不死身編・終その22
結論。俺はボロボロに敗北した。
全部で4レース行ったのだが、その4レース全て敗北となった。
あり得ない。俺が……この俺がこんなコケにされるなんて!
「あ、あはは〜。怪奇谷君、もしかしてゲーム不得意? まあ誰しも得意不得意はあるから気にすることはないよ」
同志先生の暖かな目が逆に悲しい気持ちにさせてくる。
「うっ……慰めは不要ですよ、先生。それに俺はまだ負けたわけじゃないので!」
「へぇ……こんなに戦ってもまだ負けを認めないんだ」
しかし事実、このまま競い合っていても勝てる見込みはない。であればゲーム自体を変えてしまえばいいのだ。
「レースゲームは飽きたし別のゲームをやろう。そうだな……音ゲーとかどうだ?」
たまたま目に入った音ゲーに注目してみた。リズムに乗って得点を稼ぐタイプのゲームだ。あれならなんとか勝てるかもしれない。やったことないけど。
「へぇ、音ゲーね。おもしろい。私やったことないから楽しみ」
「ふっ、初心者か。なら俺にも勝機はあるな」
もう一度言おう。俺もやったことはない。
結果。俺は富士見に負けた。
今回は3回ゲームをした。しかしその3回とも見事に敗北してしまった。
「ま、まあ……音ゲーって体動かすし……疲れるからね」
「それなら富士見も疲れてるはずなんですけど」
「あっ、ああ〜」
同志先生は思わず目を逸らす。
しかしなんてことだ。まさかここまで富士見がゲーム出来る奴だったなんて。完全に誤算だった。
「なかなかおもしろいね。反射神経をうまく使うゲーム。気に入ったわ」
富士見は音ゲーをお気に召したのか、もう一回続けようとする。
「ま、まあ待て! このゲームは疲れる。もっと別のゲームをしよう」
「……そう? それなら何がしたい?」
「そ、そうだな……」
俺は辺りを見回した。メダルゲームなどが目に入るが、あれは競い合うようなゲームではない。かと言って他に競えそうなゲームというゲームはもうほとんど……。
「なら、あれはどう?」
すると、ゲームを提案してきたのは同志先生だった。彼女が選んだゲームは……。
「シューティングゲーム、ですか」
ゲームの概要は、銃を使って襲いかかってくる化け物を倒すという、よくあるシンプルなシューティングゲームだった。
「確かにまだあのゲームはやってないわね」
富士見は自信があるのか、意気揚々とゲームコーナーまで進んでいく。
「くっ……富士見のやろうなんであんなにゲームが上手いんだ」
「富士見さんが上手いというより、怪奇谷君が……あっ、なんでもないなんでもない」
なんだろうか。今聞いてはいけないような言葉を耳にするところだった気がする。
「はぁ……まあやれるだけやってやるさ」
「その意気よ! いざとなったら私が力になってあげるから!」
「えっ、先生がですか?」
俺は思わず先生の方に視線を向けてしまった。先ほどレースゲームをやっていて、向いてないと自分で発言していた人物だ。そんな人を頼れるか……?
「……今、こんな人頼れるわけないって思ったでしょ?」
「そ、そんなわけないじゃないですか……」
「それじゃあ今の表情はなに? 何か言いたげだったように思えるけど?」
ぐぬぬ。意外としつこいな。何か適当な理由をつけて切り抜けるか。
「いや……先生スタイルいいなって思っただけですよ」
ものすごく適当なことを呟いた。いやまあ……実際にまじまじ見てみると、同志先生のスタイルはかなりいい方なのだろうけど。アイドルなんてやってるぐらいだし。
「な、なに言ってるの!? お、大人をからかうもんじゃないわよ! 全く……私のスタイルがいいのなんて、当たり前でしょ」
どこかあたふたしながらも、なんとか自身の面子を保とうと必死だ。こんな光景をよく見た気がする。
「ははっ。こんな姿見たら、どっかの誰かが突っ込んで来そうですね。『そんな態度してるから彼氏出来ないんだぞ』って」
「う、うるさい! 私は出来ないんじゃなくて作らないの! って……なんだか懐かしいやりとりね」
怒りつつも、どこか寂しげな表情を浮かべる同志先生。彼女のその姿を見て、俺は背後に憑いていた幽霊2人の姿が思い浮かぶ。
「……」
「……」
思わず黙り込んでしまう。同志先生には2人の幽霊が憑いていた。それは当たり前の日常であり、当然のことだった。
そんな当たり前の日常は崩れ去り、今の彼女にはそばにいる幽霊の姿はない。
いて当たり前だった存在がいなくなる。それは、俺も同じ境遇であり――。
「怪奇谷君」
「ってうわぁ!!」
思わず下を向いてしまっていたが、富士見の声に釣られて顔を上げると目の前に超絶美少女の顔面が。
「始めるわよ。早く準備しなさい」
「お、おう」
一瞬、かつてそばにいた彼女のことを考えてしまった。しかし今はそのことを考える場面じゃない。せっかくの富士見とのデートなんだ。楽しいことを考えて、楽しもう。




