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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
動物編

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動物編・表その1

 俺は今一度思い出す。ある日に俺は彼女と出会った。ある日に俺はアイツと出会った。

 この出会いが俺の生活を変えたと言っても過言ではない。それほどに重要な出会いだったのだ。俺は思い出していた。

 あの出会いのことを。


 5月23日。俺は学校に向かっていた。時間は10時を過ぎている。うん、遅刻だ。まあ当然だ。昨日は夜遅くまではっちゃけすぎた。仕方ないよな。

 しかしそれでも俺は学校に向かう。サボるという選択肢はなく、向かわなければならなかった。そうしなければ俺の命は無いも同然だったからだ。


「おっすー!! おはよう諸君!!」


 勢いよく教室のドアを開けた。シーンとしていた空気が笑いに包まれる。


「おい土津具また遅刻かよー!」


「また夜更かししてたんだろー」


「どうせエロ本探しでもしてたんだろ」


 みんなが俺を見て笑う。これもよくあることだ。


「ふっ……あまいぜテメェら。俺は昨日!! お年寄りのおばあちゃんが困っていたから助けていたのだ!! それでお礼にお菓子でもどうぞ、なんてしてたらもう真っ暗だったのだ!」


 もちろん、嘘である。


「土津具。いいから座れ」


 教師に言われそそくさと席に着く。俺は遅刻の常習犯だ。教師の連中も俺に何を言っても無駄だと思っているのだろう。だから何も言ってこない。


 そんなこんなで時間は過ぎ、あっという間に昼休みだ。俺には必ず話しかける奴がいる。


「よ! 魁斗!」


 俺が向かった席には1人の男が座っている。今は付けていないが、普段は首にヘッドホンをぶら下げている。

 と、言っても昔はそんなことしていなかったのだが、最近だ。最近になって何故か壊れたヘッドホンを首にぶら下げるようになったのだ。


「剛か。相変わらず遅刻か」


「まあな! 昨日は騒ぎすぎたわ!」


「はぁ、少しは大概にしろよなー」


 こんななんてことないいつも通りの会話だ。だが俺にはわかる。魁斗は()()()変わった。

 魁斗とは小中高と同じだ。それぐらいの付き合いなのだ。変化に気づかないわけがない。

 具体的に何がかというと説明は難しい。なんというか……昔、活気があった時と同じ雰囲気になった気がするのだ。


「おっと、やばいやばい! 俺この後用事があるんだった。じゃあまた後でな!」


 時間を確認して俺は慌てて教室を飛び出す。そう、俺はあの人に会わねばならなかったのだ。

 階段を駆け上がり、4階の教室に向かう。ここは3年生のクラスがある階だ。その1つ。3年A組へと向かう。


「こんちゃーっす! 龍牙(りゅうが)さんいますかー?」


 俺はドアを開けて大きな声を上げた。すると、1人の人物が俺に気づいたのか声をかけてきた。


「龍牙? あーさっき購買行くって言ってたよ」


「なぬ! ありがとうございます!!」


 俺は先輩に礼を言うと購買へと向かった。購買のすぐ隣には食堂があり、そのテーブルを1つ占領している団体がいた。


「お、剛ー! こっちこっちー!」


 その団体から声がする。俺はそこに向かっていった。


「剛おせーぞ。何やってたんだよ」


 俺に声をかけたの人物は、茶髪でロングヘアの男。この人も3年生で先輩である。


「すんません。あれ? 龍牙さんは?」


「ああ。お手洗いだ」


「あ、戻ってきたぞ」


 俺は戻ってきたという声に反応してあたりを見回す。すると。


「テメェ!! どこ見て歩いてんだぁ!?」


 と、激しい罵声が聞こえた。声のする方を見てみると、2人組の男子が怯えていた。あの雰囲気は1年生だろう。

 そして怒鳴っている人物。長い茶髪のロングヘア。しかし先ほどの先輩とは違って、髪がボサボサしている。普通だったらありえないな。身だしなみとは気を使うものだろう。特に。

 女性ともあれば。


「ひっ……! す、すいませんでした!」


「チッ……なよなよしてんじゃねぇよ!! テメェ男だろ!? あたしはテメェのような男が大っ嫌いなんだよ!! さっさと失せろ!!」


 龍牙メイ。それが、俺たちのリーダーである女性の名だ。

可愛らしい名前からは想像もつかないぐらいおっかない容姿をしている。

 実はわざとおっかない格好をしているらしい。昔名前でナメられたことがあり、それ以来あえて凶暴な態度をとっているとのこと。

 だから実際にはそこまで怖いわけではない。しかしその真実を知っているのは俺たち不良軍団を含めてわずかだ。


「チッ、雑魚が……ん? おい土津具! おせぇじゃねぇか」


 と、龍牙さんが俺に気づいた。もうわかるだろう。俺はこの人に呼び出されたのだ。逆らえば死……それだけは避けなければならない。


「いやぁすんません。とりあえずこれをどうぞ!」


 俺は用意していた酢昆布を素早く差し出した。


「ほう」


 龍牙さんは酢昆布を受け取ると早速口に含んだ。


「……悪くない。合格だ」


「うっし!」


 俺はガッツポーズを取った。ちなみに今の一連の流れは、呼び出された理由とは全く関係ないのである。ただの恒例行事のようなものだ。


「それで? 今日は何用ですか?」


「ん? ああ。実はな、お前に頼みがある」


 辺りがざわつく。龍牙さんが俺に頼みごと?


「……チッ。おいテメェら! うるせえからどっかに失せろ!」


 龍牙さんが怒鳴ると周りに取り囲んでいた不良軍団は散っていった。ただ1人俺を残して。


「そ、それで……一体何用なんでございましょう?」


「何怯えてんだ?」


「い、いやぁそんなわけないじゃないですかぁ」


「とって食おうってわけじゃねぇよ。まあ聞け。あたしがよく行くバイク屋あるだろ?」


 龍牙さんは運転免許を持っていて、かなりのバイク好きだ。近くのバイク屋に通うほどには。


「そこの店主の娘と約束しちまってな。相談を聞いてやるってな。だがな……あたしはしばらくあのバイク屋に行けなくなっちまってな。だからあんたが代わりに聞いてやってあげないか?」


「なんだそんなことっすかー。いいっすけどなんでバイク屋行けないんです?」


 すると黙り込んでしまった。何か行けない事情でもあるのだろうか。


「……まあいいですよ。それでその娘ってのは?」


「ああ。名前は根井九天理(ねいくてんり)。この学校の生徒であんたと同じで2年だ」


 そう言って龍牙さんは俺に1枚の写真を手渡してきた。そこには1人の女の子が写っていた。ツインテールが特徴的で、ちょっと目つきが悪いな。それでもよく見れば可愛らしいと思える。


「へぇこの子がうちの学校に。こんな子いたっけなー?」


「土津具。あんたクラスどこだっけ?」


「俺はB組っす!」


「そうか。天理はA組らしいから後で声かけてやってくれ」


 じゃあな、と手を振ると龍牙さんは食堂を後にした。釣られて俺も食堂を後にした。


「うーむ……って言ってもなんて話しかければいいんだよ」


 考えながら俺は目的地もなく廊下を歩いていた。


「おい聞いたか?」


 ふと、何やら話し声が聞こえる。


「B組のなんだっけ……かいきや、とかいうやつ。幽霊が見えるらしいぞ」


「幽霊ってお前そんなの信じてんのかよ」


「いやいや実際に幽霊に取り憑かれてたやつを助けたって話だぜ?」


「まじかよ。嘘じゃねーの?」


 またその話か。ここのところ同じ話をよく聞く。魁斗が幽霊がらみの事件に関わっているという話だ。その話題を聞くようになったのも最近だ。

 あいつに何かあったのか? 俺はそんなことも同時に考えていたら、気づけば学校の屋上へと向かっていた。


「って、屋上は閉まってるよな……ん?」


 普段なら屋上のドアは閉められているはずだった。しかしわずかだが隙間があった。ドアが開いているのだ。

 隙間から外の光が差し込んでくる。誰かが開けたのか? 俺は興味本位でドアを開けた。


「うおっ、まぶし」


 開けたと同時に外の光が差し込んできて目が眩む。さらには風も吹き、一瞬目の前に人がいることに気づかなかった。

 そこには少女が1人立っていた。ツインテールが特徴的であり、俺が入ってきたことでこちらに振り返った。少女の顔が視界に入り、少し目つきが悪いように感じた。

 あれ? 俺はこの子をついさっきも見たような……


「う、そ……」


 思い出した。今俺の目の前にいるこの少女は。


「本当に……来て……くれた……」


 根井九天理。龍牙さんから相談に乗ってやってくれと頼まれた人物だった。

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