第十三話 国境の街プレミリュー
「腰が痛い……」
目が覚めて、そう思った。
起き上がろうとしたけど、上手く起き上がる事が出来ずに首を横に向けると、バージルさんとジェラルドさんが、グレンさんを枕にしながら爆睡している。
枕になってるグレンさんは寝苦しそうではあるれど、それでもぐっすり眠っていた。
どういう状況なのかと周りを見渡すと、私はベッドに寝かされていて、周りには乾燥させた草や花、棚やすり鉢などがあって、清潔そうな布や水の入ったバケツなどが置かれている。
顔を触ろうとしたところ、額に濡らしてある布が乗っている事に気付く。
ここは病院だろうか。
ムカデの魔物に会ってからの意識が朧気で、何でここに居るのかが分からなかった。
「あら、目が覚めたのね」
声がした方に視線を向けると、大きな胸の谷間を隠すこともなく強調するような恰好をしたエルフの女性が立っている。
一度じっと見た後に、自分の胸を見てとても残念な気持ちになった。
「ここは、どこですか……?」
思った以上に掠れた声が出たけれど、そう尋ねると女性はベッドの側のイスに腰掛けると足を組んだ。
スラリとした長い脚に、また見惚れてしまう。
「ここはプレミリューにある医務室よ。貴女ソウルイータースパイダーに噛まれたの。覚えてる?」
「ごめんなさい、覚えてません……」
「そう。そこの彼らが貴女を抱えて夜中に飛び込んできたのよ」
「そうなんですか……」
女性の視線を辿ると、爆睡してる3人が居る。
汚れたまま、鎧をつけたまま、武器も外さずに爆睡している3人の姿に、泣きそうになった。
「森の街道からここまで休まず走ってきたんですって。愛されてるわねぇ。あと1時間遅かったら貴女死んでたわよ」
とても恐ろしい事を平然と言われて、背筋がまた寒くなる。
何とかスパイダーに噛まれた覚えすらないけど、身体がまだいうことを聞かないので危険な状態だったんだろう。
皆が居なければ、私は今ここには居ないんだと思うと、感謝の気持ちしかない。
「容態が安定するまでずっと起きてたから寝かせておいてあげなさいな。ところで貴女お名前は?」
「あ、チエです。すみません」
「いいえ。どんな状況で噛まれたかは覚えてないのね?」
そう言われて、もう一度思い出そうとしてみる。
ムカデの魔物が気持ち悪くて、後ろに下がった。
そこまではしっかりと覚えていたれど、後の事がすごく曖昧なままで気持ち悪い。
「あ、木に凭れ掛かってました。ムカデの魔物が倒される直前に右手の甲が痛くて」
「ええ。他は覚えてる?」
少しずつ思い出してきてゆっくりと説明していくと、また一つずつ思い出していく。
「痛かったところを、バージルさんに見てもらいました。でも何ともなくて……」
「それで?」
「そこまでしか覚えてないです……」
「そう。じゃあきっと木にソウルイータースパイダーが居たのね。貴女膝の裏を噛まれてたもの。普段あの森に毒蜘蛛は居ないんだけど、ギルドに注意喚起を出しておくわね」
イスから立ち上がった女性は、まだ寝てなさいと言うと部屋から出て行った。
でも全く眠気が来なくて、3人の方をじっと見つめる。
まだプレミリューまで半分くらいの道のりがあったのに、私を助ける為にたくさん走ってここまで連れてきてくれたんだ。
そう思うと、涙が零れた。
一度出てしまうと止まらなくなってしまって、次から次へと溢れてくる。
虫に気を付けろって言われてたのに。
毒蜘蛛に噛まれて死にかけて、皆に迷惑をかけてしまった。
泣き声を押し殺そうとすればするほど我慢できなくて、しゃくり上げてしまう。
額に置かれていたタオルで目元を隠して泣いていると、暖かくて硬い掌が頬に触れた。
「チエ、どこか痛むのか?」
バージルさんだ。
そう思うと、また涙が溢れてきた。
痛くないという事を伝えたくて必死に頭を振るけど、口を開いたら声を出して泣いてしまいそうだったため、唇を噛みしめて頭を振るだけ。
謝らなくちゃいけないのに。そう思うけどまだ口が開けそうにない。
「そんな噛んだら唇が切れるぞ」
「っめんなさ……」
「チエが謝ることなんて何も無いぞ。ちゃんと約束した通り不調を自分から訴えただろ?」
私の頭を撫でながら、優しい声をかけてくれるバージルさん。
バージルさんは私の左手を強く握りしめると、しゃがみ込んだのか私の肩に額を乗せて大きく息を吐く。
「生きてて良かった……。ごめんなチエ、すぐに気付いてやれなくて」
その言葉にどれだけ心配をかけてしまったのか実感してしまい、バージルさんの手を強く握り返す。
何度も何度も握り直すと、バージルさんもその度に握り返してくれる。
もう涙は止まっていたけれど、バージルさんの手を握ったまま離す事はなく、お互いに無言で手を繋いでいた。
「まだ明け方だから休んだ方がいい」
「……うん」
「大丈夫だ、ここにちゃんと居るから」
バージルさんは手を握ったまま、自分の親指で私の親指を撫で続けてくれる。
人の温もりに安心して、うとうとし始めると眠気が来るまではすぐだった。
「おやすみ、チエ」
「おやすみなさい、バージルさん」
眠気に任せて目を閉じると、すぐに眠ってしまう。
きっと身体が疲れていたんだと思い、そのまま身を任せた。
今ならきっと怖い夢も見ないだろうな、と確信がある。
ずっと手が暖かいままで、誰かに触れていてる事にすごく安心しているのが分かるから。
途中からお腹が痛くなる夢を見たけど、温もりは変わらなかったので安眠できた。
次に目を覚ますと、手を繋いだままベッドを枕に寝ているバージルさん、反対側の手を握ったまま眠っているジェラルドさん、私のお腹を枕にして眠っているグレンさんが目に入る。
「貴女大変な事になってるわね」
部屋に戻ってきた女性にそう言われて、苦笑いを返すしかない。
お腹が痛くなる夢を見たのはきっとグレンさんが私を枕にしているせいだろうなぁと笑ってしまった。
頭を乗せていたのでお腹が動いたのを感じたのか、グレンさんもそれで目覚めると勢い良く起き上がって私を抱きしめてくる。
「チエ……! 良かった!!」
「グレンさんごめんなさい! ご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんて思ってねぇ! 無事なんだな?」
「はい、もう元気です」
そのやり取りが聞こえたのか、ジェラルドさんも勢いよく目を開く。
3秒くらいじっと私を見つめた後に、大きく息を吐いて私の手を握りしめたまま自分の額に押し付けた。
何度も大きく息を吐いて、小刻みに震えている。
「良かった……本当に、良かった……」
「ごめんなさジェラルドさん! ご心配をおかけしてしまって」
「いいんです。僕がもっと感知をしっかりしてれば気付けたはずなのに! チエさん苦しい思いをさせて申し訳ありませんでした」
バージルさんを見ると、いつの間にか起きていた。
これだけ騒いでたら流石に起きるかな。
「バージルさん、おはようございます」
「ああ、おはようチエ」
バージルさんが口を開いたのを見て、きっと謝罪するつもりなんだろうな、と思った私が笑顔で挨拶すると、バージルさんは苦笑いして謝罪の飲み込んだ後に笑顔で挨拶を返してくれる。
「お取込中申し訳無いんだけど、少しいいかしら」
その声に全員で振り返ると、エルフの女性が壁に凭れながら立っていた。
皆の謝罪合戦が終わるのを待っててくれたらしい。
「貴方達が遭ったソウルイータースパイダーとポイズンセンチピードの事なんだけど」
「ああ、他の個体は見つかったのか?」
「ええ、今朝調査に出たギルド職員が巣や卵の殻を発見したの。だから生息モンスターに加えられることになったから今回の治療費は冒険者ギルドで持つわね」
「分かった」
その会話で、ここが病院ではなく冒険者ギルドの施設内だという事に気付いく。
一度も訪れた事が無かった為、普通の病院だと思い込んでいた。
物珍しくてキョロキョロと視線を彷徨わせながら観察していると、エルフの女性は笑いながら話を続ける。
「その子はもう熱も下がってるし、それだけ元気なら大丈夫ね。一人で立てるならもう心配ないわ」
「チエ、立てそうか? 辛いなら無理しなくていい」
「大丈夫ですよ! いっぱい寝ましたし元気です」
バージルさんに聞かれたので、ベッドから足を下ろして立ち上がってみた。
ずっと寝ていたせいで、立ち上がる時に少しふわっとした感じはあったけど、問題無く一人で立つ事が出来たので、グレンさん、ジェラルドさん、バージルさんの顔を順番に見ていく。
皆嬉しそうに頷いてくれたのが嬉しくて、調子に乗って跳ねたらグレンさんに叱られることになったけど。
このまま宿を取って1泊するという事で話が纏まったので、全員で部屋から出ようとすると、エルフの女性はバージルさんに声をかける。
「ねぇバージル。その仕事が終わったら食事でもどうかしら?」
えー、他に人が居るのに全く気にせずデートに誘うんだ!?
美人だから出来る事なのかなと驚きと共にその度胸に関心していると、みぞおちの辺りが何故かモヤモヤする事に気付いた。
毒はもうないって言ってたのにおかしいな? と思って、みぞおちの辺りを擦る。
仕事って言われたのが引っかかってるのかな。でも実際仕事だし……。
バージルさんが何と答えるのか気になってチラ見していると、ばっちり視線が合ってしまった。
気まずい……。
慌てて視線を逸らすと、何も見てませんでしたアピールの為に他の場所へ視線を移した。
「いや、遠慮しておく」
「いっつもそれね。エルフは嫌いかしら?」
「希望が無いのに期待させる程不誠実では無いつもりなんでな」
そう言うとバージルさんは先に部屋を出て行ってしまう。
後に残された私達も、肩を竦める女性に頭を下げて退室する。
バージルさんはギルドの窓口で顔に傷のある男性と話していたので、少し離れた場所で待つことにした。
「なぁ、やっぱペット飼った方がいいと思うんだけどよ……」
「そうですね、今回の事も嗅覚が優れたペットが居れば防げた気がしますね……」
「魔物って嗅覚がいいんですか?」
「種類にもよりますが、基本的に感覚は僕達よりも優れていますね」
二人とそんな話をしていると、バージルさんは男性から革袋を受け取るとこちらに戻ってくる。
革袋を前に出してきたので、思わず手を出すとそこに乗せられてしまう。
何故これを私に渡したのか分からずに首を捻ると、バージルさんは微笑んで口を開いた。
「宿を取ってそこで話をするか」
「皆考えてる事は一緒ですかね……」
「多分な」
私以外の三人で納得し合って歩き出してしまうため、慌ててアイテムボックスに革袋をしまうと三人の後を追いかける。
冒険者ギルドの外は大通りで、武器や防具を売っている店、食べ物屋さんなどが目に入ったけど、それ以上に驚いたのは景色の鮮やかさだった。
大通りも木や花で溢れていて、地面には色とりどりの花が咲いている。
木にも花が咲いているけれど、他の植物のような花も木から芽吹いていて見た事も無いような景色があった。
バージルさんが今まで見た中で一番綺麗だったと言った意味がすごく分かる光景。
思わず見惚れて動けなくなる私を、三人は微笑ましそうに待っていてくれる。
「すごい……」
「ここは国境なのでまだ抑え目ですよ、木の上にも住んでませんし。領内に入るともっとたくさんの花で溢れています」
「え、これより更に綺麗なんですか!?」
ここより綺麗だと言われても、ここでも十分見た事もないくらい綺麗なのに。
全然想像がつかない。
「ギルドがお詫びにって一番いい宿を手配してくれたんだ。おいでチエ」
そう言いながら、バージルさんは私の手を握って歩き出す。
周りを見渡して気が散漫している私が転ばないよう、気を使ってくれてるんだろうか。
5分程歩いて到着した宿は、日本では見た事がないような、大樹の上に何個かの部屋が作られたログハウスの様な宿だった。
木の洞にある受付でバージルさんが名乗ると、鍵を渡される。
最上階の部屋だと言われて、木に備え付けられた階段を上がっていく。
しっかりと手すりもついているし、段差も小さくて登りやすいように設計されていた。
最上階の部屋の鍵を開けて中に入ると、キッチン、トイレ、備え付けの木のテーブルとイスが4脚、ベッドが4つに大きなテラスがあり、テラスの隅の仕切りの奥に露天風呂がある。
テーブルやイスにも、邪魔にならない位置に花が咲いていたので驚く。
テラスから外を見ると、街の外が一望出来た。
たくさんの花が咲いていて、花の絨毯のようになっている街の外は、風が吹くと花びらが舞って更に美しい光景になる。
「すごい、ここがフルールブランシュ……」
「魔素によって咲く花なので、魔素が無くならない限り枯れることはありませんよ」
「そうなんですね、私語彙力が低くて、すごいって言葉しか出てこないです……」
私が飽きるまで皆が待っていてくれたお陰で、十分に景色を堪能する出来た。
ここでこれくらい綺麗だったら、秘境はどれくらい綺麗な場所なんだろう。
全員がイスに座ったところで、バージルさんが口を開く。
「それじゃさっきの話の続きだけど、チエさっきの革袋を出してくれ」
「あ、はい!」
テーブルの上にさっきの革袋を出すと、バージルさんは話を続ける。
「昨日のポイズンセンチピードの討伐金と素材の買取金、ポイズンセンチピード、ソウルイータースパイダーに対する情報提供料で金貨30枚が入ってる」
「結構な金額になりましたね」
「この辺には居ない筈の魔物だからな。少し高めの査定が出たらしい」
「そういえば、どうして私が毒蜘蛛に噛まれたらギルドが治療費を出してくれるんですか?」
疑問に思っていた事を尋ねると、バージルさんが説明をしてくれた。
「ギルドで発行する依頼は、低ランクの物が圧倒的に多くてな。新人冒険者の生存率をあげる為にモンスターの分布図やその地域で取れる資源をまとめているんだ。その為に定期的に調査に入ったり、調査依頼がギルド名義で出されているのに、今回の2つの魔物が見落とされていたからだな」
「なるほど、それで危険な目に遭った事に対する詫び金って事ですか」
「そうだ。ポイズンセンチピードはBランク、ソウルイータースパイダーはAランクの魔物だからな」
「あんなナイフ一突きで殺せる蜘蛛がAランクなのか?」
グレンさんの不思議そうな言葉に、バージルさんはしっかりと頷くと喋りだす。
「ランクは強さだけを現してるものじゃない。その魔物の危険度だからな」
「毒性が強いって事ですね」
「ああ。だから今回金貨30枚になったんだ」
「そうなんですね、分かりました」
居ない筈のものがそこに居たというのは、情報をたくさん持っている人にしてみたら大変な事なのかなと思う。
私はそこの森に最初から何が居るか分からないから、そういう生物も居たんだ、怖いな。で済むけれど、バージルさんや他の冒険者の人からしてみれば想定外すぎて、居ないって言ってたじゃないか! という気持ちになるのかもしれない。
「で、この金貨30枚のうちの15枚でグレンとジェラルドの防具を揃えて、残り15枚でチエにペットを買ってもらいたいと思ってるんだがどう思う?」
「僕は構いませんよ」
「俺も構わねぇな」
「と言う訳だ。チエ、何か魔物を購入してペットにしてくれ」
「は、はい……」
三人にそう言われて、サイバーモールを開く。
戦闘用ペットのページを開くと、全員が私の後ろに回り込んできて、一緒に画面を見ている。
自分の身を護る為に戦闘用のペットを飼うのは、戦えないので私も賛成だけど、みんなのお金を使ってしまっていいものなのか少しだけ迷ってしまう。
だけど今回のような事がまた無いとは言い切れないので、ありがたく提案を受け入れる事にした。
金貨15枚以下と言う事だったので、金貨15枚以下で検索をかけると3ページ分くらいの魔物が残ったので1匹ずつ皆で見ていく。
「キマイラはテイムするとどうなるんだ?」
「元が獰猛ですから、何かあったら危険だと思います」
「バジリスクは毒性が強すぎるな」
「グリフォンは?」
「100年前の文献では大人しく指示に従うと書いてありましたが」
皆で意見を言い合って、最終的にフェンリル、グリフォン、オルトロス、ケルベロスが候補に残る。
この中で私が世話が出来そうだと思う物を選ぶことになった。
「そういや、こいつらはスキルとか分かんねぇのか?」
「あ、ページに書いてあるかな?見てみますね」
グリフォンのページを開いて下にスクロールしていくと、所持スキルの表記があった。
それを目で追いながら、1つずつ口に出していく。
「えっと、グリフォンだと怪力、勇敢、空の王者、状態異常無効って書いてありますね」
「他は?」
「オルトロスは番犬、速足、せっかちって書いてありますね。ケルベロスは番犬、甘党、毒の唾液、毒無効です。フェンリルは神速、王者の風格、炎無効、状態異常無効ですね」
「ケルベロスとオルトロスは候補から外していいんじゃねぇか?」
「そうですね、状態異常無効が無いですし」
ケルベロスとオルトロスを候補から外すと、残るのはフェンリルとグリフォンになる。
このどちらかと言われても、いまいち実物に想像がつかないので何とも言いにくい。
唸り声をあげながら迷う。
このどちらかの子は、これから私と一緒に生きていく事になるので、気軽には選べなかった。
30分以上頭を悩ませてから、やっと心が決まった。
「グリフォンにします」
「まぁ、慣れてきたと思ったら増やしてもいいしな」
「僕もグリフォンには賛成ですね、大きくなったら戦闘中チエさんを空に逃がせますから」
「そうだな」
グリフォンのページをもう一度見てみる。
”卵から孵ったばかりのグリフォンベビーの可愛い女の子です! 購入した時点でテイムされます。食べる事と遊ぶ事が大好きで、まだ上手ではありませんが、もう一人で飛ぶこともできます! 頭が白、身体も白のレアカラー! ベタ慣れなので飼い主大好きちゃんに育ちます! 性格は大らかで色んな事に興味深々です! 頭が良いので言われた事をちゃんと理解します!”
成体時体長6m前後、体重600kg前後
大人二人まで騎乗することが出来ます。専用の鞍も販売しております!
食事は1日3回ベビー用飼料をあげて下さい。食べすぎる事は無いので食べるだけあげても大丈夫です!
ちょっと大きくなった時のサイズが心配だけど、その頃には秘境にいるだろうしなと考えて、カートに入れて、その後グリフィンベビー用飼料5kgを10個と、餌入れをカートに追加して購入ボタンを押した。
ペットの生体用ダンボール箱と、普通のダンボール箱が目の前に現れたので全員で息を飲む。
ここにグリフォンが入ってるんだ。
ゆっくりダンボールに近づくと、ピィピィと中から声が聞こえてきた。
覗き込むようにダンボールを開けると、円らな瞳で私を見つめるグリフォンと目が合う。
お互いに少し無言になるけれど、グリフォンは私を認識したのか一生懸命羽を動かして飛びあがり、腕の中に飛び込んできた。
「わッ……! あなた大人しいね。よしよしいい子だね」
「ピィ」
腕の中のグリフォンにそう話かけると、嬉しそうに鳴き声をあげる。
警戒してた3人も安全だと理解したのか、緊張を解くとグリフォンに手を伸ばした。
「俺達が触っても怒らないんだな」
「おー、すげぇな……。グリフォンの毛柔らけぇ」
「こうして見ると可愛いですね……。絶対戦いたくないですけど」
「チエ、名前は決めたのか?」
バージルさんにそう言われて、グリフォンを見下ろす。
名前つけてくれるの? みたいな期待した顔で私を見上げるグリフォン。
少し考えてから、そっと名前を呟いた。
「プルメリア……」
「ピィ!!」
呟いた名前が気に入ったのか、グリフォンは飛び上がるとクルクルと回っている。
バージルさんが不思議そうに、私の方を向いて話しかけてきた。
「プルメリアってどういう意味だ?」
「白い花の名前なんです」
「そうか、いい名前だな。おい、プルメリアあんまり回ると目を回すぞ」
皆に囲まれて嬉しそうにしているプルメリアに、私も笑顔で名前を呼んだ。
「おいでプルメリア! これからよろしくね!」
「ピィ!」
呼ぶとすぐにこちらに駆けてくるプルメリア。
地面の上を走るのがあまり得意ではないのか、少しバタバタとしているけれど、それも可愛い。
可愛く鳴くプルメリアと見つめ合いながら、私は思わず破顔した。




