不死身編・終その27
あまりにもあっけない終わりだった。しかし何はともあれ、ギルティンを手にしたのは同志先生となった。
「お、おお……なんとも盛り上がりに欠ける……」
「そ、そんなこと言われても……取れちゃったものは仕方ないでしょ!」
同志先生もまさか取れるとは思っていなかったのだろう。未だに実感が湧かないのか、目を泳がせている。
「ま、まあ……無事に取れたわけだし。はい、じゃあこれ」
同志先生は手に入れたギルティンを富士見へと渡した。
「ありがとうございます。でも……」
富士見はオタクトリオに目を向けた。
「な、なんということだ〜!! まさか取られてしまうとは!!」
「お、おいさっき絶対取れるって言ってたじゃないか!!」
「ま、また一から考え直しだ!!」
オタクたちの阿鼻叫喚が聞こえてくる。
「一からって……お前ら別の案があるんじゃないのか?」
先ほどはそう言っていたが……。
「いや、ない。ギルティンを渡すことしか考えてなかったからな」
「ええ……」
なんとも計画性のない奴らだ。しかしドラコのためと思うと、どうにも気の毒だ。
「どうするどうする!? ドラコのライブはもうすぐだぞ!」
「な、何か……何かいい案はないのか!?」
「考えろ……俺のとっておきのメイド服とかどうだ?」
「みんな……」
オタクたちを見て、何か思ったのか同志先生は彼らの元へと歩み寄る。
「君たちはドラコのことが大好きなんだね」
「へ? そりゃあもちろんですぞ! 初めて見た時からずっと推しているのですから!」
「ドラコなしじゃ生きていけないぐらいです!」
「ほんとそうです! 卒業なんてしないでほしい!」
それはオタクたちの本心だろう。けれど同志先生は今彼らの言葉に応えることは出来ない。彼女は今はドラコではないのだから。
「……実はね、私もドラコファンなんだ」
「おお、そうだったのですね! 道理で……」
同志先生は一瞬間を開けると、口を開いた。
「私も今回の卒業は寂しいなって思うけど……きっと悪いことが原因じゃなくて、前向きな理由なんじゃないかなって思ってる。だから一ファンとして……応援してあげたいなって思ってるんだ」
それは同志先生が、ドラコに対して告げた言葉のようにも聞こえた。
「それも……そうですね!」
「確かに……何か前向きな理由かもしれないし!」
「ああ! もしかしたら地上波デビューするから会う期間が減るってことかもしれんぞ!」
オタクたちは前向きな考えで明るさを取り戻した。
「ふふっ。あ、そうそう。私はね、ドラコに手紙を送ろうと思ってるんだ。想いを形にして届ける。きっと喜んでくれると思うな」
「手紙……ですか。確かにそれはいい案だ」
「ああ! 俺たちのこと理解してくれてるかわからないけど……手紙を出したら認知してくれるかも!」
「だな! だったら俺はついでにメイド服を……!」
俺は思わず笑ってしまった。お前ら、心配することはない。もうとっくに本人に認知されてるから安心しろ。
「どうやらギルティンのことは諦めがついたようね」
ギルティンを持つ富士見が俺のそばへとやってきた。
「ああ。それにしても……どうしてそこまでして富士見はギルティンを?」
問いかけると、富士見は一瞬黙り込んだ。しかしすぐ次の瞬間、ギルティンを俺の方へと向けた。
「ん?」
「だから……これ、あげる」
富士見はギルティンを俺にあげると言った。一体どういうことだ? これは富士見が欲しかったんじゃないのか?
「いや……でもなんで? てっきりこれは富士見が欲し――」
「いいから受け取りなさい!」
富士見は強引にギルティンを俺に渡すと、外へと出ていってしまった。
「あっ、待ってよ富士見さーん」
その後を同志先生が追う。
「何が何やら……」
全くもって状況が理解できない。どうして俺はギルティンを渡されたのだろうか?
「よーし! ドラコへの手紙、早速書くぞ!」
「だな!」
丸メガネと萌え絵は張り切って盛り上がっている。その隙に俺はロン毛に声をかけた。
「……なあ、お前たちは知ってるんだろ? このギルティンについて。俺全然ピンときてなくて……教えてくれないか?」
「ん? ああ、まあそりゃホッパーマン見てなきゃ知らないよな」
ロン毛はどこか羨ましそうに口を開く。
「ギルティンってのはな、見た目は悪そうだけど、実はいい奴でな。プリティンとは恋人なんだ。だからファンの間では、プリティンを持っている人がギルティンを渡すということは、『あなたのことが好きです』って言っているようなもんってことになったんだよ」
「ああー、なるほど。それでプリティンを持ってる富士見は――」
待て待て。それはつまり、プリティンを持ってる富士見が、俺にギルティンを渡したということは……。
「俺たちもプリティンを持ってるからな。だからドラコにギルティンをプレゼントしたかったのさ」
俺は外に出ていく富士見を遠くで見つめる。ここからじゃよく見えないけど、なんとなくその後ろ姿を見て感じ取れた。
渡せてよかった、という安堵感を。




