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幽霊がいる世界  作者: 蟹納豆
怨霊編・真 前編

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怨霊編・真その13

 東吾さんと別れた後、私たちはバスに乗って帰ることとなった。その途中、私たちは同志先生がどうして瀬柿病院に向かっていたのか理由を聞いた。

 同志先生の母親は昔、大学の研究室に所属していたらしい。それだけだと別になんら不思議なことでもないし、だからそれがどう瀬柿病院と繋がるのかという話になる。その理由は続きを聞けば理解できた。

 同志先生の母親が所属していた研究室が、あの研究施設を利用していたことがわかったのだ。

 そしてとある日に事件が起きたという。その事件に同志先生の母親が巻き込まれ、重傷を負ってしまったらしい。その時に瀬柿病院に入院し、世話になったとのことだった。

 その後同志先生の母親は結婚し、めでたく同志辰巳が産まれる。そして同志先生を連れてたびたび病院に顔を出していたらしい。それで今回も気になって同志先生は瀬柿病院に向かったとのことだった。

 なのにあっさり引き返しちゃいましたけど……よかったんですか? と、智奈は質問した。

 同志先生もあの様子を見て、とても中を確認出来る状況じゃないと理解したそうだ。どういうわけか同志先生も知り合いには連絡が出来ずに心配だったそうだけど、そこは東吾さんに任せれば大丈夫と思ったらしい。

 それに、教師として私たちの安全を第一に考えてくれたとのことだった。

 同志先生についてはこんなところ。しかし結局、瀬柿病院で何が起きたのかは分からずじまいだった。

 わかったことといえば、東吾さんが除霊師だということだけ。今頃、彼はどうしているのだろうか。


「さ、着いたよ」


 長いようで短い時間はあっという間にすぎ、同志先生は立ち上がる。気づけば私たちの降りるべきバス停に着いていた。


「あなた達。家は近いの? 家までは送ってあげる」


「そんな、悪いです。私は大丈夫ですので智奈を送ってあげてください」


「な、何を言ってるんですか! わ、私こそ大丈夫なので姫蓮先輩こそ送られてください!」


 智奈は同志先生を押して私にくっつける。


「なんだ。おいドラコ。どっちもドラコに送られたくないってよ!」


「いやいや。そういうわけではないと思いますよ?」


 2人の指導霊は呑気そうに会話している。今思えば、この2人をこの場で見ることが出来るのは同志先生と私だけなんだ。智奈には見えていない。

 つまり、東吾さんのことも智奈は知らないということになる。


「もう、あなたたち。お互いを思いやるのはいいことだけど、素直に送られなさい。私は教師として2人がちゃんと家に帰ったか確認しないといけないんだから」


「それはそうですけど……それなら、姫蓮先輩を先に送りましょう。私は後でいいので」


「ほーう。智奈、先輩を先に帰して同志先生と2人っきりになってナニを話すつもりなのかしらね?」


「べ、別に大したことは話しません!」


「はぁ……これじゃ埒があかないわね。もう、どっちの家の方が近いの? 近い方から送る。それでいいでしょ?」


 家の近さで言えばここからだったら我が家の方が近い。だけどそれを知っているのは私と智奈だけだ。つまり、ここで選ぶべき選択は。


「智奈です」


「なっ……ち、違います! 姫蓮先輩のお家の方が近いんです!」


「ふふ。残念ね智奈。私は引っ越したのよ。アフリカにね」


「そんなはずはありません! 私の情報が確かであれば、姫蓮先輩のお家はここから約13分と47秒でたどり着くはずです! 仮にアフリカに引っ越ししていたとしても、まだこっちには姫蓮先輩の別荘が残ってるはずです!」


 智奈。そこまで必死にならなくてもいいのに……そもそも別荘ってなによ別荘って。

 そんなこんなあったが結局私が諦めて、先に私が送られることとなった。

 時刻はもう午後8時を過ぎていた。このあたりは街灯も少ないので本当に暗い。


「この辺暗いわね。富士見さん。いつもこんな道を通って帰ってるの?」


「いえ、学校から帰る時はこの道使わないので普段はもっと明るい道を通りますよ」


 この辺は人通りも少なく暗いということもあり、痴漢などの被害も多いとのことだ。


「ふーん。なんか幽霊とか出てきそうだね」


「もういるじゃないですか」


 私は2人の指導霊に目を向けた。


「そうだよ辰巳。幽霊ならここにいるでしょ」


「いやまあそりゃそうだけど……そうじゃなくてよ。もっと怖い幽霊とか出てきそうってことよ!」


「ははは! 何言ってんだ。お前そんなんだからいつまでたっても彼氏できないんだぜ?」


「は、はぁ!? それがなんの関係があるっていうのよ!?」


 全く。騒がしい人たちだ。


「……」


 そんな同志先生を不思議そうに智奈は見つめている。先程も感じたことだけど、智奈は2人の指導霊が見えていない。つまり智奈からすれば、同志先生は1人で喋っているように見えるのだ。


「全く……ん? 生田さん、どうかしたの?」


「え? い、いえ。なんでもないです。あ、私喉乾いちゃったので……飲み物を……」


 智奈はなぜかあたふたして、少し先にある自販機に向かって走っていった。


「あの嬢ちゃん。シャイなんだよ。ドラコがもっと優しく接してやればイチコロだと思うぜ?」


「いやどういう意味よ」


 智奈は自販機の前で何を買おうと迷っているのか、ジッとしている。


「……ん? オジサン。何か、いませんか?」


 すると、唐突にボクが曖昧な発言をした。


「あ? 何かって……」


 オジサンも同志先生をからかう表情から一転して真剣なものとなる。


「え、ちょっとやめてよね2人とも。そうやって驚かせようって作戦なんでしょ!」


 同志先生の言葉に耳を貸さない2人。なんだろう。とても嫌な予感がする。

 そんな予感を的中させるかのように、空気が沈んだ。私は何を思ったのか、智奈に視線を向けた。智奈は財布を取り出していた。買うものを決めたのだろう。

 しかし、何故だろう。何故こんなに恐怖を感じるのだろうか。智奈の後ろに人がいるから? そんなことで? いや、違う。何かもっと……違うような……


 ……智奈の、後ろに。人?


「嬢ちゃん!! あぶねぇ!!」


 突然、オジサンが叫ぶ。その声に私も同志先生も反応するが、智奈は全く反応しない。当然だ。彼女には2人の指導霊が見えていないのだから。

 そして、智奈の後ろにいた髪の長い女が智奈の首を絞めたのだ。


「智奈!!」


「生田さん!!」


 私と同志先生はほぼ同時に叫んだ。そして智奈の元に向かって走った。

 智奈は髪の長い女に首を押さえつけられており、首元にはカッターナイフが当てられていた。まるで、人質を捉えているかのように。

 髪の長い女は破れたボロボロの服を着ていて、目の下には隈ができていた。


()()()()()()()()


 女は言葉を発した。しかし、それはどことなくその女とは違うような気がした。自分でも何を言ってるのかわからないけど、私はそう直感したのだ。


「……その子を離しなさい」


 同志先生は冷や汗をかきながらも力強い声で女に言った。


「いいか、このガキが傷つけられたくなかったらまずは俺の言うことを聞け」


 やはり、何かおかしい。


「チッ……こいつ、取り憑かれてるぞ。しかもよりにもよって……」


 オジサンとボクはこの幽霊が何かわかったようだ。しかし指導霊じゃなくても、この私でも。この幽霊がなんなのか、わかってしまった。


「やっと会えたな、富士見!! こうして話すのは初めてってわけだ!」


 この女は、取り憑かれているのだ。怨霊という、なぜか私を狙う幽霊に。


「……怨霊ね」


「お? もうわかっちまったか! 俺まだ自己紹介も何もしてねーんだけどな! ま、当たり前だよな。明らかにバレるってもんだ!」


 やけにテンションの高い怨霊だ。そしてこの怨霊は他の怨霊とは違って意思がある。それはつまり、初代怨霊から分裂した1匹ということになる。

 万邦夜美奈に取り憑いた怨霊が怨霊αなのだとしたら、この怨霊は怨霊βと呼称しておこう。


「それで? 用があるのは私なんでしょう? 智奈は関係ない。今すぐに離しなさい」


 怨霊βは智奈の顔を舐めた。智奈は酷く怯えている。


「へっ。全くお前も使えないもんだ。せっかく()()()()()()を生み出すぐらいの霊力を持ってるっていうのによ!」


 あんな化け物。それはつまり、智奈が生み出した生霊のことだろう。私はこの目で見ていないのでわからないけれど風香さん曰く、下手すれば怨霊をも超える存在になりえなかったとか。


「目的は何。智奈を離しなさい」


「チッ。お前わかってんのか? この状況。指図できる立場じゃねーことぐらいわかるってもんだろ?」


 怨霊βはカッターナイフを智奈の首に付けたり離したりしている。


「あの野郎……クズにも程があるだろ!」


「ええ全く。僕に殴る権利があるなら速攻殴ってますね」


 指導霊は他者に触れることが出来ないらしい。それは同じ幽霊だとしてもとのこと。


「……言うことは聞く。だから目的を話して」


「へっそれでいい。単純なことだ。お前はこれから俺についてきてもらう。そうすりゃこのガキは解放してやる」


 なんだ、そんなことか。私は内心、安心していた。


「いいわ。あなたについていけばいいんでしょう」


「ちょ、ちょっと待ちなさい! あなた正気? あんな明らかにヤバい奴についていくなんて! そんなの私が許すと思ってるの!?」


 同志先生は私の手を取った。確かにこれは正しい行動なのだろう。しかし、現状ではこうするしかない。


「同志先生、離してください。いいですか? 私があいつについていけば智奈は解放されるんです。それに私は不死身。何をされても死にはしませんよ。それとも、それ以外に何か解決策があるって言うんですか? あるなら言ってください。そしたらそれを採用するかはともかく、参考にはしますよ」


「富士見さん……」


 怨霊βは私しか見ていない。


「君、さすがにそれは辰巳が可愛そうだよ。でもそういう事情なら仕方ないかもしれないけど」


「いやよくねぇだろ! なんであんなやつのいいなりにならねぇといけねえんだ!」


「わかってます。私が失礼なことを言っているのは。だけどそれが一番誰も傷つかない解決策なんです」


 同志先生は考えているのか、目を合わせない。なんとか解決策を探っている、そんな様子だった。


「話し合いは終わったか? さあさっさとこっちに来い」


 私は同志先生に背を向けて怨霊βの元に向かう。彼女に出来ることはない。それは同志先生関係なしに、そこにいる人が誰だろうが関係ない。

 これは、私以外には何も出来ないのだ。


「よぉし」


 怨霊βは私の手を取ると、服の中から手錠を取り出した。なぜそんなものを持っているのかわからないが、私は手錠を嵌められた。何も犯罪なんて犯していないのにまるで逮捕された気分だ。そしてその手錠にはロープがつけられており、怨霊βの体に巻きつかれていた。これで私は逃げることも出来なくなったというわけだ。


「約束通り、智奈を解放して」


 怨霊βはニヤリと笑った。そして智奈から離れた。これで智奈は解放される。

 そう、そのはずだった。しかし。


「え……」


 智奈が、倒れた。怨霊βから離れた途端に、突然その場に倒れ込んだのだ。


「生田さん!」


 同志先生が智奈に駆け寄る。智奈はまるで眠っているかのように目を閉じている。


「あなた……まさか」


 怨霊βは笑いが堪えられなくなったのか、徐々に声を荒げていく。


「ぷ。ふふ、ふふふふ……ふはは、は、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!! そーーだよ!! 俺が取り憑けましたぁ!!!!」


 怨霊βは叫ぶ。その声は歓喜の叫びだった。


「いいかぁ富士見!! 確かにお前は俺の命令に素直に従うとは思ったさ! だかな! それだけじゃダメなんだよ。お前がずっと、俺に従うとは限らないからな! 足枷を作っておくことにしたのさ!!」


 怨霊を除霊することが出来るのは、除霊師。あるいは怪奇谷君の持つゴーストドレイン。そして、それを取り憑けた本人だけだ。


「俺に従い続けて目的が達成された時、このガキに取り憑いている怨霊は消してやるよ」


 どこまでも卑怯で卑劣な怨霊だ。


「同志先生! このことを東吾さんに! あの人は除霊師です。怨霊を祓うことが出来ます!」


「そ、そうね……だけど携帯が繋がるかどうか……」


 確かに繋がるかどうかわからない。最悪風香さんでもいい。とにかく智奈を助けるには除霊師の力が必要だ。


「あー……俺がそう簡単にテメェを見逃すと思ってるのか?」


「え?」


「っ!! 逃げて!!」


 私は叫ぶが遅かった。怨霊βは無表情のまま同志先生の腹部にカッターナイフを刺した。


「は……?」


「辰巳?」


 指導霊の2人も、何が起きたのか理解できていないようだった。

 同志先生の腹部からは真っ赤な血が溢れ出る。そしてそのまま地に倒れ込んだ。


「あ、ああ……こんな……」


 一歩遅かった。私がもっと早く気づいていればよかった。同志先生の腹部から血が溢れ出ていた。意識はあるのか、呼吸音は聞こえる。


「はは。素直に取り憑かれていればよかったんだ。どういうわけかこの女には怨霊を取り憑けれなかったからなぁ。こうするしかなかったわけだ!」


 同志先生には指導霊が憑いている。だから怨霊を取り憑けることが出来なかったんだ。


「辰巳……辰巳! しっかりしろ! なんでこんなことに!」


「こいつ……! ドラコになんてことしやがる!! ふざけやがって! 殴らせろ。おい、殴らせろよ!!」


 ボクは同志先生の元へ、オジサンは怨霊βに殴りかかるが、触れることはできない。


「もしかしてこいつも特殊体質者だったのか? まあいいや。さて、ついて来てもらうぞ」


 怨霊βは私の手を取って引っ張った。


「ふざけないで。こんなことをしておいて私が素直に従うと思うの?」


「……へえ」


 怨霊βは一瞬黙り込むと、次の瞬間。思いっきり私の顔面を殴ってきた。

 私はその衝撃に体がよろめく。しかし、痛みは全くない。


「は、はは。すげぇやこれ。本当に不死身なんだな! どれ」


 不敵な笑みを浮かべながら、怨霊βは再びカッターナイフを取り出して私の首に刺した。しかし血も出ず、痛みも全くない。


「なんだよこれ! すげぇすげぇすげぇ! もっとやらせろ!」


 何度も、何度もカッターナイフを刺したり抜いたりを繰り返した。痛みもなければ何も感じることはなかった。その状況に、私は何をどうすればよかったのだろう。

 もう、私には何も出来ないのだろうか。


「ははははははは!! ……ん?」


 しかしそんな時だった。突然、怨霊βは動きを止めて倒れ込んだ。いや、正確には髪の長い女が倒れ込んだのだ。


「え……?」


 なんで? どうして突然……しかしこの状況は何度も目にしてきた。

 こんなことが出来る人物を、私は知っている。


「やっほー姫蓮ちゃん! 助けに来たよ」


 そこには、少し胡散臭いけどなんだかんだで頼れる先輩が立っていたのだ。

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