怨霊編・裏その6
私は1人でエリアCへと向かっていた。私の推測が正しければこれからある出来事が起こるはずだ。
『本当にいいの?』
「ええ。これで全部わかりますよ」
私は通話を切って携帯をポケットにしまった。もうすぐでエリアCだ。エリアBと同じく一本道で、先を見るとひらけている。
「……」
汗が出る。決して暑いわけではない。緊張、なのだろうか? なぜ? 別に私はただここを通るだけじゃないか。
一本道が終わり、その一歩手前で立ち止まる。このまま進めば全てがわかる。私の推測が正しければ、このエリアCに入った時点で。
爆発する。
一歩を踏み出す。直後、巨大な爆発音と共にエリアCが吹き飛んだ。
昨日と同じ光景だ。火が上がっており、煙の匂いも充満している。あたりにはエリアCだったものが散らばっている。そして、私はいつも通りに無傷だ。
「風香さん。もう一度確認します」
私は再び風香さんに電話をかけた。
「エリアBが爆発した時、風香さんはエリアCにいたんですよね?」
『そうだよ。隣のエリアだったから……すごい音だったし……』
風香さんの声に覇気がない。おそらくまた私が平気でいることに驚いているのだろう。
「なのに、私がエリアCに入った途端にここは爆発した。つまり」
もうここまでくれば、この爆弾がなんなのかバカでもわかると思う。
「私が爆発のカギになってるんですよ」
万邦の作った爆弾。おそらく起爆条件があるのだろう。それが私。私がその爆弾に近づいて爆発する仕組みなのだろう。
「よかったです。もしさっき一緒にエリアCを通っていたら風香さんも無事じゃすまなかったです」
そう思うとゾッとする。
『じゃあ万邦はそれを量産するっていうの?』
「理由は、なんでしょう? 私の動きを制限するためでしょうか?」
私が爆弾で死なないことは万邦も理解しているはずだ。それを量産することに意味があるのか?
『……おそらくだよ。姫蓮ちゃんを自由に行動させないためだね』
風香さんの予想はあながち間違いではないと思った。
『姫蓮ちゃんがスイッチになってるのはわかった。それで爆発しても姫蓮ちゃんは無事。だからなんの意味もないように見える。だけど、一緒にいる人は? さっき姫蓮ちゃんは私のこと心配してくれたよね? 要はそういうことだよ。姫蓮ちゃんを爆発で死なせることが目的なんじゃない。姫蓮ちゃんが動き回ることで他の人を巻き込んでしまう。そうすることで姫蓮ちゃんの動きを封じようって魂胆なんだよ』
確かにそうだとしたら私は誰一人として私に近づけさせないだろう。そうすれば私は1人になる。その時の私を捉えようというのが狙いなのだろう。
「どうしますか?」
『万邦の向かった先は予想はつく。爆弾を量産出来るような場所を今洗い出してる』
もしすでにこのエリアC以外にも仕掛けられていたら? そう考えると風香さんとは一緒に行動しない方がいいかもしれない。だけどそうすれば敵の思うツボでもある。
『ダメだ……これじゃあどうしても時間がかかる……姫蓮ちゃん! さっきのネカフェで合流しよう。理由は言わなくてもわかるよね?』
ここは再び爆発したのだ。また人だかりが出来てしまうだろう。それに万邦の場所が掴めていない。そのことについても調べる必要もある。とにかくこの爆発した工場から離れなければならない。
「わかりました。それじゃあまた後で」
結果として爆発は起きなかった。仕掛けられていたのはあの二箇所だけだったのだろうか? それとも起爆しないルートを通っただけかもしれない。
風香さんはパソコンに目を向けている。爆弾を作れそうな施設を探しているのだ。もちろん万邦が侵入できることを想定して。
「姫蓮ちゃん。眠れるうちに眠っておきなよ。今回ばかりは出来るだけ早めに手を打っておきたいからね」
日付はすでに変わっていた。午前2時を過ぎている。確かに眠気はある。
「でも、それを言ったら風香さん。あなたが眠れないじゃないですか? そんなずっとパソコンばっか見てて……疲れるのは風香さんの方でしょう?」
「大丈夫! これぐらいでへこたれてたら一人前の除霊師になんてなれないから! さあ寝た寝た!」
実際大丈夫じゃないだろう。でもここは風香さんのご好意に甘えることにした。
「姫蓮ちゃん! 起きて!」
風香さんの声で目が覚めた。時間を確認してみると、現在は8月7日の午前7時半。大体5時間ほど眠れたということになる。
「万邦が向かいそうな場所がわかったよ!」
風香さんはテンションが高い。いや、きっと違う。そうでもしないと睡魔が襲ってくるからだ。
「ここからそれほど遠くない場所に今では使われていない研究施設があるんだ。そこでは過去に実験もおこなっていたらしく、爆発物も扱っていたんだって」
そんな物騒な施設がこの街にあったなんて。
「そしてここからが重要なんだけど……その研究施設の近く。実は怨霊に取り憑かれた人や目撃例が多かったんだ。偶然にしては出来すぎじゃないかなって思うんだよね」
もしかするとその研究施設こそが、怨霊の本拠地となっている可能性があるということだ。
「確かに、それは一理ありますね」
「うん! だから今から向かうけど大丈夫?」
「それはこっちのセリフです。頑張りすぎなんですよ」
「えへへ。少しは先輩らしいところを見せないとね」
「はぁ。全部終わったら何か奢りますよ」
とにかく目的地は決まった。ここから数分でつく位置にある研究施設。私たちは何も食べずに外へと飛び出した。
「万が一、そこにいなかったらどうするんですか?」
「そうだね……その時はまた探し直しだね。でも一応さっき師匠にも連絡は入れておいたから」
風香さんの師匠、プロの除霊師。今もどこかで別の怨霊を追っているはずだ。
「じゃあいたと仮定するよ。その時のための予定を話さないとね」
走りながらも風香さんは説明した。
「研究施設に着いたらまず私が怨霊の痕跡があるかどうかを調べる。今回はあってもなくてもどちらでも構わない。そこからは別行動をとる。もう量産されている可能性が高いからね。姫蓮ちゃんは正面から突っ切って欲しいの。私は別ルートで向かうから」
一見無謀な作戦に見える。私が不死身じゃなかったらだけど。私としても別行動の方が万が一爆発した時のことを考えると助かる。
「おそらく万邦は姫蓮ちゃんを狙うと思う。私はその隙をついて爆弾を処理する。その後に万邦を捕まえる。最悪怨霊αは後回しでもいい。今回危険なのは爆弾だからね。下手すると一般人にも被害が出るかもしれないからね」
それを引き起こすのが私かもしれないと思うと胸が締め付けられる。
そのまましばらく走った。人通りが少なくなり、研究施設らしきものが見えてきた。
「あそこだね。ちょっと待ってて」
私たちは近くの茂みに隠れた。風香さんが意識を集中させている。
「……怨霊がいた痕跡がある。まずいな。今回ばかりはいない方が都合が良かったんだけどね」
風香さんの言う通りだ。ここからは別行動を取る。つまり怨霊からすれば私に襲いかかる絶好のチャンスになるというわけだ。
「とりあえず携帯の電話を繋げっぱなしにしておこう。そうすれば何かあった時すぐにわかるでしょ?」
「そうですね。充電が切れないことを祈りましょう」
「姫蓮ちゃんそれはフラグ……」
「行きますよ」
私は茂みから出て研究施設へと向かった。施設の中はボロボロだった。しかし所々はまだ使える様子だった。以外と最近まで使っていたのかもしれない。
私はできるだけ音を立てずに奥へと進んでいった。すると、奥の方から微かだが音が聞こえてきた。
「向こうね」
音のした方へと進んでいく。朝だというのに窓が無く、施設内は真っ暗だった。だけどそれが逆に助かった。おかげで明かりのついている部屋がすぐに見つかったからだ。
扉の前にたどり着いた。こっそりと室内の様子を伺う。中には1人の男、万邦だ。
「……」
私は深呼吸をした。そして勢いよく扉を開けた。
「っ! お前は……!」
「万邦猛気! 今すぐ爆弾を作るのをやめなさい!」
万邦の側には爆弾らしきものが大量に置いてあった。もうあんなに作ってしまったのか。
「なんでお前がこの場所を……それに爆弾のことまで……」
「そんなことはどうでもいいでしょう。あなたのこと、調べさせてもらったわ。私が起爆スイッチになってる爆弾を作ってること。あなたは怨霊に取り憑かれてないこと。そして……あなたの妹さんが怨霊に取り憑かれているということ」
万邦は表情を変えた。なぜそれを知っている? と言わんばかりに。
「……だったらわかるだろ。俺は妹を助けたいだけなんだよ! あんなわけのわからないもんに取り憑かれて……こうするしかねぇだろ!」
万邦は怒鳴った。彼は本当に妹さんを助けたいだけなんだ。
「なら、除霊師に頼めばいい。私の知り合いに除霊師がいる。その人なら怨霊を祓うことが出来る」
風香さんもこの会話は聞いているだろう。それに妹さんを助けるということは、怨霊を祓うということだ。私たちの最初の目的と合致している。
「ダメなんだよ……もう遅いんだよ……そんなこととっくに見透かされてんだよ!」
「……ならこの場で祓ってもらう。怨霊はどこにいるの? 答えて」
怨霊はここにいる可能性がある。だとすれば都合がいい。ここで風香さんに祓ってもらう。そうすれば解決。
「怨霊はここにはいねぇよ」
……のはずだった。
「さっきまで確かにいたけどな……もういねぇよ。仕掛けに行っちまったからな」
まさか。
「仕掛けにって……」
「そうだよ! 爆弾だよ! もうとっくに仕掛けちまったんだよ!」
怨霊は完成した爆弾を仕掛けに行ってしまったのか!?
「その爆弾は後でなんとかする。私がここにいる限りは起動しないはずだからね」
私が動かない限りは爆弾は動かない。だから万邦をここで抑えた後、爆弾を処理すればいい。私はそう考えていた。
「なあ、お前。1つだけ勘違いしてることがあるんだよ」
万邦は急に無表情になった。勘違い? なんのこと? 私は考えた。
「爆弾の起爆条件。それはお前でもあるが、お前だけじゃない」
だけど考える間もなかった。万邦は表情を変えずに、事実だけを述べた。
「幽霊に取り憑かれている人間が起爆条件なんだよ」
「え……?」
「すでに5つ。もうとっくに仕掛けてあるはずだ。繁華街通りを通るバスに2つ。近くのコンビニに1つ。駅近のトイレに1つ。大型ショッピングモールの中に1つだ……このどれかに近づけば一瞬でドカン、だ。お前以外にも……幽霊に取り憑かれている人間が近づけばな」
これが万邦のはったりじゃなかったら。街は、大混乱に包まれる。




