第十一話 今更の自己紹介
「もう大分傷も良くなりましたし、そろそろ秘境に向かいませんか?」
あれから更に二日目の夜。
薄暗いためLEDライトのランプに照らされた洞窟の中、御飯のブレイヴチキンの照り焼きを食べている最中に、ジェラルドさんからそう提案があった。
傷はかさぶたに覆われていて、もう消毒もしていない。
昨日の日中もストレッチをしたりしていて痛みも無いとのことで、動いても問題無さそうだった。
「そうだな、ジェラルドが動けるようなら明日から秘境に向かうとするか」
「んだな。俺もいいぜ」
「はい、そうしましょうか」
ジェラルドさんのお腹にあった傷は、オーガと奴隷商から逃げてくる時にグレンさんを庇った時の傷だと、皆が寝静まった後にこっそりとグレンさんが教えてくれた事を思い出す。
その話をした時のグレンさんはすごく後悔をしていたみたいだし、調子が良いという言葉に嬉しそうにしている。
バージルさんは食事を終えた後に地図を出すと、おおよその現在地を指差した。
ディヴォチュアリから南東方面、川を越えて少しした森の道寄りの場所だ。
「今はこの辺りに居るだろ。ここからプレミリューまで行くには、一度道まで出た方がいいな」
「そうですね、森だと身は隠せますが足場も悪いですし、多少歩きやすい道に出るのは賛成です」
「歩いてくんなら3日くらいか?」
「そうだな、それぐらい見た方がいい。野営具は俺が持ってるし食べるものはチエが何とか出来るが、人と鉢合わせないとも限らないから、あまりチエのスキルだけを当てにせずに食べ物も探しながら行こう」
バージルさんはそういうと、地図をしまってから全員を見渡した。
「これから3人で連携して戦う事になるし、俺のジョブとスキルを伝えておく。分からない事は聞いてくれ」
そういうと、バージルさんはスキルの説明を始める。
分からない事は聞いてくれ、と私の方を向いて言ったため、ちゃんと説明もしてくれるらしい。
「俺は盾職だ。敵の攻撃をすべて引き受けながら戦う。所持スキルは威圧、身体強化、根性、守護者の祝福だ」
威圧は敵を怯ませるスキルで敵に狙われる確率が上がりやすくなる。
身体強化はHP、防御、魔防が3割強化される。
根性は瀕死の一撃を持ち堪える事が出来る。
守護者の祝福は、自分のHPを2割回復しつつ仲間にバリアを張れる。
バージルさんは私にもわかりやすい様に噛み砕いて説明をしてくれた。
「じゃあ次は僕ですね。僕は遠距離攻撃を得意とする斥候職です。所持スキルは感知、速射、神の指先、自然魔法です」
感知は半径100m以内の自分以外の生物を感知する。
速射は弓に矢を番える速度が速くなり、普通よりも攻撃間隔が短くなる。
神の指先は全ての罠や鍵を解除できるようになる。
自然魔法は木、草、土、水など自然にある物に魔法で働きかける事が出来る。
ここの洞窟は自然魔法でジェラルドさんが作ったという事も教えてくれた。
「最後は俺だな。俺は攻撃職だ。所持スキルはテイミング、捨身、渾身の一撃、開花の手、薬草学だ」
「グレンさんも開花の手があるんですね!」
「も、って事はチエもあるのか?」
「はい! 使い方教えて下さいね!」
自分と同じスキルを持っている事を知って、親近感が湧いたのでグレンさんにそう伝えると、グレンさんも嬉しそうに頷いてくれる。
テイミングは魔物を家畜化、ペット化出来る。
捨身は5分間ステータスが3倍になるけれど、5分後に動けなくなる。
渾身の一撃は攻撃が急所に当たりやすくなる。
薬草学は薬草の知識に優れ薬を作れるようになる。
それも一つずつ説明をしてくれた。バージルさんの翻訳付きだったけど。
「グレンはシーゴートなのに攻撃系のスキルもちゃんとあるんだな」
「シーゴートは攻撃系のスキルはあまり無いんですか?」
バージルさんのその言葉を不思議に思った私が疑問を口にすると、ジェラルドさんが答えてくれた。
「スキルというのは、生まれ持った物以外は本人の資質によりますが、基本的には戦い続けたり、同じ作業を続けたりする事で身に着く事が多いんですよ。シーゴートは穏やかな気質の獣人の集まりなので狩りも殆どしません。なので筋肉バカは狩りもしていたんだと思いますよ」
「ああ!? うるせぇなシーゴートが狩りしちゃいけねぇ決まりでもあんのか!? 仕方ねぇだろ、群れではハブられてたし家畜は自分で守るしかなかったんだ、文句あっかよ!! 貧弱だってエルフの癖に髪が短いじゃねぇか!」
「そうだな、魔法は魔導書で覚える事が出来るけど、スキルばかりは本人の努力による物だからな」
ジェラルドさんの言葉に喰ってかかっていくグレンさんを見ながら、バージルさんはそう教えてくれる。
その声色は感心しているように聞こえた。
「へぇ、そうなんですね。ところでエルフは髪が短いと駄目なんですか?」
「そうですね、エルフの髪には魔力が宿りますから皆伸ばしていますよ。僕の場合は母の病気の為に借金をしていましたからそれの返済の為に髪を売りました」
私の疑問に再度答えてくれたのはジェラルドさんだったけど、何とも答えにくいことを平然を教えてくれたので、心底驚いてジェラルドさんを見る。
髪の話題を出してしまったグレンさんも少しバツが悪そうな顔をしてしまうが、バージルさんは気にした様子もなくそのまま話題を続けていく。
「そうなのか。お袋さんはもう平気なのか?」
「ええ。完治しましたから。まぁ借金が返せなくなってしまったので奴隷落ちしてしまいましたけど」
「それで売られていくところだったんだな」
「そういえば、グレンは何で奴隷になったんですか? 人間の貴族に喧嘩でも吹っ掛けたんですか?」
ジェラルドさんにそう話を振られたグレンさんは、バツの悪そうな顔から一転して顔を歪める。
きっと気にしてると思ったジェラルドさんが、グレンさんが落ち込まないように話の流れを変えてくれたんだろうなぁと思う事にした。
そうであってほしい。
「お前俺の事なんだと思ってんだ!? 家畜を襲ったアーマーグリズリーを殺して動けなくなってるところを襲われたんだよ」
「は!? アーマーグリズリーを一人で倒せるのか!?」
バージルさんが驚愕の表情を浮かべてグレンさんに尋ねる。
言い返されたジェラルドさんも目を見開いてるので、余程強い魔物なのかと思ったけど、実物を知らない私はいまいちその凄さが分からないでいた。
熊を素手で撃退! とかニュースでたまにやってるのと同じぐらいだろうか。
頭に疑問符を浮かべる私と、何にびっくりされてるのか分からない様子のグレンさんは、お互いに顔を見合わせて首を傾げている。
「アーマーグリズリーはランクAの魔物だぞ! 鎧のように硬化した毛皮で覆われてるせいで、Aランク冒険者でもソロで討伐できるのは数人しか居ないからな!?」
「あん? でもあいつ後ろ脚の内側の付け根が弱点だから捨身で突っ込んだら大体すぐ殺せるぞ」
「弱点把握するほど倒してるんですか? と言うか、どうやってそんなところ攻撃するんです?」
「こう、抱えてひっくり返して刺す」
ジェスチャーをしながらそう答えたグレンさんに、ジェラルドさんが頭を抱えた。
思いっきりため息をついているし、バージルさんは苦笑いを浮かべて力ない声で笑っている。
「何言ってるんですか? 脳みそまで筋肉なんですか?」
「は!? なんでだよ! 事実しか言ってねぇぞ!!」
「いや、アーマーグリズリーは若い成体でも800kgぐらいある筈だからな……」
何言ってんだこいつら、みたいな顔をしたグレンさんがそう答えると、お前が何言ってるんだみたいな顔をしたバージルさんとジェラルドさんが突っ込んでいた。
私はグレンさんが800kgもある熊を投げ飛ばす事に驚いている。
どうしてそんな危険な生き物をひっくり返そうと思ったのか。
「あれだな、ハブにされてたから自分の力量が不明なんだろうな……」
「普通アーマーグリズリーを倒す力量があれば、仲間から大事にされる筈なんですけどね……」
「きっと倒した事を誰にも言ってないんだろうな……」
小声でそんな話をしているバージルさんとジェラルドさんに、だからこうやって持ちあげてこうするとひっくり返せるからその内に刺すんだって! と、グレンさんが一生懸命説明をしていた。
けど、二人はあまりちゃんと聞いていない様子だ。
きっと、グレンさん以外の人では出来ない方法だからだと思う。
バージルさんとジェラルドさんの反応が一般的だとすると、グレンさんはめっちくちゃ強いけど自分が強い事を理解していないという事になる。
こうやって話す相手もあまり居なかったのかな、と思うと、今こうやって元気に話してるグレンさんがとても健気に思えてきて、私は思わずグレンさんの肩を叩いてこう言ってしまった。
「良かったですね、グレンさん……」
「は!? 何が!?」
私の気持ちが分かったのか、その言葉にバージルさんが噴き出す。
肩を震わせて静かに笑っているけれど、あれはきっと大爆笑だと思う。
「はー、笑った笑った。んじゃ隊列の話に戻るけど、俺が先頭で後ろにチエ、チエの横に二人がついてやってくれ。戦闘になったらチエは俺たちから離れる事」
「はい。他に気を付けることはありますか?」
「植物には気安く触んな。被れたり毒だったりする」
「あとは虫にも気を付けて下さいね。毒虫が居ますから」
「はい、わかりました!」
その後、もう一度ルートの確認と注意事項を全員で共有してから、寝袋に入って横になる。
明日からまた旅が始まると思うと、色々な心配が尽きないけれど、静かに目を閉じて眠る事にした。
今回は自己紹介なので少し短めです。
以降は普通の長さになります。




