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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
動物編

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動物編・表その2

 俺は学校の屋上で、根井九天理という少女と出会った。少女は柵に腕をかけて外を見ていた。しかし俺という乱入者に気付き、表情を変えた。


「あ……え、えっと……」


 めちゃくちゃもじもじしてるぞ。もしかしてこの子俺のこと好きなのか?

 ってさすがに初対面だぞ。そんな都合のいい展開あるわけないだろ。とにかく何か話しかけるか。


「やぁ! 今日は天気がいいな!」


「え……?」


「根井九天理、であってるよな? わざわざ屋上に来るなんて随分と面白い奴だな! 大体どうやってあけたんだ?」


 根井九はハッとしてあたふたしだす。


「え、えっとね。私のお父さんがここの卒業生でね。屋上の鍵こっそり持って帰ってきちゃったんだって。それで私にくれたんだ」


 そう言って根井九は1つの鍵を取り出した。なるほど、つまり屋上に行けるかどうかは根井九次第ということか。


「そうなんかー。屋上、好きなのか?」


 俺の問いに根井九はすぐには答えなかった。しばらくして。


「好きかどうかと言われれば好き……だけどいい思い出もないかな。で、でも! きょ、今日はすごく、その、いい思い出になると思う!」


 最後、声裏返ったな。何をそんなに緊張しているんだろう。もしかしてコミュ障なのか?


「なあ。もしかして俺のこと怖い?」


 先ほど龍牙さんの見た目について色々言ったが、俺も大概じゃない。髪は金髪だし、ネックレスだったり色々付けている。

 まあいわゆる見た目だけだったら、完全にただのヤンキーというわけだ。怖がってもなんら不思議ではない。


「こ、怖いだなんてそんな……私、土津具君のこと……えっと……か、カッコいい、と思うよ」


「カッコいい? 俺が?」


 すげー顔真っ赤だぞ。ちょっとからかってみるか。


「もしかして俺のこと好きなのか?」


「ぶっ!!!!」


 突然、あんまり聞かない方が良かったような声を出す根井九。


「あはは!! すまんすまん! 冗談だ! あまりにも反応が面白くてな!」


「う……」


「ん?」


「わた……」


 と、その時。俺の携帯が振動した。


「ちょっとごめんよー……はいー、もしもしー」


 と、電話の相手はバイト先の店長だった。俺は居酒屋でアルバイトをしている。仮にも学校だというのに電話なんてしてくるなよな。


「ふう……で、なんだっけ?」


 電話を終えて俺は根井九に再び話しかける。


「いや、その……」


 根井九はなんだか話にくそうだ。うーん。こういう時は俺から話題を振ってやるべきだな。


「なあ根井九よ。お前なんか好きな食べ物あるか?」


「へ? す、好きな食べ物?」


 根井九は再びびっくりした表情をしている。


「そ、そうだなぁ……鍋、とか」


「な、鍋か。意外なチョイスだな」


「ご、ごめん。でも私鍋好きなんだー。なんか、みんな集まって大勢でワイワイするのが……」


 その時の根井九は遠くを見ているような気がした。まるで何か昔を思い出しているかのように。


「じゃあ、今度やるか?」


 いきなり初対面のやつに言われてやりたい、と答えるやつはいないだろう。でもまあ……言わないよりはマシだろ。そう思ってたのだが……


「ほ、ほんとに? やりたい!」


 と、なぜか目をキラキラと輝かせる根井九。まじかよ。


「お、おおう。それじゃあ考えておこう!」


 言ってしまったからには責任を取らねば。幸い龍牙さんとも知り合いのようだし鍋ぐらいならなんとかなりそうだ。


「っと、そろそろ昼休みも終わるな。そろそろ戻ろうぜ」


 まるで優等生みたいな発言だな、と自分でも思う。


「あ、土津具君!」


 ドアを開けようとしたその瞬間に声をかける根井九。根井九は俯いたまま動かない。

 そういえば、相談に乗ってやるって話だったな。


「どうしたんだ? 相談なら乗って……」


 俺のセリフは、根井九の言葉によって遮られた。


「ここに来てくれたってことは……私の話……聞いてくれるんだよね……?」


 私の話。それはつまり相談のことだろう。龍牙さんにも頼まれたことだ。断る理由はない。


「ああ聞くぞ。でも今日は時間ないからまた明日な!」


 俺はそう言って背を向けた。その一瞬だが、根井九が本当に嬉しそうな表情をしていた、気がした。


 こうして、俺は1人の少女と出会った。根井九天理。俺は彼女の話を聞くために屋上へと通うようになった。

 最初はぎこちない会話しかしなかったが、徐々に普通の会話もするようになった。はたからみれば恋人同士に見えたかもしれない。と、いっても屋上に人はいないから誰にも見られてはいないのだが。

 俺も最初は相談を受けているだけのつもりだった。しかし段々とそういう感情は薄れていき、純粋に彼女と話したいと思っていた。

 ちなみに根井九は相談という相談らしいことは特にしてこなかった。結局、相談とはなんだったのだろう?

 ともあれ、俺は根井九と出会ったことで少しだけ楽しみが増えた気がする。俺も、あいつのように何かが変わったのだろうか?

 変わったといえば、龍牙さんがあまり学校に来なくなった。やはり何か事情があるのだろうか? 根井九のことも話せずになかなか連絡が取れない。本当に心配だ。


「どうかしたの? 剛」


 と、隣にいた根井九が俺に声をかける。ちなみに呼び方も根井九が名前で呼びたいと言ってきた。これじゃあまるで本当に恋人同士みたいじゃないか、とも思ったが別に名前で呼ぶぐらい普通だろう。


「いやー、天理と出会ってからもう1ヶ月半ぐらいたったのかーってな」


 俺も名前で呼んでほしいと言われたので天理と呼んでいるが、実際恥ずかしいので心の中では今でも根井九だ。


「ふふ。あっという間だね。ねーねー、知ってる? 不死身の女の話」


「不死身の女? 何それ。ホラー映画かなんか?」


「違うよー。ナイフとかカッターで体を傷つけても死なない不死身の女がいるって噂だよ」


「聞いたことねーなー。そんな噂信じるのかー?」


「べ、別に私も信じてるわけじゃないよ!」


 少しだけ頬を赤くして根井九はそっぽを向いた。こういうところは可愛らしいなと思う。


「ねぇ剛」


 しかしすぐに根井九は俺と目を合わせ、小さな声で呼んだ。そして肌と肌が密着する。


「……」


 なんだ。なんでそんな虚ろな目で俺を見る? 根井九はわざとなのか、俺に体を触れさせているような気もする。


「剛」


 いや、待て。待て待て待て。ここは屋上だぞ。学校だぞ。人……いないけど……なんだってこんなに積極的なんだ根井九は!?


「わ、悪い悪い!! ちょっと用事を思い出したわー」


 俺は慌てながらも、根井九から無理やり離れた。実は同じようなことがここ最近増えている。

 何かと顔を近づけてきたり、わざと胸を押し付けてきたり、スカートの中をわざと見せてきたり……正直、耐えられん。

 だけど俺には1つ心に誓っていることがあった。そのおかげと言っていいのか、なんとか一線を超えずに堪えられているという現状だ。


「……」


 ここで俺がはっきりと言ってやるのも優しさだとは思うのだが……

 根井九のなんとも言えない悲しそうな表情を見ると、何にも言えなくなってしまう。俺が甘いのかもしれないが、結局こうやって逃げるしかないのだ。


「ごめん。天理」


 俺は聞こえたかわからない声で謝罪してこの場を去った。やっぱり俺は甘いんだ。言うべきことがはっきりと言えない。

 もっと、俺がしっかりとしていれば。そんなことを考えながら時は過ぎていった。

 そして、今度はアイツと出会うことになるのだった。

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