不死身編・終その23
俺と富士見のゲーム対決。その全てが俺の敗北で終わっていた。
だけど今度は違う。今度ばかりは負けるわけにはいかないのだ。
「さて……襲いかかってくる化け物を倒し切り、先にゴールへと辿り着いた方の勝利ね」
シューティングゲーム。これが俺に残された最後のゲームだった。
今までは圧倒的敗北を期していたが、今回はそうとは限らない。
そう。何故なら。俺は……シューティングゲームを、やったことがあるからだ!!!!
今までのゲームはどれもが完全初見だった。レースゲームも、音ゲーもだ。初めてのゲームを上手く出来るわけがない。負けて当然だ。
けれど今回は違う。何せ経験がある。経験がある以上、負けた時の言い訳は出来ない。
「……自信ありげね。シューティングゲームなら私に勝てるとでも?」
「ああ。負けたらジュース一本奢ってもいい」
「絶妙に微妙な賭けをしてくるのね」
もちろん負けるはずはない。しかしだ。唯一の懸念点がある。その懸念点、それは……。
「まあいい。早いとこ始めましょう」
ええい! そんなこと考えていても仕方ない。とにかくやるしかない。大丈夫だ。俺の勘が正しければ、この勝負は絶対に勝てる!
そうしてゲームが始まった。俺は銃を構え、迫り来る化け物に照準を合わせる。最初に現れた化け物は……。
「なんだこりゃ。化け物って……河童かよ!!」
頭に皿を乗せた緑色の化け物……というより妖怪の河童が現れた。これを銃で倒せばいいのか。
「くっ……すばしっこい奴だな……全然当たらないぞ」
河童に照準を合わせるが、中々命中しない。それどころか、次から次へと河童が湧いて出てくる。早いとこ倒さないと、こちらが襲われてゲームオーバーになってしまう。
「いや……まだだ! 集中しろ俺! 次こそは当ててみせる!」
銃を握る手が汗で滑りそうになる。しかしそれを必死に押さえつけ、画面に映る河童目掛けて弾を放つ。
するとなんということだろう。弾は河童の頭……まさに皿の部分を掠っただけだった。
「がぁぁぁ!! 今の外すのかよ!?」
今度こそ……今度こそ当ててみせる。集中だ。心を無にしろ。今まで培ってきた知識と経験。その全てをここでぶつけるんだ。
「今!!」
河童が動き始めたその瞬間、俺は銃口を引いた。
そして、その弾丸はとうとう河童へと命中したのだ。
「やった!! おい、富士見!! 見たか、これが俺のシューティングテクニックなんだよ!!」
俺は富士見に自慢しようと思わず歓喜の声をあげた。その富士見はというと……。
「ふぅ……ようやく天狗を倒した……これで終わりかしら? ……へぇ、最後は鬼なのね。ますます燃えてきた」
「おっ、中々熱い展開だね! この鬼は強敵だから気をつけてね!」
どうやら富士見はラスボス戦まで進んでいるようだ。
「……」
俺は再び画面に目を向けた。映っているのは大量の河童達。たった1匹倒すのにアレだったのだ。ここからどうやって勝てばいい?
「ッ!! や、やった。な、なんとか勝てた……ふぅ、とんでもない強敵だった」
とか考えていたら、いつのまにか富士見はラスボス戦を終えてしまっていた。
「でしょう? それでも勝てるなんて富士見さんやるわね〜」
「そうですかね? 私、シューティングゲームするのも初めてで……」
「だとしたら中々いいセンスあるわよ。間違いない!」
富士見を褒め称える同志先生。そこまで富士見のゲームセンスはいいものなのか。
「あら怪奇谷君。私に勝てるんじゃなかったの?」
富士見は不適な笑みを浮かべながらこちらを見る。
「ぐ、ぐぬぬ……こ、今回は調子が悪かった。な、何せやるのが中学ぶりだからな!」
これが先ほど言っていた懸念点だ。経験があるとは言ったが、最後にやったのが中学の頃の話。しかも剛に誘われてたまたまやっただけのことだし、その回数も両手で数えるほどしかなかった。
「ふふ、そう? それじゃあもう一回やる?」
もう一回。もちろん何回かやれば勝てる見込みはあるのだろうが、正直言って勝てる自信はなかった。
俺も薄々気づいてはいた。経験があるとかないとかそんなことは関係なかった。ただ単純に、富士見が上手くて俺が下手なだけだったのだ。
「くっ……悔しいがどうやら俺はゲームじゃ富士見には勝てないらしい。だが約束は守る。好きなジュースを言うんだ!」
「ゲームじゃ? まるで他のことでは勝てるような言い方ね」
とにかく負けは負けだ。約束通りジュースを買ってこよう。そう思っていたのだが……。
「まあ待ちなさい怪奇谷君。言ったでしょ? いざとなったら力を貸してあげるって」
すると俺の銃を同志先生が持った。ただそれだけの姿なのに、どうにもそれがしっくりくる。なんというか……銃の扱いに慣れていそうというか……あまりにもその姿が様になっているのだ。
「同志先生と勝負を……」
その姿を見て、富士見も何か感じ取ったのだろう。彼女の額に僅かだが汗が流れていた。
「どう? やる?」
同志先生はすでにやる気満々だ。あとはその勝負に富士見が応えるだけの話。
「……ええ、いいでしょう。何故だかわからないけど、この勝負は引き受けなければならない予感がするのです」
富士見も当然のように応えた。
こうして2人の対決が始まろうとしていた。
しかし……富士見も富士見で、随分と闘い好きとなったな。




