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絞る
降りしきる、悲しみ色のなまりの雨
遠い過去の欲望が山の彼方から流れ出し、
ほんのりと灯りをともした瞳の中に
定期的な作り笑顔で歓びを見い出す。
近くに降る雨が、
壊れた文字のネオンの紫を濡らす。
愛の灯を聞きたいと見破った俺に
つかめなかった夢が両手を伸ばして首を絞めに来る。
誰になれればよかったんだろう?
誰にもなりたくないという嘘を告白しまくって
隠せない欲望が斥候を買って出たとき
疫病神と呼ばれた女が俺の鳶色の瞳に影を落とす。
辛いけど
顔を上げて二度と涙は見せない
はずの彼女は寒くとも神々しい。
天使の輪っかを撫でている黄昏から
安らぎがとめどなく溢れてくるから、
もたれ会うことを嫌った辛口の膨れっ面が
茜色に染まる街を見下ろすマンション街で、
小さな白いテーブルのあるバルコニーに出て
通りすがりの夕日に乾杯を捧げる声を聴く。
俺は明日を見定めることもできず
失恋鬼と化した女の悔いごとを背中で聴く。
涙で汚れて可笑しな顔が
俺を責めたいみっともなさで
レモンを絞るように、この俺の
冷え切った心臓を絞ろうとしている。