不死身編・終その2
俺は富士見を部屋にあげると、一緒に朝食を食べ始めた。といっても昨日の残りのご飯だ。こんなもので満足できるとはとても思えないが。
「何? さっきからチラチラ見て。私の顔に何かついてる?」
俺は思わず富士見のことを観察してしまっていた。
真冬ということもあり、首には真っ白なマフラー。そして黒いダウンジャケットを羽織っていた。さっきまで外にいて肌が冷えたのか、時折体を震わせていた。
そんな彼女の表情、体。それらをじっと見つめてしまっていた。
「い、いや……別に……そんなものでよく満足出来るなって」
富士見は黙々と俺が出したご飯を食べ続けている。おかずになるようなものも相当限られているというのに。
「それはあなたも同じでしょう? あなただって黙々と食べてる」
「いやまあそれはそうなんだけどさ。なんていうかこう……あるだろ」
「ないわよ。大体ね、考えてもみなさいよ。1人でご飯を食べるよりも、誰かと一緒に食べた方が気分が良くなるでしょう。それともなに? あなたはこの超絶美少女である私と共にご飯を食べることに不満があるとでも?」
「な、ないです! 全く異論はない!」
ふふん、と笑うとそのまま食べ続ける富士見。
「マイ砂糖は……使わないんだな」
ポツリと小さな声でつぶやいた。富士見は聞こえていないのか、あるいは聞こえていないふりをしているのか、スルーして黙々と食べ続けた。
そんなこんなで、俺たちは質素な朝食を食べ終えた。もちろん味に満足することはなかったが、どことなく気分はよかった。やはりそれは、富士見の言った通りのことが理由なのかもしれない。
「それで……今日は何をするんだ?」
俺は食器を洗いながら、おとなしく座っている富士見に声をかけた。
今日、俺たちはデートをするらしい。
過去に行なった偽のデートではなく、正真正銘本物のデートだ。
といってもだ。デートといっても俺たちがすることってなんだ? またホッパーマン巡りでもするつもりなのだろうか? だとすれば少しショックなんだけどな。
「さあ? なんだと思う?」
しかし富士見は不適な笑みを浮かべながら答えた。
「まさかとは思うが……ホッパーマン巡りとかじゃないだろうな?」
「なに? 嫌なの?」
「え、いや……その。嫌というわけではないんだけど」
「じゃあなに? どうしてそんな不服そうな顔してるわけ?」
ぬぬ。富士見め。言いにくいことを言わせようとしているな。
「そ、そのー。で、デートをするというのならな。もっとこう……男女の仲を深めるような場所に行くべきではと……」
「え? つまりあなたは私とホテルに行きたいってこと? 何考えるの? 私たちまだ未成年よ?」
「だぁぁ!! それは段階を飛ばしすぎだ!!」
まあ確かにこれは俺の言い方にも問題があったとは言える。反省だ。
「そういうことではなくてな。こうデートをするというのならな。それっぽいデートってのがあるだろ? 例えば映画を見に行ったり、イルミネーションを見たりとか……そういうのが男女の仲を深めるためのデートっていうもんじゃないのか?」
俺は世間一般で言われるデートというものを想像して告げた。それがよくあるデートというものだからだ。
けれど富士見がそういうデートを求めているんじゃないってことは、すぐに理解できた。
「確かにそれはごく普通なデートね。けどね。私たちが求めているものって……そんな単純なものではないと思うの」
富士見の表情は真剣なものだ。彼女は一体、今何を考えているのだろうか?
「まあ、言い出しっぺは私だから。今日は私に付き合ってもらう。その後、あなたの言うよくあるデートでもしましょう」
富士見はそう告げると、ゆっくり立ち上がった。ちょうど俺も洗い物が終わったところだった。
「だから今日は、私に付き合ってね」
再び不適な笑みを浮かべながら、彼女はそう告げた。




