第十七話 秘境に畑を作る前編
「朝ご飯……作らなきゃ……」
昨日、泣いてしまったせいでパンパンに腫れた目を擦りながら起き上がる。
あの後、泣いているのを隠すために先に部屋に戻ったので、ジェラルドさんとグレンさんがどうなったのかは分からないけど、シジミの味噌汁でも作るかな、とベッドから降りた。
昨日、お酒の勢いもあってか……バージル、を呼び捨てにしてしまったけど、今になって羞恥心に襲われている。どうしよう。でも良いって言っちゃったしな。
リビングの扉を開けると、プルメリアがソファの上で寝ている以外誰も居なかったけれど、物音で目が覚めたのか、プルメリアが私を見て鳴いた。
「ピィ!」
「おはようプルメリア! 皆のご飯先に作っちゃうからまだ寝てていいよ」
「ピィピィ!」
丸まってからまた寝始めたプルメリアを見届けて、朝食のメニューを考える。
先にお米を炊いておくために炊飯器へセットしてスタートボタンを押し、朝食は軽めにしようとサイバーモールを開いた。
二日酔いには何がいいんだっけ。
定番のシジミの味噌汁に、バナナとアロエとアボカドとグレープフルーツ、大根おろしと梅干しと牛乳にトマトだっけ? 他にもあった気がするけど思い出せない。
アロエヨーグルトにバナナを混ぜて、エビアボカドにトマトを添えて、大根おろしと梅干のおにぎり、しじみ汁でいいかな。
そう考えて必要な物をカートに入れていく。
届いた商品を袋から出していると、バージルさんが起きてきた。
「もう起きてたのか。おはようチエ」
「お、おはよう、バー、ジル」
「お、ちゃんと呼んでくれたな」
若干挙動不審になったけど、名前だけで呼ぶ事が出来た私を見て、嬉しそうにそう言うバージル。
「朝になったら戻るかと思ってたんだけどな!」
「戻っていいなら戻す……ますよ」
「そのままでいい。朝食作るなら見ててもいいか?」
「うん、いいよ」
ダイニングテーブルからイスを持ってきたバージルは、キッチンの正面に陣取る。
それを横目にまずは味噌汁から作るかな、と袋の中からシジミとネギを取り出した。
お鍋に水と出汁パックを入れて、火にかけておく。
砂抜き済みの冷凍シジミをボウルに入れ、擦り洗いをしてザルにあげる。これをちゃんとしないと、茹でてる時にシジミの殻が剥がれてしまう事があるのでちゃんと行った。
出汁が出たところで出汁パックを取り出して、その中にシジミを入れて殻が開くまで茹でていく。
灰汁を取らないと味が悪くなってしまうので、これもしっかりと行う。
私が朝食を作るのを見ながら、バージルは嬉しそうに笑った。
「シジミのミト汁か~、美味そうだな」
「そういえば、ヘレトピアにある野菜とか魚介類って日本と呼び名が変わらない物が多いね」
バージルの言葉に、ふと疑問を感じた私がそう尋ねると、バージルがきょとんとしてから呟く。
「言われてみれば確かにそうだな……。召喚されたニホンジンが命名したのかもな」
「そうだよね、じゃないと名前とか違ってそうだし……」
そんな物なのかな、と納得をしてから、味噌を入れて味を整える。
切ったネギを入れたら蓋をして、火を消す。余熱で火が通るので味噌汁は出来上がりだ。
アイテムボックスから朝食を乗せるためのプレートを取り出すと、冷凍エビを袋から取り出して電子レンジで解凍しながら、アボカドを皮を剥き始めた。
エビが解凍されたらぶつ切りにして、アボカドとマヨネーズ、塩胡椒と和えるだけ。簡単なのに美味しい。
プレートにエビアボカドを乗せた後、トマトをクシ切りにして添えた。
「ねぇバージル。ヴルエーラでどういう生活をしてるの?」
アロエヨーグルトを袋から出してボウルに投入しながらそう尋ねると、バージルは不思議そうな顔をした後、キッチンに頬杖を突いて考えこんだ。
「うーん、ヴルエーラには街が1つしかないんだ。ヴルエーラの首都はヴルエーラ。”フェイト”はその街の隅にクラン所有の家があるから、普段はそこで生活してるな。ケイタの補佐をしながらクランでの業務をこなしつつ、各地に飛んで脱走奴隷を保護したり、他のクラン同士の揉め事の仲裁もしてる」
バナナを角切りにしながら話を聞いていた私は、隅に住んでいるという言葉に疑問が浮かぶ。
「Sランク冒険者が居るなら、隅っこじゃなくてもっといい場所でも住めるんじゃないの?」
「住もうと思えばな。ただ、クランハウスの裏から洞窟を抜けていくと海岸があるからな。そこの方がいいんだ」
「あ、塩作りのため?」
「ああ。クランハウスに保護された人達も住んでるから、安全面と拡張のしやすさからそこにしたんだ。わざわざ僻地に住みたい奴も少ないだろうしな」
わざわざ僻地に住むために移動してきた私には耳が痛い。
バナナとアロエヨーグルトを混ぜ合わせてから、器に盛ってプレートに置く。
ご飯が炊けるまでもう少しかかりそうなので、先に大根おろしを作ろうとおろし金と大根を取り出した。
大根の皮を剥いてすり下ろそうとすると、バージルが言葉を続ける。
「あとはそうだな。ダンジョンに潜ったりしてるな」
「高難易度ダンジョンが6つだっけ……。ドラゴンもいっぱい居る……」
「よく覚えてるな。あー、俺もあと2匹ドラゴン討伐しないとSランクになれないしな……」
「Sランクになるための条件とかあるの?」
大根をシャカシャカと擦りおろしながら私がそう尋ねると、バージルは頷きながら答えてくれた。
「ああ。ドラゴン種3匹以上の討伐実績、2ヶ国以上の国からの推薦、A級ダンジョン1ヶ所以上の踏破が条件だな。国からの推薦はあるし、A級ダンジョンも踏破してる。あとはドラゴンだけだな」
「それって一人で倒さなきゃ駄目なの?」
「いや、Aランク以下のみの冒険者で構成されたパーティーなら問題無いな」
大根おろしが出来上がったので、少し絞って水分を捨てておくと、梅干しを取り出す。
いきなり普通の梅干しは辛いかと思って、蜂蜜入りの甘くて大粒のものを購入したので、それの種を抜いて叩いて行く。
「じゃあ、結構忙しいんだね」
「そうでもないさ。俺以外にも優秀なメンバーが居るからな」
ご飯が炊けました、と炊飯器がお知らせしてくれたので、スイッチを切ってご飯を御釜ごと取り出した。
鍋敷きを敷いて、その上に御釜を置く。
ラップを適度な大きさに切ってご飯を丸めておにぎりにしていると、三角になるのが面白かったのかバージルが身を乗り出してきた。
「なんで三角になるんだ? すごいな」
「やってみる? 結構簡単だよ」
私がそういうと、バージルはキッチンに入ってきて手を洗う。
ラップを切ってバージルの手の上にお米を乗せた後、手本を見せながらおにぎりを握っていく。
見様見真似で、一生懸命自分の手元を見つめて、おにぎりを握るバージル。
「力を入れずに、手を山の形にして回すと作りやすいよ」
「ここでマスターして帰って、ケイタに食わせてやるんだ」
「優しさから?」
「いや、自慢だな」
ふふん、と意地悪そうな顔をしてそういうバージルにつられて笑ってしまう。
何個かおにぎりを作ると、バージルは上手におにぎりが握れるようになった。
「おー、すごいね! じゃあついでに海苔も巻いてもらおうかな」
「任せろ! おにぎりマスターだからな」
「出来たおにぎりに、この海苔をこうやって巻いてくれる?」
おにぎり用の味付け海苔を袋から取り出して、巻いて見せてみると、一度で上手に巻いて行く。
実は料理の才能があるんじゃないかな、と思いながら、私もおにぎりに海苔を巻いて行った。
出来上がったおにぎりをプレートに横にして置くと、その上に梅干しのピューレと大根おろしを乗せて、大根おろしには醤油をかけたら出来上がりだ。
「まだ2人共起きてこないね」
「起こしてくるからそのまま準備しとてもらってもいいか?」
「分かった、お願いね」
リビングを出ていくバージルを見送ると、テーブルの上に味噌汁とプレートを置いて、ナイフとフォークを出した。シジミの殻入れも置いておく。
お茶とコップを出してから、二日酔いにはスポーツドリンクもいいことを思い出したので、サイバーモールで購入して一緒に置いておいた。
その後に、プルメリアの餌入れに餌を入れて名前を呼んだ。
「プルメリア、ご飯だよ!」
「ピィ! ピィィ!!」
クルクルと回りながら駆けてくるプルメリアの頭を撫でて、餌入れを床に置く。
すごい勢いで無くなっていく餌を眺めていると、頭を押さえたジェラルドさんとグレンさんが起きてきた。バージルは苦笑いをしている。
あれは絶対二日酔いの顔だ。
「おはようございます、大丈夫ですか?」
「おはようございます、チエさん……」
「おはよ……」
頭を押さえながらリビングにやってきたグレンさんとジェラルドさんに、私も苦笑いをしてしまう。
「朝ご飯は二日酔いに効く物ばかりなので、ゆっくり食べて下さいね」
「すみません、ありがとうございます……」
「わりぃな、助かる……」
皆でテーブルを囲んでご飯を食べる。
ジェラルドさんとグレンさんのコップにはスポーツドリンクを入れておいた。
いつもより静かにご飯を食べていると、グレンさんがボソボソと喋りだす。二日酔いが酷いのか、喋りながら何度も頭を押さえている。
「今日、畑と果樹園と養蜂の場所決めんだろ? 他は何かする予定あんのか……?」
「外に獣舎は作りたいですね……」
「貯蔵庫はまだ作れないですしね。今日はそれぐらいにしておきますか? 頭痛が酷そうですし」
「大変そうだな、二日酔い」
「バージルは全然そんな気配無いですね……」
「酔った事が無いから二日酔いになった事がないな」
「ザルかよ……」
ご飯を食べ終えたプルメリアが、私の足を前足でつつく。
下を向くと、お座りをして私を見上げるプルメリアが居た。何だろう? と思っていると、私の膝の上に乗ってスポーツドリンクの方を向いて鳴いている。
これが欲しいのかと思って、餌入れにスポーツドリンクを入れてあげるとゆっくりと飲み始めた。
何でピンポイントでこれを欲しがったんだろう?
疑問に思ったけど、話が出来ないため首を傾げて席に戻る。
残りのご飯を全部食べると、全員分のお皿を流し台へと下げた。
「二日酔い止めの薬あったかな……」
サイバーモールでドラッグストア・ビューティーのページを開いてみると、何種類か二日酔いの薬があったのでCMでよく見かけた薬を購入してからテーブルの上に置く。
「これ、二日酔いに効く薬なのでどうぞ。1回1包だそうです」
「ありがとうございます……」
「チエ、ありがとな……」
「俺が皿を洗っておくから、チエは休んでていいぞ」
「バージル、ありがとう」
物干しざおは昨日庭に置いたし、洗濯でもしようかとその場を離れようとしたところ、服の裾を引っ張られて動きが止まった。
何事かと思って振り返ると、私の服の裾を掴んだグレンさんと、驚いた顔をしたジェラルドさんが私を見ている。
私何かしたっけ? そう思って首を傾げると、グレンさんが口をパクパクとさせながら何かを話そうとしていた。残念ながら声が出てないので何を言っているか分からなかったけども。
「どうしました?」
「なん……え? なんでだ?」
「え、何がですか?」
「何故バージルだけ、態度が変わったんですか?」
「あ、はい……。昨日ちょっと呼び捨てで頼むと言われたので……」
そこ突っ込むんだ!? 羞恥心が蘇ってくるから止めてくれないかな!?
心の中でそう叫んだけど口に出す勇気がなかったので、曖昧な返事を返すしかない。
もにょもにょと照れながら話していると、服を掴む力が強くなった。
皆みたいに引き締まったお腹をしてないので、それ以上服を引っ張られたら困る!
何とかお腹を隠せない物かと四苦八苦していると、グレンさんが口をへの字にしながら呟いた。
「俺も、グレンでいい」
「え、あ、はい?」
「僕もジェラルドでいいです」
「呼び捨てじゃなきゃ返事しねぇ」
「え!? なんでですか!」
グレンさんの宣言にびっくりしてしまい、動きが止まる。
ちょっとだけ右のお腹がスースーするので服がめくれてる気がした。
返事をしてくれないグレンさんに、いい考えですね、とか言いながら同意するジェラルドさん。
何をやっても外れないグレンさんの手に、諦めた私は顔を隠しながら声を絞り出した。
「グレン、たるんだお腹が見えちゃうから服離して……」
「ああ、わりぃ」
名前を呼ばれて納得したのか、グレンの手が服から離れていく。
たるんだお腹に否定が入らなかった事に更にダメージを受けるけど、しっかりと立ち上がってる2人にもっと言いたいことがあった。
「グレンもジェラルドももう二日酔い大丈夫なの?」
「ええ。今の衝撃で吹き飛びましたね」
「そういや、俺二日酔いだったわ」
そう言いながらケロっとしているジェラルドとグレンに笑ってしまう。
私がバージルを呼び捨てにしてる事がそんな衝撃的だったのかな。にしても驚きすぎだよね。
思い出して笑ってしまいそうになるのを堪えながら、私は皆に声を掛ける。
「洗濯機だけ回してきちゃうね」
目的を伝えてリビングを出て、脱衣所に向かう。
洗濯カゴから洗濯機へ中身を移し替えて、新しいタオルと洗剤と柔軟剤をサイバーモールで購入してから
スイッチを入れて洗濯機を回し始めた。
問題なく洗濯機が回るのを確認すると、そのままそこでサイバーモールでペットショップの家畜を開く。大丈夫だと思うけど、排水ホースから水が漏れたら後片付けも大変なので、ちゃんと確認しておいた方がいい。
家畜のページを見て行くと、2ページ目にクィーン・ハニービーとハニービー10匹セットというのが売っていた。お値段は金貨1枚。こちらもオススメ! と書いてあるところには、3m×3mの養蜂箱が金貨2枚で売っていたので、後でこの養蜂箱1つでどれくらい蜂蜜が出来るのかをグレンに確認しよう、と考える。
他の家畜も、色んな種類の物がいるんだなぁとゆっくり眺めていると、洗濯が終わったのでハンガーにかけて外に干しに行った。
洗濯物を干し終えた私がリビングに戻ると、全員準備が出来ていたので揃って外に出る。
プルメリアは川まで走っていってしまい、泳ぐ魚を追いかけてびしょ濡れになってしまっていた。
「んじゃ、場所決めるか」
「貯蔵庫は庭に作った方がいいので、今のまま場所を空けといた方がいいですね」
「加工室も庭がいい」
「狭くなるなら土地を広げるし、拡張を見越して家から少し離れたところに畑を作った方がいいかな?」
「そうですね。ただ僕はそこまで農作業に詳しくは無いので、グレンに任せますよ」
ジェラルドのその言葉に、グレンは腕を組んで家の周りを見渡す。
悩んでいるのか、少し大きなため息が聞こえた。
「んだな……。俺もチエも開花の手があっから作物は収穫までは雑草処理、軽い水撒き、摘葉、摘蕾、摘花、摘果くらいしかねぇな。それでも取れる量は結構な数になるんじゃねぇか。まだ最初だしよ、土にどんぐらい栄養あるかわかんねぇし、初めは狭い畑から始めてもいい気がすんな。売るにしても俺らで食うにしても、量が見極められっからな」
「そうだね、いきなり広いと私も出来ないかもしれないし」
「ああ。だからよ、川向こうに家畜、家側に果樹、養蜂、畑がいいんじゃねぇか」
グレンのその言葉に、周りを見渡す。
大きな滝から向かって右側に大樹、左側に魔導昇降機が設置してあり、中央を幅5m程の川が流れている。
滝から末広がりに崖が続いていて、広大な土地が広がっているので土地はたくさんあるし、川に橋をかけてしまえば、簡単に行き来も出来そうだ。
崖に自然魔法で獣舎を作ると言っていたので、拡張は簡単に出来そうだし、最初はそんなに大きくせずに少しずつ広げていく方がいいかもしれない。
「なら、まずは畑を先に作るね」
「そうですね、お願いします」
「グレン、まずは果樹園を作るための場所に立ってもらっていいかな? 大きさはどれくらいがいいかな?」
「おう。50㎡でいいんじゃねぇか?」
家から100m程離れたところまでグレンが歩いて行くと立ち止まったので、サイバーモールから土地の購入を開いて、グレンの後ろ側に50㎡の土地を購入した。
ついでに、家の前から果樹園の横まで直線上に土地を購入して、石レンガのような地面パネルを設置して道を作っていく。これなら何かあっても道に逃げ込めば安全に家まで戻る事が出来る。
果樹園にも畑パネルを設置すると、一瞬で草と花が消えて柔らかそうな土に変わった。
木製の柵を果樹園の周りに設置すれば、立派な畑が完成する。
「あ、そういえばクィーン・ハニービーがサイバーモールで売ってたよ」
「なら、グレンは刺されずに済みますね。残念です」
「おいふざけんな、あいつらマジで痛ぇんだからな!」
怒ってジェラルドに言い返してるグレンを皆で笑っていると、バージルが思い出したように話しかけてきた。
「チエは何を植えるか決めてるのか?」
「果樹って同じ物だけの方がいいのかな?」
「開花の手がねぇならその方がいいけど、あんなら関係ねぇな。ハニービーがいりゃ受粉もしてくれる」
「なら、林檎、梨、さくらんぼ、桃、柿、ブドウ、レモン、オレンジ、みかん、キウイ、梅、栗、ブラックベリーにラズベリーに、あと」
「いきなりあんま行くと、死ぬぞ」
グレンの言葉に動きが止まる。そういえば、調子に乗ると大変な目に遭うって言ってたんだった。
どうしようかと少し考えて、決定打がなく困ってしまったのでグレンに尋ねる。
「どれくらいの間隔で植えた方がいいのかな?」
「開花の手使うんなら5mくらい空けた方がいいな。冗談抜きででかくなっから」
「じゃあ、植えれるのは8列8本ぐらいだね……」
少し悩んで、私は口を開いた。
「林檎、梨、桃、みかん、レモン、オレンジ、梅、栗にする」
「いいんじゃねぇか」
グレンからOKが出たので、サイバーモールで品質100と書かれていた苗木とスコップを2つ購入する。
ダンボールに入った苗木と、ビニール袋に半分だけ入ったスコップが現れたので、林檎の苗木を取り出して開花の手を使用してみた。
光が苗木に集束されたのを確認してから鑑定を行うと、品質が120になっていたので首を傾げる。開花の手で品質が20向上する物なんだろうか。
「ねぇグレン」
「あん?」
「作物の品質って100以上になるの?」
「聞いた事ねぇな」
「そうだな、100がそもそも少ないし」
「北の方以外は作物の収穫量は多いですけど、品質はそこまで高くないですからね」
皆のその言葉に、あれ、もしかして私なんかやらかしたかな、と思ったので、恐る恐る林檎の苗木を持ちあげて声を出した。
「あのね……開花の手を使ったら、品質100の苗木が120になったんだけど……」
「え?」
「は?」
「んん?」
皆一瞬目を見開いて動きが止まるけど、すぐにグレンがしゃがみ込んで、同じように林檎の苗木に開花の手を使い、その後私に手を突き出してくる。
「これは?」
「品質120、だね……」
私のその言葉に、全員がその場で頭を悩ませる。
地球の方が密度が高いから品質100っていう訳では無かったのかな?
自分の憶測が外れていた事に首を捻るけれど、どれだけ考えても理由が分からなかった。
「という事は、何らかの要因でチエさんのスキルで購入すると100を超える可能性があるって事ですか?」
「元々上限が100ではない可能性もあるな」
「意味わかんねぇな。普段品質20の種で50くらいになんだけどな」
「まぁ、めちゃくちゃ美味い物が食えるしいいんじゃないか」
「……そうですね、ここで考えても分からないでしょうし」
悩んでる皆にそう声を掛けたバージルは、そのまま指示を続けて行く。
「俺が穴を掘るからジェラルドが苗を植えてくれ。グレンは植える位置の指示を頼む。チエは全部に開花の手を使ってくれ」
「ええ、手別けした方が早いですしね」
「おう、任せろ」
「じゃあ林檎からスキル使ってくね!」
悩んでも仕方が無いので、バージルの指示に従って皆動き出す。
目の前の事に集中しようと、私は苗木に開花の手を使い続けた。




