序
序
男と女のあいだには暗くて深い愛がある。
これは、ある。
どんなふたりのあいだにも、
何度それを見ないふりをしようと、
もはやそれは消え果てたと、
むしろ憎しみにこそ、変化したと、
ほんとうに、そう、憎しみに変化してでさえ、
憎しみこそ、マイナスの愛のことである限り、
それは、光をのみ込む漆黒の愛ともいえるしろもの。
いちど芽生えた愛は、
その情は、それが、憎しみという情に変わろうと、
消え果てることはないのだ。
そのとき、大きかったり、
そのとき、小さかったり、
ときには、なくなってしまったと
おもえるような一粒になってしまったとしても。
世界の天候が、
さまざまな場所で、さまざまな天気であるように、
人世の愛も、
さまざまな場所で、さまざまな愛であるのだ。
私の人生に、まるで関係のない大勢はいるだろう。
むしろ、世界の数百人を除くすべての人が
私と直接、出会うことなどないだろう。
その人たちには、その人たちにとっての
数百人がいるだろうが。
私にとっては、触れることのない人たちである。
いまは、私が、私に、感情を持つ人たちのこと。
特にその中でも、男女の仲になった人たちのこと。
人によっては、男男、女女、の関係の人たちも
いるだろうが。
その人たちに対する感情は、やはり消え果てる
ことなどけっしてないだろう。
薄れることや、あるとき忘れることはできたとしても
こころから、消し去ることは、どうやっても
無理、
少なくとも私にとっては、
無理だった。
だから、私にとって、この言葉は、
うれしくもなんともない、
ただの真実だということになる。
なってしまうのだ。
男と女のあいだには暗くて深い愛がある。
ちなみに、
『バッカみたいに、明るい愛』
が、あることだってあるだろうし、
私じしん、
そんな愛に身をまかせたこともあった。
ずいぶん、過去の、若かりしころの、
夢の中での寓話のような寝物語、ではあるが。
それこそ、
「なくなってしまったとおもえるような一粒」