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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
怨霊編

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怨霊編その10

 多少の不安を抱きながらも、俺は神速の完二と連絡先を交換した。出来ればしたくはなかったが。


「もうこんな時間か……」


 時刻は夜の7時を過ぎていた。少し腹が減ったが今は呑気に食事をしているほど余裕な状況ではない。


「ふじみー大丈夫かな」


 ヘッドホンも心配している。俺も富士見の様子が気になってきた。一旦連絡してみよう。看病をしているはずの恵子に電話をかけた。


『兄ちゃん!? 大丈夫!?』


「心配しないって言ってたのはどこのどいつだ?」


『な、何言ってんの!? し、心配なんかしてないし!』


 この様子だと特に変わったことはないか。


「恵子。富士見の様子は?」


『うん。大丈夫……なのかな? でもずっと苦しそう。兄ちゃん、富士見さんをなんとかするために今頑張ってるんでしょ? その、早くなんとかしてあげて……見ててこっちも苦しいよ』


 富士見は大丈夫。その言葉を聞き安心はするものの、苦しそうなことに変わりはない。すぐにでも楽にしてあげないと。


「ああ。もう少しかかると思うけど待っててくれ」


 そう言って俺は電話を切る。それと同時に見慣れない名前の人物から電話がかかってきた。


「完二……!?」


 神速の完二からだ。もう見つかったのか!?


「もしもし!!」


『よお2号! 見つけたぞ! 場所は近くの空き地だ。待ってろ! 今からボコボコにしてくるからな!』


「ま、待ってくれ! そんなことはしなくていいから……!?」


 言うだけ言って電話を切られた。まずい。いくらマッチョ店員とはいえ複数人相手に勝てるわけがない。

 もしボコボコにされて気を失われたりでもしたら、例の女のことを聞き出せないかもしれない。


「クソッ!! 余計なことするなよな!!」


 俺は指定された空き地へと走る。仕方がないことだが今日はやたらと走る。もう体力が厳しい。やはり運動は続けておくべきだったか。


「現役の時はこんなんへっちゃらだったのにな!」


 俺は走りながらボソリと呟いた。


「アンタ確かバレー部だっけ?」


 ヘッドホンがそんなことを聞いてくる。走りながらだと答えるのもきつい。


「そ、そうだ……外周とかしまくってたからな!」


 あの頃はこれぐらいなら全然疲れなかったのに。本当に衰えたものだ。

 疲れも限界が近づいてきたころ、ようやく空き地が見えてきた。この辺の空き地といえばここしか思い浮かばない。俺はようやく目的地へとたどり着いた。

 そこには、恐ろしい光景が広がっていた。


「なっ……」


 神速の完二を含む『ダークネスチーターズ』のメンバー全員がその場に倒れていた。

 倒れていたのは今までのような怨霊に取り憑かれたことが原因じゃない。なぜなら完全に気絶はしていなかったからだ。ただ、気を失いかけている状況だった。

 そして、中央に立つのは1人の男。


「あなたは、今朝の……」


 マッチョ店員、もとい松下だった。松下は傷1つなくその場で立っていた。他の連中は全員倒れているというのに。


「お、おい……に、2号……」


 ボロボロで倒れている神速の完二が近くで声をかけてきた。ひどい傷だ。まさかこれも松下がやったというのか? さすがにやりすぎではないのか?


「き、気をつけろ……あ、あいつは…普通じゃない……」


 神速の完二はそのまま気を失ってしまった。


「あんた、松下さんであってるよな?」


 俺は松下をあからさまに睨んだ。今朝助けてもらったのに申し訳ないとは思うが、この光景を見て普通には感じなかった。


「ええ。あなたは今朝うちの店にいらっしゃったお客様ですよね?」


 言葉遣いは丁寧なままだった。それが逆に不気味に感じた。


「1つ質問だ。あんたは今日店に来た怪しい女と知り合いか? さっき店に行ってあんたが今朝怪しい女の客と親しげにしているって話を聞いてな」


 松下は答えない。しかし表情が変わったのは一瞬でわかった。


「それで?」


「その女が俺の友達……今朝一緒にいた女の子だ。俺の友達を傷つけたかもしれないんだ。だからその女が今どこにいるか知っていたら教えてくれないか?」


 松下は真顔になった。そして。


「そんなこと、教えるわけがないだろう。俺は……姉さんのためならなんだってする……!」


 松下の体から真っ黒なオーラが現れた。カメラマンが発していたものと同じ……いや、それ以上かもしれない。

 つまり。松下もまた、怨霊に取り憑かれている。


「普通じゃない、ね。確かに普通じゃねぇな」


「アンタ気をつけろ! あいつは今までのやつとは違う!」


 ヘッドホンの言う通りだ。なぜなら今まで取り憑かれた人物はみんな自我を保てていなかった。

 しかし今回は違う。松下は自らの意思で俺に敵意を示している。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 しかしその真っ黒なオーラに包まれた松下は徐々に落ち着きを無くしていく。


「うおおおおおおおおおおおお!!!!」


 松下は俺に向かって突進してきた。あんな攻撃を喰らえばひとたまりもない。絶対に避けなければならない攻撃だ。

 俺はギリギリまで避けずに正面まで接近させた。


「ちょっ!? アンタ避けろよ!!!」


「ああ! ここだっ!!」


 俺はギリギリのところで松下の突進を避け、そのまま松下に掴みかかろうとした。それさえ成功すれば怨霊を吸収して終わりだ。

 しかし、今回はそううまくはいかなかった。松下はその場で()()()()()()()()()


「は、はぁ!?」


 そのまま俺めがけて急降下してくる。俺はすぐに後退した。今度こそ本当にギリギリのところで攻撃を避けた。


「なんだよこいつ! ってまさかこれも怨霊の力か!?」


 そうとしか考えられない。普通の人間があんなに高く飛び上がれるわけがない。それにそのまま急降下してきて無傷なんて。絶対普通じゃない。


「次は……当てる」


 松下はすぐに態勢を立て直して攻撃体制に入る。どうする? このままじゃ体に触れることが出来ない。体に触れることさえできれば……


「うおおおおおおおお!!」


 松下は再び俺に向かって突進してくる。こいつは突進しかできないのか。


「まてよ。それなら……」


 俺はあたりを見渡す。近くには複数の木々が並んでいる。その中でも1本、太い木を見つけ出す。


「あれだ!」


 俺は木に向かって走り出した。松下もそれにつられ俺を追う。途中、何人か倒れていたが松下はそれを容赦なく蹴り飛ばしている。


「ひぇ〜。まるでバーサーカーだな」


 ヘッドホンの呟きをスルーして俺は木までたどり着いた。先程と同じくギリギリまで避けずに待機する。

 松下は案の定俺に向かって突進を続けている。そしてギリギリのところでサッと避ける。


「ガッ!!」


 松下はそのまま正面の木に衝突した。ここで予想外だったのは、()()()()()()()()()()()まさか木が倒れてしまうなんて……そんな驚きも隠せなかったが、急いで松下の体に触れる。


「大人しくしろ!!」


 俺は松下に取り憑いていた怨霊を吸収した。これで一通り落ち着いたが、松下はそのまま気絶してしまった。


「なんなんだよ。一体、誰がこんなことをしてるんだよ……!?」


 なかなか真実にたどり着けない俺はイライラを隠せなかった。

 結局、これでは松下から女の話を聞き出すことが出来ない。


「誰なんだよ……富士見をあんな風にしたやつは……」


 そもそもその女ですら犯人とは限らない。もしもその女ですら違ったら?


「いい加減にしてくれ……誰なんだ、誰なんだよ」


 だとすれば、いつになったら解決する? いつになったら富士見を助けられるのか?


「富士見をあんなにしたやつは一体誰なんだよ!!」


 俺はイライラを抑えられずに叫んでいた。


()()()()()()()()


 深く暗い声がした。女の声だった。女は帽子、サングラス、マスクを身につけていた。特徴が一致している。例の女と。


「お前は……」


 女は身につけているものを取り払った。そこで目にしたものは、予想外の人物だった。

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