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第二話 酷い仕打ち

「成功だ! 此度の召喚は三人も異世界からの英雄が!!」



 大きな宣言の後に、歓声に包まれる。

 まだ落下しているようなふわふわした感じに包まれながら目を開けると、司祭服に身を包んだ男性が数人、シスター服に身を包んだ女性が数人見えた。



「異世界の英雄様! 勝手な願いですがどうか我々にお力をお貸しください!」



 私と同じように吃驚した顔をしている、スマホを握りしめた女性と、男子高校生も同じ場所に居る。

 明らかに日本人。オリーヴァーさんが言ってた2人とはこの人達だろうな、と感じた。

 感じても、この場所の異様な熱気と興奮したおじさん達に囲まれて、私は上手く話を切り出せそうにないし、2人も明らかに戸惑っている。



「あの、ここ「鑑定の儀を行う! 真実の鏡を持ってくるのだ!」



 意を決した様に、スマホの女性がそう声を上げた瞬間、一番偉そうな男性が被せるような大声で何かを持ってくるように指示を出した。

 女性は驚いたのか、萎縮した様にまた下を向いてしまう。

 男子高校生は、所在無さげに視線を彷徨わせているし、私も混乱から立ち直れていない。


 少しして、神官服のおじさんが三人掛りで持って来たのは、楕円形の大きな鏡だった。

 銀色に鈍く輝く鏡からは、白いモヤの様な物が漂ってみえる。



「一人ずつ鑑定を行う! 前へ!」



 英雄様! からいきなり命令形?

 でも悲しいかな、日本人の性なのか特に口を挟むこともなく全員が並んでしまう。

 英雄を召喚したんだよね? なんか扱い悪くない? ブラック企業?

 そう思ったけど、どうなっているのか分からないので、従うしかない。


 スマホを握りしめた女性、男子高校生、私の順番に並ぶと、偉そうなおじさんが鏡を女性に向けて、鏡を覗き込む。

 その顔は喜びに満ちているが、私たちは意味が分からずに置いてけぼりである。



「おお! この者には聖女のスキルがあるぞ!」

「なんと! 50年振りの聖女ではないか!」

「他にも守護のスキルもあるではないか!」



 祈る様なポーズだった女性は、神官達の声にそっと視線を上げ、自分のスキルが褒められていることに気付くと嬉しそうに微笑みながら、ため息をついた。

 そうだよね、役に立たないとか言われたら悲しいもんね。

 嬉しそうな女性は、シスター服の女性達に周りを囲まれると手を取られ、奥の扉の前へと誘導される。



「この者には賢者のスキルがあります! 他にも身体強化、詠唱破棄もありますね!」

「賢者も30年ぶりだな!」



 男子高校生は言葉こそ発しなかったがガッツポーズをしながら、喜びに震えていた。

 彼も良さげなスキルを持っていたようで、シスター服の女性に手を取られ、奥の扉の前へと誘導されていく。


 最後は私だ。

 どうしよう、いいスキルが無かったら。

 オリーヴァーさんに文句を言うしかない。そもそもここでいいスキル無かったらどうなるの?

 不安しかない。どうしよう。

 

 嫌な予感は当たるもので、私のスキルを見ている神官のおじさん達に困惑が広がっているのを感じた。



「この者は、開花の手と……サイバーモール……?」

「なんだサイバーモールとは……」

「開花の手は農民向けのスキルですが、サイバーモールとは一体……?」



 言われた私も意味が分からなくて、サイバーモール? と首を傾げた。

 日本でサイバーモールと言えば、A○○zonや楽○などのショッピングサイトだけど、スキルのサイバーモールとは一体何なんだろう。

 それよりも、みんなの困惑に顔を上げるタイミングを逃してしまった私は、どうしたものかとその場で顔を伏せている。

 上げるタイミング逃したなぁ。

 一人困りながらタイミングを見計らっていると、奥から吹き出す声が聞こえて来た。



「ダッサ、サイバーモールってなにそれ」



 顔を上げると、笑っているのは女性の方で、男子高校生は笑いを堪えているのか少しニヤニヤとしている。

 あまり、良い気分ではないけど確かにサイバーモールって意味がわからないし、反論しようという気にもならない。

 これは、後でオリーヴァーさんに文句を言わなくては。そう心に誓う。



「あの、私あまりお役に立てないみたいですし、簡単なお話だけ伺ったらお暇させて頂きたいのですが……」



 取り合えず、追い出されるにしろ、受け入れてもらうにしろ、情報が無ければどうにもならないので、羞恥心を誤魔化す様にそう声を絞りながら提案すると、神官服のおじさん達が集まって何やら小声で相談し始めた。

 私の質問に答える気はないって事なのかな……。


 少しすると話しが纏まったのか、シスター服の女性を一人呼び寄せて声を掛けると、なにかを取りに行かせてから、私の方へ、その場に居る全員が視線を向けた。

 怖い。何を言われるんだろう。


 そう思っていると、一番偉そうなおじさんが偉そうな喋り方で演説を始めたので、私は間の抜けた顔でそれを見つめる。



「我々はオリーヴァー神の使徒です。神の慈悲に縋るものを見捨てるわけにはいきません! この異世界から召喚されたと嘘を吐いた女性もです!」



 いきなりの嘘吐き呼ばわりに混乱する私を置いて、おじさんは偉そうな演説を続けている。



「彼女を許すこともまた神の教えなのでしょう! 彼女に恵みを与え、神の教えを説く事こそ我々の使命である!」



 何かを取りに行ったシスター服の女性が、小さな革袋を持って偉そうなおじさんに近づく。

 それを手に持ったおじさんは、ジリジリと私に近付いてくる。

 顔には笑みが浮かんでいるけれど、目が怖かった。人を蔑む視線だ。



「さぁ、これを受け取って下さい」

「いや、ちょっと……」



 嫌々と小さな抵抗をするけれど、おじさんの力には敵わずに、私に無理矢理袋を握らされてしまう。おじさんは、私に革袋を握らせて満足したのか、何度も笑顔で頷いていた。

 私が異世界召喚させられた、と嘘を吐いてこの場に紛れ込んだけれど、慈悲で金を握らせて穏便にお引き取り願ったという筋書きだろうか。

 オリーヴァーさんちょっと人間の教育間違えてません!?


 お金を握らされた私は、神官服のおじさん達に両腕を取られ、大した抵抗すら出来ずに外まで引きずられていく。

 離して下さい、話が聞きたいだけ、という私の訴えは無視されて、そのまま外に放り出された。

 文字通り、おじさん達に投げ飛ばされたのである。



「教皇様の慈悲に感謝しろ! 二度と教会に足を踏み入れるではないわ!」



 大理石やステンドグラスに囲まれた絢爛な教会から放り出されて、目の前で扉を閉められてしまった。

 私、何もしてないのに、何で?

 呆然とするしか出来なくて、じっとその場で座り込んで扉を見つめていると、ぽろりと涙が一粒零れてしまう。声も喉に張り付いたように、何も出て来なかった。


 別に異世界召喚の事に文句を言おうとか、家に帰せと喚くとか、そんな気は全く無いのに、嘘吐き呼ばわりした上に外に投げ捨てて関係を断ち切る。

 絶対こいつらロクな集団ではない!!


 私の側を通り過ぎて行く人達も小さな声で何かを言い合っているが、手を差し伸べてくれる人は皆無だ。

 立ち上がってスカートをはたく。

 こんなところで座り込んで、泣き喚いてる訳にはいかない。情報を集めなければ!

 家に帰れないのなら、生きていかなくては!

 絶対に負けない。こんな事する人達に負けてたまるものか。



「泣くな私……! 頑張れ」



 上を向いて歯を食いしばり、涙を堪える。

 最初に零れてしまった涙を拭って、これ以上泣かないようにと、必死に耐えた。


 いつまでもここに居ると余計泣きそうだったため、教会が立ち並ぶ絢爛な建物から離れて市街地に向かおうと歩き出す。

 緩い下り坂を歩きながら、たくさんの人が居るところに出たら確認することをスマホのメモ帳に書き出していく。

 何かをしている方が、気が紛れるので辛さを誤魔化せる。



「まずは紙幣価値、金貨10枚でどれくらい生活出来るのか。あとは魔物や戦争なんかの情報、生活水準とかかな……」



 革袋の中には金貨が10枚入っていた。

 これにどれくらいの価値があるか分からないけれど、金貨10枚を使い切ってしまう前に何とか生活を安定させなければいけない。

 革袋の中から金貨1枚を取り出してポケットに入れると、残りの9枚は鞄の奥にしまう。

 これは私の生命線だ。無くしたりしたら取り返しがつかない。


 ポケットの中で金貨を握りしめながら歩き続けること15分。たくさんの人が行き交うマルシェのような場所に出た。

 楽しそうな親子や、兄弟、恋人同士などたくさんの人が集まり、生活を営む音が響く。

 さっきまでのイライラ感は収まり、知らない土地に旅行に来たかのようなワクワク感に胸が躍る。



「すごい……!」



 売られている野菜や魚は、見た目は地球にあった物と変わらない様に見えるが、肉は見たことないような物があるし、乾燥させた葉や花などもあった。

 煙草などの趣向品、焼きたてのパンや飲み物、串焼きなどの調理済みの物も売られているし、とてもいい匂いがする。


 邪魔にならないところでマルシェの様子を眺めていると、10歳くらいの女の子と5歳くらいの男の子が、背負子に乗せた薪をパン屋さんに売っているのを見かけた。

 あんなに小さい子達でも、働いているんだ。

 薪を売って、そのお金でパンを買っている。

 男の子がパンを大事に握りしめて、女の子がパン屋さんに頭を下げて店から立ち去って行く。


 あの子達に話を聞いてみようかな。

 そう思って、その子達を後ろから追いかける。



「ビッグマーモットの串焼きだ! 食べたいなぁ……」

「ダメ! お母さんの薬も買わないといけないからお金無いよ」



 美味しそうな匂いに釣られて立ち止まった男の子に、女の子が悲しそうな顔をしながらそう伝えるのを聞いて、申し訳ないけれど少し同情してしまった。

 パン一つを抱えた子供がお腹をすかせているなんて、今まで映画の中でしか見たことがない。

 串焼きを奢ったら、私も話を聞けるし、この子達も食べれるよね。

 私には、助ける事は出来なくても、お互いに利益を得られる方法を提示する事が出来る。



「ねぇねぇ、私今日この街に来たばっかりなんだけど、串焼き奢るから色々教えてくれないかな?」



 なるべく怪しまれないように、明るく声を掛けると、二人は不思議そうに私の顔を見つめる。



「教えたら串焼きくれるの?」

「うん、質問に答えてくれればね」

「やったぁ、何でも聞いて!」



 嬉しそうにニコニコと笑う姉弟に串焼きを3本ずつ手渡して、色々話を聞く。

 4人家族が一月に金貨3枚あれば生活出来ると言われ、金貨1枚を大体10万円くらいだと予想を付けた。

 金貨以外の紙幣価値を確認すると、大体これぐらいになるみたいだ。


 白金貨1枚1000万円

 金貨1枚10万円

 金貨100枚で白金貨1枚

 銀貨1枚1000円

 銀貨100枚で金貨1枚

 銅貨1枚10円

 銅貨100枚で銀貨1枚


 さっき姉弟が買ったバタールは1つ銅貨18枚、家族3人で3日分の食事になるらしい。


 また、ここはオリーヴァー神聖国の首都トゥインドル。大陸の中央に位置しており、どこの国にもアクセスしやすく、人間には住みやすい国であること。

 街の外には魔物が居て、冒険者や狩人が狩っていること、勝てない時は逃げること、姉弟の父親は冒険者をやっていて死んでしまったこと。

 南に肥沃した大地が広がっており、北は土地が痩せていること。北からここに引っ越してきて、今はトゥインドルのスラム街に住んでいることを姉弟は教えてくれた。

 他にも、アイテムボックスは大小様々だか皆が持ち合わせており、鑑定は召喚された勇者にしか使えない事、鑑定ルーペという物の品質のみが見れる魔道具がある事、品質が高い物は王族や貴族用に買取をされる事など、様々な事を話してくれる。



「色々教えてくれてありがとう! 最後にオススメの宿屋さんはあるかな?」

「ご飯はつかないけど、草屋根の宿屋さんがオススメだよ。毎日シーツを洗ってるからね」



 姉弟のその言葉に、そこに泊まろうと強く思った。

 清潔感、大事。


 手を振って見送ってくれる姉弟と別れ、教えてもらった草屋根の宿屋に向かって歩く。

 マルシェから5分ほど歩くと、こぢんまりとした草屋根の宿屋を見つけて、チェックインをする。

 1泊素泊まり銀貨2枚。鍵を受け取り部屋に入ると6畳程の部屋にベッドとサイドテーブルが置かれていた。

 靴を脱いでベッドに横たわると、大きく息を吐いて目を閉じる。

 色々ありすぎて疲れたなぁ……。

 少し仮眠を取ろうと目を閉じて、硬いベッドに身を任せた。


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[一言] こんにちは。 追い出すときに渡したお金が思ったより高額で驚きました。 今まで読んだ他の作者さんの話だと、一文無しで追い出したり、必要ないから殺せのような話もあったので。 クズだけどまだ幾分優…
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