動物編・真その17
目の前には俺の友人、土津具剛が立っている。しかしその姿はいつもの彼とは全く違っていた。
まずその髪型。剛はいつもなら金髪に髪を染めていた。しかし現在は茶髪になっている。これがただのイメチェンならわかるが、今の剛がそんな理由で髪を染めたとはとても考えにくい。
そして服装。いつもならチャラチャラした格好をしているのに、真っ黒な服……それも喪服のようなものを着こなしていた。いつも身につけている派手なネックレスなども一切付けていなかった。
「なんだ? 俺の見た目が変わったことに驚いてんのか? まあそりゃそうだよな! 急にこんな姿になれば驚くのも無理ないか!」
何より。何よりも1番違う部分があった。
「それで? テメェは何しにここに来たんだって聞いてんだよ怪奇谷ァ!!」
根本的な存在が違う。こいつは土津具剛ではない。となれば必然。この存在が何者なのかは理解できる。
「動物霊……! それはこっちのセリフだ。どうしてお前がここにいる?」
間違いなく動物霊の犬だ。それも以前とは違う。明らかに力を増している。霊力を感じ取る力がなくても、それだけは感じ取れた。
「何、ねぇ。そんなこと話してどうする? テメェに解決出来る問題じゃねーよ」
「出来るさ。お前が剛の体を蝕んでるなら吸収するまでだ」
「ハッ! 吸収? 俺を? 無駄無駄。テメェにそんなことは出来ねーよ。何よりコイツはそんなこと望んじゃいないんだよ!」
動物霊は強く自身の胸を叩いた。まるで、剛の意思を尊重しているかのように。
確かに剛は動物霊のことを悪く思ってはいなかった。彼は動物霊を受け入れていたんだ。
それでもここまで来れば話は別だ。もはや剛ではない。完全に動物霊になってしまっているではないか。こんなこと、剛が望むはずがない。望むわけがないんだ……アイツは、アイツは――
「クッ……」
「は、ははははははははははは!!!! そうだよなぁ!! テメェだってコイツの過去を知ってる! だからわかるだろ? コイツはそういうヤツなんだって。受け入れてるんだよ。この俺をよ!」
否定したい。そんなのは嘘だと声を大にして告げたい。でも、出来ない。動物霊の言う通りだ。わかってる。知ってるんだ。俺は剛がどういう人間なのかを。
アイツが、受け入れてしまう理由も何もかも理解できてしまう。
「お前の目的はなんだ? 力を付けてるのはお前だけじゃないんだろ?」
剛のことはともかく、情報が必要だ。
「ああ? だから言っただろ? テメェに話すことは何もないってな」
「……じゃあなんで俺の前に姿を見せた!? 姉ちゃんに動物霊を取り憑けたのもお前なのか!?」
俺はチラッと校舎の屋上に目を向けた。先程までそこでゆらゆら佇んでいた存在の姿は消えていた。当然だ。だってそこにいた存在が、今目の前にいる人物とそっくりなのだから。
「いや何。餌を仕掛けたからそろそろ頃合いだと思って様子を見ていたら、関係ないヤツが釣れちまったもんでな。今のうちに潰しておこうかと思ってな」
「餌……だと? なんのことだ?」
「馬鹿正直に話すバカがいるか? とにかくお前は俺の計画にとって邪魔だ。ここいらでさよならしてくれないか?」
何を……そう思っていた瞬間だった。突然、周囲に冷たい空気が漂った。何か、何か霊的な存在が近くにいる。
「動物霊か……! とことん邪魔をするつもりなんだな?」
どういうわけか近くには多くの動物霊が集まっていた。これじゃあまるで、動物霊犬に従っているみたいじゃないか。
「んじゃ、ここはお前たちに任せる。俺はそろそろ獲物を取ってくるとするか」
動物霊犬はその場で高く飛び上がった。まるで人間技とは思えない距離で飛び上がり、一瞬で校舎の上を飛び越えてしまった。
「待て! 獲物ってなんだ!!」
ヤツは答えることなくその場から立ち去る。なんだよ、なんなんだよ! これじゃあ何も解決になってないじゃないか!
「アンタ、そんなことよりも今はコイツらをなんとかしないと!」
そうだ、今はそれどころじゃない。複数の動物霊を相手にしていたら体力が持たない。何よりすぐそばには姉ちゃんがいるんだ。姉ちゃんを守りながらだと必ずボロが出る。
「姉ちゃん……走れるか?」
俺は姉ちゃんの腕を掴んだ。
「走れるよ。私、こう見えてもかけっこは得意なんだから」
無言で頷きあうと、ほぼ同時に走り出した。後方からは複数の動物霊が一斉に襲いかかってくる。
「クソッ! っていうかなんでコイツらの姿が見えるんだ!?」
よく見ればそれらは全て動物の姿をしていた。犬だけではない。猫や狸。狐なんかもいた。本当に動物の姿をした動物霊が襲いかかってきていたのだ。
「わ、私にはさっぱりわからないけど……あ、あれじゃないの? この街は特殊だかなんとかって……!」
姉ちゃんは走りながらも必死に答えた。確かにその線が1番濃厚だ。地縛霊も言っていた。複数の動物霊が力をつけていると。その結果で彼らの姿までも見れるようになったのかもしれない。
「と、とにかくこれじゃあキリがない!」
考えるのは後だ。今はこの現状をなんとかしなければならない。
動物霊を吸収すること自体は容易い。しかし問題はその数だ。パッと見ただけで数10匹はいる。そしてこの数を、姉ちゃんを守りながら戦わなければならないということ。
かつて複数の騒霊と一戦交えたことがあったが、騒霊は基本人には取り憑かない。だからあの時は気兼ねなく戦えた。
しかし動物霊は別だ。明確な意思で人間に取り憑く。そうなれば俺も姉ちゃんも、吸収出来るとはいえ限界が来る。吸収にもタイムラグがあるし、全ての動物霊を相手に出来るはずがない。
「どうする、どうする! 考えろ、考えろ!!」
俺は必死に考えた。今出来ること。置かれた状況、人材、何が出来る? 今の俺たちの手札で出来ることは――
「魁斗!! 何があった!?」
「ちょ、ちょっと兄ちゃん!? な、何がどうなって――!!」
気がつけば校庭まで辿り着いていた。視線の先にはシーナと恵子の姿が。
その瞬間、俺の頭に1つの回答が浮かんだ。
「シーナ!! ゴーストコントロールで俺の中に触れてくれ!!」
「何っ? それはどういう……」
俺は遠くにいるシーナに向かって叫んだ。
「頼む!! 今この場でこの状況を解決できるのは、アイツしかいないんだ!!」
「ッ!!」
シーナは状況を理解したのか、素早く自身が身につけているダウンを脱ぎ捨てた。そして俺の元に辿り着き、勢いよく俺に抱きついた。はたからみれば意味不明な行動に思えるだろうが、これはシーナのゴーストコントロールを使うために体を密着させる必要があるからだ。
「行けるぞ、魁斗!」
背後には複数の動物霊。これらを1匹1匹相手にしていてはジリ貧だ。
だから少しずつじゃない。一瞬で片をつけられる力を持つ存在。そんな霊障を引き起こせる存在が必要だった。
この場で、この状況で解決出来るのはゴーストドレインを持つ俺でもなければ。ゴーストコントロールを持つシーナでもない。
瞬間、校庭に巨大な砂埃が舞った。背後にいた動物霊たちは遠くに吹き飛ばされていた。
「さっそく出番か。さて、存分に邪魔させて貰うぞ。動物霊ども」
純粋な悪霊、地縛霊の霊障を持ってしてこの場を乗り切る!!




