怨霊編その7
俺は先ほどの地割れが発生した現場へと戻ってきた。いつの間にか、警察なども集まっており少々面倒な状況だ。
「クソッ! これじゃあ下手に動けないぞ」
俺はとりあえずカップルが向かった方向を思い出し、そちらに向かって走る。
すると、携帯が鳴っているの気がつく。
「誰だ?」
『姫蓮先輩に先ほどから連絡をしているのですが返事がなかなか来ません。何かあったのでしょうか?』
智奈からのメールだった。心配させるわけにはいかないが、富士見のことも気がかりだ。智奈にも様子を見てもらおう。
俺は智奈に現状をメールで報告する。そして家の住所を伝えて向かってもらおう。
「これでよし」
少し離れれば警察はもういなかった。しかしカップルがどこへ行ったのかが全く見当がつかない。このままでは埒があかないのでは? そう思った矢先。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
悲鳴。かなり大きな悲鳴が聞こえた。
「……ッ!」
俺は悲鳴が聞こえた方に向かって走る。そこには先ほどのカップルがいた。しかし、様子が変だった。男はその場に倒れており、女は必死に呼びかけている。
この様子は、先ほどの富士見ととても似ている。
「おい! しっかりしろ!」
俺はすぐに男の元へと向かった。そして体に触れる。やはり怨霊に取り憑かれている。俺はゴーストドレインを使い、幽霊を吸収する。
「……え、あ……あなたは」
女が俺を見て弱々しい声を漏らす。
「ここで何があった?」
女は数分前に起こった出来事を語り始めた。
「う、うう……さ、さっきまで……ふ、普通に歩いてたんです……そ、そしたらアンケートに協力してくれって言われて……普通に答えてたら急に、カメラマンの人が暴れ出して……そ、そしたら……!」
そのあとは思い出したくないのか、そのままうずくまってしまった。しかしカメラマンとは俺たちにインタビューを頼んできたあのカメラマンのことだろうか?
「わかった。こいつはもう大丈夫だ。安心しろ。それでそのカメラマンはどこに行ったかわかるか?」
彼氏が大丈夫だとわかって安心したのかホッとしているのがわかる。
「わ、わからないですけど……あ、あっちの方に向かっていきました」
俺は女が指差した方を見る。大通りの交差点があった。あんなところに向かったのか。もし暴れたままだったらどうするんだ。
「わかった。時期に眼を覚ますからそれまでついてやっててくれ」
俺はその場を後にする。
「なあアンタ。なんで今は吸収出来たんだ?」
「え? そりゃあれだろ。富士見と違って不死身の幽霊に取り憑かれてるわけじゃないからじゃないのか?」
理屈はわからないが1番それが妥当だろう。
「それで? やっぱり怨霊だったのか?」
俺は吸収した幽霊を思い出す。
「ああ。怨霊だ。チッ……怨霊なんて吸収したの初めてだぞ」
できればこんな物騒な幽霊とは関わりたくはなかったのだが。
さらに走っていくとビル街へとたどり着いた。この辺りには目的の人物はいないだろうか?
その瞬間だった。巨大な何かが破壊されたような轟音がした。普通に生活していればこんな大きな音は聞かないだろう。となれば考えられるのは1つだ。
「クソッ……! やりやがったな!」
俺は音のした方へ向かって走る。曲がった先には異様な光景が広がっていた。
そこには3人の人物がいた。1人は先ほどのレポーターだ。そこに広がっている光景に驚きを隠せないのか、固まってしまっている。
もう1人は初めて見る人物だった。年配の会社員のように見えた。ひどく怯えて腰を落としてしまっている。
そしてもう1人。先ほどのカメラマンだ。カメラマンは普通じゃなかった。体からは真っ黒なドス黒いオーラが滲み出ていた。
そしてその背後。カメラマンの後ろに立っているビルの一部が決壊していた。近くには壊れたカメラも転がっていた。
「なんだよ……これ」
まるでバトル漫画の世界にでも入ってしまったのか? そう錯覚せざるを得なかった。
「な、な、なんなんだよ! お、俺が何したってんだ!!」
倒れている中年はそう叫ぶ。よく見ればカメラマンはずっとその中年を見ていた。
「オ、オマエノ、セイデ……!」
カメラマンの言葉はどこかぎこちなかった。精神が侵食されているのか? とにかくこのままだとまずい。
「オマエラハ……スベテ、ホロボス……」
カメラマンは中年に向かって殴りにかかった。それを止めるべく俺は腰を狙ってタックルをする。
「ひっ! ひぃぃぃ!!」
ここぞと言わんばかりに中年は逃げていく。高校生に助けられてお礼も言えないのか。など考えている場合ではなかった。
「落ち着け!」
俺はカメラマンの首を掴み、ゴーストドレインで吸収する。……やはり怨霊だった。
「……っ! こ、こいつ……」
今吸収した怨霊。さっき吸収した怨霊より強力だ。俺には霊力を図ることはできないがそれでも違いぐらいならわかる。
「ちょ、ちょっと! あ、あなた大丈夫なの?」
俺の心配なのかカメラマンの心配なのかはわからないがレポーターが近寄ってきた。
「あんた、この人はいつこうなった?」
「え? え、えっと……さっきあなたにしたみたいにアンケートを取っていたらきゅ、急にこうなったのよ……い、一体何がどうなってるの……」
レポーターはあくまで冷静に話しているが、実際に目の前で起きたことが信じられていないようだった。それなら俺も同じだ。怨霊ってのはここまで強力な存在なのか?
しかしこのカメラマンも急にこうなったということは被害者なのだろうか? さっきの男も放っておいたら今のカメラマンみたいになっていたのかもしれない。
「……今日、何か変わったことはありましたか? 例えば、変な人と関わったとか」
「え、ええ? そんなこと急に言われても……」
と言いつつもレポーターは必死に思い出そうと考え込んだ。
「アンタ、わかってるとは思うけどあんまりここに長居しない方がいいぞ」
ヘッドホンは小声で言った。確かにここはすぐに野次馬でいっぱいになるだろう。そうなると困る。だから早く撤退しなければ。
「あっ。変な人なら関わったけど……で、でもそれが何か関係あるのかしら?」
「いいから! この人をこんなにした犯人かもしれないんですよ!」
「え? そうなの? そ、それはまずいわね……えっとね。午前中もアンケートしてたんだけど、その時にある3人組が目に入ったから声をかけたの。そしたらそのうちの1人がすっごい怒っちゃって……今でもなんでかわからないんだけどね。その人、呪うだとか幽霊がどうとかって言ってたんだよね……」
それだ! しかし3人組ってのは一体誰なんだ?
「それはどんな人ですか!? あと出会った場所も!」
「え、えっと……」
レポーターは再び腕を組み考える。そして思い浮かんだのか、手をポンと叩くと答え始めた。
「1人は丸メガネを掛けた背の低い男の子。もう1人は可愛らしい女の子の絵がプリントされたTシャツを着たちょっと太っちょの男の子。もう1人はロン毛で背の高い男の子だったかな。ちなみにそのわけわからないこと言ってきたのは丸メガネの子だね」
「は、はは。また繋がったな」
ここまでくると世間の狭さを感じる。まさかゲーセンで出会ったオタク3人組だとは。確証は持てないが、俺たちとこの人達が関わったのはたまたまとは思えない。
「そいつらはどこに行ったかわかりますか?」
「あなた、質問が多いわね」
と、なんだかんだ文句を言いつつも思い出そうとしてくれる。
「そうね……確か今日は午後にドラコのライブがあるとかなんとか…」
「なん、だって……?」
ドラコのライブ、だと。まさか。そうだとすれば……
同志先生が危ない!




