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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
不死身編・終

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不死身編・終その29

 俺たちは同志先生と別れ、かつて2人で訪れた大型ショッピングモールを訪れていた。


「ところで怪奇谷君。今日の夕飯だけど……」


 夕飯、か。確かにそろそろ夕飯の時間を考える頃合いになってきた。そしてこの通り道。ものすごく見覚えがある。


「わかってる。どうせ怪獣レストランに行きたいって言うんだろ? すぐそこの……」


 かつて2人で行った怪獣レストラン。そこを指さそうとしたのだが……。


「か、改装工事中だと!?」


 なんということだろうか。デカデカと大きな看板に改装工事中と書かれているではないか。

 富士見はこのことを知っているのか? 知らないでここに来たのだとしたら、きっと彼女は大いに悲しむ。あんなにも楽しみにしていた怪獣レストランに行けないだなんて。

 俺は恐る恐る富士見の表情を伺う。


「そう。今は新シーズンに向けての準備期間なのよ。だからこれは仕方ないこと」


 しかし予想とは裏腹に、富士見の表情は変わらずにいた。どうやら改装工事のことは知っていたようだ。


「そ、そうなのか?」


「そうよ。今度からホッパーマンは新シーズンが始まるの。題して『ネオホッパーマン』!! これを機にあなたも試聴を始めなさい」


「ええ……なんだってそんな面倒な……」


「面倒? あのホッパーマンの試聴を面倒だと? ふーん、いい度胸ね。少し痛い目を見ないとわからないみたいね」


 富士見が暗い目つきで詰め寄る。怖い……非常に怖い。


「う……わ、わかった。ど、努力する。検討する。だから勘弁してくれ」


「……ふん。まあそこまで言うなら今回は見逃してあげる」


 なんて厄介なオタクなんだ……これからはあまりホッパーマンに触れないようにしておこう。


「それで? 怪獣レストランじゃないなら飯はどうするんだ?」


「そうね。ここにしようかと思ってるんだけど」


 富士見は近くにあった地図を指差した。それは最上階にある高級イタリアンレストランだった。


「ま、待て待て! 俺そんなに金持ってないぞ!?」


 正直富士見がこんな場所を指定してくるなんて想像もつかなかった。それ故に思わず動揺してしまう。それにここはそれなりに値段のする高級レストランだ。たかが高校生である俺なんかがとても払えるような額じゃないことぐらい想像はつく。


「誰もあなたなんかに払えだなんて言ってないでしょ。私が払うから問題ない」


 富士見はさも当然のように告げる。


「い、いや……それはそれでなんというか俺のプライドが……」


「へぇ、あなたにもそんなプライドがあるのね。じゃあ端数だけ払ってくれる?」


「む、むしろ惨めだ!! っていうか富士見こそそんな金どこにあるって言うんだよ!?」


「お父さんから貰ったのよ。今日のこと話したらね」


「な……なんだ、と?」


 ただ遊ぶことを話しただけで金を貰ったというのか? なんという……これが家庭の違いか。


「そういうわけだから、お金のことは心配しない。それにまだ夕飯までは少し時間がある。ちょっと外で休みましょ」


 一体彼女はいくら貰ったんだろうか。それが気になって仕方ない。けれどそれを聞くのは野暮ってもんだ。気持ちを抑えて、富士見の後に続く。

 ショッピングモール屋上階には、外に続く広場がある。ここでゆっくりと日向ぼっこをしたり、お茶をしたり、子供だったらかけっこして遊んだりと、色々な人々が楽しむ場所となっている。

 かつて、俺と富士見もこの場所を訪れた。最後に富士見と今後について話し合ったのも、この場所だ。


「ここに来るのも久しぶりね」


 その時の富士見の表情は、かつてのあの日を思い出しているかのように、懐かしさに耽っているようだった。


「そうだな」


 本当に、あの日から随分と時が経ったように感じる。だというのに、富士見とはもうずっと長い間一緒にいたような気がする。

 けれどそれは富士見だけじゃない。もう1人。一緒にいたはずの――。


「ん?」


 一瞬、また彼女のことを思い出してしまっていた。けれど今は目の前にいる人物によって、意識が遮られた。


「もう、この方法ぐらいしか思いつかないですからね……ん? なんだ、魁斗じゃないか!」


 そこにはいつものようにハキハキと話す俺の父、怪奇谷東吾の姿があった。


「父さん? なんでこんなところに……? それに……」


「お父さん、お母さんも。どうして?」


 富士見が告げた通りだ。この場には俺の父だけではない。彼女の両親。富士見春彦と富士見姫奈の姿もあった。


「姫蓮じゃないか。ああ――そうか。今日はそういえば、そうだったね」


「ふふ。あなた、姫蓮も成長したということよ」


 春彦さんはあからさまに落ち込んでる。そしてそれを宥める姫奈さん。なんだ、このやりとりは。


「はて? どういうことですか? なぜ春彦さんが落ち込むのです……ハッ!! もしや……か、魁斗! お、お前まさか姫蓮ちゃんに何かよからなぬことをしようとしてるんじゃないだろうな!!」


「なんでそうなるんだよ! 俺はただ富士見とデートしてるだけだ!」


 思わずはっきりと言ってしまったが、その言葉を受けて大人3人はフリーズしてしまった。


「か、魁斗……ま、まさか本当に……な、なんという」


「ああ、わかっていた。わかっていたさ。娘の成長を祝うのが親の務めというもの」


「けれどまさかここまではっきりと告げられると……魁斗君。ウチの姫蓮をよろしくね」


 や、やばい。間違ったことは言っていないのだが、この3人の前で言うべきではなかった。非常に後悔している。


「あ、あはは〜」


「何笑ってるのよ。ウチの姫蓮をよろしく、と言われたんだからはっきりと返事しなさい」


「は、はひ!」


 突然富士見が至近距離で腕をつねってくるもんだから、思わず情けない声が出る。


「くっ……魁斗よ。こんな大事なことがあるならなぜ父さんに伝えておかないんだ!」


「そ、そんなことはいいんだよ! それより父さん達こそこんなところで何してるんだよ?」


 そう。俺と富士見のことはいい。問題は、専門家である3人が揃って何を話していたかについてだ。

 今、この街に幽霊はいない。

 それは大除霊という儀式によって、この街に存在する全ての幽霊が除霊されたからだ。特例を除いてだが。

 だから彼らが集まって話すことなど、現状ではそこまでないはずだ。もちろんプライベートということもあり得るが……なんとなく、それは違うと感じた。

 それはなぜだろうか。たまたま遠くで父さん達を見つけた時。会話していた時の表情。それらがどれも真剣なものに感じ取れたからだ。

 では、一体なんの話をしていたのか?

 つい最近あった事件。もしもそのことについて話していたのだとすれば。それは……それはつまり、()()のこと意外考えつかない。


「……そうだな。それについてはどのみち魁斗にも話さなければならないことだからな」


 父さんは一度瞼を閉じると、再び開いて俺を見た。


「風香のことについてだ」


 ドクンと心臓の鼓動が鳴り響いた。まるでこの場にいる全員に聞かれてしまったのではないかと思うぐらいに、大きな鼓動だったと思う。


「……」


 富士見も黙っているが、その眼差しは決して明るいものではなかった。


「風香先輩が……どうしたんだよ」


 俺は恐る恐る問いただした。


「はぁ……まあなんと言ったらいいのか……とりあえず伝えたいのは風香の今後についてだ」


 風香の今後。それはつまり、彼女が今後どのような処罰を受けるのか。どのような人生を歩むのか。それらが決まろうとしていたんだ。

 風香先輩は、やってはいけない罪を犯した。それがたとえ彼女のやりたいことだったとしても。そのせいで俺たちの生活が脅かされるというのなら、ただ止めるしかなかった。

 そしてそれを、やってしまったことを見過ごされるわけがない。必ず罰を受ける。

 風香先輩は自ら告げていた。禁忌に触れたもの……即ち禁触者になった者は、そのほとんどが殺されていると。

 もしも彼女が禁触者であると断定されてしまえば……彼女の人生はここで終了することを意味する。

 わかってた。わかっていたさ。俺はそうなることを知っていながらも、彼女を止めた。そのことに後悔はない。

 でも……だとしても。俺は……風香先輩がいなくなってしまうこの人生を、受け入れられるのだろうか?


「まず魁斗。率直に告げると、風香には今後――」


 聞きたくない。聞かされてしまえば、俺はどうにかなってしまいそうだ。

 けれど。そんな父の声を遮る障害物が、突然現れたのだ。

 遠くから駆けてくる存在。ソレはパタパタと足音を鳴らし、元気いっぱいに大きな声で告げた。


「おーーーーい!! 魁斗くーん!! 姫蓮ちゃーん!!」


 何を隠そう。正真正銘の風香先輩本人が現れたのだった。

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