不死身編・終その18
俺の初陣は終わり、次は富士見たちの番だ。
「さあ、ようやく私の出番ね」
「ようやくって……まだ始まったばかりだろ……」
富士見はその場でストレッチを始めた。それと同時に根井九、そして松下も立ち上がった。
「姫蓮! 負けないからね!」
根井九は気合い十分といった様子だ。
「ふふ、それは私もよ。さ、それじゃあ松下さん。お先にどうぞ」
「おや、それではお先に失礼します」
富士見は松下に初球を譲った。
「なんだよ。同時にやらねーのか?」
完二が不服そうな表情で富士見たちを睨む。
「バカね。ボウリングは順番に譲り合って投げるのがルールよ。あなたたちの方がルール違反ってこと」
言われてみれば……俺たちは3人ほぼ同時に投げてしまった。よくよく考えてみれば、あれはボウリングのルールに違反している。
「う……俺としたことが……そんなことに気づかなかったなんて……」
なんという屈辱! 次からはちゃんとルールを守ってやろう。
「では」
そうして松下、富士見、根井九の順番でそれぞれ投げた。その結果だが――。
松下、ストライク。
富士見、スペア。
根井九、9本。
という結果となった。
「待て待て待て! なんでみんなそんな上手いんだよ!?」
俺は思わず声を荒げてしまった。あまりにも予想外な結果だったからだ。
「上手くないけど? あんたが下手なだけじゃない?」
「まあ……たまたまよ」
「今日は調子が良いのです」
バカな……ボウリングであれば俺の独壇場になれるはずだったのに……。
いや、まだわからない。たまたまみんなの調子が良く、俺の調子が悪いだけかもしれない。体が温まれば話は別だ。
ここから、俺の逆襲は始まる。
そう思っていたのだが……。
「っしゃ!! 俺たちの勝ちだな!!」
「まあ、こんなものでしょう」
第一ゲームの勝者は、完二松下ペアだった。
ありえない。松下と完二。奴らは大体どちらかがストライクをとり、順調に点を稼いでいった。ストライクじゃないにしても、スペアを取ることで高い点数を維持していた。
「なんだあいつら……」
あまりの強さに言い出しっぺの剛ですら少し引いている。
とはいいつつも、なんだかんだで剛根井九ペアは2位だ。かといって2位も3位もこの勝負に影響はない。1位を取らねば意味がないのだ。
「ねえ、どうしよう剛。このままだとあのよく知らない人たちにクレープを奢ることになっちゃう……」
「ま、まずいなそれは……しかしあの強さ。あんな奴らに対抗できる奴なんて、俺たちの中には……」
俺たち4人の中で、ポテンシャルを発揮できていたのは富士見だ。時折ストライクも出せていたし、間違いなく俺たち4人の中では1番うまかったと言えるだろう。
次点で剛。そして根井九といった感じだろう。
俺はまあ……とことん調子が悪かった。もっと本領を発揮できていれば、活躍できたのは間違いないんだけどな。
「くっそー。俺の調子が本調子だったらな……」
「怪奇谷君。あなた手を抜いてるの?」
「ち、違う! そ、その……腕の調子が悪くてな……」
「さぁーて。次のゲームやるかぁ!」
完二はすでに準備万端といった様子だ。よくよく考えてみれば、あいつらは俺たちが来るよりも前からやってたんだよな。一体これで何ゲーム目なんだろうか。
「ん? お前ら来てたのか」
すると突然、フロア内に響き渡る声がした。振り返ると、どこかで見たヤンキーみたいな見た目の人物がいた。
「あっ、龍牙さん! なんでこんなところに!?」
「あれ? 雅人まで。何してんの?」
剛がつるんでいる不良軍団のリーダー格である人物、龍牙メイ。と……その隣にいるのは、根井九の弟である根井九雅人君だった。
「何ってメイさんと修行だよ。姉ちゃんこそ何してんの? デート?」
「修行って……まあそれはいいとして、そうよ。デート。姫蓮たちと一緒にね」
「デートってお前ら……とうとうダブルデートに手を出したのか……チッ! 遊んでんなほんと!」
龍牙さんはどういうわけか俺の方を睨んでくる。
「は、はは」
俺は思わず目を逸らす。悪い人ではないのは知っているが、どうにもこういう見た目の人は苦手だ。
「龍牙? おい、まさか龍牙メイか!? あ、あの伝説の!?」
すると突然、完二が叫び出す。まるで恐ろしいモノを見てしまったかのように。
「完二君。知っているのですか?」
「あ、当たり前だ……この辺で奴の名を知らない者はいねぇよ。だ、大体な! 俺のダークネスチーターズを解散させたのもアイツなんだぞ!」
へぇ。完二のチームは解散していたのか。まるで興味がないけど。
「なんだお前? お前も天理たちと遊んでんのか?」
「へっ、そうだ。勝った奴らにクレープを奢るっていう賭け付きだけどな!」
その言葉を聞いて、龍牙さんは目を細めた。
「へぇ、クレープ……賭け、ね」
「メイさん。俺、クレープ食べたい!」
雅人君は龍牙さんの腕を掴む。しかしなんというか……なぜこの2人はこんなにも距離が近いのだろうか?
「おい。その勝負! あたしたちも混ぜろ!」
龍牙さんは堂々と宣言した。その立ち姿は自信に満ち溢れていた。
「ふっ、いいぜ! ダークネスチーターズが敗れた屈辱、ここで晴らしてやるぜ!!」
「ダークネス……なんちゃらはなんのことかしらねぇけど、負けたらクレープ奢りだからな?」
まさかの龍牙さん雅人君ペアが途中乱入することとなった。




