怨霊編その2
というわけで、俺と富士見は偽のデートをすることになった。とりあえず昼食を食べるために喫茶店へと入ることにした。
「俺まだそんなに腹減ってないんだけどな」
時刻は11時半。まだ昼前だというのに富士見は腹が減っているらしい。
「そういうことを気安く言わないことね。私にも色々あるのよ」
そんなもんなのか。朝ごはんを食べていないとかだろうか。
「それにしても……」
たまたま見つけた喫茶店だったが。店名は……
『ホッパーマンコラボカフェ』
またホッパーマンか。
「なに? ああこのお店? まだ出来たばっかりよ。私気になってたのよー」
とりあえずメニューを見てみることに。
*プリティンのパンケーキ
*ホッパーマンのサイダー
*フェニックスのパフェ
など……
「相変わらずぶっ飛んだメニューだな。……しかもまた主役はジュースか」
主役の扱いがこんなものでいいのだろうか? 考えていても仕方がないのでさっさと決めてしまおう。
「ご注文は??」
「えっと……っ!!!」
注文しようとしたところ、俺はつい驚いてしまった。店員さんは筋肉質な男の人だった。そこまでは特に驚くことではない。
問題はそこではない。服装だ。なにか怪獣をイメージにしたような服を着ていた。その怪獣のデザインが怖いものとかカッコいいものならまだ理解はできる。しかしこの人が着ていたのはどちらかというと可愛い系の類だったのだ。
「え、ええっと……リンリンのコーヒーを1つ……」
「私はリンリン(激おこモード)で」
「かしこまりました」
あまりにも似合わなすぎる。そして、それに加えてかなりのマッチョだった。
「おい富士見」
「あああれ? そういうお店らしいのよここ。コラボ作品をモチーフにした服を着るんだって」
それはわかるのだが、着る人間違えてるだろ。あれはどう見ても可愛らしい女の子が着るもんだ。
「まあ飲み物が来るまでホッパーマンについて語りましょうか」
「い、いやいい。富士見をつけてるやつの特徴とか教えてくれよ」
その人物がいつここに現れるかわからない。そいつがどんなやつか理解しておく必要がある。
「えー。そんなこと話す必要ある?」
「いやあるだろ。そいつ危ない奴かもしれないんだぞ」
「へぇ……心配してくれるんだ。偽とはいえさすが彼氏ってところかしらね」
な、なぜそこで変な目で見る。っていうかジロジロと見ないでほしいもんだ。無駄に緊張する。
「い、いいからそいつのこと教えろよ! どんな奴なんだ? 富士見のこと好きになるんだからな。相当な物好きとみた」
「今、さりげなく失礼なこと言わなかった?」
と、店員らしき人物が近づいてきた。話をやめてモノを受け取ろう。そう思ったが……
「おやぁ。お姉さん綺麗だねぇ。俺と遊ばない〜?」
全然違う男がやってきた。全身真っ黒なライダースーツを着たチャラチャラした男だった。どう考えても店員ではないというのがわかった。態度からしてもそうだが。
「なあ富士見。もしかしてこいつか?」
「いや、違うわね」
てっきりこの男がそのつきまとっている奴かと思ったが、違うようだ。ということはつまり。
「あ? なになに? 俺と遊ばないの? お姉さんめっちゃタイプなんだよね〜。特にその白いワンピース」
ただのナンパ野郎だった。
「申し訳ありません。私、今彼氏とデート中ですので。邪魔しないでもらえる?」
「あ? 彼氏? こいつが? ぷっ、がはははははは!!!! こんな首にヘッドホンつけてるやつの何がいいんだよ! こんなやつほっといて俺とあそぼーぜぇ!」
「む。なんか今のはムカつくな」
ほんとの彼氏ではないけれどちょっとイラッとするな。
「おお? なんだやるかヘッドホン野郎。俺は強いぞぉ。この辺じゃ『神速の完二』って言われてんだ」
なにが神速の完二だ。アホらしい。そもそも聞いたこともないぞ。
「さあ! かかってこいや! ヘッドホン!!」
店内に響くほどデカイ声で叫ぶ神速の完二。どうすんだこれ。
「お客様」
そんな時だった。1人の救世主が現れた。
「あ? なんだぁお前は」
さっきの可愛らしい服を着たマッチョの店員だった。
「お客様。他のお客様のご迷惑となりますので」
「いやいや待てよ。なんだよその格好! バカにしてんのか?? なめてんじゃねぇぞガチムチ野郎!」
神速の完二はマッチョ店員に怒鳴りつける。しかし、マッチョ店員はピクリともしない。
「お客様。他のお客様にご迷惑をかけるようでしたら、退店してもらいます」
「ハッ! 退店だって? してほしけりゃ俺を倒してみな!」
いやいや。引けよ。っていうかどうみてもマッチョ店員に勝てるわけないだろ。
「武力行使は認められてませんので……」
「……っ! 後悔するなよ!」
そう言って神速の完二は神速とは言えないスピードで殴りかかった。
それを、マッチョ店員は片手で受け止めた。
「……!」
辺りに静寂が訪れる。皆がそれに注目している。
「なっ……」
手を離そうとするが、マッチョ店員にしっかりと掴まれていて離れない。
「しかし、正当防衛であれば……武力行使は可能ですよ?」
「ひっ……お、覚えてろよ! お、俺のテリトリーはこの辺なんだからな! いつでも反撃に来てやる!」
神速の完二は今度こそ神速の速さで去っていった。
「あいつが神速の完二って呼ばれてる理由、絶対あれだろ」
「そうね」
辺りから拍手が起こった。マッチョ店員は冷静に商品を持ってきた。
「お待たせいたしました。リンリンのコーヒーが1つ。リンリン(激おこモード)のコーヒーが1つですね」
「あ、ども。さっきはすいませんでしたね」
「いえいえ。これも店員の務め。それにそちらの女性は美しい。ぜひ、守ってあげてください」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
おい。なんかちょっと富士見照れてないか?
「それでは私はこれで」
そう言ってマッチョ店員は去っていった。
「怪奇谷君」
「な、なんだよ」
富士見はジト目をしてこちらを見る。
「今、ヤキモチ妬いたでしょ」
「ば、バカいうな! だ、誰がヤキモチなんか!」
そりゃちょっとは妬いたがな。というのは内緒にしておこう。
その後、食事を済ませて俺たちはさっきのマッチョ店員にお礼を言って店を出た。
「なあ。この後どうすんだ?」
「ゲーセンに行きましょう」
「え? ゲーセンか? まあ、富士見がいいならいいけど」
「取って欲しいものがあるのよ。よろしく頼むわよ。魁斗くん」
「ぶっ!」
いやいやなんだ急に。なぜ名前で!?
「普通恋人って名前で呼び合うもんでしょ? だからあなたも私のこと名前で呼びなさい。わかった?」
「え、まじかよ……」
俺は渋々了承した。こうして偽のデートは少しずつ進んでいった。




