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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
ポルターガイスト編

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ポルターガイスト編その5

 翌朝、俺と恵子。そして富士見と合流して3人で現場へ向かうことに。

 恵子はあれから口を聞いてくれない。完全に俺が悪い。富士見は俺がなんかやらかしたと察したらしく、特に深くは聞いてこなかった。

 そんな重たい足取りで俺たちはバスに乗り、目的地へと向かっていた。


「それで、まずは来遊市新競技場建設予定地に向かうってことでいいのよね?」


 富士見が長ったらしい単語を並べ、確認を求める。


「そうだ。まずはそこを抑える。あとはその周辺を調べてみよう」


 新競技場の建設予定地の大部分は森林だと聞く。だがもちろんすべての森林をその場に設けるわけではなく、あくまで一部とのことらしい。

 だがそれでも大きすぎると一部の人間からは反対され、現在も議論になっている。


「恵子さん。昨日お姉さんから聞いたって言ってたけど、お姉さんはそれをどこで知ったの?」


 富士見が恵子に質問する。それは俺も聞こうとしていたが、どうせ答えてくれないと思ったので聞かなかった。


「姉ちゃん、サークルの手伝いで新競技場建設に協力してるんです。だから現地に行くことも多くて、よくそう言った噂を聞いたりとか。夜遅いときなんか実際に見たらしいですし」


 姉ちゃんが建設の手伝いをしているということは知らなかった。そういったサークルに所属しているんだろう。


 しばらくして、目的地へと到着した。近くには大きな森林があり、その前には看板が立てられ『来遊市新競技場建設予定地』と大きく書かれていた。


「ほんとにこんなところに競技場なんか出来るのか」


「確かにこれは多くの森林を伐採することになるわね。反対派が出てくるのも納得できることね」


 この辺りはほとんどが森林で埋まっており、一部家が見られるぐらいだ。来遊駅周辺に比べればだいぶ田舎だ。


「なんか、地域の活性化にもつなげるって姉ちゃんは言ってたけど」


 恵子がそんなことをポツリと呟く。実際この辺りは人口も少なく、街としては大人しめな方だ。来遊市の中でも上位レベルの田舎っぷりである。新競技場なんて出来たら間違いなく人は増えるだろう。


「俺はこのまんまの方が好きだな」


「あ、あたしもそう、思う」


 恵子が俺の意見に共感した。今のは恵子なりに許してくれたということなのだろうか? そうであってほしい。

 すると、何人か人が見えてきた。俺はその中の1人に目が釘付けになった。腰まである長い髪。くるっと回っただけでいい匂いがしそうで、優しい顔でこちらを見ていた。

 俺は、あの人を知っている。


「あ、姉ちゃんだ」


 恵子は言った。その言葉に反応したのかその人はこちらに向かって歩いてくる。


「ちょ、ちょっと怪奇谷君⁉︎ 私聞いてないわよ⁉︎ あなたのお姉さんがあ、あんな母性の塊に満ちた人物なんて!!!」


「お、落ち着くんだ富士見!!! ま、まだ見ただけだろ!! は、話してみないと……か、変わってるかもしれないんだぞ!!」


「アンタ、鼻息荒いぞ」


 ヘッドホンが小声で言った。仕方ないさ。久しぶりの再会なんだ。興奮しないわけがない。


「恵子。どうしてここに? ……それに、魁斗…?」


 この声。全く変わっていない。穏やかで全てを包み込んでくれそうな優しい声だ。


「ね、姉ちゃん! ひ、久しぶりだなっ!」


「怪奇谷君、声うらがってるわよ」


 まずいな。緊張しすぎている。それになにより姉ちゃんがやばい。変わらなすぎる。だというのに体は着実に成長している。完全に大人の女性だ。


「魁斗ね。久しぶり。元気にしてた? ごめんね、昨日は行けなくて」


「いやーイインダヨ!」


「ふふ。大きくなったね。あんなにちっちゃかったのに」


「ね、姉ちゃんもその、大きくなったな!」


「ええーどこがかな〜」


「……」


「……」


「……」


 あ、なんだか無言の圧力を感じる。2人プラス1機から。


「そちらの方は魁斗の彼女さん?」


「いえいえとんでもない。わたくし、怪奇谷魁斗君の同級生の富士見姫蓮と申します。魁斗君にはちょっと借りがありまして……わたくし、今では彼の奴隷となって働いているんです」


「ええーそうなの? もー魁斗! ダメでしょ!」


「姉ちゃん! 富士見の言葉は基本間に受けちゃダメなんだっ!」


「富士見さん。奴隷だったんだ」


 富士見の言葉の影響力ってすごいな。なぜかみんなのノリがピッタリになる。


「ふふ。あ、ごめんなさい。私も自己紹介しなくちゃね。私は奏軸香(そうじくこう)っていうの。よろしくね、富士見さん」


「よろしくお願いします。お姉様」


 そう言って2人は握手をした。というかなんだお姉様って。


「姉ちゃん。今何してるんだ?」


「うん。今入口をどこにするか連盟の方と相談していたかところ」


 おお。なんだか大学生みたいだ。実際大学生だが。


「へー、まだ入口は決まってないんだ」


「うん。もしかすると、予定地も若干ズラすかもしれないんだって」


「え、なんで?」


「ほら、最近妙な噂が立ってるでしょ? なんだっけ、ポルタートイスト現象……だっけ?」


 姉ちゃん。それはポルターガイストだ。


「それに……」


 姉ちゃんは言いづらそうに後ろを振り向く。視線の先には新競技場の予想デザインが描かれているポスターがいくつも貼られていた。

 そのポスターにはたくさんのイタズラ書きがされていた。


「ああやって、反対する人もいるからね」


 反対する側の気持ちもわかるが、あれはやりすぎだろう。


「姉ちゃんは建設に協力っていうけど、どこまで関わってるんだ?」


「私たちのサークルは、地域のためになにかできることはないかを考えて実際に行動するサークルなの。今回は新競技場の建設のお手伝いだね。協力といってもそこまで深くは出来てないよ。さっきみたいに、学生からの意見を述べたり、ポスター貼ったりとかそれぐらいだよ」


 新競技場の建設は来遊市だけの問題ではない。今後大会などが開かれた時、この競技場が使われることだってある。

 それは来遊市だけではなく、日本全国……ましてや海外からだってありえる。今後のスポーツ事情に大きく関わっていくため、簡単に建設をやめることなんて出来ない。

 だからたかだか大学のサークルがそこまで深く関われるわけがないのだ。


「奏軸さーん!」


 と、サークルメンバーの1人が姉ちゃんに向かって声をかけた。


「あ、ごめんね。また後でお昼ご飯一緒に食べよう」


「お、いいね」


「場所は恵子に任せるね」


「おーう! 任せろー!」


 そう言って姉ちゃんはサークルメンバーと移動していった。


「さてと、昼まで時間あるな」


 ここで俺はこう提案した。12時までこの辺りをそれぞれ調査し、おかしなことがあれば俺に連絡。集合場所はこの場所。


「あ、お前は富士見と一緒に行動してくれ」


 富士見はこのあたりのことを知らないだろうし、仮にも霊障が起きている場所だ。女の子を1人にはできない。


「わかったよ」


「よろしく、恵子さん。あなたの案内、期待してるわ」


「え、はい」


 俺は1人で十分だ。いや、ヘッドホンがいるから2人か。

こうして俺たちはそれぞれ調査を始めた。

 調査を始めてから数分。まずは感想を口にしようと思う。


「なにも、ないな」


 田舎とは聞いていたが、ほんとに何もない。あるのは森か田んぼ。そして家が複数。こんな場所に競技場なんか作って大丈夫なんだろうか?


「なあアンタ。姉ちゃんに触らなくていいのか?」


 唐突にこのヘッドホンは何を言い出すんだ!?


「なっ! なにバカなこと言ってんだ! なんだよ触るって! お、俺は決してそんなやましい気持ちはっ……!」


「バカ。そうじゃない。妹ちゃんが言ってたろ? 姉ちゃんが取り憑かれてるかもって。確かめなくていいのか?」


 そういうことか。確かにその通りだ。富士見の時もそうだったが、取り憑いている時点で俺が触れば取り憑いているのかそうでないのかは判断できる。


「し、しっかしだな。いざ触るってなると難しいな……」


 あの姉ちゃんに触るというのは勇気がいる。いやそんなこと言っている場合ではないのだが……そうこう言ってると前から見覚えのある人が歩いてくる。


「あれ? 魁斗?」


「噂をすればだ……」


 目の前には姉ちゃんがいた。


「あ、あれ? 姉ちゃんなんで1人で?」


「うん。実はね、おととい家の近くの宿泊施設が破壊されていたの。その現場を一応見ておこうかなって」


 とんでもないセリフが出てきた。宿泊施設が破壊?? なんだそれは。


「なんだよそれ。宿泊施設が破壊って……」


「魁斗もよかったら一緒に来る? ついでにうちにも寄ってこうと思ってたから」


 俺は姉ちゃんについていくことにした。宿泊施設の破壊。それは今回の事件に大きく関わっている可能性が高いからだ。

 それに加えて姉ちゃんの話も聞こうと思った。そして俺の話も。道中、俺はここに来た理由などを話した。


「……そっか。恵子が……あの子もあの子なりに心配してたんだね」


「ああ。姉ちゃんのことも心配してた」


「ふふ。それより私は魁斗の能力ってのが気になるなー。どうにも嘘くさいなー」


 なぬ。当然の反応といえば当然だよな。


「大体みんなそう言うんだ。俺はもう気にしない」


「冗談だよー。私は魁斗を信じてるよ?」


 頭の中を何かがよぎった。なんでだろう。今唐突に昔を思い出した。それが何かはわからないが……その言葉を昔にもかけられた気がする。


「ねえ、魁斗。魁斗はさ、恵子のことどう思う?」


 姉ちゃんは突然、真剣な表情をして俺を見た。


「ど、どうって……まだ会って2日目だし」


「違うよ。2日目じゃない。魁斗はもっと長い間恵子と一緒にいたんだよ?」


 確かにそうだ。そうだけど、覚えてないんだ。実質昨日あったのが初めてみたいなもんだった。


「かもしれないな。でもきっと恵子もおんなじだよ。俺のことを覚えてるはずがないんだ。俺が覚えてないんだしさ」


 そうだ。俺が覚えてなくて当時4歳の恵子が俺のことを覚えているはずがないのだ。


「ほんとに、そうかな? そう思うの? 魁斗は?」


 姉ちゃんの言葉は、なんだかとても重く感じた。


「難しいかもしれないけど、恵子ともっと話してあげてね?」


「もちろんそのつもりだよ」


 なんだかあまり腑に落ちない。なにも間違ったことは言われていないのに。まるで叱られているみたいだった。


「魁斗。あれ」


 話は終わり、姉ちゃんは立ち止まって指を示した。


 そこには、バラバラに破壊された宿泊施設だったものがあった。

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