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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
幽霊編

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幽霊編その19

 ゆっくりと体を動かして外へと出る。なかなか体が言うことを聞かず、外へ出るだけでかなりの時間がかかってしまった。そんなやっとの思いで外へ出ることが出来た。

 しかしそこで見たものはありえない光景だった。

 空が真っ暗に染まっている。夜だから当然だろうと思われるかもしれない。

 しかしそうではない。そこに広がっているのは夜空ではない。真っ黒な塊のようなものが空に染まっていたのだ。

 それは、先程見たあの幽霊なのか。それとも、また別のものなのか。


「あ……ぐ……」


 体が激しい痛みを訴える。内側から何かが蝕んでいくような感覚。

 ダメだ。このままでは。俺は間違いなく……


「おや、なんだか面白いことになってきたようだな」


 声がした。女の……幼い女の声だ。少なくともこの場において絶対にいるべきではない存在の声だった。俺は声のした方に目を向ける。

 そこにはやはり少女ぐらいの小さな子が立っていた。まるで魔術師か占い師のような格好をしていた。

 しかし妙だ。こんな小さな子が1人でこんな所にいるということや、服装も含めて。


「世界はやはり変わらないということだ」


 少女らしくない喋り方をする。やはりおかしい。そこに妙な違和感を覚えた。


「何を……言っているんだ?」


「ん? 何。今の現状を確認したまでのことよ」


 少女は不敵な笑みを浮かべてこちらを見た。


「君は……なんな……んだ……」


「おいおい。無理して喋らんでも良いぞ。どのみち、お主はもう長くはない」


「な……」


 わかっていた。わかっていたさ。だけど、はっきりと口にされるとやはり受け入れられない。

 もう俺は、長くはないのだと。


「お主だってうすうす感じてはいるんだろう? それはあの『怨霊』から受けた『呪い』よ。しかも相当強力なものだと見た。現状、その呪いをどうにかする方法は無いものだと思え」


 少女の口から訳の分からないワードが次々と出てくる。怨霊、呪い……

 なぜそんなことをこの少女は知っているのだ。


「怨霊……っていうのは……あの幽霊……来遊の、ことか……?」


「うん? そうか、幽霊の名を知らんか。まあそれもそうだな。あの幽霊の名は怨霊。少なくとも、今回この世界で最初に産まれた怨霊は奴というわけだ」


 この世界で最初に産まれた怨霊。それが来遊。


「怨霊は長い間放置しておくと強力になる。それが特徴なんだがな……奴の場合は例外だ。それは何故かわかるだろう。奴が例外中の例外と関わりを持ってしまったからな」


 例外中の例外。それは間違いない。悪魔のことだ。


「悪魔と契約を果たした人間が怨霊になる。今まで1度も例のない事象だ。それ故に奴は強力な怨霊となった。間違いなくこの街を覆うことが出来るほどの力を手にした」


 それがこの空、というわけか。


「どうすれば……どうすれば……来遊を止められる……」


 少女はこちらを見て目を細めた。


「ほう。お主、自分に責任を感じているのだな。わかるぞ。お主が何を考えているのか」


 そうだ。あいつをあんな風にしたのは俺だ。正直、どうしてあいつがあそこまで俺に執着していたのかはわからない。だが原因が俺だというのはわかる。だから俺が解決するべきことなのだ。


「だが、その体で何が出来る? お主の命は持ってあと数時間。その数時間でアレを止めることはおろか、アレの元にたどり着くことすら出来んぞ?」


 先程まで部屋にいたあの黒い塊は姿を消した。だから俺も外へと向かったのだ。


「追い討ちをかけるようで申し訳ないがな、あの怨霊は()()()()()()()()()


 少女は淡々と告げる。


「先程も言った通り、怨霊は放置すればするほど強力になる。そして除霊が効かなくなる。いわゆる神に近しいものになってしまうのだよ。そして奴の場合はすでにその領域までたどり着いてしまっている状態だ。だからな、アレを祓うことはそもそも無理なことなんだよ」


 そんな、そんな馬鹿げたことがあるか。それじゃあどうすることもできない。仮に俺の呪いが解けたとしても、何も手が出せないんじゃ意味がない。


「それじゃあ……それじゃあ……どうすればいいんだ。どうすれば……来遊は……」


 このまま放っておくというのか。怨霊というものがどんなものなのかはわからない。だとしても放置しておいていい存在ではないことぐらいわかる。

 だというのに、何も出来ないというのか。


「アレはそもそもどうして怨霊になった? どんな怨みを持っていた?」


 少女は告げる。怨霊になった理由。怨み。それは、なんだ。

 俺だ。あいつは俺に怨みを持った。だから怨霊になった。ではどうして? どうして俺に怨みを持った? 何故だ? あいつはどうして、俺に怨みを持ったんだ?


「わしにはわかる。なにせわしは占い師だからな。答えが占いに出ていればそれは確実に当たる。わしの占いとはそういうものよ」


 占い師。そんな胡散臭いこと、信じるわけがない。普通なら、そう思う。


「だったら……教えてくれ……あいつは、なんで俺に怨みを……持ったんだ……」


「それを教えたところでお主はもう死ぬ。意味のないことだ」


「それでも……それでもだ!」


 俺は震える手で少女の肩を掴む。


「原因がわからないままで死ねるか!! あいつはなんで俺に怨みを持った!? なんでだ!?」


 少女は表情を変えることなく俺の目を見る。しかしふう、とため息を吐くと口を開いた。


「わしの占いにはこう出た。『俺はお前のためだけに生きてきた。だけどお前はそれを蔑ろにした。だから絶対に許さない。』とな」


 なんだ、それ。そんなこと。わかるわけがないだろ。


「いいか? 奴はお前の役に立とうとした。ただそれだけなんだよ。奴は奴なりにお前を思って行動していただけということだ」


「じゃあ何か……まるで俺がこの世界を望んだかのようじゃないか……」


「んん? あながちそれも間違いではないのではないか?」


 少女はキョトンとした顔で答える。

 馬鹿げてる。どうして、俺がこの世界をーー


「ーー」


 一瞬、何か。何か、頭の中にどこか昔の光景がよぎったような……


「まあ何はともあれ。アレはこの先もずっと怨霊としてこの街を支配していくのだろう。しかしアレもバカではない。ずっと怨霊を続けていくとは思えんよな?」


 意味深なセリフを言う少女。


「何が言いたい……?」


「いや何。アレの怨みの標的はお主なのだろうがな、お主が死んだ後、アレは()()()()()()()()()()()()()


「まさか……おい、何言ってる……! そんな、そんなことあるか! 嘘だろ!?」


 あり得ない。俺が死んだら終わるはずもない。あいつの怨みの矛先は、別のものに向く。

 そんなもの、とっくに予想できたであろうに。


「お主の家族に決まっておるだろ。いやもっと正確に言えば、お主の子孫もだ。いわゆる、富士見家自体がアレの標的となったわけだ」


 そんな……なんで俺だけ怨まれればいいのに。俺の家族……蘭、秋人……そしてこれから先に産まれてくる子。それらがみんな怨霊に狙われるというのか。


「そして怨霊が長い時間をかけるとどうなるか。先程も伝えたな。いわゆる神に近しい存在になると。もっと具体的に教えてやろうか?」


「ーー」


「……ショックを受けてる最中に申し訳ないな。だがこれははっきりさせておかないとな。いいか? 怨霊は長い年月……正確には500年。500年後にアレは別の存在へと切り替わる。幽霊を、怨霊を超えた存在……もうお主ならわかっているだろう」


 嫌という程に聞いてきた名。もう、それしかない。


()()()()


 怨霊は長い年月をかけて悪魔へとなる。来遊はその道を選んだというのか。自らの意思なのか、そうではないのか。だとしてもその事実が本当なのだとすれば、あいつはどうするだろうか?

 あいつは、来遊夜豪は。悪魔になる道を選ぶのだろうか。


「いいか? 500年だ。その間アレを倒すことは出来ない。むしろ放置しておくのが望ましい。その間にお主の家族が苦しめられるのは間違いないがな」


 500年。そんな長い間も俺の子孫は苦しめられるというのか。


「……いや、待て。500年の間、アレを倒すことは出来ない。今そう言ったな?」


「ああ、そうだとも」


「ならその後は? 500年たったその後だ。その後はどうなる?」


 少女はニヤリと笑みを浮かべる。まるで、俺がこの問いにたどり着くのがわかっていたかのように。


「何、簡単なことよ。アレは悪魔となる。そしてその後は()()()()()()()()()()それだけよ」


 あまりにもあっさりと答えた。悪魔として倒される、だけ?


「問題なのは奴が強力な怨霊になったということよ。悪魔にさえなってしまえば後はただの悪魔同然よ。お主と同じく、エクソシストが祓ってくれるだろうよ」


 怨霊であるあいつは倒せない。が、悪魔なら倒せる。しかしそれは500年後の話だ。それに簡単に言うが、悪魔祓いも決して容易いものではない。

 そして1番の問題はエクソシストにあった。エクソシストは年々数が減っていた。今ではたったの100人しかいないという。500年後、エクソシストという存在がもしも無くなっていたら……

 悪魔を、来遊を倒すことが出来るものがいなくなってしまう。


「1番効率のいい倒し方はお主が倒すことなのだがな」


「なに?」


「単純なことよ。アレはお主に怨みを持っている。そのお主がアレの怨みをどうにかすることが出来れば1番手っ取り早いとは思わんかね?」


 確かにそれはそうだ。それが出来るなら俺だってそうしたい。

 だけど、それはもう出来ない。なぜなら、俺の命は。もう後わずかで尽きてしまうのだから。仮に命が尽きなくても500年生きなければならない。そんな人間がどこに存在する。


「お主は今、もうどうせ死ぬのだからそれは不可能だと考えただろう? ふふ、まだまだよな。お主にはまだチャンスが与えられているというのに」


 少女は珍しく少女らしく笑った。だがその言葉に惹かれた。

 まだ俺にチャンスがある? だとすればそれはなんだ? 俺に出来ること。それは一体……


「教えて欲しそうだな。まあそうだな。わしとしてもあまり勧めたくはないのだが、今回ばかりは致し方ないか」


 残りわずかの命。それで何か出来るのであれば。蘭を。秋人を。

 富士見家そのものをーー

 救うことが出来るのであればーー

 俺はーー


「悪魔を召喚して願いを叶えろ。それがお主に残された最期の選択肢だ」


 俺に与えられた、最期の使命だったーー

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