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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
不死身編・終

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不死身編・終その5

 シーナは少し大きめなトートバッグの中から、色々な物を取り出してきた。


「まずはこれだ。ウサギのぬいぐるみだ。どうだ? 可愛いだろう?」


 真っ白なウサギのぬいぐるみ。うん、確かに可愛いとは思う。


「確かに可愛いけど……シーナ。それどこに置くつもりなんだ?」


「む。確かに大きすぎるか……なら」


 再びトートバッグの中を漁ると、今度は別の物を取り出してきた。


「じゃーん。カレーパン手作りキットだ。これがあればいつでも好きな時に好きなカレーパンを作ることが出来るぞー」


 和気藹々と告げるシーナ。うん、確かにそれはいいアイデアなのかもしれないが。


「シーナさん。それどうやって冬峰さんに渡すつもりなの? もしかしてまた神隠しにでもあうつもり?」


「むむ。確かに……しかし神隠しか。あれは……その、成功率が低いからな。あまりやるもんじゃない」


 シーナは腕を組むと、真剣に悩み始めた。


「しかしそうなると……何をあげるべきか」


「確かに何かあげるのは気持ち的にいいことかもしれないけどよ……」


「ん?」


 シーナはきょとんとした表情でこちらを見つめる。ううむ、なんとも言い出しにくい。


「そもそも、神社に物を勝手に置くのは……ダメかと思う」


 なるほど、とゆっくり頷くシーナ。


「ああ、確かにその通りだ。勝手に物を置いていったりなんてしたら、神さまに叱られてしまう」


 どうだろうか。むしろその神さまは大喜びしそうだけどな。


「あ、そうだ。だったら物を置くのではなく、紅羽に何かを見せてあげればいいんだ」


 どこか棒読みに告げるシーナ。なんだ、この違和感は。


「……シーナ? お前、何か……」


「確かにそれが一番ね。やりましょう、怪奇谷君」


 バンと背中を富士見に思いっきり叩かれた。なんだって富士見はこんなにも乗り気なんだ。


「いやまあ……いいけどさ。やるって何をやるんだよ」


「そうね……そういうことならいい企画があるわ」


 なんだろう。すごく嫌な予感しかしない。なにせ富士見はさっきからずっと、俺のことを面白そうな目で見つめてきているのだから。


「ズバリ! 怪奇谷君の変顔――」


「ちょっと待った!!!!」


 すると、富士見の言葉を遮ったのは付喪神のウォッチだった。


「ウォッチ……? 何を急に……」


「ふっふっふ。俺様にもっといいアイデアがあるぜ。それもとっておきのな」


 ウォッチの声色はいつになく楽しそうなものだ。それがまた嫌な予感を感じさせる。


「ズバリ! 告白するならなんて告白するかゲームだっ!!」


「「「はぁ!!??」」」


 思わず3人の声が重なってしまう。


「ルールは簡単だ。3人でじゃんけんをし、負けた奴が勝ったやつに告白するんだ。もちろん本当じゃないが……するとしたら、という定でだ。どうだ? 面白そうだろ?」


「どういうことだ? 負けた奴が勝った奴って……例えば私が負けたら、魁斗と姫蓮に告白をしないといけないということか??」


「ん? ああ、まあそうだ。こんな体験中々ないだろう? こんな面白い光景、見てたらあの嬢ちゃんはきっと楽しんでくれると思うぜ?」


「ぐ、ぬぬ」


 シーナはシーナで本気で悩んでいる。いやいや、そんな悩むことでもないだろうに。


「おいおい。そんなことせんでも俺の変顔で――」


「いいわ。やりましょう。これで冬峰さんが楽しんでくれるというのなら」


「富士見さん!?」


 なぜだ。なぜなんだ富士見。そんなくだらないことをする必要なんてどこにもないというのに。


「……ああ、わかった。姫蓮がそこまで言うなら。私も……覚悟を決める」


「シーナまで……」


 ダメだ。こうなってしまったら俺のなす術はない。こうなったらやるしかない。


「はぁ。で? なんだっけ。じゃんけんして負けた奴が勝った奴に告白すると」


「おうそうだ。別に特別細かいルールはねぇからな。そこは臨機応変にな」


 言い出しっぺのウォッチがルールを適当にしてちゃ意味ないだろ。


「さて、お前ら準備はいいな? 俺様が合図する。そしたらじゃんけんをはじめるぞっ!!」


「ああ。私はもう――覚悟を決めた」


「ええ、私もよ。なんとしてもこの勝負、勝ってみせる」


 なんだ、このノリは。


「なに、怪奇谷君。もしかして自分はあまり乗り気じゃないって言うの? 考えてもみなさいよ。場合によっては美少女2人から告白されるようなものなのよ?」


「そうだぞ魁斗。美少女2人から……って、まて姫蓮!? わ、私は美少女ではない! そ、その言い方は語弊があるぞ!」


「わ、わかった。わかったから……よし、やろう」


 俺たちは手を構え、じゃんけんの姿勢をとった。

 俺が勝てば、富士見かシーナから告白される。俺が負けた場合は、富士見とシーナに告白をしなければならない。

 もちろん本当のことじゃないとはいえ、やりにくい。特に富士見に関しては……そもそも俺たちお互いに……。


「いくぞ! じゃんけん――!」


 するとウォッチは何の前触れもなく合図を始めた。ええい、もうどうとでもなれ!


「ぽん!!」


 俺はグーを出した。そして2人は……。

 富士見もグー。

 シーナはチョキ。

 つまり、敗者は決定された。


「勝者、怪奇谷アンド富士見!! そして……敗者は我らがシーナ・ミステリだぁ!!!!」


「なっ、なんという……ことだ!」


 シーナはその場に崩れ落ちた。これは相当……勝つ自信があったのだろう。


「ま、まあ別に負けても何も失うもんじゃあるまいし……」


「くっ……それとこれとは話が違う! 私はただ! じゃんけんといえど、勝負には勝ちたかった……ただそれだけなんだ!」


「……なあ、富士見。シーナってこんなに勝敗を気にするような奴だったか?」


「さあ? でも敗者は敗者。さっそく私たちに告白をしてもらおうかしら?」


 富士見は富士見で胸を張って堂々としている。なんだかんだで彼女も勝てて嬉しかったのだろうか?


「くっ……お、おいウォッチ。告白というのは愛の告白じゃなきゃダメなのか? 私の黒歴史を告白するんじゃダメか?」


「ダメだ。ちゃんと愛の告白をしろ。っていうか俺様からすりゃあ、黒歴史を告白するほうが嫌だがね」


 それには同感だ。そもそもこれは本当の告白じゃない。だったらなんでもいいじゃないか。


「く、くそぉ。この私ともあろう者が……」


 シーナはボソボソ言いながら富士見の前に立ち、彼女の目を見つめた。なるほど。最初は富士見に告白をするんだな。


「さあシーナさん。私をドキッとさせてごらんなさい」


 富士見は相変わらず胸を張っている。そんなに勝てたことが誇らしいのか。


「い、いいさ。やるからにはやってやる。私はこう見えても演技派なんだ」


「はは、そんなわけ」


「魁斗。今なんか言ったか?」


 俺は黙って口にチャックをした。


「おほん。では……」


 シーナはその場で目を瞑ると、まるで先ほどまでの騒がしさが嘘かのように静止した。

 ただその金色の髪が風で靡く。その姿に思わず見惚れてしまう。

 ゆっくりと、静かに目を開いて。彼女は告げた。


「姫蓮。私はキミが好きだ。私はキミと共にいたい。だからずっと、私のそばから離れないでくれ」


 完全に想像を超えた、クールな声色だった。普段のシーナからは考えられない。あまりにも静かでクールな告白だった。

 けれどそのギャップのせいか、思わず見ていた俺ですら言葉に詰まってしまった。

 そして肝心の富士見はというと……。


「…………いいわ。私も同じ。だから……私のこと離さないでね?」


「グッ……!! き、姫蓮よ! その返しは反則じゃないか!?」


 富士見は富士見で、上目遣いでシーナに返答した。それは……誰だってやられる。


「お? どうした怪奇谷。お前まで黙り込んじまって??」


「う、うるせー。ほ、ほら。次は俺に告白する番だぞ!」


「そ、そうだな」


 シーナは少しだけ照れ臭かったのか、富士見から目を逸らし、今度は俺の前へと立った。


「……」


 俺はただシーナを見つめる。

 普段と違う服装。そして先ほどの演技。まるでどんな告白が来るのか想像がつかない。


「よし。それじゃあ……スタート!!」


 まるで監督のように声を荒げるウォッチ。それと同時にシーナは再び目を瞑る。その姿を見ているだけで、なんとも言えない気持ちが襲いかかってくる。この心臓の鼓動は誰のものだ? 俺か? シーナか? そんな聴こえるはずのない心音が、俺の頭へと響いてくる。

 そして、彼女は口を開いた。


「魁斗。好きだ。だから……わ、私のそばから……は、離れないで」


 そんな言葉を告げたシーナは、先ほどとはまるで別人のようだった。

 頬はほんのりと赤くなっており、言葉遣いも先ほどのような自信満々な雰囲気ではなく、どことなく緊張感を覚えるような……それでいて普段のシーナからはあまり感じられない可愛らしさも感じ取れた。


「お、おう……」


「ふぇ!?」


「カッーーーート!! っておい怪奇谷! 何真面目に返事してんだよ! シーナもシーナだっ! なーにが『ふぇ』だぁ! そんな可愛らしい声なんか出したって無駄だからな!」


「な、なんだとっ! わ、私はそんな声出してないっ! それにか、魁斗だって真面目に返事なんかするわけないだろ!」


 シーナは自信が告げている腕時計に向かって唾を飛ばすぐらいに叫んでいた。


「し、しかしあれは……破壊力すごいな」


 あのシーナにまさかここまで踊らされるなんて思いもしなかった。それに……ほんの少し、いや。実際はかなりドキッとさせられたのは事実かな。


「ハッ!!」


 しかし、そんな平和な考えを抱いていられたのも今の今までだ。

 背後から、とてつもない妖気を感じ取れる。振り向いてはいけない。振り向いたらそこにあるのは、死のみだ。


「怪奇谷君」


「な、なんでしょう」


 俺は振り返ることなく返答した。


「そう。そんなにシーナさんの告白がよかったと」


 まずい。これは非常にまずいぞ。


「はは、なら富士見さんよ。そっちもやってみせたらいいじゃねーか。告白をな。それでシーナよりも優れていることを証明出来るぞ?」


「!!!!」


 ウォッチのやつ、何をくだらないことを。そんな挑発に富士見が乗るわけ……。


「いいわ。やってみせる。私の告白を!」


 はい?

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