。



「チエさんが行きたくないなら、別の方法がありますし無理をしないで下さいね」

「あ……」



 顔に出てたのかな。ジェラルドにそう言われてしまった。

 呆れてるような顔じゃなくて、本当に心配してそう言ってくれるのが分かるような優しい顔をして、私の事を気遣ってくれるジェラルド。

 強くなろうって、1週間前に誓ったばっかりなのに。この意志の弱さ。自分に呆れてしまう。



「もしかしたら、泣いたり、吐いたりするかも知れないけど。乗り越えないといけない事だから、一緒に行ってもいいかな?」

「ええ、チエさんは必ず守ります」

「ありがとう。でも、私もいつか皆を守れるように頑張るね」

「フフ、お願いします」



 サイバーモールで、狩りに必要な物を購入する。ついでに七輪とお肉も買った。

 ジェラルドと2人で説明書を見ながら、空気銃を確認して、使えるようにしておく。

 弾は、ペレットとかいう鉛の小さな粒だったので、取り出しやすいようにホルスターバックを購入してその中に入れた。

 準備が出来たので立ち上がると、遠くからグレンが私とジェラルドを呼ぶ。

 グレンの足元では、プルメリアが足踏みをして私達を急かしていた。



「片付け終わったなら飯食って行こうぜ」

「ピィ! ピィ! ピィィ!!」

「待ちきれないのが2人も居るみたいですね」

「本当だね」



 空気銃を背中に背負って立ち上がる。

 見かけだけはハンターっぽいけど殺す覚悟も、死んだ物を見る覚悟もあまり出来ているとは言えない。

 それでも少しずつ強くなろうと、ジェラルドと家に向かって歩き出した。


 昼食を済ませた後は、帰って来たら絶対俺が皿を洗うから早く行こう! と、グレンに急かされてすぐに出る事になった。

 待ちきれないのか、プルメリアもそわそわしている。

 狩りってそんなに楽しい物なのか分からない私は、苦笑いをするしかない。

 ジェラルドも、仕方無いと言わんばかりの顔で2人を見ている。



「西の方行ってよ、安全地帯作ったらすぐ肉焼くぞプルメリア!」

「ピィ!」

「いいか、俺が狩りのしかたを教えてやっからよ」

「ピィピィ!」

「大丈夫だって! 何かありゃ俺がチエを守っから、お前は自分のレベル上げに専念していいぜ」

「ピィーー!!」



 会話が成立してる事に笑うべきだろうか。驚いた方がいいんだろうか。

 え、プルメリアは私の心配もしてくれてたんだね。何でグレンだけ理解出来たんだろ?

 そんな事を考えながら、魔導昇降機で崖まで上っていく。

 到着して少し西に歩くと、すぐにたくさんの足跡が地面に残っているのに気付いた。

 ジェラルドが言っていたのは、これの事なんだ。



「確かに偵察にしちゃ数が多いな。30匹くらい居そうじゃねぇか」

「ええ。ここは身を隠せないので報告しました」

「隠せたらどうすんだよ」

「狙撃して皆殺しですよ?」

「何か、俺たまにおめぇが怖ぇわ……」



 この辺でいいと言われたので、2×2マスで土地を購入する。さすがに1mに4人も入れないからね。

 購入した土地を低い柵で囲えば、安全地帯もどこまでなのか簡単に把握出来る。

 アイテムボックスから七輪、炭、ライターを取り出して、火をつけて網をセットした。

 網が温まった頃にお肉を乗せて焼き始めると、辺りにいい匂いが充満し始めたのか、プルメリアがスンスンと空気の匂いを嗅いでいる。



「来ましたね。数は5匹か……偵察だと思われます」

「おう、来やがったか」

「いいですかプルメリア。ここから出ないように攻撃するんですよ」

「ピィ!」



 元気良く鳴くプルメリアは、柵のギリギリに立って落ち着きなく足踏みをしていた。

 どれだけ楽しみにしてるんだろう。どうしよう、戦闘狂に育ってしまったら……。


 そんな心配をしていると、ガサガサと木々をかき分ける音がして、子供くらいの大きさの生き物が5匹現れた。あれが、ゴブリン……。

 緑や茶色など、肌の色に多少の差異はあるけれど、5匹全員大人サイズの身体にあっていない様な破れた服を着ていて、下顎が少し大きくて歯が剥き出しになっているせで閉まりにくそうな口からは、涎がダラダラと零れていた。

 髪は生えておらず、手にはボロボロになったナイフや鎌などが握られている。

 偵察だと思う、との事だったけど、こちらの様子を伺う為に木々をかき分けて出て来た事を考えても、あまり知能は高くなさそうだ。

 その姿に、私は恐怖よりも生理的な嫌悪感が先に来る。え、何これ無理、気持ち悪い。


 お互いに存在を認識して見つめ合っていると、ゴブリン達が会話をし始めた。



「グギャ! ラギャギャ!」

「ググギャ! ギャッギャ!」

「何喋ってんだあいつ等」

「作戦を相談しているんじゃないんですか?」

「敵前で作戦会議とか、頭悪ィな……」

「もう、見た目がごめんなさい、ちょっと受け付けない……!」

「では取り合えずこちらまでおびき寄せますね」



 ジェラルドはそう言うと、矢を番えてゴブリンの足元に放つ。

 地面に突き刺さった矢に気付いたゴブリンは、地団駄を踏んで興奮し始めた。怒ってるのか喜んでるのか、いまいち分かりにくいな……。

 私がそんな事を考えていると、ゴブリンは手に持った武器を振り上げて走ってくる。

 あまり足は速くないのか、私でもちゃんと見えるくらいの速度だった。

 


「ピュロロロロロ!!」



 早く! 早く! と、言いたげなプルメリアが、足踏みを強めながら大きな声で鳴く。

 ゴブリンは振り上げた武器でプルメリアを攻撃しようとするけれど、見えない壁に攻撃が阻まれてしまった。プルメリアはそのタイミングを見逃さず、前足で何度もゴブリンを引っ掻いている。

 上手く当てられない事もあったけど、プルメリアに引っ掻かれたゴブリンは、大体一撃で絶命していく。

 青とも紫とも言い難い血が、見えない壁に飛び散っているのを見て、私は顔を顰める。

 赤じゃなくて良かった。赤だったらきっともっと嫌な気持ちになっていたと思う。


 5匹全部が動かなくなったところで、プルメリアは嬉しそうに鳴き声をあげていた。

 グレンはしゃがみ込んでプルメリアの頭を撫でると、褒め始める。



「すげぇなプルメリア! ちゃんと倒せたな!」

「ピィ!」

「次に攻撃する時は、目ぇ閉じねぇでしっかり見て攻撃すんだぞ!」

「ピィィィ!」



 目を閉じてしまっていたから当たらない事があったんだ。よく見てるなぁ。

 グレンに感心しながら、私は動かなくなったゴブリンに近付いて行く。

 若干、腰が引けてるのは見逃してほしい。


 切り裂かれた胸やお腹をグロテスクだと思うけど、外見がゲームで見た事があって自分でも何度も倒しているせいか、吐いたりする程の動揺や嫌悪感は無かった。魔物、と言うカテゴリーなら問題ないのかな?

 ムカデの魔物の時も、気持ち悪い、おぞましい、そういう気持ちはあったけれど、殺されるのを見ても可哀想だと思わなかった事を思い出した。


 これが、自分の手で育てた生き物を殺して食べるとかになって、それは可哀想って思うのかなと考えると、人間って自分勝手だなぁと少し自嘲する。



「チエさん、平気そうですか?」

「うん、結構大丈夫みたい」

「今4匹近付いてきていますので、次は攻撃してみますか?」

「そうだね、試してみてもいいかな?」

「はい。出来るだけ、目を狙って撃つようにしてみて下さい」



 ジェラルドにそう言われて、空気銃を構えてゴブリンを待った。

 目を狙えと言われたので、いつでもスコープを覗けるようにしながら正面を見る。

 少しすると、また木々をかき分けてゴブリンが現れたので、スコープを覗いて目を狙う。

 死んだ魚のように濁った眼が、ぎょろぎょろと動いてこちらを見ていた。


 引き金にかけた指に力を込めると、プシュンと言う音がして弾が発射されていく。

 弾は狙った場所から少しずれて、ゴブリンの眉間を貫通した。

 3秒程すると、歩いていたゴブリンはゆっくりとその場に倒れて動かなくなる。



「やはり凄い威力ですね……」



 ジェラルドが何度も頷きながらそう呟いた。

 仲間を殺された事に怒ったゴブリンは、走ってこちらに駆け寄ってくるけれど、見えない壁に阻まれて余計に怒り狂う。

 何度も壁を叩いたり噛みつこうと口を開けているけれど、壁が壊れるような様子はなかった。



「大丈夫ですか?」

「え、うん……。何か本当に、あんまり問題なさそう……?」

「そうですね……。でも一応、チエさんはこの1匹だけにしておきましょうか。グレン、プルメリア、攻撃していいですよ」



 今か今かとソワソワしているグレンとプルメリアに、ジェラルドが声を掛けると、2人はすぐにゴブリンを倒していってしまう。

 圧倒的とでも言うんだろうなぁ。その光景を見ながらそんな事を考える。

 その場にしゃがみ込んで、私は肉を焼く事に専念しておいた。心がふわふわしているような、ここじゃないどこかに居るような、そんな感じがずっとあるからだ。



「チエさん、辛くないですか?」

「うーん……心がここに無い感じがする」

「初めての狩りだから仕方無いですね。僕も最初はそうでしたから」

「ジェラルドも?」

「ええ、翌日に生き物を殺した事を自覚して泣きました。けれど、テイムされている魔物以外は、人間と共存出来る物の方が少ないので。生きて行く為には食べないといけませんからね」



 ジェラルドの話を聞きながら、皆通る道なのかと少し安心した。

 スライムとかなら、多分何も考えずに倒せたのかな。

 何が問題なんだろう? 見た目? 血液? 知性?

 プルメリアとグレンの勝利の雄たけびを聞きながら、自分自身に問いかけた。

 人間相手に殺し合いをするよりかはマシなのかな。私達が今ここでゴブリンを倒す事は、未来の誰かの命を助ける事になるのかもしれない。自分をそう励まし続けておく。


 1時間程で、40匹近いゴブリンが倒された。

 ゴロゴロと転がっているゴブリンの死体をどうするんだろうと考えていると、ジェラルドが周りを見渡した後、私に声を掛ける。



「チエさん、火を消して大丈夫ですよ。警戒されたみたいですね」

「んじゃ今日は打ち切りか」

「ええ。魔石だけ抜いてゴブリンは埋めましょう」



 そう言ってナイフを取り出したグレンとジェラルドは、安全地帯を出てゴブリンをひっくり返すと、右の腹部から親指の先ぐらいの大きさの石を取り出し始めた。

 赤、茶、黒、緑色んな色の石が安全地帯に放り込まれていく。

 ホルスターバックに入れておいて欲しいと言われた為、布で綺麗にふき取ってから1つずつ入れていった。



「これが、魔石?」

「ええ、この親指の先程の大きさの物はEランクの魔石ですね」

「まぁ、ちいせぇ魔道具に使われるから売れない事もねぇしな」



 場所が分かっている為か、魔石を取るのはすぐに終わったので、ジェラルドが魔法で地面に穴を開けて、グレンがその中にゴブリンを放り込んでいく。

 全部放り込むと、ジェラルドは穴を塞いでしまう。

 ちょっとゴブリンの体液が飛び散っている以外は、何も無くなった。



「ゴブリンの武器、明らかに人間の物でしたね」

「どっかから盗んだのか、誰かが攫われたんだろうな……」

「農民かも知れませんね。早めに処理した方がいいかもしれません」



 グレンとジェラルドの会話で、誰か犠牲者が居る事に気付く。

 そうだ、明らかにサイズのあってない服、武器にしてた鎌や鍬、あれは人間が使う物だ。

 戦うのは怖いけど、やっぱり少しずつ戦えるようになりたい。

 怖いけど。守られるだけは嫌だから、頑張ろう。そう思って、手に持っていた空気銃を握りしめた。



「おう、手伝うわ」

「ピィ!」

「ありがとうございます。チエさん、ここの土地はこのままで構いませんので、戻りましょうか」

「うん、家畜の世話もあるしね」



 空気銃を背中に背負って、皆で昇降機に向かう。

 レベル上げ出来て嬉しいのか、プルメリアは宙をクルクルと舞いながら皆の後をついてきている。

 明日からも定期的にゴブリン討伐でレベル上げをするという事を、皆で昇降機の中で話し合っていた。

 こっそりステータスを覗くと、レベルが2になっていたので、少し安心する。

 ちゃんとゴブリンを自分で倒した事を、レベルという形で実感出来たから。


 明日からも1つずつ頑張っていこう。

 心にそう決めて、武器を片付けて家畜の世話に皆で向かった。

空気銃は銃の所持免許が必要ですが、異世界なのでそのまま使っております。

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