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 ふと気づくと、絵里は母方の祖父母の家で暮らしていた。

 どうやら両親が離婚して母親に引き取られたらしい。


(そっか。ふたつの道を見せるってこういうことなんだ)


 不思議なことに、両親の離婚や引っ越しなどの記憶が絵里の中にはちゃんと存在していた。母方の祖父母は絵里に激甘だし、一週間前から通っている高校のことも記憶しているから、これからの生活にも困らない。


(とりあえず、このままここで生きていけばいいのね)


 両親の離婚の際の修羅場や転校直前のイジメなど、覚えてはいるのに体験せずに済んだせいか、妙に実感に乏しい。実際に痛い思いをせずにすんで良かったと絵里は心からほっとした。

 転校先の高校は田舎だけあって授業の進行速度が遅く、今まで通っていた高校より学力レベルも低いようだった。


「これなら楽勝ね。偏差値の低いバカ学校でよかった」


 でも田舎だけに遊べる場所がろくにない。アイドルの収録やコンサートにだって、今までのように行けないことが不満だった。


「つっまんないところね。こんな田舎じゃ、これからなにを楽しみに生きていけばいいのかわかんない。すっごい退屈」


 友達になった女の子達は、のんびりした風土で育ったせいか刺々しいところがなくて、おっとりして優しい子が多かった。田舎ゆえの方言やイントネーションの違いがおかしくて、毎日笑わせてもらった。


「え、なに、その言い方。変なの。おっかしー。ちょっともう一回言ってみてよ」


 とりあえず、あの恐ろしいイジメから解放されたことだけはよかったと絵里はほっとしていた。

 だが引っ越してから一ヶ月が過ぎる頃、絵里はまた無視されるようになっていた。


(なにこれ? どういうこと? 田舎者のくせに私をバカにして)


 だが幸いなことに、おっとりとした風土のお蔭か暴力を伴うようなイジメには発展しない。別に友達なんていなくてもいいと絵里は毅然としていたのだが、学校側は絵里のこの状態を見逃してはくれなかった。


「無視はいけない。どうしてこんなことになったのか、皆で話し合おう」


 田舎の高校の教師は、無視がイジメのはじまりだと危機感をもって受けとめたようだった。

 HRで絵里に対する無視を止めようとして話し合いをもってくれたのだが、これが散々な結果に終わった。


「彼女と話しても楽しくないです」

「そーだよ。そいつ、俺らのこと田舎者だって馬鹿にして鼻で笑うしさ」

「都会がいいんなら、東京に帰ればいいんだ」


 高慢で高飛車、田舎者をバカにする絵里こそが悪者だと断罪されてしまったのだ。


「もう少し歩み寄る態度を示すよう、家庭でも話し合ってください」


 家を訪ねてきた担任が祖父母や母親にそんなことを言ったせいで、それまでは優しかった家族からまで冷たい目で見られるようになった。


「絵里ちゃんは、祖父ちゃんのことも田舎者だってばかにするのかね」

「祖母ちゃんのつくるご飯を食べてくれなかったのは、田舎料理が口に合わなかったからだったんだねぇ」

「あなたの為に離婚して田舎に引っ越してきたのよ。それなのに、どうしてなの? あのまま東京でイジメにあっていたほうがよかったっていうの?」


 家族から冷たい目で見られた絵里は、たまらず反発した。


「離婚してくれなんて頼んでない! 私は東京がよかった。こんな退屈な田舎でなんか暮らしたくない!」


 両親が離婚を決めた時、確かに絵里は母親と共に行く道を選んだ。

 だが、それは神様に押しつけられた記憶の中でのことだ。

 その場に本当の絵里はいなかった。


「こんなの嫌よ! 絶対に嫌っ!」


 叫ぶと同時に、また性別不詳の声が聞こえた。


 ――そうか。それならば、もうひとつの道を示そう。


 そしてまた、絵里の意識は刈り取られた。

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