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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
動物編・真

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動物編・真その4

 あまりにスケールの大きな話で、思わず開いた口が塞がらなかった。

 この街に存在する全ての幽霊の除霊だって……? いや、そもそもそんなことが可能なのか?


「そんなこと出来るのか? って顔してるな。結論から伝えると出来る。ただそのためには大掛かりな準備が必要となる」


 父さんはテーブルに置いてある地図に目を向けた。こうして見ると来遊市はかなり大きくて広い。この街全ての幽霊を除霊すること。一体どうやってそんなことをやり遂げるというのだ?


「幽霊の除霊方法。強制的な除霊と対話。今回はその両方を同時に行うことが鍵となる。そのためにこの街の神さまに力を借りるんだ」


 地図にそれぞれ赤丸で印が付けられている。


「西の外湖神社、東の黒戸神社、南の威廻羅(いえら)神社、そして北の瀬柿神社。来遊市を守る4つの神社からそれぞれ同時に除霊を行うんだ」


 こうしてみると、南の威廻羅神社以外は全部行ったことがあるのか。


「これでこの街に存在する全ての幽霊を除霊することが出来る。それが対話だろうが、強制だろうが関係なしにだ。そうすれば結果として初代怨霊に継ぐものを生み出すことを……悪魔の誕生を防げるんだ」


 理論は理解できた。そうすればこの街の幽霊を除霊することが出来る。それは、わかった。

 でも、それは。理解できても、したくない。何故指導霊の2人が俺に伝えるのを渋っていたのかがわかった。


「…………魁斗。お前が何を考えているかはわかる。特に幽霊と関わってきたお前だからこそ、そのショックは大きいと思っていた。だから……なかなか言い出せなかったんだ」


 確かに俺は多くの幽霊と関わってきた。それはいい幽霊も悪い幽霊もいた。その中でも失いたくない幽霊がいるのは、語るまでもないだろう。


「魁斗。だけどこれはお前のためでもある。お前の中……ゴーストドレインで吸収した幽霊も同時に除霊する。これで1度お前の中もリセットできる」


 ゴーストドレインで吸収した幽霊についてもどうにかしなければならないとは思っていた。容量オーバーがないとは言い切れないし、いずれ直面する問題であった。


「……それは、当然普通の幽霊だけだよな? 守護霊や……付喪神は例外だろ?」


「当然だ。あくまで今回の()()()で除霊するのは普通の幽霊だけだ。守護霊や付喪神のようなそもそも除霊が通用しない相手には効かないさ」


 大除霊。それが今回の儀式の名前か。


「大除霊……それはいつ実行するんだ?」


「準備に時間がかかる。12月25日。クリスマスの日だな。なんとも言えない日に実行することになるとはな」


 それは、笑えないクリスマスになりそうだ。


「魁斗。わかってると思うが今回の儀式を止めることはできない。指導霊の2人に浮かんだこの回答。それはこの街の未来のためでもある。確かに大除霊が成功したとして、この街がイレギュラーな存在であること自体は変わらない。それでも今出来ることをするんだ。そうやってこの街を守るんだよ」


 長い目でみればいずれさらなる脅威が現れるかもしれない。それでも今、今この時を守る必要がある。その方法があるなら実行するしかない。そう思うのが普通だろう。


「わかってる。わかってるさ」


 そう、わかってる。前から気づいていた。気づかないようにしていたが、気づいていた。この街の置かれている状況を。

 となれば必然、そこにいる幽霊たちがどうなるのか。どうなってしまうのかも想像がつく。

 理解は出来る。出来るさ。それでも、理解したくない。そう思わせる理由がはっきりと脳には浮かんでいる。


「……魁斗。追い討ちをかけるようで悪いんだが、これも大事なことだから伝えておく」


 父さんは俺から目を逸らす。それほどに言いにくいことがあるのだろうか。


「今、はっきり言ってこの街で1番の脅威は……()()()()()()()()


 ドクンと心臓の鼓動が速くなった。怨霊じゃ、ない。じゃあ、誰だ? なんだ?

 何が、この街の1番の脅威なんだ?


「今1番脅威なのは、お前もよく知っている――」


 と、その瞬間だった。突然俺の携帯に着信が入った。父さんは言葉を止め、電話に出るよう手で合図した。


「恵子……?」


 表示されている名前は妹の恵子だった。


『あっ、兄ちゃん! 今、いいかな?』


「なんだ? どうでもいいことなら後にしてくれ」


『ん? なんか元気なくない? 何かあった?』


 くそ……元気ないように聞こえているのか。しっかりしろ俺。今はそんなことを考えるな。


「なんでもない。で? わざわざ愛しの兄に電話を掛けてくるぐらいなんだから重要な話なんだよな?」


『いっ愛し!? ば、バカじゃないの!? 誰がこんなアホ兄貴のことなんて……ってそんなこといいから!! えっと……明日って暇だったりする? ちょっと話したいことがあって』


 声がデカくなったり小さくなったりと忙しい奴だ。


「明日か……今のところ相談もないし、学校が終われば割と暇だぞ。なんだ? 何かあったのか?」


 恵子は一瞬間をおくと、小さく息を吐いた。


『実はさ、今あたしの中学で変な噂が広がっててさ。どうにも幽霊関係っぽいから……一応兄ちゃんに相談しようと思って』


 変な噂、か。鹿馬中学といえばポルターガイスト事件の被害を受けた学校でもある。また何かあったのだろうか?


「そうか。そういうことなら聞くけど……なんで明日なんだ? 今じゃダメなのか?」


『いいの!! 明日直接会って相談するから! いい!?』


「い、いいけどよ……せめてどんな噂かぐらい聞かせてくれ」


 さすがに内容も知らないで明日を待つというのももどかしい。


『……いいよ。今鹿馬で流行ってる学校の怪談。その名前は――』


 その名前を聞いて、思わず思考が停止した。


『それじゃ、ちゃんと明日来てよね』


 と、通話が途切れる。


「……魁斗。恵子はなんて?」


 恵子が語った学校の怪談。大したことないと思いたいし、そうであってほしい。だけど、何故だかそうは思えない。そう思えないのだ。

 だってその怪談の名前が――


「『犬の幽霊』だってさ」


 偶然か? よりによって犬の幽霊だなんて。


「父さん。残された脅威には当然、剛に取り憑いている動物霊も含まれているよな?」


 父さんは無言で頷いた。きっとこれもいずれ向き合わなければならない問題だった。


「剛を助ける。あいつのためにも」


 この『犬の幽霊』という怪談がなんなのかはわからないし、剛と関係があるかはわからない。それでも関わらずにはいられない。

 剛を幽霊に堕とされるわけにはいかない。

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