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プロローグ、別離

 

 長い長い間。

 本当に長い間続いてきた戦い、『魔王戦役』。


 六十六柱の邪神の内の一柱が魔王となって、百年に一度異界より侵攻を始める。

 そしてそれを、四人の神の使徒が迎え討つ。


 だが戦役はまるで茶番だった。

 戦えど戦えど使徒達が勝利を納めた。


 やがてついに魔王戦役は三十五回を数え、人類はやがて魔王を大した脅威だとは考えなくなった。


 残る邪神は三十一柱。もうかなり邪神の影響力も落ちてきた。

 だから魔王などさして恐れるべき存在ではない。

 使徒達が居れば勝てるのだと。


 人の間にそんな驕りが生まれ、その結果として魔王の猛威の前に第一使徒を失うこととなった。

 そしてそれは、人類が初めて敗北の淵に立たされた事を意味する。

 魔王の軍勢の侵攻により、大陸は荒らされ、人々は苦しんだ。


 最強の使徒たる第一使徒も居らず、さらには世界の要である神殿の一つすら奪われた。

 もはや世界に希望などない、そんな風にさえ思われる状況だった。

 しかし、やはり光は訪れた。

 それは聖女セレス=アナスタシアの降臨。


 そしてその一人の少女の尊い犠牲により、世界は救われたのだった。


 ―――



 仰向けに見える、夜空の星が美しかった。


 劇薬がもたらすざわめきも、狂おしく叫ぶ私の中の邪神の声も。

 その全てが鳴りを潜めてしんとした心は怖いほどに静か。

 そして私はまるで世界の果てのような、そんな荒れ果てた大地に身を横たえて終わりの時を待っていた。


「……ねぇ、ロクさん」


 残酷な願いを突きつけてしまった。彼にだけ罪を負わせてしまった。

 私は、取り返しのつかないことをしたのだ。

 謝る資格なんてきっとないけれど、それでも私は彼に語りかけた。


「なんだ?」


 そう聞き返すのは、ぼろぼろに傷つきながらも化物になった私に寄り添い続けてくれた人。

 その黒髪は泥に汚れ、赤い瞳は絶え間なく涙を流していた。


「ごめんなさい」


 ようやっとそれだけ言うと、彼はくしゃりと顔を歪めて私を睨んだ。


「……あんたな。ほんと……アホだよな」


 強がりのようにそう口にする瞳を私はまっすぐに見つめた。

 それから痛む心を押さえつけ、彼に最後の言葉を投げかける。


「ロクさん、お願いです」

「ああ」

「神も、魔王も……全部、全部」


 意識が散って行く。

 後少しでいい。後少しでいいから……。


「……ぜんぶ、ぶっこわして」


 身の内に響く邪神の声に悟った、戦役という茶番の真実への怒りを込めた言葉。

 願いを受けた彼は長い長い沈黙を守り、やがてその果てに瞳に強い意志の光を宿らせる。


「………分かった」


 ちょうど答えを聞き届けた瞬間、私の全ては闇に包まれる。

 終わりの闇。生の終着点。

 しかし、そんな黒の中でも、その光はいつまでも、いつまでも、輝きを………………。



 ―――



 かつて一人の少女の犠牲により世界は救われた。


 それ自体はきっとどこの世界にでもあるような麗しき美談だ。

 だが犠牲になった少女を愛していた男にとってそれは美談ではない。


 世界のために、一人を奪われた。

 だから男は、一人のために世界を滅ぼすだろう。




 プロローグ、別離・完


もう一つの連載とは世界観に一切の繋がりはありません。

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