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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
ポルターガイスト編

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ポルターガイスト編その11

 恵子に取り憑く幽霊は、暗い瞳でこちらを見る。


『驚かないのか? オレが喋ることについては』


 正直驚いている。人に取り憑いている幽霊と直接会話するのはこれが初めてだ。

 冬峰は人に取り憑いているわけではないから例外だ。


「いいや。驚いてるさ。それよりそのナイフはなんだ? 姉ちゃんに何するつもりだ?」


 地縛霊はケタケタと笑う。


『何ってちょっと怪我させてやろうと思ったんだよ。騒霊の奴め。あっさりとやられやがってよ』


 恵子は元々口調が激しいが、今はもっと酷い。男性の幽霊ということもあるせいか、彼女らしさは大きく失われていた。


「お前が騒霊を操っていたのか?」


 ヘッドホンが疑問を投げかける。


『あ? そうだよ。まさかオレにこんな霊障が起こせるなんてな! いや地縛霊ってのは土地のためならどんな霊障でも起こせるんだな!』


「……」


『で? 兄貴よ。テメェはなんだってオレに気づいた?』


「最初はまんまと騙されたよ」


 俺はこの事件の真実を語る。

 地縛霊。地縛霊とは、縁のある土地に執着した幽霊のことだ。

 それは自分の意思でなった奴もいれば、無意識に地縛霊になった奴もいるらしい。

 地縛霊の恐ろしさはその力だ。地縛霊は土地に執着する。土地の為になるようなことには、手助けをすることがあるという。

 だがその逆もある。土地に危機が訪れた時、それを妨害しようとする。今回の場合は、新競技場の建設に対して妨害行為を行った。

 妨害の方法は様々であり、妨害するためなら人間ではできないような霊障を引き起こすことができる。それが宿泊施設や道路の破壊という霊障を引き起こしたのだ。


「地縛霊ってのに早く気づいていればよかったんだよな」


 そして、恵子に取り憑いたと仮定したのにも理由がある。

 1つ、恵子は新競技場の建設についてあまりよく思ってはいなかった。取り憑く霊は、同じ考えを持っている人間に取り憑きやすい。

 もう1つは昨日見受けられた恵子の行動。俺が寝室を開けた時、寝ていたのは富士見だけだった。姉ちゃんが窓から飛び降りたのと同じく、恵子も窓から飛び降りていたのだ。昨日裸足だった理由も説明がつく。

 そしてあの時。俺と騒霊が戦っていた時に向かっていた場所、それは破壊された道路があった方向だった。

 最後にもう1つ。破壊は毎日行われていたと聞いていたが、智奈に調査を依頼した結果判明した事実があった。

 たった1日だけ破壊事件が起きていなかったのだ。この日にあった出来事は何か? それは恵子が俺の家に泊まった日だった。偶然ではない。疑問がつながり、これが1番の決め手となった。


「もし仮に俺の家の近くでなにか破壊されていたらもっとすぐに気づいたかもな」


 地縛霊は満足そうに頷く。


『すげぇな。お前、探偵になれんじゃね?』


「地縛霊の特性を知らなきゃ誰もわかるわけないんだよ」


『そうだ。だからお前がこっちに来たのはかなりイレギュラーだった』


 俺は地縛霊を睨む。彼の手には未だに凶器が握られている。


「なぜ、姉ちゃんを傷つけようとする」


『もう騒霊も操れないしな。出来るだけ人を傷つけるのは避けてたんだが、こうなっちまったら仕方ねぇだろ? 関係者を傷つけることで新競技場を諦めさせるんだよ』


「なぜ、と聞くまでもないよな。お前は地縛霊なんだもんな」


 地縛霊は俺のセリフを聞き、再び笑う。


『わかってんじゃねーか。だからよ……』


 ゆっくりと寝室のドアを開け、凶器を傾けた。


「……!」


『まだここで終わるわけにはいかねぇんだよ!』


 こいつ、まさか姉ちゃんを!! そう思った矢先、地縛霊は寝室の窓から飛び降りてしまった。


「アンタ! おうぞ!」


「わかってる!」


 俺は外に出て地縛霊を追いかける。地縛霊は森の中へと裸足で走っていく。俺もその後を追う。まさか2日連続でこんなに走ることになるとは。

 かなり奥まで来た。森を抜けるとそこには何やら古びた建物があった。


「なんだこれ?」


 ヘッドホンが呟く。


「廃墟だ……」


 目の前には森に囲まれた廃墟があった。小さな学校のような古びた建物だった。所々は崩れ落ちていてあたりには雑草がたくさん生えていた。真夜中ということもあり、まるで心霊スポットのようだった。

 しかしなんだろう。一瞬、俺の頭に不思議な映像がフラッシュバックした感覚があった。なんだ? ここで何かあったのか?


「お、おい! あそこ!」


 ヘッドホンが首周りでカチャカチャ動きながら叫ぶ。


「だからあそこってどこだよ! なっ……!」


 ヘッドホンの答えを待つより先に俺は地縛霊の姿を捉えた。いつのまにか古びた廃墟の中にいる。今にも崩れそうな場所で俺を見ている。


「チッ! 待ってろよ!」


 俺は再び走り、廃墟の中へと向かった。ミシミシと音が響き、今にも崩れてしまいそうだ。

 奴は上にいる。俺はひとまず階段を探す。すると、奥の方に階段があるのがわかった。早く駆け上がらなければ地縛霊には追いつけない。


「あー! 全く、走ってばっかだ!」


 階段を登り、地縛霊を探す。すると、地縛霊はさらに上に登っていた。俺は再び階段を探す。

 それからはその繰り返しだった。階段を見つけては登り、また探しては登る。意外にもこの廃墟は高くまであった。


「はぁはぁはぁ」


 やっと1番上まで来たようだ。逃げ場はない。そこに地縛霊は1人佇んでいた。

 しかしこれでは地縛霊にも逃げ場はない。一体何を企んでいるのか。


「どういうつもりだ? ここまで来たらお前に逃げ場はないぞ?」


『へっ。なんでだろうな。()()()()に影響されちまったんかね。それじゃああの騒霊と同じだな』


 何を言っているんだこいつは? このガキとは恵子のことだろう。恵子に影響されてなんでこんな場所に来るんだ。


『なぁ兄貴よ。お前、なんでオレがこのガキに取り憑いたのかとか興味ねぇか?』


「なんだと?」


 興味、と地縛霊は言った。そんなことしてなんの意味がある。


『オレが好きでこんなガキに取り憑いただけだと思うか?』


「なにを、言ってる?」


『幽霊ってのはな。取り憑いた人間の感情や記憶を読み取ることが出来るんだよ。大体だからといって何かあるわけじゃないんだがな。たまにいるんだよ。同情しちまうようなバカがな』


「お前は、なにをいってる?」


『このガキ……恵子が言わねぇならオレが言ってやる』


 こいつの言っていることがわからない。だというのに。


『こいつはな、お前のことしっかりと覚えてんだよ』


 それは地縛霊の言葉というより、恵子の言葉だった。


『お前、ここ覚えてねぇか?』


 地縛霊は唐突に言った。


「覚えて……ない」


『チッ……こいつは呆れたもんだ。まあいい聞け。お前は小さい時、ここに来たことがある。お前の父親と母親が別れることになってお前は最後にとあの家に来たんだ』


 俺は奏軸家に来たことがある……? そんな記憶はどこにもない。ないはずなのに……


『そん時だ。恵子はお前と別れるのを嫌がってこの廃墟に逃げ出したんだよ』


「恵子が……?」


『そうだ。恵子はこの廃墟に逃げ込んで待ち続けた。お前が探しに来るのをな。ずっとだ。何時間も待ち続けた。そして日が暮れる頃、やっとお前は恵子を見つけ出したんだ。この場所で』


 この場所で、俺と恵子が?


『恵子にとってはここは兄であるお前と最後に遊んだ思い出の地ってことらしいぜ?』


 恵子がそんなことを。俺は覚えていないというのに。


『そんで、なぜオレがこんなことをわざわざ話しているのかだが……新競技場のことはもちろん知ってるだろ? 森を伐採してまで建設するとかいう馬鹿らしいやつだ。その建設予定地にこの廃墟も含まれてんだよ』


「……!」


 恵子にとって、思い出の地であるこの廃墟も?


『つまりオレはこの廃墟に執着した地縛霊ってことだ。オレはこの廃墟を守るためにまずは誰に取り憑くかを考えた。その時だ。恵子がここに来たのは』


 恵子はこの廃墟が潰されるという事実を受け入れてしまった。だからせめて最後にと見に来たのだという。


『その時にオレは恵子に取り憑いた。オレはこの街に除霊師ってのがいるのは知っていた。そいつに目をつけられたらオレの計画は台無しだ。そん時だ。たまたま彷徨っていた騒霊を見つけたのは』


 地縛霊の能力である『土地の為に引き起こす霊障』で騒霊を操る力を手に入れたという。


『まさか騒霊を操る力を手に入れられるとは思いもしなかったぜ。だが問題があった。操れる騒霊は1匹だけだったということ。だがその1匹さえ操ってしまえば他の騒霊も操れるということがわかった。となれば、オレの近くにそいつを置いておく必要があるだろ?』


「それで、姉ちゃんに取り憑かせたのか」


 騒霊の謎が解けた。地縛霊が操れる1匹は姉ちゃんに取り憑いていた。その1匹を吸収したことで、他にいた騒霊の洗脳が解けて去っていったのだ。


『オレは毎日騒霊にポルターガイストを引き起こさせた。それに紛れてオレは霊障を引き起こしたってわけよ。だれがどう見てもポルターガイストって思うだろ? お前みたいに勘のいいやつ以外にはな』


 ポルターガイストも地縛霊の計画の1つだったというわけだ。本来の目的を隠すためのカモフラージュとして。


『だが騒霊のやつも取り憑いた姉ちゃんに影響されたんだか、わざとお前をおびき出したんだよ』


「なんだって?」


『姉ちゃんに取り憑いた騒霊はわざとお前をおびき出したんだよ。わからなかったのか?』


 言われてみれば、姉ちゃんは自ら姿を晒して俺に居場所を伝えた。

 さらには音楽室に入った時に逃げることすらしなかった。おそらく他の騒霊は操られていたから近づかないために俺の邪魔をしたのだろう。


『お前の姉ちゃんはポルターガイスト現象を止めたかった。それに騒霊のやつは影響されて自ら止めさせたんだよ』


 本来人に取り憑かない騒霊だからこそ、影響を受けやすかったのかもしれない。


「そういうお前は、どうなんだ?」


『オレは、どうだろうな? オレの目的はこの廃墟を守るだけだ。それが恵子の考えと一致していただけだ』


「さっきと言ってることが違うな。お前も影響されてんじゃねぇのか? だからわざわざこんなところまで来たんだろ?」


 地縛霊は答えない。


「大体、ここまで来たらお前に逃げ場はないんだぞ? それをわかってるのか?」


『はあ……まああれだ。あの時お前にオレの存在に気づかれた時点でオレの負けは決まってたんだよ。お前の能力は知ってるからな』


「じゃあなんで……」


『オレの目的が果たせないんだとしたらな……せめてこいつの望みぐらいは叶えてやろうかなって思ったんだよ』


 なんだ。やっぱりこいつ。思いっきり恵子の影響を受けているじゃないか。


『オレがここに来た意味、もうわかるよな?』


 それは地縛霊がここの廃墟に執着しているからだ。だけどそれだけではないとすればそれは……


『おい、兄貴。オレを吸収しろ』


「……」


『今更出来ないとかほざくなよ? あの霊障を引き起こしたのはオレだぜ? 放っておいたらオレはまた別の誰かに取り憑いて同じことを繰り返すだけだぜ?』


 俺は地縛霊に近づく。罠かもしれない。俺は慎重に手を伸ばす。


『まあオレがなんでここに執着してたのかはもう覚えちゃいねぇ。だけどまあ地縛霊になってまでして守りたかったんだろ。オレに出来なかったんだ。お前に任せる』


 俺は彼の手を掴む。そして、妹に取り憑く幽霊を吸収する。


『このあとはお前に任せる。ちゃんと向き合え。それだけだ』


 最後に、地縛霊は暗い瞳で俺を見ていた。はっきりとその目で。

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