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作家たちのコミュニケーションの取り方

 ヤッホー! 小日向だよ!

 原稿の締切を守った、自分へのご褒美に。1ヶ月イタリア旅行して帰ってきたばっかりでーす!



 でねー……


 暇なのっっっっ!


 だってさ〜、だってさぁっっ、黒崎は珍しく休みだしさぁぁっっっ!!

 ピピちゃんは今、カズコちゃんのもとに帰ってるしさぁっ!


 ひぃ〜まぁぁ〜だぁぁぁ〜っっ!


 とか思っていた、その時。


 ビュンッッッ! と、窓から何か、飛んできた。

 艶やかに輝く、茶色の万年筆だ。

 そして、それには白い紙が結ばれていた。


「こっ、これはっっっ!」


 俺はすぐに、返事を書いた白い原稿用紙の切れ端を自分の万年筆に結びつけ、窓から投げる。



 ヒュンッ、ヒュンッッ、ビュンッッッ、ビュゥンッッッ!



 なぜか俺の家と隣家の間の細道を通る者がいなくなったなんてことは、俺たちは露知らず。

 俺が窓から隣家の窓へ、隣家の窓から俺の家の窓へ、万年筆が行ったり来たりすること、約5時間半!


 やだこれ、メッチャ楽しい!


 ヒュッッッッ!

 見よ! 俺の得意技、【超マッハ万年筆投げ】!

 もの凄く速いスピードで、万年筆を飛ばすことが出来るのだよ!


 流石の隣家の奴も、これにはついてはこれまい!


 ヒュッッッッ!


 な、何?! 同じ速さで、万年筆を飛ばしてきた……だとっっ?!

 ええい、俺も負けないぞ!


「それ行け、万年筆っ!」



 ビュゥ……



 バシィィィィィィッッ!



 …………ん?

 なんか今、すごい音、した……?

 まるで、超高速で飛んでる2本の万年筆を、素手で受け止めるような……。

 恐る恐る、窓の外を見る。



「何やってんだ、テメェらはっっっっ!」



 ……ドスのきいた怖すぎる低声が、辺り一帯に響いた。






 椅子に座って腕を組んだ黒崎の前に、俺と西坂は、正座をしていた。


「万年筆は、投げるものでは無いですよねぇ」

「……ハイ」

「……ごめんなさい」

「万年筆を窓から投げたら、危ないですよねぇ」

「……はい」

「……ホンマすんまへん」

「『危なくて怖い』って、通りかかった女の子が泣いてましたねぇ。可哀想に」

「……なんや、罪悪感しか無いわ……」

「……マジで、ごめんなさいでした」



 黒崎の静かなお説教は、1時間も続きました。

 足が痺れました。




「でもさー、なんで黒崎、ここにいんのー?」

「そやねぇ、休みやなかったん?」

「ええ、確かに休日でしたよ。確かに、休日だったんですけどね? いきなり編集長に呼びつけられて、誰かさん達のせいで、休日が無くなったんですよ」


 聞くところによると、編集長が、俺らの万年筆投げ合いの事を、風の噂で聞き、


『黒崎、テメェの担当作家どもが何かやらかしてるらしいなァ。テメェの監督が行き届いてねーんじゃねぇか? あ゛ぁ? すぐに止めさせに行くよなァ!!』


 ……とか黒崎をいきなり怒鳴りつけ、有休を取り上げたという。


 ちなみに、編集長は海原さんといって、超妖艶な美女。

 美女なのに、そこらの男どもを余裕で上回るくらい男らしくて漢らしくて、あの黒崎も、頭が上がらないらしい。


 要するに、超怖いのである。


 キレたらもう、地獄の鬼ですら逃げ出すんじゃねーか、ってくらい、怖い。美人だから尚更だ。


 ついつい、もう無理辞めます、なんて言ったら、


『テメェみたいな能無し要らねーに決まってんだから、さっさと退職届出してこの業界から消えろや』


 ……とか言われて、編集社で大泣きする奴が出てくるとか、もはや年中行事(あたりまえ)

 もう、あの妖艶な美顔が鬼の形相になるのを思い出すだけで、怖いのなんの。

 今のご時世、パワハラだとかって騒がれんじゃねーかとか思った時があったけど、海原さんのアレは、悪口とか社内イジメとか、そういうんじゃなくて、一種の教育(、、)なんだ。

 超辛口スパルタ教育ってヤツ。


「その海原編集長から、どんな手を使ってもすぐに止めさせろと仰せつかりました」

「さっすが、鬼の編集長やなぁ」


 いや、マッハで飛んでた万年筆を、素手で掴む黒崎も凄いと思うよ。てかホント、人間離れしてると思うよ、うん。


「まぁでもオレ、あの編集長(ひと)と話してると毎回精神(こころ)ズッタズタになるねん……」


 はぁ……と西坂は溜息ついた。


「良いじゃないですか、妖艶な方ですし。意外と、編集長ファンクラブが陰ながら設立されているんですよ?」

「妖艶な美女なら、どんな性格でも良い……ってもんでも、あらへんで?」

「ほーんと、あの女編集長さん怖いよね〜。俺も昔泣かされたわ」

「あー、オレもやな」

「僕も泣きましたねぇ」


 揃って溜息つく、俺たち…………ん?



「「ええええっっっっ?!」」



「はい?」


 きょとん、と黒崎が、首をかしげた。


「黒崎、泣いたの?!」

「てか黒崎ちゃんって、泣いたりするんっ?!」

「え、そりゃ泣きますよ。人並みには」

「うっそぉ?!」

「見たいわぁっ、黒崎ちゃんの泣き顔。めっちゃクルものがあるしなぁ」

「そそそ。想像するだけで萌えるわ……グフッ」

「……西坂さんはともかく、小日向さんはキモイです」

「キモイなんて言ったら、俺は泣くよ?!」

「どうぞ? ビデオで録画させて頂きますが」

「うっわぁ、それ黒歴史だねぇっ!」


 とか騒いでたら、



「じゎん、じゎん、じゎわわーんっ! ちょっと登場の仕方を変えてみた、日野下さんだぞ。キラッ☆」



 日野下が、湧いて出てきた。

 ……あれ、コイツ今、どっから出てきたの? 床?


「あ、日野下さん、編集長からクッキーを頂いたのですが、要ります?」

「あっいるいる!ありがとぉ!」


 日野下が、クッキーを頬張って笑う。


「おおっ、おっいしい!」

「待ってなんで日野下にはクッキーあるの?! 俺はっ? 俺のはっ?!」

「ありますよ? 西坂さんのは」

「なんで西坂と日野下にはあって俺にはないのぉ?!」

「は? 新しい原稿出来てない締切前の作家野郎になんてクッキーなんて持ってくるわけがないでしょう?」


 何言ってんだコイツは? っていう目で黒崎が俺を見てくる。その隣で日野下が、もきゅもきゅとクッキーを頬張る。


「え、でも書き上げたじゃん俺?」

「何ヶ月前のことだと思ってるんですか? ただでさえ貴方は締切を守れてないんです。3ヶ月前のことを気にしてる場合ではありません。さっさと次の原稿を書き上げてください」

「そ、その前に息抜きとしてクッキー食べさせてくれても……」

「ダメです。小日向さんは息抜きし過ぎなんですよ」


 むむむむぅぅぉぉおっっっ!


「くっそぉぉぉぉ、いっちょ短編小説を締切前に書き上げてやらぁ!」

「ハイハイ、頑張ってくださいねー、締切今日なんですけど」

「ほんま美味しいわー、このクッキー。あ、もしかしてこれって、あの有名な洋菓子店のやつやない?」

「有名なヨーガシテンってゆーと……あぁ、黒十字〜?」

「そうなんですよ。今、編集長が黒十字の洋菓子にハマってるらしいんです」

「さすが円海(まるうみ)文庫の編集長! お目が高いわー」

「太っ腹ぁ〜♪」


 いやいや、だからさ! 俺も食べたいって!!


「美味しいですね〜」

「最高やわ〜」


 こンの鬼畜っ! 意地悪! あざとい! 可愛いっっ!!



 こうして、俺らの時間は平和に過ぎて行った。


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