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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
不死身編・終

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不死身編・終その1

 朝が来て、俺は目を覚ました。

 よく眠れたのか、体が軽い。こんなに軽やかな目覚めは久しぶりかもしれない。俺の体はこんなにも軽かったんだな。

 そんな感想を抱きながら、ベッドから起き上がる。いつものようにとある物を手に取ろうと手を伸ばすが、ソレが無いことに気づいて動きを止めた。

 ああ、これはしばらくの間引きずってしまいそうだ。そう思うぐらいに手慣れた動きだった。

 しかし無いものは仕方がない。俺はリビングへと向かった。


「父さんは……いないのか」


 俺の父である怪奇谷東吾の姿はない。この時間帯であれば、キッチンで朝食を作っている姿が安易に想像出来る。

 しかしその姿がないということは、父さんは現在ウチにはいないのだろう。

 であれば、彼はどこかに出かけているということになる。その場所がどこかまでは想像つかないが。


「まあ……なんか適当に食うか」


 一応炊飯器を覗いてみると、少しだけ残ったご飯があることに気づく。冷蔵庫には軽いおかずもある。この辺のものを適当に食べるとするか。

 ご飯を電子レンジに入れ、温め始めた。その間暇だから、テレビでも観るか。


「おせち、か。そういや食ってないな」


 テレビではお正月特集をやっていた。世間では現在お正月真っ只中。新年をめでたく迎えたことを喜んでいる。それはもちろん俺もそうなんだけどな。


「もしや……初売りセールに行ってるのか?」


 父さんは大の家電好きだ。今の時期はどこもかしこも初売りセールなんてものをやってる。そのために出かけている可能性も大いにあるな。


「はは、俺もなんか新しいイヤホンでも買うかね」


 かく言う俺も音楽周辺機器を好んでいた。最近はそれどころじゃなかったから、あまり大きな買い物をする機会もなかった。せっかくだし何か買ってしまおうか?


「まあ……それはそうとして……」


 1人俺は呟く。ただただいつものように言葉を発しているだけ。何も不思議なことはない。

 だというのに、この心に穴が空いてしまったような感覚。なんだってこんなに寂しいんだ?


「俺んちって……こんなに静かだったんだな」


 チーン、と。電子レンジの音がした。そんな音、いつも聴いているはずなのに。いつもは気にならない音だというのに。今日はどこか、うるさく感じた。


「……はぁ」


 何をこんなにナイーブになっているんだ。新年を迎えれて、今年もまた生きることが出来る。それだけで十分幸せなことじゃないか。

 だと言うのに。どうして……俺はこんなにも……つまらなさそうにしているんだ。

 ダメだ。気分が乗らない。朝食を食べる前に俺は携帯を確認した。きっと……メールが来ているはずだ。


「あれ……」


 おかしい。今日来るはずであるメールが届いていないし、一向に届く気配もない。

 日付は間違っていない……よな? だとすれば俺の勘違いか? そんなはずはない。

 彼女はハッキリと告げていた。


『今度、デートをしましょう』と。


 そのあとちゃんと日付と時間も確認した。それは間違いなく今日のはずだ。だから事前に連絡をくれるだろうと思い、メールを確認したのだが……。


「どうしたんだ? まさか、何かあったのか?」


 たまたま連絡が遅れているだけかもしれない。携帯が壊れてしまったのかもしれない。色々な理由は思い浮かぶ。  

 けれど今までのことを考えると、そうも言っていられない。再び彼女の身に何かあったらと考えると……居ても立っても居られない。

 俺は見慣れた電話番号を打ち込んだ。これで出てくれなければ、何かあったことを想定しないと――。


『はい。こちら超絶美少女の富士見姫蓮です。そちらはまだ起きたばかりの寝ぼけた顔している怪奇谷君で間違いない?』


 心配して損するぐらいだ。あまりにも早い応答だった。


「……富士見。なんだ、心配させんなよ」


『へぇ。私から連絡がなかっただけで心配してくれるなんて、心配性ね。そんなに私に会いたい?』


 富士見の声はどこか高らかなものだ。いつもよりも気持ちが昂っているように感じる。


「ああ。早く会いたい」


 そんなことを思わず呟いていた。

 どうしてだろうか。俺は1人でいることが嫌だった。だからか早く人と触れ合いたい。そんな気持ちが俺の中で芽生えていた。


『……ま、まあそこまで言うなら。お望み通り会ってあげる』


 若干間があったが、それは富士見も同じ気持ちのようだ。


「ああ。けど少し待ってくれ。まだ朝飯を食ってないんだ」


『大丈夫。それなら一緒に食べましょう?』


「そ、それは……」


 そうしたいのは山々なのだが、たった今ご飯を温めてしまったところだ。これを食べないわけにもいかない。いや、冷蔵庫に入れておけば大丈夫か?


『心配いらない。今あなたが食べようとしているご飯。それだけじゃ物足りないだろうから、良いものをあげましょう』


「なんだよ、それ」


『マイ砂糖よ! これをかけてとくと味わいなさい!』


「誰がご飯に砂糖なんかかけるか! って……待てよ」


 冷静になって考えてみる。どうして富士見は電話越しで、俺がご飯を食べようとしていることを知ったんだ?


『気づくの、遅くない?』


 その言葉と同時に、コンコンと窓を叩く音がした。

 リビングにある窓。その外に、いた。

 超絶美少女である、富士見姫蓮の姿が。

 俺は急いで窓を開けると、富士見の手を取った。


「富士見!? な、なんでここに?」


 彼女の手は冷たい。それもそうだ。こんな寒い中ずっと外にいたんだ。冷たくならないはずがない。

 けれどそんなこと忘れるぐらいに、彼女はゆっくりと微笑んだ。


「早く会いたかったから、来ちゃった」


 どこか照れくさそうに、彼女は告げた。

 こうして今日、俺と富士見の一日は始まった。

 長いようで短い。あっという間に終わってしまう。

 そんな特別な一日の始まりだった。

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