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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
不死身編・終

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不死身編・終その40

 私と智奈は怪奇谷君のそばを離れ、近くにある遊具のところまでやってきていた。


「姫蓮先輩も座ってください」


 智奈はブランコに座ると、隣のブランコを指差した。


「智奈……話って一体……」


 私はブランコに座る前に、彼女に問いかけていた。これまでの智奈の行動には疑問が多かった。だから問いたださなければならないと思った。


「その前に謝罪させてください。同志先生と一緒にゲーセン行く手筈だったのに、約束を破っちゃって」


 智奈はその場で頭を下げた。確かに元々はその予定だった。あのゲーセンで同志先生と智奈、二人と合流して遊ぶ予定だったのだから。


「それは別にいいのよ。ただあなたが遅刻するなんて珍しいこともあるのね」


「いいえ。私遅刻したんじゃないんです」


「え……?」


 智奈は普段から時間を守る子だ。だからこそ遅刻と聞いた時は、何かあったのではないかとも心配した。

 けれど彼女は遅刻ではないと告げた。だったらどうして彼女はあの場に現れなかったのだろうか?


「数日前に姫蓮先輩から連絡を受け取りましたよね? 『今度怪奇谷君を元気付けたいから一緒に遊んでほしい』って」


 智奈の言う通りだ。私は今日、ただデートをしたかったわけじゃない。ヘッドホンさんを……あの悪魔リリスさんを失った怪奇谷君を元気付けたい。そう思ってデートすることを考えた。

 けれど、それは私一人では成し遂げられないことだって思った。だからみんなに声をかけて、まるで偶然を装って一緒に遊ぶことを考えた。まあ……全く想定していなかった人物たちが現れたのも事実だけどね。世界は狭いと実感する日だった。


「シーナさんや恵子さんに香さん。土津具さんや根井九さんにも声をかけたんですよね? そして私と同志先生はゲーセンで一緒に遊ぶ手筈だった」


 けれど智奈はあの場には現れなかった。その原因を、彼女は遅刻ではないと告げている。


「もちろんそれでもよかった。けれど私は……どうしても確かめたいことがあったんです。だから私はあの場には現れず、もっと前から……いえ、最初からずっと二人のことを見ていたんです」


 智奈の言葉はあまりにも信じ難い内容だった。それはつまり、智奈は私たちがデートを始めた時からずっとつけていたということになる。


「あはは、なんと言うか……まるであの時みたいですね。私、尾行が得意なんですかね?」


 あの時、とは……私と怪奇谷君がした偽のデートのことだろう。あの時智奈は、私たちが付き合っていると勘違いして生霊を生み出してしまった。


「ごめんなさい。怒り……ましたか?」


 私があまり反応を示さないから、智奈は恐る恐る問いかけてきた。


「い、いえそんなことは……ただなんというか……見られていたって思うと恥ずかしいというか……なんというか」


 私は、はっきり言って気が動転していた。けれどこれは避けて通れない道だ。必ず立ち塞がる壁。乗り越えなければならない出来事だった。

 けれど、それがわかっていてもいざその場に対面すると……恐怖が私の心を蝕んでいく。


「姫蓮先輩。私、知ってるんですよ?」


 智奈は穏やかな声色のまま、告げた。


「姫蓮先輩が魁斗先輩のことが大好きで、それは魁斗先輩もおんなじだってことを」


 彼女ははっきりと告げた。私たちの想いを、どんな風に想いあっているのかということを。


「どうして、それを……? どうしてそう思うの?」


 私はそれを否定しない。私は怪奇谷君のことが好きだ。その事実は真実だ。

 けれどそれは私自身も気づくことの出来なかった気持ちだ。それを智奈は、一体いつから気づいていたというのだろう。


「もちろん初めからそう思ってたなんてことはないですよ。あの日……私が生霊を生み出した日だって、そんな考えははなからなかったですしね」


「それじゃあ……怪奇谷君があなたを選ばなかったから……だからあれは嘘なんかじゃなく、本当に私のことが好きなんじゃないかって……そう思ったの?」


「いえ。それも……まあもちろん多少なりとはそういう風に考えたこともありますよ。でもあの時、魁斗先輩が私を選ばなかったのは、何か別の要因があったんじゃないかって思いました。実際それが何かはわかりませんでしたけどね」


 あの時。怪奇谷君が智奈を選ばなかったのは、リリスさんとの契約があったからだ。恋愛を禁ずるという彼に与えられた罰のために。


「でも、私思うんです。きっとあの頃から魁斗先輩は、姫蓮先輩のことが好きだったんだろうなって。でも多分、そのことに二人はまだ気づいていない。いえ……気づかないようにしている。私にはそんなふうに、見えたんです」


 智奈の言葉が胸に突き刺さる。

 ああ、そうかもしれない。私たちはずっと前からきっと、互いを好きでいた。けれどそれはいけないことだと、考えてはいけないことだと思い込み、深く深く心の奥底に閉じ込めてしまったんだ。


「そして姫蓮先輩から連絡を受けた時、私はなんとなく感じたんです。二人の気持ちを確かめるには、今しかないって」


 智奈は白い息を吐きながら、ゆっくりと私に視線を向けた。


「二人を尾行するような真似しちゃってすみません。でも……これではっきりしたことがあるんです。二人は互いに好き合っている。気持ちを理解しているんだって」


「智奈……」


 その時の智奈の表情。それは本当に明るいものだった。心から私たちを祝福している。そうとしか思えない表情だった。

 だというのに。私はそんな彼女の表情を見て、心が……胸がギュッと締め付けられる。

 思わず、胸に手を置いて自身の鼓動を確かめる。酷く早く、恐怖を感じているようだった。


「それからもう一つ、わかったことがあるんです」


 智奈の声が脳に響く。私は――私は本当に――。


「二人はまだ、互いに踏み込めていないんだって」


 彼女の言葉が、私たちの真実を暴こうとしていた。

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