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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
不死身編・終

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不死身編・終その13

 恵子を先頭に、俺たちは先へと進んでいった。といっても姉ちゃんが向かった先は相変わらずわからずじまい。目的地はハッキリとしていない。それでいてこの人混みだ。こんな状況で姉ちゃんを見つけることなんてできるのだろうか?


「しかし……こんな中でもどうしても食べたいものって一体なんなんだ?」


 わざわざ俺たちから離れてまでしても食べたいもの。それがなんなのか気になって仕方がない。そう思うと一刻も早く姉ちゃんを見つけ出さなければ。


「あれ? なんか前の方人だかりが出来てない?」


 恵子が指差した方向には、確かに一際人が集まっていた。何か特別なイベントでもやっているのか?

 俺たちはその場所へ向けて足を進めた。すると――。


「いいよ。この勝負! 勝ちに行かせてもらうよ!」


「私だって……わざわざこのたこ焼きを食べるためにみんなのそばから離れたんだから……負けませんよ!」


 なんだ。妙に聞き覚えのある声がした。その片方はどう考えても姉ちゃんの声だった。もう片方の声も……どこかで聞いたような……?


「今の声。お姉様の声じゃなかった?」


「あたしにもそう聞こえた。勝負って……姉ちゃん一体何してんのさ」


 みんなにも同じく姉ちゃんの声が聞こえたらしい。であればこの目で確かめなくては。

 俺たちは人と人の間を通り抜け、こっそり中心部を覗くことに成功した。

 するとそこには、意外な光景が待ち受けていた。


「へぇー。いい度胸だね。でも私だってこの勝負。負けられないんだから!」


 まず目の前には屋台があった。看板にはデカデカとたこ焼きと書いてあった。つまりたこ焼き屋なのだろう。その屋台の目の前。そこに2人の人物が睨み合っていた。

 そのうちの1人。その人物を俺は知っている。この場で知っているのは俺と富士見のみだろう。かつてとある家族に養子として迎えられた少女。とある人物の友人となった少女。


「し、椎奈さん……!?」


「……」


 冬峰椎奈。たった一度しか会ったことはないが、深く印象に残っている人物だった。


「え? 誰? 知ってる人?」


 恵子はキョトンとした表情で俺を見上げた。


「え? あ、ああ。まあ……」


 椎奈さんの説明をするのは非常にややこしい。特に経緯を説明するのがだ。とりあえず今は目の前の状況に目を向けるべきだ。


「いつもの私だったら最後の一個であるたこ焼きをあなたに譲っていたでしょう。でも……こればっかりは譲れない! 私が今日1番楽しみにしていたたこ焼きなんだから!」


 そんな椎奈さんの目の前に立ち塞がるのは俺たちの姉。姉ちゃんはどうしてもあのたこ焼きが食べたいらしい。


「なるほど……状況は読めたね。最後のたこ焼きを巡ってあの2人は勝負をしようってことなんだ!」


 恵子は目を輝かせている。こういうシチュエーションが好きなのだろうか?


「ほっほ。お二人ともそう気を張らずに。ちゃーんと最後のたこ焼きはここにあるから安心しなさい」


 と、最後のたこ焼きを両者に見せつける店主。あれ……あの店主……。


「ぶっ……!! ま、待て。なんで陽司さんがたこ焼き屋なんかやってんだ!?」


 なんだか見覚えのある人物だと思えば、あれはどこからどう見ても除霊師の陽司さんじゃないか? 全くもって意味がわからない。けれどどう見ても本人なのだから、あれは陽司さんなのだろう。あの人は除霊師兼たこ焼き屋だったのか……。


「さて。それではルールを説明しましょう。私がこれからクイズを出します。先に2問正解出来た方にたこ焼きを差し上げます。これでよろしいですね?」


「はい。大丈夫ですよー」


「私も。問題ありません」


 クイズか。思ったよりも平和そうな争いでよかった。


「チェッ。なんだークイズかー。もっと激しい争いを期待してたのにー」


 恵子はつまらないと言わんばかりの表情をする。こいつはこんなに激しい争いを好き好むような奴だったか?


「ほっほ。それじゃあ問題! つい先日発売された最新のケータイ機種の名前はなんでしょう?」


「はい!!」


「ほい、そちらの元気なお嬢さん」


「エクストリーム4!!」


「せいかい〜」


 答えたのは椎奈さんだ。その様子を見て周りから歓声があがる。


「くっ……!」


 姉ちゃんが見たこともないような表情で悔しがっている。まさかたこ焼きなんかでここまで真剣になれるとは……。


「全くもう! 何をやってるんだ姉ちゃんは! これぐらい常識でしょ!?」


 恵子の言う通りで、その携帯に関しては一時大きな話題を呼んだ。姉ちゃんも知らないわけではないだろうが、椎奈さんの方が一枚上手だったようだ。


「さてさて、それでは次の問題。来遊市南側区域に新しく出来る施設の名前はなんでしょうか?」


「は、はいっ!!」


「はい、そちらのお淑やかなお嬢さん」


「来遊市新競技場です!!」


「ほい、正解」


 今度は姉ちゃんが答えた。その様子を見て再び歓声が上がる。


「ぐぬぬ。やりますね。でもそれぐらい私だって少し考えれば答えられた!」


 今度は椎奈さんが悔しそうに体を震わせた。


「これはサービス問題だね。新競技場に携わってる姉ちゃんが答えられなかったらもう色々とまずいからね」


 恵子はうんうんと頷く。さっきから高みの見物で解説しているな。


「ほほう。それでは次の問題。答えられた方が勝者となります。覚悟はよろしいですね?」


「はい、大丈夫です! 私……頑張るよ!」


 椎奈さんは気合いを入れたのか、髪を結んでポニーテールにした。


「私だって……まだまだ食べきれないんだから!!」


 姉ちゃんも腕を捲って、その白い腕があらわになった。


「ねっ、聞いた聞いた?? 食べきれないだって。ぷぷっ、やっぱり姉ちゃんったら大食いなんだ!」


 今日一嬉しそうな表情をする恵子。まあ気持ちはわからんでもないが。


「お姉様が負けたら私は椎奈をヤルわ」


「富士見さん!?」


 隣でとんでもないことを呟かないでほしいものだ。


「それでは最後の問題! この街、来遊市の中心部。果たしてそれはどこでしょうか??」


「え……」


「なっ……」


 陽司さんはニヤリと不適な笑みをしている。最後の最後に、普通の人だったら知らないような問題を出してきた。


「う、うーん。この街の中心部? えっと……待って。考えるのよ椎奈! きっと何かヒントがあるはず!」


 椎奈さんは腕を組んで考え始めた。それと同時に姉ちゃんも頭を抱えた。


「……」


 しかし姉ちゃんの表情。何かが引っ掛かっている様子だ。それを見て俺はピンときた。


「そういや……俺前に姉ちゃんにその話をした記憶がある!」


「ええっ、それ本当なの!?」


「ああ。いつだったかは覚えてないけど……何か話の流れで……くそー、姉ちゃん! 思い出すんだ!」


 きっと姉ちゃんもそのことに気づいている。だからこそ何も言わずに集中しているんだ。


「おやおや。さすがにあなたたちには難しすぎましたかね。それでは少しヒントを与えましょう。ヒントは――」


 すると陽司さんはゆっくりと腕を上げ、手のひらで誰かを示した。


「彼ら、でしょうかね?」


 ちょうどその方向は、まさに俺たちへと向けられていた。


「なっ……! か、魁斗!! ど、どうしてここに!?」


「うぇ! なんで君たちがこんなところに!?」


 2人の対決者は俺たちの存在に驚きを隠せないのか、思わず固まってしまう。


「はっ……待って。魁斗……そういえば……」


 すると、姉ちゃんは突然その場で目を瞑った。もしや――。


「あっ……わ、わかりました!! この街の中心部は……場芳賀高校です!!」


「ふふ、正解!」


 見事姉ちゃんは答えることが出来た。その瞬間、今日一の歓声が上がった。


「ま、まさか場芳賀高校が答えだったなんて……だから彼らがヒントだったんだ……」


 椎奈さんは心底悔しそうに頭を抱えた。


「はいはい。それじゃあこちらのたこ焼きはあなたのものですよ」


 陽司さんは出来たてほやほやのたこ焼きを姉ちゃんに手渡した。


「わ、わぁ……」


 姉ちゃんの表情がみるみる溶けていく。ようやく辿り着いたたこ焼き。きっとその喜びは果てしないものだろう。

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