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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
不死身編・終

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不死身編・終その4

 たどり着いた場所。そこは何度も訪れた神社、外湖神社だった。

 俺たちは言葉を発することなく、ただ無言で境内へと入った。

 静かな風が穏やかに吹いている。ただそれだけなのに、なんだかずいぶん居心地がよかった。

 他に参拝客はいるのかと思い、辺りを見回してみた。しかし人の姿は誰1人としてなく、この場にいるのは俺と富士見だけだった。

 きっと参拝客はほとんど瀬柿神社の方に行ってしまっているのだろう。


「……」


 俺はただ静かに神社を見つめる。隣に立つ富士見も同じだ。彼女はただ黙って神社を見つめている。その様子を見て、なんだか不思議な気分になった。


「なに?」


 まただ。つい彼女の表情を伺ってしまう。


「いや。なんだか……こうしてこの場所に来るのも何度目かなって」


 この場所に来る時は、決まっていつもあの少女が側にいた。それが当たり前のように、いつも彼女は側にいたんだ。

 俺は思わず、かつて巨大な木があった場所に目を向けていた。

 ただその姿が思い浮かぶ。その場所で遊んでいる2人の子供の姿が。


「そうね。私、初詣ってまだだったの。初詣に行くなら……やっぱりここかなって」


 富士見は白い息を吐きながら告げると、神社の方へと歩いていく。俺もつられて共に進んだ。

 俺たちは同時に賽銭をすると、手を合わせた。

 すると、自然ととある少女の姿が思い浮かんできた。


(冬峰……俺は……俺たちは、こうして一緒に過ごせている。何事もなく、平和に過ごせている。だからいつまでも……いつまでも俺たちのことを見守っててくれ)


 俺は心の中で告げた。きっと彼女は今でも俺たちのことを見守っていてくれているはずだ。


「……」


 俺は再び富士見に目を向けた。彼女はまだ目を瞑り、想いを告げている。きっと俺と同じように、彼女に語りかけているに違いない。


「おや、魁斗に姫蓮じゃないか。やあ偶然だなー」


 すると突然、聞き慣れた声が聞こえてきた。思わず振り返ると、そこには金髪が目立った和服の少女、シーナの姿があった。


「なんだシーナ。随分と珍しい格好をしているな」


 シーナは珍しく和服を着ていた。どういうわけか彼女の服装センスはダサい傾向にあるのだが、今回はなぜかうまく着こなしている。こんなにも似合うことがあるのか? 思わず見惚れてしまう。


「日本の正月というのはこういう格好をするものなのだろう? むしろ魁斗と姫蓮のその格好はなんだ。普段通りすぎるではないか」


「おいおいシーナ。だから言っただろ! お前は浮かれすぎなんだって! ちゃんと俺様の言うことを聞かないからこうなるんだ」


「む。そういうウォッチこそ、どの服を着せるか楽しんでいる節があったように見えたが?」


「バカやろう! 俺様が選ばないとまた変な格好するだろお前!」


「何ぃ? それはどういう意味だ?」


 いつものように喋り合う1人の人間と、1人の存在。ある意味付喪神であるウォッチこそ、本当に変わることなくこの世界に残り続けている。彼こそが俺たちのそばにいる唯一の怪異とも言えるだろう。


「……」


 ただその姿を見て、何も思わないわけはない。俺も数日前までは、彼女と同じような状況だったのだから。


「こんにちは、シーナさん。こんなところで出会うなんて奇遇ね」


「お、おお姫蓮。奇遇だな! うん、確かに奇遇だ!」


 シーナはなんともわざとらしく告げた。いや、これはわざとらしいというより……彼女らしいとも言えるか?


「ウォッチさん。あなたは相変わらず何も変わらないのね」


「なに!? それはどういう意味だ!?」


「ああ、ごめんなさい。悪い意味じゃなくてよ。ほら、私たちの知る霊的存在といったら、今はあなたしかいないから。安心したっていうか」


 その言葉を受け、シーナは少しだけ表情を固めた。


「そう、だな。その……付喪神は基本的に成仏することはない。だから何も起きないのが普通なんだがな」


 シーナは俺のことを横目で見つめてくる。やはり彼女にも思うことがあるのだろう。


「全くその通りだぜ。怪奇谷。あのヘッドホンはどうしていなくなっちまったんだ?」


「お、おいウォッチ! そんなにハッキリと……」


「シーナ。お前だってヘッドホンがいなくなった話を聞いて、おかしいと思っただろ? 付喪神は基本いなくなるなんてことはない。それこそ特殊な事情がない限りはな」


「それは、その……そうだが」


 もちろんヘッドホンの正体が悪魔だったなんて話は誰にもしていない。だから彼女はただ消えてしまった。そう伝えているだけの話。


「いいんだよ、シーナ。アイツはその……特殊だったんだ。それもこの街の影響をモロに受けた存在。だから……ただその時が来たってだけの話なんだ」


「魁斗……」


 シーナはただ複雑な表情をしている。きっと本心では、その事実について詳しく問いただしたいのだろう。それでも彼女はそれをしない。きっと彼女も、触れにくいことなんだと理解しているんだ。


「それよりシーナさん。あなたはここに何をしに?」


 富士見が唐突に話題を振る。話の流れを変えようとしたかったのだろうか?


「あ、ああ。実はな、紅羽に何かプレゼントをしようと思ってな。色々買ってきたんだ」


 確かにシーナは少し大きめなトートバッグを持っていた。その中に何か色々入っているのだろうか?

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