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第十六話 星の下で

「これで大体終わったか……?」



 リビングのソファでぐったりとしながら、バージルさんがそう呟く。

 グレンさんはサンルームでぐったりしているし、ジェラルドさんはダイニングのイスに座ってテーブルに突っ伏していた。

 私も、リビングの絨毯の上に寝転がりながらぐったりとしている。


 皆で倒れ込んでいる原因は、家具の組み立てと設置を1日で終わらせようとしたせいだ。


 家電は購入した後、別料金を支払えば設置が自動で行われる仕組みがあって大いに助かったけど、大小問わず家具にはその機能が無かったので、家具の組み立てや設置を自分達で行わなければならなかった。

 最初は楽しんでインテリアを飾っていた3人も、組み立てや設置が続いて疲れきっている。

 私も、小さい物しか組み立ててなかったけど、疲労困憊で倒れ込んでいた。



「家具は大体終わってるといいですね……。食器なんかがありますけど、僕はもう今日は動きたくないです……」

「んだな……。今日はもう止めとこうぜ……」



 テーブルに突っ伏したまま、ジェラルドさんがそう言うと、同意をするようにグレンさんも頷く。

 3人ともテーブルやソファの設置、ベッドやタンスの組み立てで疲れ切っている。

 グレンさんの側で寝転がっていたプルメリアも、不満そうに鳴き声をあげた。

 皆が忙しく動き回っていたので構ってもらえずに、拗ねているらしい。



「ありがとうございました……。本当に申し訳ないんですけど、晩御飯買った物でいいですかね……」

「ああ、チエも疲れてるだろうしな……」

「はい、大分疲れました……」



 10分程絨毯の上でそのまま休んでから、起き上がってサイバーモールを開いた。

 惣菜のページを開くと、お弁当やおかずがたくさん並んでいるたので、ゆっくりページを進める。



「何が食べたいですか?」

「肉が食いてぇ……」

「僕は魚がいいです……」

「ミト汁が欲しい……」



 3人のリクエストに合わせて、鶏唐揚げやスモークチキン、白身魚フライやインスタント味噌汁、サラダとお茶、豚丼を2つとおにぎり4個、サンドイッチ2個をカートに入れていく。

 購入するとビニール袋に入って届いたため、お茶とコップだけ先にテーブルに置くと、後はキッチンへ袋を持って移動した。


 電気ケトルのスイッチを入れてお湯を沸かし始めた後、アイテムボックスからお皿を取り出すと、まずはおにぎりを電子レンジで温める。惣菜は温かかったため、そのままお皿に盛りつけた。

 豚丼とおにぎりを何度か電子レンジから出し入れしていると、バチン! という音がしてお湯が沸いたのを知らせてくれたため、お椀にインスタント味噌汁を入れて4つ作る。

 サラダは蓋だけ開けておいて、蓋についてたドレッシングをかけてしまう。


 近くにいたジェラルドさんが、出来上がった物をテーブルに運んでいってくれたため、サンドイッチを小さく切ってからお皿に並べて私もデーブルまで持っていく。

 テーブルにフォークとスプーンを置いてからバージルさんとグレンさんに声をかけた。



「ご飯できましたよ」

「ありがとな」

「腹減った……」

「プルメリアもご飯にしよう、おいで」

「ピィ!」



 プルメリアのご飯も餌入れに山盛り入れてからテーブルの側に置くと、バタバタと走ってきたプルメリアはお腹が減っていたのか勢いよく食べ始める。

 グレンさんとバージルさんも席に着いたため、皆でご飯を食べ始めた。

 おにぎりの包装紙の取り方を皆に説明すると、興味深そうに全員でおにぎりの包みを剥がし始めたけれど、ジェラルドさんだけ成功してバージルさんとグレンさんは失敗してノリが破れてしまう。

 でも、それも面白くて皆で笑いながらご飯を食べた。



「あ、白身魚フライにはこれをどうぞ」



 フライを指差しながら、タルタルソースをアイテムボックスから取り出す。

 実際にフライの横に少量出して、皆が取りやすいようにテーブルの真ん中に置くと、最初にグレンさんが手を伸ばしてお皿に出していた。



「ちょっと酸っぺぇな……。けど、シャキシャキしててうめぇ」



 タルタルソースをフォークで掬って一口食べた後にそう言うグレンさん。

 その言葉に、2人もタルタルソースを使い始めた。



「へぇ、脂っぽさがサッパリしていいですね」

「ああ、これだけでも十分美味いな」

「あー、このチキンうめぇ」

「ミト汁はチエが作った方が美味いな」

「ありがとうございます! 明日は作りますね」



 ご飯のお陰で皆少し元気になったのか、会話が弾む。やっぱりご飯はちゃんと食べなきゃだめだなぁ。

 皆でご飯をしっかり食べてから、テーブルでまったりとした時間を過ごした。

 プルメリアはお腹がいっぱいになったのか、ソファに上って眠っている。

 設置した時計を見ると、19時と表示されていたために皆に声をかけた。



「お風呂どうします? 使うなら使い方を説明しますけど」

「お、いいな。教えてもらうか」

「そうですね、使い方が分からないですし」

「ああ、汗かいたし風呂入りてぇ」

「じゃあお風呂に行きましょうか」



 皆で浴室に移動して、アイテムボックスからお風呂セットを取り出して浴室にセットする。

 シャワーの使い方やジェットバスの使い方、追い炊きの仕方やシャンプーとリンスの説明、ドライヤーの使い方などを伝えて、今日使用する分のバスタオルをサイバーモールで4枚購入した。

 水分を吸わないのはご愛敬という事で見逃して頂きたい。

 洗濯して欲しい布製品はこのカゴに入れて欲しいと追加で伝える。革なんて洗濯機で洗えないし。

 明日はタオル類洗濯しなきゃなぁと心の隅で考えた。



「誰から入んだ?」

「チエからでいいんじゃないか?」

「そうですね。僕は異論はありません」

「俺もねぇ」

「え!? いいんですか?」

「ああ、構わないぞ。じゃあ残りでじゃんけんだな」



 バージルさんのその言葉に、一瞬ん? と思ってからはっとする。

 何でバージルさんがじゃんけんを知っているんだろう。

 そういえば、お風呂の時も身体を洗ってからお湯につかるっていうルールがしっかりしてたし、結構日本の文化が根付いてる気がする。



「え、ヘレトピアにじゃんけんってあるんですか!?」

「ん? 30年くらい前の異世界の勇者が使ってたらしくて広まったな。皆知ってるんじゃないか?」

「僕の村でも皆知ってますね」

「やった事はねぇけどあんのは知ってんな」



 悲しくなるようなグレンさんの言葉に、皆微笑ましいものを見るような視線になった。

 私達にそんな目で見られてるグレンさんは首を傾げているけれど。

 バージルさんはグレンさんの肩を叩きながら、優しい声色でこう言った。



「じゃんけんぐらい何回でもしてやるからな……」

「あん? 勝負つくまででいいだろ……」

「ええ、毎日しますか? じゃんけん……」

「お、おう……?」



 急に優しくなったバージルさんとジェラルドさんに困惑するグレンさん。つい笑ってしまった。

 3人でじゃんけんをするとすぐに勝負がついて、私、バージルさん、グレンさん、ジェラルドさんの順番に決まる。

 私からという事なので、そのまま浴室に残る事になった。私以外を残して皆はリビングに戻っていくのを見送ると、浴槽にお湯を張っている間に洗髪と洗体を済ませてからお湯に浸かる。



「転移した時はどうなるかと思ったけど……。皆のお陰で生きていけそうだなぁ……」



 浴槽の縁に顎を乗せて、そう呟いた。

 これから、大変な事があっても一人ではないと言うのは、とても心強い。

 私が知らない事はジェラルドさんとグレンさんが知ってるし、2人が知らなくても私が知ってる事もあるかもしれない。



「バージルさんは、どうするのかな……」



 どうするか、なんて。仲間の元に帰ってしまうのは分かっているけれど。

 いつ帰るのかな、もう少し一緒に居れないかな、バージルさんが帰ってしまう時は、お弁当を作りたいな。


 私の事、忘れないで欲しいな。



「流石に、それは我儘かなぁ……」



 苦笑いをしてから、思考を振り切る為にお湯から上がった。

 このまま一人で居たら、またどんどん悲しくなってしまうと思ったから。急いでお風呂から上がってパジャマを着た後、髪の毛をドライヤーで乾かす。

 程よく乾いたところでドライヤーのスイッチを切り替えて、風を止めた。

 大きな鏡には、まだ寂しそうな顔をした私が立っていたので、何度か頬を叩いて気合を入れる。


 浴室からリビングへ向かうと、皆好きなようにくつろいでいたので、バージルさんに声を掛けた。



「バージルさん、お風呂空きましたよ。お待たせしました」

「お、ありがとな。それじゃあ行ってくる」



 バージルさんを見送ると、一番大きなソファで横になっていたグレンさんの近くに座った。

 プルメリアがロープを持って走ってきたので、綱引きをする。

 テレビを買ったけれど、流石に何も映らなかった為、映画を見るくらいしか使えないなぁと考えながらプルメリアと遊ぶ。

 何度か興奮したプルメリアがグレンさんのお腹の上に飛び乗っていたけど、グレンさんは気にする事もなくぼーっとしていた。



「何か考え事ですか?」

「あん? いや、なんつうか。そこの冷蔵庫? には少ししか物が入らねぇなら、作物どうしようかと思ってよ」

「ああ、そうですね。貯蔵庫を作るのには稼働機とCランク以上の闇と氷の魔石が要りますし」

「持ってねぇだろ?」

「持ってないですね」

「貯蔵庫っていうのはなんですか?」



 疑問に思って尋ねると、ジェラルドさんが口を開く。



「作物や加工品を置いておく場所ですね。魔石に含まれる魔力を稼働機で放出して作物の品質を保てるんです。闇と氷の魔石を合わせて使うと停滞という状態になるんですよ。20㎡の貯蔵庫を1年稼働させるのにCランクの魔石が要ります。貯蔵庫が大きくなればなっただけ大きな魔石が要りますね」

「他の組み合わせもあるんですか?」

「加工品を早く作りてぇなら光と風で活発、音を遮断してぇなら水と氷と風とかな」



 そう説明をしてくれる2人に、私は感心しながら頷いた。

 作物を作っても、必要分以外は売ってしまうつもりだったので、置いておく場所の事を全く考えてなかった為だ。

 本当に皆が居なかったら、スローライフなんて夢のまた夢だったんじゃないだろうか……。

 プルメリアが疲れたのか、ローテーブルの下で寝始めたため、知識不足を実感しながら私は話を続ける。



「冬になると作物の実りはどうなるんですか?」

「こっちは南の方だから雪も降らねぇし、北に比べりゃあったけぇ方だけど冬は畑を休ませんのが基本だな」

「そうですね。冷害が起きないとも限りませんし。なので肉や魚を干物や燻製にして保存食にしたり、貯蔵庫に野菜を置いておきますね」

「なるほど、じゃあ少しずつ貯蔵庫に食料を溜めた方がいいですね」



 サイバーモールでいつでも食料は買えるけど、せっかくなら自分で作った物で生活してみたい。

 駄目そうならサイバーモールに頼れば飢える事も無いだろうし。

 そんな事を考えていると、お風呂から上がってきたバージルさんがリビングに戻ってきた。

 ラフな服に着替えていて、とてもくつろげそうな恰好だ。この世界のパジャマかな? と思いながら、バージルさんに声を掛ける。



「お帰りなさい」

「ああ、ありがとな。グレンいいぞ」

「おう」



 入れ替わるようにグレンさんが浴室に向かっていくと、バージルさんもソファに腰を下ろした。

 ジェラルドさんもソファまで来て座ると、バージルさんに話しかける。



「バージル、闇と氷の魔石はありませんか?」

「氷はあるが闇は無いな。貯蔵庫でも作るのか?」

「ええ。無いよりあった方がいいですからね」



 ジェラルドさんがそう言うと、バージルさんは腕を組みながら唸っていた。

 そもそも魔石が何なのかいまいち分かっていないので、私は2人の話を黙って聞いている。

 少しして、バージルさんは考えるのを止めてジェラルドさんに話しかけた。



「プレミリューの冒険者ギルドまで行けば闇の魔石も売ってる思うが、闇は少し高いからな……」

「そうですね。Cランクでも銀貨90枚くらいしますし。いっそ闇の魔石を落とす魔物を討伐した方がいいですかね」

「どうだろうなぁ。魔物によって出る魔石の傾向が強いとは感じるが全部が同じ魔石が出るわけではないしな」

「そうなんですか? 初耳ですね」



 バージルさんの言葉に、きょとんとした顔のジェラルドさんがそう尋ねる。



「例えばヴィヴィッドシープ。あれは基本的に陽の光を浴びたり風を受けている事が多いからか、光や風の魔石が出やすい。だけど山の中での生活が多いヴィヴィッドシープからは闇や土の魔石が出る事もある」

「なるほど。生息する場所によって傾向が違うんですね」

「ただ、エレメンタルだけは必ず属性に見合った魔石が出るな」

「エレメンタルは会おうと思って出会える物では無いので難しいですね」



 腕組みをしながら苦笑いをするジェラルドさん。

 2人が無言になったところで、私は疑問を口にした。



「あの、魔石ってなんですか?」

「ああ。魔石っていうのは俺達でいう心臓みたいな物だな」



 私の質問に、バージルさんが自分の胸を押さえながらそう言う。

 魔物の心臓が、人の営みの役に立っているのかと思うと、不思議な気持ちになった。

 人を襲うことはあるけど、そういう面では人の役にも立っているのか、と思う。



「魔物の核ですね。身体のどの部分にあるかは魔物の種類によって違いますが、同じ種類ならほぼ同じ位置あります。核を破壊されると死んでしまったり消滅したりしますね」

「俺達は食べた物が肉体に変わっていくけど、魔物は食べ物から取り込んだ魔素を核に溜めて進化をするんだ」

「進化、ですか?」

「ゴブリンは進化の種類が多いな。何回も段階を踏んで最終的にはキングまで成長する」

「森で出会ったポイズンセンチピードも、普通のセンチピードから進化した亜種ですね。毒性の強い物を好んで食べるセンチピードが進化するとそうなります。普通の進化をするとジャイアントセンチピードになりますよ」



 2人の説明で、魔石が何なのかを朧気に理解する。

 魔物は進化するのか、じゃあ人間はどうなんだろう?

 そう思って、話を続けようとしたところで、グレンさんがお風呂から戻ってきた。

 顔を見ると、髪が塗れたせいかいつもよりクルクルと巻かれている。



「ジェラルド、次いいぞ」

「はい、では行ってきますね」



 ジェラルドさんが席を立つと、グレンさんがソファに座った。

 しきりに手櫛で髪の毛を引っ張っているため、巻き毛なのを気にしているのかもしれない。

 アイテムボックスから櫛を取り出してグレンさんに差し出すと、受け取ったグレンさんは必死に髪を梳き始めた。



「すごい巻いてるな」

「んだよ、悪ぃかよ」

「いいや。羊族も大変そうだな。そういえばグレンは断尾してるんだな」

「しようと思ってじゃねぇ、病気で切ったんだ」

「そうか。なんの病気だったんだ?」

「ガキの頃だからあんま覚えてねぇが、他に移る病気だったせいで治った後もハブられた。親も俺から移ったせいで死んだしな」



 髪を梳く手を止めないまま、グレンさんはそう答える。

 グレンさんはあまり気にしていなさそうだったけど、話を聞いただけなのに、涙が出そうになった。

 胸がきゅうっと締め付けられて、目に涙が浮かんでくる。

 そんな私に気付いたグレンさんは、髪を梳く手を止めると困ったような顔をして呟いた。



「……終わった事だ、泣くんじゃねぇよ」

「はい……」

「泣いてんじゃねぇか」

「泣いてないです……」



 泣かないように俯いて必死に目を見開く。瞬きをしたら涙が落ちてしまいそうだった。

 顔を伏せる私の頭を、バージルさんが何度か撫でてくれている。

 目が乾燥するまで見開いていると、ジェラルドさんがお風呂から上がってきたようで、リビングの空気を感じ取ったのか首を傾げながら声をかけてきた。



「何ですか、この微妙な空気は」

「なんでもねぇ」

「そうだな。あー、久しぶりに酒でも飲みたいな」

「あ、お酒もありますよ」

「お? いいじゃねぇか。飲みてぇな」



 バージルさんが誤魔化すためか酒が飲みたいと口にしたため、サイバーモールにある事を伝えると、グレンさんが嬉しそうに声をあげる。

 この世界のお酒って何があるのかな分からなかったので、皆に聞いてみる事にした。

 声をかけると、ジェラルドさんもサイドにおかれたソファに腰掛けて話に入ってくる。



「ヘレトピアはどんなお酒があるんですか?」

「エール、ワイン、後は地域によってエールに蜂蜜が入ってたりジンジャーが入ってたりするな」

「僕の村ではミードに果実をつけていましたね」

「へぇ、蜂蜜酒か」

「ラガーは無いんですか?」

「ラガーは高級品だから貴族か王族ぐらいしか飲めないな」



 それならば、とラガービール6個入り1パックとワイン、梅酒、おつまみに塩ゆでした枝豆と、燻製卵やチーズを購入した。

 ビニール袋からそれを取り出すと、全員興味深そうに見ていたのでパックからビールを取り出した。

 おつまみを開けて全員に配ると皆ソワソワとしている。

 ワイングラスは持っていないので、コップで我慢してもらおう。

 缶のプルタブの開け方を説明したけれど、皆簡単に開けられたため全員で乾杯をしてからビールを飲む。



「うっめぇ! なんだこれ!」

「辛口ですけど、のど越しがすごいですね」

「美味いな! ラガーなんて初めて飲んだぞ!」

「ビールに合うおつまみもあるのでどうぞ」



 そう言うと、みんなご飯の後なのにどんどんおつまみを食べながらお酒を飲む。

 私が半分くらいしか飲んでないのに、ビールを飲み終えた皆はワインを開け始めている。

 すごい飲むなぁと暢気に眺めながらビールをゆっくり飲んでいると、私が1缶開ける頃には梅酒もなくなっていた。


 グレンさんとジェラルドさんは酔い潰れたのか、ソファでそのまま眠り始めていて、バージルさんは最後に残った梅を頬張っている。

 まだまだ飲めそうな雰囲気だ。



「部屋に熱気が籠ってるな」

「少し窓を開けましょうか」



 私が立ち上がってサンルームの窓を少し開けに行くと、バージルさんも後ろから付いてきて、窓辺で涼み始める。

 開けた窓から、大きな月と綺麗な星空が見えた。

 光がここにしかない為か、日本で見たよりもしっかりと星が見える。

 こっちに来てからこんな風に星を見た事なかったな。こんなに綺麗ならもっとしっかり見ておけば良かったな。

 そう思って窓辺に座り込むと、バージルさんも私の横に座ったので、2人で静かに星空を見上げた。



「なぁ、チエ」

「はい、なんですか」

「俺、明後日ヴルエーラに戻るな」

「……はい」



 ああ、あと2日しか一緒に居られないのか。

 覚悟していたけど、その言葉は私の心を強く締め付けてきた。

 じゃあ、お弁当用意して、約束してた醤油と味噌も渡さないといけないな。

 もう二度と会えないのかな。寂しいな。またバージルさんと会いたいな。


 頭の中に浮かんでは消えていく言葉を、上手く口に出せずにいる。

 ただ、星の下で何と答えていいのかと一生懸命考えた。

 ありがとう、とか、ごめんなさい、とか。寂しいなんて言ったら、迷惑かな、とか。

 また遊びに来てね? 遠いところなのに迷惑じゃないかな。

 そんな事を考えていると、バージルさんが呟くように話を続けた



「それでな、頼みがあるんだけど」

「いいですよ、バージルさんの頼みなら何でも聞きます」

「そうか」

「はい」



 返事をしたけれど、バージルさんはお願いを言わない。

 ただじっと、星を見つめている。

 何度か口を開けたり閉じたりを繰り返してから、バージルさんは私を見た。



「俺の事、忘れないでくれ」

「え?」

「また、ここに来てもいいか?」



 バージルさんの言葉に、声が出なくて何度も頷く。

 少しでも、私と離れることを寂しいと思ってくれてたんだろうか。

 そんな風に見えなかったけど、そう思ってくれてたのかな。



「忘れません! バージルさんの事絶対に忘れないです。絶対また遊びに来て下さい、美味しいものいっぱい作ります!」



 涙が出そうで、膝に顔を埋めた。

 顔を伏せてしまったから表情は分からなかったけど、バージルさんは優しく頭を撫でてくれる。



「チエ、もう一個お願いがあるんだ」

「はい」

「バージルでいい」



 言われた意味が分からず顔を上げると、慈しむような顔で私を見ていたバージルさんと目が合う。

 その顔を見ていたら、口が勝手に動いてしまった。



「バージル……」

「ああ、それでいい」

「バージル、ありがとう……いっぱい迷惑かけてごめんなさい」

「楽しかったぞ。変な物食べるなよ」

「うん」

「毒虫には気を付けてな」

「うん」

「無理して身体壊すなよ」

「うん」



 母親のような心配をするバージルに頭を撫でられ続ける。

 悲しくてどうしようもないのに、思わず笑ってしまう。笑った瞬間涙が堪えきれなくなって、泣き笑いになってしまった。



「お母さんじゃん」

「気分はそんな感じだな。離れた後が心配すぎて吐きそうだ……」

「お酒の飲みすぎだよ」

「あれくらいで酔う訳ないだろ」



 泣き笑いで話を続ける私の頭を撫で続けるバージル。

 少しだけ寂しそうな顔をしながらも、私の腕を掴んで立たせると窓を閉める。



「風邪引くから、もう部屋に戻った方がいいな」

「バージルもだよ」

「俺はグレンとジェラルドを運んでから寝る。先に戻っていいぞ」



 そう言いながらリビングまで戻ると、バージルはグレンさんとジェラルドさんを叩き起こす。

 起こされた2人が身体を捩って逃げようとするのを、バージルが捕まえて座らせている。

 その後ろ姿がまたお母さんみたいで、余計に涙が溢れた。

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