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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
怨霊編

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怨霊編その16

 目を覚ますと俺は病院にいた。なんでこんなところにいるんだろうと考えてみる。……そうだ。俺は昨日の出来事を思い出した。


「結局、あれからどうなったんだ……」


 俺はつい、ポツリと呟いていた。誰も聞いてるはずないのに。


「そうね。とりあえずそこから先は超絶美少女の私から説明してあげましょうか?」


「うぉ!!」


 突然の声に驚いた。そこには富士見がいた。よく見ればすぐ真横に座っている。


「もしかして、ずっとここに居たのか?」


「バカなこと言わないでほしいわね。ちょうど今来たばっかりよ」


 なんだ、と少しガッカリする。


「って待てよ。富士見、もう体は大丈夫なのか?」


「カラダッ! 怪奇谷君起きて早々人のカラダに興味を示すなんて! 欲求不満なのかしら?」


 この反応を見るに、とりあえず大丈夫そうだな。


「ま、こいつはいつでもそんな調子だろ」


 ヘッドホンの声がした。しかし首元からではなく、ベッドの横にあるテーブルにヘッドホンは置かれていた。


「まあ冗談はさておき……怪奇谷君」


「ん?」


「その、今回は、あ、ありがとう……それから、ごめんなさい」


 富士見は座ったまま頭を下げた。待て待て。なんで富士見が頭を下げる??


「ちょ、ちょっと待ってくれ、てか頭あげてくれ……何が何だか」


「今回、怪奇谷君を巻き込むつもりはなかったの。利用した事実は認めるわ」


 巻き込む? 利用? なんのことだかさっぱりだ。


「な、なぁ富士見。とりあえず説明してくれないか? 俺には富士見が何を言ってるのかさっぱりなんだが」


「あ、そ、そうね。もう隠し事は無しね。えっと……」


 富士見が説明してくれようとしたその時だった。


「やっほー! 元気してるかなー?」


 勢いよく病室のドアが開けられる。現れたのはいつもの明るい先輩だった。


「風香先輩……」


「おや? なんだってそんな露骨に嫌そうな顔をするのかな? せっかくこんな可愛い先輩が美味しいクッキーを作ってきてあげたというのに!」


 なんだか騒がしくなってきたな。と、俺は昨日の最後を思い出した。

 助っ人にやってきたのは風香先輩だ。その風香先輩が生霊を()()()のだ。あんなことができる人間を俺は知っている。


「ちょうどいい。風香先輩。この前言いましたよね? 今度は全部聞かせてもらうって。全部話してもらいますよ」


「うーん? なんのことかなー? ってさすがにもう誤魔化せないよねー。昨日見せちゃったし」


 ということやはり。


「風香先輩。あなたは……」


「そ。()()()だよ」


 除霊師とはこの世界に存在する悪霊などを対峙する専門家だ。幽霊を退治することを総じて『祓う』または『除霊』と呼んでいる。除霊の仕方にもそれぞれだが、基本は呪文を唱えながら行うらしい。


「といっても私はまだ修行中の身なのでまだ除霊師見習いってところかな。現在も師匠の元で修行中ですぞ!」


 基本はその血筋の人間が引き継ぐものなのだが、才能ある人間もいるらしく、弟子入りを求める人もいるとのことだ。


「それじゃあ……なんで最初に富士見を助けなかったんですか? 除霊師なら祓うことが出来るって言ってたのは風香先輩でしょ?」


「そう。だけど私はあの時手が離せなかったんだ。それについてはこれから話すことが重要になってくるね」


 なぜか風香先輩は富士見の方を見た。そういえばこの2人はいつ知り合ったのだろう? そう思っていた矢先、答えはすぐにでた。


「魁斗君。この街の怨霊……初代怨霊のことは話したよね?」


 初代怨霊。この街が出来た時からずっと彷徨っているとされる怨霊のことだ。


「初代怨霊達の目的は依然として不明。だけど1つだけわかっていることがあるの」


 奴らの目的。確かあの怨霊はこんなことを言っていた気がする。

 ()()()()()()()()()()()、と。


「そうだよ。どういうわけか怨霊は姫蓮ちゃんを狙っている。だからね、それを逆に利用させてもらうことにしたんだ」


「それって、まさか!」


「そう。()()()


 俺は富士見を見た。富士見はそれも全て承知の上だったというのか?


「ごめんなさい。でも私には不死身の幽霊が取り憑いてるから。身の危険は無いって思ってたの」


「だからあらかじめ姫蓮ちゃんとはコンタクトを取っていたんだ。今回の件について協力をお願いするためにね」


「ふざけんなよ……じゃああの偽のデートの目的は? あれはなんだったんだよ」


 俺は正直イラついていた。富士見を囮にした風香先輩に対して。そしてそれをあっさりと飲んだ富士見に対して。そして、何も出来なかった俺自身に対して。


「順に説明するとね。まず私が脅威に感じたのは音夜斎賀だね。彼をなんとかしなければならないって思ったの。魁斗君にも音夜のことは説明したよね? 音夜をおびき出すために姫蓮ちゃんには偽のデートを行なってもらうことにしたんだ」


「それについては風香さん、私からも言いたいことがあります。音夜がまさか()()()だったなんて……なんでそれを早く言ってくれないんです?」


「ごめんごめん。それを言ったら姫蓮ちゃん断るかなって思って」


「ま、待ってくださいよ! なんで音夜をおびき出すのに偽のデートなんかする必要があったんですか!?」


 さっぱりわからん。そもそもあのデートにすら意味があったなんて。


「音夜はね……姫蓮ちゃんが男と歩いてると反応するんだよ」


「は??」


「うーん、そのまんまの意味なんだけどね。まあとにかく音夜はそれほど姫蓮ちゃんに執着してるってわけ」


 なんだそれ。音夜ってのはそれほどやばいやつなのか。もしかしてただのストーカーなのでは?


「まさか本当に現れるとは思わなかったですけどね」


「それで? どうするつもりだったんですか?」


 あの時音夜は実際に現れた。しかしその後富士見は生霊に取り憑かれてしまったことにより何も起こらなかった。


「そう。あの後姫蓮ちゃんに気を取られてる間に私が音夜に取り憑いている怨霊を祓うつもりだったんだよね。……実際には失敗。その後私は音夜を追いかけて格闘してたってわけ。だから姫蓮ちゃんを助けに行けなかったし、魁斗君の協力も出来なかったの。ごめんね」


 そういうことか。それなら今まで風香先輩が姿を見せなかった理由もつく。


「でも、それだったらなんで俺に相談してくれなかったんだよ?」


 俺は富士見に問いかける。


「私が言わないようにお願いしたの」


 それに答えたのは風香先輩だった。


「どうして!?」


「はっきりいって今回は魁斗君では手に負えない問題だったの。それにこれは除霊師の仕事でもあるからね。師匠からも魁斗君を巻き込むなと念を押されてるしね」


 なんだそれ。じゃあ富士見はどうなんだ。それなら富士見だって巻き込まないで欲しいものだ。


「ごめんなさい。私もそれには同意した。怨霊が私を狙う理由……それはもしかするとこの不死身の幽霊が狙いなんじゃないかって。なにかわかるかもしれない。そう思ったの」


 富士見に取り憑いている不死身の幽霊。富士見にとってはこれの解決は最優先事項でもあった。


「それでもだ……次からは相談してくれ」


 富士見ははっきりとは答えなかったが納得はしてくれたようだ。


「だけどまあ……つけてたのが私だけじゃなくて他に2人もいたなんてね」


 風香先輩は笑ったが俺は笑えなかった。その2人とは1人は怨霊が取り憑いたキリコだろう。そしてもう1人。今回の生霊を生み出した人物だ。


「……」


 富士見も何か思うところがあるのか、浮かない顔をしている。


「怪奇谷君。話は聞いてる。智奈のこと……私、あの子にひどいことしちゃったのね……」


 おそらく風香先輩から話を聞いたのだろう。今回の被害者は富士見だけではない。智奈もある意味被害者なのだ。


「私、気づかなかった……智奈があなたのことをそんなに思っていたなんて……もう私、嫌われちゃったよね」


 いつになく弱気になる富士見。それは、富士見がそれほど智奈のことを思っているという証拠だろう。


「大丈夫だよ。今回智奈が1番心配していたのは富士見なんだ。そんな簡単に富士見のこと嫌いになるわけないだろ?」


 これだけははっきりと言えた。智奈は富士見のことを嫌いになんてならないって。


「……そうね。こんな超絶美少女の私を嫌いになるはずなんてないわよね」


「そうそう。智奈ちゃんならこの病院に入院してるから後で会ってあげたら?」


 そうなのか。少し気まずいが、言わなければならないこともある。後で会いに行こう。


「その、怪奇谷君」


 富士見がなんだか聞きづらそうに俺に質問した。


「怪奇谷君は智奈にわざと嫌われる方法をとって問題を解決したんでしょ? ……その、助けてもらった私が言うのもなんだけど……智奈と付き合うっていう選択肢は……なかったのかなって……怪奇谷君、智奈のこと好きじゃなかったの?」


 富士見の問いに俺は胸が痛む。


「いやー確かに魁斗君は智奈ちゃんのこと好きだったかもしれないけどねー。さすがにあれを見ちゃったらもう好きにはならないと思うよ? 魁斗君は演技で嫌われるようにしたみたいだけど、実際にあんな智奈ちゃん見ちゃったら付き合えるわけないよね?」


 風香先輩の言う通りかもしれない。俺は本当にそう思ったからそうしたのかもしれない。


「違うんだ」


 それでも、俺は。


()()()()()()()()


 この場にいる全員が不思議そうに俺を見ていた。俺はその状況に、再び胸が痛んだ。

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